2021/07/07(水) - 04:32
終盤にかけて追い風分断作戦を敢行するチームも現れたツール・ド・フランス第10ステージ。完璧なリードアウトに発射されたマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ドゥクーニンク・クイックステップ)が今大会ステージ3勝目をマークし、エディ・メルクスがもつ通算34勝にあと1勝に迫った。
7月6日(火)第10ステージ
アルベールヴィル〜ヴァランス
距離:190.7km
獲得標高差:1,400m
天候:晴れのち曇り
気温:25度
1992年に冬季オリンピックが開催されたアルベールヴィルをスタートすると聞くと誰しもが厳しいアルプス決戦を連想するが、この日の目的地は広大なローヌ渓谷のヴァランス。アルプス2連戦と休息日を終えた選手たちは、次なる決戦地であるピレネー山脈に向かって西進を開始する。
190.7kmコースは平坦基調。前半に4級山岳とスプリントポイントのコブを越えると、あとはスプリンターたちのスピードを弱める要素は残っていない。選手たちが警戒しないといけないのはローヌ渓谷を吹き抜ける風。この日は強風とは言えないコンディションだが、それでも集団破壊を目論むチームが終盤にかけて攻撃を仕掛けた。
カテゴリー山岳とスプリントポイント
58.5km地点 4級山岳クーズ峠(全長7.4km・平均2.8%)
82.3km地点 スプリントポイント
逃げる2人をスプリンターチームが追いかける
突然の通り雨に包まれたアルベールヴィルを離れるとすぐ、ユーゴ・ウル(カナダ、アスタナ・プレミアテック)とトッシュ・ファンデルサンド(ベルギー、ロット・スーダル)の2人の逃げがすんなりと決まる。総合争いにも、ポイント賞争いにも、山岳賞争いにも関係しない逃げを見送ると、休息日を経てもまだ疲れが癒えないメイン集団はゆったりとしたクルージングモードに入った。
最大6分まで広がったタイム差はドゥクーニンク・クイックステップの集団牽引によって概ね3分台に抑え込まれる。この日はチームDSMやバイクエクスチェンジも集団牽引に参加。ソンニ・コルブレッリ(イタリア、バーレーン・ヴィクトリアス)が先頭通過したスプリントポイントの競り合いにマイヨヴェールのカヴェンディッシュが参加しなかったため、両者のポイント差は15ポイント縮まる。しかしカヴェンディッシュは完全にスプリントフィニッシュにフォーカスしていた。
毎年決まって落車していた「魔の第9ステージ」を安全に乗り切ったリッチー・ポート(オーストラリア、イネオス・グレナディアーズ)は121km地点で落車。マイク・テウニッセン(オランダ、ユンボ・ヴィスマ)らとともに地面に叩きつけられたものの、怪我を負うことなくスペアバイクで再スタートしている。フィニッシュまで53kmを残して先頭2名とのタイム差が1分まで縮まる平穏な展開が続いたが、北風が吹く終盤にかけてメイン集団はスピードを上げた。
ドゥクーニンクが攻撃を仕掛け、最速トレインを走らせる
登りを利用してのバイクエクスチェンジのペースアップは、独走で逃げ続けていたウルを捕まえたもののメイン集団を割るには至らず。残り30kmを切ったところでドゥクーニンク・クイックステップがメイン集団の先頭に立ってアクセルを吹かすと、タイミングの悪いパンクに見舞われたコルブレッリらが脱落。しかしフィニッシュまで22kmを残して再びメイン集団は一つに戻る。
今にも大雨が降り始めそうな空の下、EFエデュケーション・NIPPOやユンボ・ヴィスマ、ボーラ・ハンスグローエも集団先頭に姿を見せ、ドゥクーニンク・クイックステップとイネオス・グレナディアーズも合流するとついにメイン集団は割れた。
総合上位陣の中で、この100名に満たない先頭集団に入ることができなかったのは総合16位のナイロ・キンタナ(コロンビア、アルケア・サムシック)だけ。ピュアスプリンターたちもしっかりと集団内に残り、フィニッシュ地点ヴァランスに向かって猛烈なスピードで突き進む。参考までに、残り30km地点からフィニッシュまでの平均スピードは55.6km/h。向かい風基調の残り10kmの平均スピードは51.8km/hだった。
抜群のリードアウトトレインを組んだのはドゥクーニンク・クイックステップだった。常に集団先頭でペースアップを指揮していたジュリアン・アラフィリップ(フランス)に、カスパー・アスグリーン(デンマーク)、ダヴィデ・バッレリーニ(イタリア)、ミケル・モルコフ(デンマーク)、そしてマイヨヴェールのカヴェンディッシュが続く。対抗したチームDSMやアルケア・サムシックなどのライバルチームを寄せつけないままフラムルージュを切り、バッレリーニを先頭に残り400mの最終コーナーを抜けるとモルコフの最終リードアウトが始まった。
モルコフのスリップストリームから残り150m地点で抜け出したカヴェンディッシュが先頭に立つ。常にマイヨヴェールの番手につけていたベルギーチャンピオンジャージのワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)やその後ろのジャスパー・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・フェニックス)が追撃態勢に入る。トップスピードでカヴェンディッシュを上回った2人のベルジャンスプリンターがハンドルを投げ込むも、その間でカヴェンディッシュが両手をあげた。
カヴェンディッシュは残り500mからフィニッシュラインまで平均スピード61.3km/hで走破。トップスピードは63.5km/h。この日と同じヴァランスにフィニッシュする2015年の第15ステージを制したアンドレ・グライペル(ドイツ、イスラエル・スタートアップネイション)も、2018年の第13ステージを制したペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)も、それぞれステージ7位と8位に入るのがやっとだった。
「教科書通りのリードアウト」でハットトリック
「今日自分は何もしていない。チームが全てしてくれた。まさに教科書通りのリードアウトだった。五輪トラックライダーから世界チャンピオン、クラシックレースの覇者が献身的に働いてくれたんだ。自分はただスピードを保って残り150mを駆け抜けただけ」と、今大会ステージ3勝目を飾ったカヴェンディッシュは最速トレインを組んだチームメイトたちに感謝した。
「結果的にマイヨヴェールを獲得できればいいけど、それよりもステージ優勝を優先している。登りでバイクエクスチェンジがペースアップしたけど、チームメイトたちのサポートのおかげで乗り切ることができたんだ」。スプリントポイントを狙うことなくフィニッシュで大量ポイントを稼ぐスタイル。ポイント賞2位のマイケル・マシューズ(オーストラリア、バイクエクスチェンジ)との差が59ポイントまで広がっている。
カヴェンディッシュのステージ通算勝利数は33勝。まだ閉幕までにスプリンター向きのステージが4つ残されているため、エディ・メルクスの通算34勝という大記録の更新が現実味を帯びてきた。
「風がレースに影響する1日だったけど問題なく乗り越えることができた」と語るのは総合首位を走るタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)。モンヴァントゥーを2回登る翌日のステージについて「モンヴァントゥーは試走で1回しか走ったことがないけど楽しみだ。長く、ハードで、暑い日になる」と語っている。標高1,910mのモンヴァントゥー頂上の気温は18度で、ところにより雷雨。南西の風が吹くという予報が出ている。
7月6日(火)第10ステージ
アルベールヴィル〜ヴァランス
距離:190.7km
獲得標高差:1,400m
天候:晴れのち曇り
気温:25度
1992年に冬季オリンピックが開催されたアルベールヴィルをスタートすると聞くと誰しもが厳しいアルプス決戦を連想するが、この日の目的地は広大なローヌ渓谷のヴァランス。アルプス2連戦と休息日を終えた選手たちは、次なる決戦地であるピレネー山脈に向かって西進を開始する。
190.7kmコースは平坦基調。前半に4級山岳とスプリントポイントのコブを越えると、あとはスプリンターたちのスピードを弱める要素は残っていない。選手たちが警戒しないといけないのはローヌ渓谷を吹き抜ける風。この日は強風とは言えないコンディションだが、それでも集団破壊を目論むチームが終盤にかけて攻撃を仕掛けた。
カテゴリー山岳とスプリントポイント
58.5km地点 4級山岳クーズ峠(全長7.4km・平均2.8%)
82.3km地点 スプリントポイント
逃げる2人をスプリンターチームが追いかける
突然の通り雨に包まれたアルベールヴィルを離れるとすぐ、ユーゴ・ウル(カナダ、アスタナ・プレミアテック)とトッシュ・ファンデルサンド(ベルギー、ロット・スーダル)の2人の逃げがすんなりと決まる。総合争いにも、ポイント賞争いにも、山岳賞争いにも関係しない逃げを見送ると、休息日を経てもまだ疲れが癒えないメイン集団はゆったりとしたクルージングモードに入った。
最大6分まで広がったタイム差はドゥクーニンク・クイックステップの集団牽引によって概ね3分台に抑え込まれる。この日はチームDSMやバイクエクスチェンジも集団牽引に参加。ソンニ・コルブレッリ(イタリア、バーレーン・ヴィクトリアス)が先頭通過したスプリントポイントの競り合いにマイヨヴェールのカヴェンディッシュが参加しなかったため、両者のポイント差は15ポイント縮まる。しかしカヴェンディッシュは完全にスプリントフィニッシュにフォーカスしていた。
毎年決まって落車していた「魔の第9ステージ」を安全に乗り切ったリッチー・ポート(オーストラリア、イネオス・グレナディアーズ)は121km地点で落車。マイク・テウニッセン(オランダ、ユンボ・ヴィスマ)らとともに地面に叩きつけられたものの、怪我を負うことなくスペアバイクで再スタートしている。フィニッシュまで53kmを残して先頭2名とのタイム差が1分まで縮まる平穏な展開が続いたが、北風が吹く終盤にかけてメイン集団はスピードを上げた。
ドゥクーニンクが攻撃を仕掛け、最速トレインを走らせる
登りを利用してのバイクエクスチェンジのペースアップは、独走で逃げ続けていたウルを捕まえたもののメイン集団を割るには至らず。残り30kmを切ったところでドゥクーニンク・クイックステップがメイン集団の先頭に立ってアクセルを吹かすと、タイミングの悪いパンクに見舞われたコルブレッリらが脱落。しかしフィニッシュまで22kmを残して再びメイン集団は一つに戻る。
今にも大雨が降り始めそうな空の下、EFエデュケーション・NIPPOやユンボ・ヴィスマ、ボーラ・ハンスグローエも集団先頭に姿を見せ、ドゥクーニンク・クイックステップとイネオス・グレナディアーズも合流するとついにメイン集団は割れた。
総合上位陣の中で、この100名に満たない先頭集団に入ることができなかったのは総合16位のナイロ・キンタナ(コロンビア、アルケア・サムシック)だけ。ピュアスプリンターたちもしっかりと集団内に残り、フィニッシュ地点ヴァランスに向かって猛烈なスピードで突き進む。参考までに、残り30km地点からフィニッシュまでの平均スピードは55.6km/h。向かい風基調の残り10kmの平均スピードは51.8km/hだった。
抜群のリードアウトトレインを組んだのはドゥクーニンク・クイックステップだった。常に集団先頭でペースアップを指揮していたジュリアン・アラフィリップ(フランス)に、カスパー・アスグリーン(デンマーク)、ダヴィデ・バッレリーニ(イタリア)、ミケル・モルコフ(デンマーク)、そしてマイヨヴェールのカヴェンディッシュが続く。対抗したチームDSMやアルケア・サムシックなどのライバルチームを寄せつけないままフラムルージュを切り、バッレリーニを先頭に残り400mの最終コーナーを抜けるとモルコフの最終リードアウトが始まった。
モルコフのスリップストリームから残り150m地点で抜け出したカヴェンディッシュが先頭に立つ。常にマイヨヴェールの番手につけていたベルギーチャンピオンジャージのワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)やその後ろのジャスパー・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・フェニックス)が追撃態勢に入る。トップスピードでカヴェンディッシュを上回った2人のベルジャンスプリンターがハンドルを投げ込むも、その間でカヴェンディッシュが両手をあげた。
カヴェンディッシュは残り500mからフィニッシュラインまで平均スピード61.3km/hで走破。トップスピードは63.5km/h。この日と同じヴァランスにフィニッシュする2015年の第15ステージを制したアンドレ・グライペル(ドイツ、イスラエル・スタートアップネイション)も、2018年の第13ステージを制したペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)も、それぞれステージ7位と8位に入るのがやっとだった。
「教科書通りのリードアウト」でハットトリック
「今日自分は何もしていない。チームが全てしてくれた。まさに教科書通りのリードアウトだった。五輪トラックライダーから世界チャンピオン、クラシックレースの覇者が献身的に働いてくれたんだ。自分はただスピードを保って残り150mを駆け抜けただけ」と、今大会ステージ3勝目を飾ったカヴェンディッシュは最速トレインを組んだチームメイトたちに感謝した。
「結果的にマイヨヴェールを獲得できればいいけど、それよりもステージ優勝を優先している。登りでバイクエクスチェンジがペースアップしたけど、チームメイトたちのサポートのおかげで乗り切ることができたんだ」。スプリントポイントを狙うことなくフィニッシュで大量ポイントを稼ぐスタイル。ポイント賞2位のマイケル・マシューズ(オーストラリア、バイクエクスチェンジ)との差が59ポイントまで広がっている。
カヴェンディッシュのステージ通算勝利数は33勝。まだ閉幕までにスプリンター向きのステージが4つ残されているため、エディ・メルクスの通算34勝という大記録の更新が現実味を帯びてきた。
「風がレースに影響する1日だったけど問題なく乗り越えることができた」と語るのは総合首位を走るタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)。モンヴァントゥーを2回登る翌日のステージについて「モンヴァントゥーは試走で1回しか走ったことがないけど楽しみだ。長く、ハードで、暑い日になる」と語っている。標高1,910mのモンヴァントゥー頂上の気温は18度で、ところにより雷雨。南西の風が吹くという予報が出ている。
ツール・ド・フランス2021第10ステージ結果
1位 | マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ドゥクーニンク・クイックステップ) | 4:14:07 |
2位 | ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ) | |
3位 | ジャスパー・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・フェニックス) | |
4位 | ナセル・ブアニ(フランス、アルケア・サムシック) | |
5位 | マイケル・マシューズ(オーストラリア、バイクエクスチェンジ) | |
6位 | ミケル・モルコフ(デンマーク、ドゥクーニンク・クイックステップ) | |
7位 | アンドレ・グライペル(ドイツ、イスラエル・スタートアップネイション) | |
8位 | ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ) | |
9位 | アントニー・テュルジス(フランス、トタルエネルジー) | |
10位 | ケース・ボル(オランダ、チームDSM) | |
DNS | ヨナス・コッホ(ドイツ、アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ) |
マイヨジョーヌ(個人総合成績)
1位 | タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) | 38:25:17 |
2位 | ベン・オコーナー(オーストラリア、アージェードゥーゼール・シトロエン) | 0:02:01 |
3位 | リゴベルト・ウラン(コロンビア、EFエデュケーション・NIPPO) | 0:05:18 |
4位 | ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ) | 0:05:32 |
5位 | リチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ) | 0:05:33 |
6位 | エンリク・マス(スペイン、モビスター) | 0:05:47 |
7位 | ウィルコ・ケルデルマン(オランダ、ボーラ・ハンスグローエ) | 0:05:58 |
8位 | アレクセイ・ルツェンコ(カザフスタン、アスタナ・プレミアテック) | 0:06:12 |
9位 | ギヨーム・マルタン(フランス、コフィディス) | 0:07:02 |
10位 | ダヴィド・ゴデュ(フランス、グルパマFDJ) | 0:07:22 |
マイヨヴェール(ポイント賞)
1位 | マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ドゥクーニンク・クイックステップ) | 218pts |
2位 | マイケル・マシューズ(オーストラリア、バイクエクスチェンジ) | 159pts |
3位 | ソンニ・コルブレッリ(イタリア、バーレーン・ヴィクトリアス) | 136pts |
マイヨアポワ(山岳賞)
1位 | ナイロ・キンタナ(コロンビア、アルケア・サムシック) | 50pts |
2位 | マイケル・ウッズ(カナダ、イスラエル・スタートアップネイション) | 42pts |
3位 | ワウト・プールス(オランダ、バーレーン・ヴィクトリアス) | 39pts |
マイヨブラン(ヤングライダー賞)
1位 | タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) | 38:25:17 |
2位 | ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ) | 0:05:32 |
3位 | ダヴィド・ゴデュ(フランス、グルパマFDJ) | 0:07:22 |
チーム総合成績
1位 | バーレーン・ヴィクトリアス | 115:33:28 |
2位 | アージェードゥーゼール・シトロエン | 0:18:04 |
3位 | イネオス・グレナディアーズ | 0:29:07 |
text:Kei Tsuji in Valence, France
Amazon.co.jp