2021/05/17(月) - 06:16
1級山岳カンポ・フェリーチェの未舗装&急勾配区間でライバルたちをふるい落とし、逃げを追い抜いたエガン・ベルナル(コロンビア、イネオス・グレナディアーズ)。背中の痛みに悩まされてきた2019年のツール覇者が、ジロ・デ・イタリア第9ステージで自身初のグランツールステージ優勝とマリアローザ獲得を果たした。
5月16日(日)第9ステージ
カステル・ディ・サングロ〜カンポ・フェリーチェ(ロッカ・ディ・カンビオ)158km ★★★★
開幕からすでに1週間以上が経過。大会2回目の日曜日はアブルッツォ州を駆ける難関山岳ステージ。158kmの短いコースにはカテゴリー山岳が4つと非カテゴリー山岳が2つ組み込まれており、獲得標高差は3,400mに達する。立て続けに2級山岳ゴーディ峠、3級山岳フォルカ・カルーゾ、2級山岳オヴィンドーリを経て、そこからさらに1級山岳カンポ・フェリーチェに向けて高度を上げていく。
残り3.1kmから1300mにわたって続く登り勾配のトンネルを抜けると、選手たちの目の前にはスキー場カンポ・フェリーチェのゲレンデが広がる。そして、残り1.6km地点からは勾配が増すとともに路面が未舗装に切り替わる。スキー場の斜面を蛇行しながら登っていくこの未舗装区間の平均勾配は8.8%で、残り400m地点で最大勾配は14%をマーク。この未舗装&急坂の組み合わせは大会前半戦のクライマックスだ。
今年は例年以上に逃げ切りが決まっていることが影響してか、この日もスタート直後から猛烈な勢いのアタック合戦が続いた。アタック、カウンターアタック、合流、吸収のインターバルを2時間近く繰り返した選手たち。逃げという逃げが決まり、ようやくメイン集団とのタイム差が広がり始めたのはスタートから70km以上走り、フィニッシュまで90kmを切ってから。このタフな展開から抜け出すことができたのは、必然的に各チームのサブエース級選手たちだった。
逃げグループを形成した選手たち
タネル・カンゲルト(エストニア、バイクエクスチェンジ)総合5分37秒遅れ
ルーベン・ゲレイロ(ポルトガル、EFエデュケーション・NIPPO)総合6分11秒遅れ
ディエゴ・ウリッシ(イタリア、UAEチームエミレーツ)総合7分06秒遅れ
ジョージ・ベネット(ニュージーランド、ユンボ・ヴィスマ)総合8分55秒遅れ
クーン・ボウマン(オランダ、ユンボ・ヴィスマ)
マイケル・ストーラー(オーストラリア、チームDSM)
マッテオ・ファッブロ(イタリア、ボーラ・ハンスグローエ)
バウケ・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード)
ニコラ・エデ(フランス、コフィディス)
ジョフリー・ブシャール(フランス、アージェードゥーゼール・シトロエン)
ルイスレオン・サンチェス(スペイン、アスタナ・プレミアテック)
トニー・ガロパン(フランス、アージェードゥーゼール・シトロエン)
フィリッポ・ザナ(イタリア、バルディアーニ・CSF・ファイザネ)
ジョヴァンニ・ヴィスコンティ(イタリア、バルディアーニ・CSF・ファイザネ)
サイモン・カー(イギリス、EFエデュケーション・NIPPO)
エイネルアウグスト・ルビオ(コロンビア、モビスター)
エドゥアルド・セプルベダ(アルゼンチン、アンドローニジョカトリ・シデルメク)
最初の2級山岳ゴーディ峠を先頭通過して18ポイントを獲得した山岳賞1位ジーノ・マーダー(スイス、バーレーン・ヴィクトリアス)は逃げグループに入ることができず、山岳ポイントを量産したブシャールにマリアアッズーラを明け渡すことに。チームメイトのマテイ・モホリッチ(スロベニア、バーレーン・ヴィクトリアス)は下り区間でコントロールを失って前転。頭から地面に叩きつけられたモホリッチは脳震盪によってレースを去っている。
マリアローザを守りたいグルパマFDJの集団牽引によって、脚の揃った強力な逃げグループとのタイム差は3分から3分半で推移する。ライバルチームの中でステージ優勝に向けた意思を示したのはイネオス・グレナディアーズだった。この日3つ目の2級山岳オヴィンドーリでグルパマFDJからイネオスの集団牽引に切り替わるとタイム差は縮小。同時に逃げグループの歩調も合わなくなる。
徐々に人数が絞られた逃げグループからカーとブシャールが抜け出すことに成功し、ストーラー、ボウマン、モレマ、エデの4名が追いかける形に。フィニッシュまで残り10kmを切ると先頭ではバーチャル山岳賞1位のブシャールが独走。先頭ブシャールは、モレマ、ストーラー、ボウマン、カーから20秒、モビスターとイネオス率いるメイン集団から2分のリードで最後の1級山岳カンポ・フェリーチェに突入した。
追走グループからボウマンが飛び出す中、メイン集団はイネオストレインを先頭にトンネルを抜けてスキー場エリアへ、いよいよ未舗装区間に突入する。集団最後尾に辛うじてぶら下がっていたマリアローザのアッティラ・ヴァルテル(ハンガリー、グルパマFDJ)はついにここで遅れてしまう。
全長1.6kmの未舗装区間で先頭ブシャールにボウマンが合流。しかし、後方からはジャンニ・モスコン(イタリア、イネオス・グレナディアーズ)率いるメイン集団が猛烈な勢いで追い上げた。モスコンの全開牽引により人数を減らしたメイン集団は、先頭ボウマンとブシャールから25秒遅れで残り1kmアーチを通過する。すると、アレクサンドル・ウラソフ(ロシア、アスタナ・プレミアテック)のアタックに呼応する形でエガン・ベルナル(コロンビア、イネオス・グレナディアーズ)が加速した。
マウンテンバイク出身選手らしさ溢れるトラクションコントロールで未舗装の急坂を踏み続けたベルナルが、逃げていたボウマンとブシャールをダンシングで勢いよく抜き去っていく。食らいつくジュリオ・チッコーネ(イタリア、トレック・セガフレード)やウラソフ、そしてマイペース走法に徹したレムコ・エヴェネプール(ベルギー、ドゥクーニンク・クイックステップ)とのタイム差は広がる一方。「自分の走りに完全に集中して、自分の世界の中にいたから、逃げていた選手を全員吸収したかわからなかった」というベルナルがガッツポーズすることなくフィニッシュラインまで踏み抜いた。
出し切った表情のベルナルから7秒遅れで、ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、トレック・セガフレード)から実質的にエースの座を譲り受けた地元アブルッツォ州出身のチッコーネとウラソフが入り、エヴェネプールやダニエル・マーティン(アイルランド、イスラエル・スタートアップネイション)が10秒遅れ。サイモン・イェーツ(イギリス、バイクエクスチェンジ)らは12秒のタイムを失っている。マリアローザはこの日49秒遅れたヴァルテルからベルナルの手に移った。
2019年にツール・ド・フランスを制したベルナルにとってこれがグランツールのステージ初優勝。ウラン、キンタナ、ガビリア、チャベスに続く5人目のコロンビア出身マリアローザ着用者になったベルナルは「何が起こったのか、いまだに信じられない。グランツールでステージ初優勝を飾ったんだ。ここに至るまで多くの犠牲を払ってきた。ステージ優勝できるという確証はなかったけど、チームメイトたちが自信を与えてくれたんだ。信頼してくれた彼らにこの勝利を捧げたい」と語る。
ベルナルは2020年ツールのリタイアの原因となった背中の痛みにずっと悩まされてきた。まだ完治には至っておらず、毎日スタート前とフィニッシュ後に治療を受けているという。「この2年間は精神的にも身体的にもタフだった。ステージ優勝したとわかった時は感情が溢れてきたよ。残り1.5kmからの未舗装登坂は4分間の全開走行。ライバルたちの様子を伺う暇なんてなかった」。
大会前半最大の山場を終えてマリアビアンカ対象選手が総合トップ3を独占。ベルナルはエヴェネプールから15秒、ウラソフから21秒のリードを得ている。総合トップ10のタイム差は概ね1分以内。ジロは後半戦の舞台に向けてイタリアを北上していく。
5月16日(日)第9ステージ
カステル・ディ・サングロ〜カンポ・フェリーチェ(ロッカ・ディ・カンビオ)158km ★★★★
開幕からすでに1週間以上が経過。大会2回目の日曜日はアブルッツォ州を駆ける難関山岳ステージ。158kmの短いコースにはカテゴリー山岳が4つと非カテゴリー山岳が2つ組み込まれており、獲得標高差は3,400mに達する。立て続けに2級山岳ゴーディ峠、3級山岳フォルカ・カルーゾ、2級山岳オヴィンドーリを経て、そこからさらに1級山岳カンポ・フェリーチェに向けて高度を上げていく。
残り3.1kmから1300mにわたって続く登り勾配のトンネルを抜けると、選手たちの目の前にはスキー場カンポ・フェリーチェのゲレンデが広がる。そして、残り1.6km地点からは勾配が増すとともに路面が未舗装に切り替わる。スキー場の斜面を蛇行しながら登っていくこの未舗装区間の平均勾配は8.8%で、残り400m地点で最大勾配は14%をマーク。この未舗装&急坂の組み合わせは大会前半戦のクライマックスだ。
今年は例年以上に逃げ切りが決まっていることが影響してか、この日もスタート直後から猛烈な勢いのアタック合戦が続いた。アタック、カウンターアタック、合流、吸収のインターバルを2時間近く繰り返した選手たち。逃げという逃げが決まり、ようやくメイン集団とのタイム差が広がり始めたのはスタートから70km以上走り、フィニッシュまで90kmを切ってから。このタフな展開から抜け出すことができたのは、必然的に各チームのサブエース級選手たちだった。
逃げグループを形成した選手たち
タネル・カンゲルト(エストニア、バイクエクスチェンジ)総合5分37秒遅れ
ルーベン・ゲレイロ(ポルトガル、EFエデュケーション・NIPPO)総合6分11秒遅れ
ディエゴ・ウリッシ(イタリア、UAEチームエミレーツ)総合7分06秒遅れ
ジョージ・ベネット(ニュージーランド、ユンボ・ヴィスマ)総合8分55秒遅れ
クーン・ボウマン(オランダ、ユンボ・ヴィスマ)
マイケル・ストーラー(オーストラリア、チームDSM)
マッテオ・ファッブロ(イタリア、ボーラ・ハンスグローエ)
バウケ・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード)
ニコラ・エデ(フランス、コフィディス)
ジョフリー・ブシャール(フランス、アージェードゥーゼール・シトロエン)
ルイスレオン・サンチェス(スペイン、アスタナ・プレミアテック)
トニー・ガロパン(フランス、アージェードゥーゼール・シトロエン)
フィリッポ・ザナ(イタリア、バルディアーニ・CSF・ファイザネ)
ジョヴァンニ・ヴィスコンティ(イタリア、バルディアーニ・CSF・ファイザネ)
サイモン・カー(イギリス、EFエデュケーション・NIPPO)
エイネルアウグスト・ルビオ(コロンビア、モビスター)
エドゥアルド・セプルベダ(アルゼンチン、アンドローニジョカトリ・シデルメク)
最初の2級山岳ゴーディ峠を先頭通過して18ポイントを獲得した山岳賞1位ジーノ・マーダー(スイス、バーレーン・ヴィクトリアス)は逃げグループに入ることができず、山岳ポイントを量産したブシャールにマリアアッズーラを明け渡すことに。チームメイトのマテイ・モホリッチ(スロベニア、バーレーン・ヴィクトリアス)は下り区間でコントロールを失って前転。頭から地面に叩きつけられたモホリッチは脳震盪によってレースを去っている。
マリアローザを守りたいグルパマFDJの集団牽引によって、脚の揃った強力な逃げグループとのタイム差は3分から3分半で推移する。ライバルチームの中でステージ優勝に向けた意思を示したのはイネオス・グレナディアーズだった。この日3つ目の2級山岳オヴィンドーリでグルパマFDJからイネオスの集団牽引に切り替わるとタイム差は縮小。同時に逃げグループの歩調も合わなくなる。
徐々に人数が絞られた逃げグループからカーとブシャールが抜け出すことに成功し、ストーラー、ボウマン、モレマ、エデの4名が追いかける形に。フィニッシュまで残り10kmを切ると先頭ではバーチャル山岳賞1位のブシャールが独走。先頭ブシャールは、モレマ、ストーラー、ボウマン、カーから20秒、モビスターとイネオス率いるメイン集団から2分のリードで最後の1級山岳カンポ・フェリーチェに突入した。
追走グループからボウマンが飛び出す中、メイン集団はイネオストレインを先頭にトンネルを抜けてスキー場エリアへ、いよいよ未舗装区間に突入する。集団最後尾に辛うじてぶら下がっていたマリアローザのアッティラ・ヴァルテル(ハンガリー、グルパマFDJ)はついにここで遅れてしまう。
全長1.6kmの未舗装区間で先頭ブシャールにボウマンが合流。しかし、後方からはジャンニ・モスコン(イタリア、イネオス・グレナディアーズ)率いるメイン集団が猛烈な勢いで追い上げた。モスコンの全開牽引により人数を減らしたメイン集団は、先頭ボウマンとブシャールから25秒遅れで残り1kmアーチを通過する。すると、アレクサンドル・ウラソフ(ロシア、アスタナ・プレミアテック)のアタックに呼応する形でエガン・ベルナル(コロンビア、イネオス・グレナディアーズ)が加速した。
マウンテンバイク出身選手らしさ溢れるトラクションコントロールで未舗装の急坂を踏み続けたベルナルが、逃げていたボウマンとブシャールをダンシングで勢いよく抜き去っていく。食らいつくジュリオ・チッコーネ(イタリア、トレック・セガフレード)やウラソフ、そしてマイペース走法に徹したレムコ・エヴェネプール(ベルギー、ドゥクーニンク・クイックステップ)とのタイム差は広がる一方。「自分の走りに完全に集中して、自分の世界の中にいたから、逃げていた選手を全員吸収したかわからなかった」というベルナルがガッツポーズすることなくフィニッシュラインまで踏み抜いた。
出し切った表情のベルナルから7秒遅れで、ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、トレック・セガフレード)から実質的にエースの座を譲り受けた地元アブルッツォ州出身のチッコーネとウラソフが入り、エヴェネプールやダニエル・マーティン(アイルランド、イスラエル・スタートアップネイション)が10秒遅れ。サイモン・イェーツ(イギリス、バイクエクスチェンジ)らは12秒のタイムを失っている。マリアローザはこの日49秒遅れたヴァルテルからベルナルの手に移った。
2019年にツール・ド・フランスを制したベルナルにとってこれがグランツールのステージ初優勝。ウラン、キンタナ、ガビリア、チャベスに続く5人目のコロンビア出身マリアローザ着用者になったベルナルは「何が起こったのか、いまだに信じられない。グランツールでステージ初優勝を飾ったんだ。ここに至るまで多くの犠牲を払ってきた。ステージ優勝できるという確証はなかったけど、チームメイトたちが自信を与えてくれたんだ。信頼してくれた彼らにこの勝利を捧げたい」と語る。
ベルナルは2020年ツールのリタイアの原因となった背中の痛みにずっと悩まされてきた。まだ完治には至っておらず、毎日スタート前とフィニッシュ後に治療を受けているという。「この2年間は精神的にも身体的にもタフだった。ステージ優勝したとわかった時は感情が溢れてきたよ。残り1.5kmからの未舗装登坂は4分間の全開走行。ライバルたちの様子を伺う暇なんてなかった」。
大会前半最大の山場を終えてマリアビアンカ対象選手が総合トップ3を独占。ベルナルはエヴェネプールから15秒、ウラソフから21秒のリードを得ている。総合トップ10のタイム差は概ね1分以内。ジロは後半戦の舞台に向けてイタリアを北上していく。
ジロ・デ・イタリア2021第9ステージ結果
マリアローザ 個人総合成績
マリアチクラミーノ ポイント賞
マリアアッズーラ 山岳賞
マリアビアンカ ヤングライダー賞
チーム総合成績
1位 | イネオス・グレナディアーズ | 106:01:14 |
2位 | バイクエクスチェンジ | 0:03:26 |
3位 | トレック・セガフレード | 0:05:47 |
text:Kei Tsuji
photo:CorVos
photo:CorVos
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