2010/06/04(金) - 09:16
「これから苦しむのがわかっているって、イヤだよな〜」。今日変わらずも強烈な日差しが降り注ぐ朝の愛三工業レーシングチームのピットにため息がこぼれた。ツール・ド・シンカラ第3ステージはちょっと変わった山岳ステージで、距離は51.3kmと短いが、「ケロック44」と呼ばれる44コのヘアピンカーブを有する約10kmの上り区間が強烈な印象を選手たちに与えていた。
昨夜のチームホテルが、この上り区間の先に位置していたため、ホテルに向かう途中でコースを下見することができた。湖添いの道を左に折れると、44コの九十九折りが続く。日本の一般的な九十九折りの上り(たとえば日光のいろは坂)よりも、カーブの間隔が短く、ストレートでの勾配はさほどないが、カーブでは20%近くまで勾配がつく。
このようなコースはまず日本にはないだろう。クルマで上っていても、1から44の番号が振られた各カーブの看板を追っていくと疲れてしまうほど。
そして、有力チームのイラン2チームは必ず仕掛けてくるため、どこまで彼らに立ち向かえるかが、愛三チームの総合順位を決める大きな要素になる。
ストレートでの勾配が緩い区間があるので、さほどきつくないと考えられるが、なんだか得体の知れぬコースを前に、愛三チームの緊張が高まる。彼らや他の有力選手がどんな表情でスタートしていくか気になったが、一足先にバイクに乗って上り区間へと向かった。
私のドライバーを務めてくれているのは、ロイエンという若い男性。日本で3年間ほど働いていた経験があり、上手な日本語を話す。レースの前日、日本人らしき私をみつけ、嬉しそうに挨拶をしてくれたのがキッカケで、私がドライバーを捜しているのを知って、立候補してくれたのだ。
本来、カメラバイクのドライバーはコミッセールのライセンスが必要だが、インドネシアでは40人のマーシャルがいても、ライセンスどころか、自転車ロードレースのルールを知っている人すら少ない。だから、私と手探りでバイクを走らせているのが現状だ。そして彼の本来の仕事はマーシャルなので、私が写真を撮っているあいだ、彼はコース脇で旗を振っている。
彼をはじめ、インドネシアには日本語を話す人がとても多い。話を聞くと、最近の高校のカリキュラムには、日本語が英語の次に学ぶ第2外国語として組み込まれているのだそう。日本に働きに出る人や、日本の大手企業がインドネシアに子会社を設立するなど、現代の日本とインドネシアとの関係は意外と深い。そのせいか、インドネシアの人たちは日本人を好意的に受け入れてくれ、慣れない土地でも、どこか安心できる雰囲気がある。
私たちは、ロイエンが歌う長渕剛の「乾杯」をBGMに、今日の勝負どころの九十九折りに到着した。私が選んだカーブは「21」。登坂区間のほぼ半分に位置する。そこをトップで通過したのは、インドネシアのアリ・ウスマンだった。そのあと約20秒ほど遅れて、綾部勇成を先頭にした4人のグループが通過。そしてその1分30秒後にイランチームがコントロールするリーダージャージを含む12名ほどのまとまった集団が通過。そのなかには別府匠の姿もあった。
山頂までに、アリが後退し、リーダーグループから、またしてもイランがアタック。山頂のKOMポイントはリーダージャージのミズバニ・ガデールが獲得。さらに彼が51秒の差をつけて、ステージ優勝も獲得した。
今朝、スタートライン横で、リーダージャージを着用しているのに、スターティングセレモニーに参加せず、けだるそうな表情をして座っていたミズバニ。「どうしたの? 疲れているの? きっと今日も勝つんでしょ?」と聞くと答えは「I hope so.」思ったより謙虚な言葉が返ってきた。
アジアのレースを転戦し、2003年のプロデビューより通算60勝(今日のを含めると61勝)挙げている、34才のイラン人選手は、今大会他に圧倒的な力の差をみせつけ、このステージまでに総合優勝を確実なものにした。
愛三チームのステージ最高位は、「前のほうで上りたい」と言っていた綾部が6位でフィニッシュ。先頭集団に入っていたものの、2つ目の上りで遅れてしまったという綾部の表情に悔しさが滲む。
総合順位で上位につける鈴木謙一は3分35秒遅れの20位でゴールし、総合順位は5分40秒遅れの14位に後退してしまった。かわりに総合順位を上げたのは、今大会好調さをみせる別府匠。5分27秒遅れの12位につけている。
そして、今日は「こんなに長い50kmはなかった〜!」と言う綾部が2つのKOMポイントを2位で通過。トップと1ポイント差の山岳賞2位でフィニッシュし表彰台に上った。山岳賞1位は、インドネシア最高位のアリ。そのため繰り上がりで明日からは、綾部が山岳賞ジャージを着用する。(この大会のジャージカラーは基本的に、ツール・ド・フランスと同じ。つまり山岳賞もお馴染みの“赤玉ジャージ”だが、赤玉の配置がどこか、ちょっとイケていない……)。
今日のステージでトップとの差が開いてしまったのは事実。明日からは小さな起伏を利用した逃げ切り優勝を狙いたい愛三チーム。タイム差がついている分、逃げに乗れる可能性は高い。毎日暑い炎天下でのレースだが、愛三チームの底力に期待したい。
text&photo:Sonoko Tanaka
昨夜のチームホテルが、この上り区間の先に位置していたため、ホテルに向かう途中でコースを下見することができた。湖添いの道を左に折れると、44コの九十九折りが続く。日本の一般的な九十九折りの上り(たとえば日光のいろは坂)よりも、カーブの間隔が短く、ストレートでの勾配はさほどないが、カーブでは20%近くまで勾配がつく。
このようなコースはまず日本にはないだろう。クルマで上っていても、1から44の番号が振られた各カーブの看板を追っていくと疲れてしまうほど。
そして、有力チームのイラン2チームは必ず仕掛けてくるため、どこまで彼らに立ち向かえるかが、愛三チームの総合順位を決める大きな要素になる。
ストレートでの勾配が緩い区間があるので、さほどきつくないと考えられるが、なんだか得体の知れぬコースを前に、愛三チームの緊張が高まる。彼らや他の有力選手がどんな表情でスタートしていくか気になったが、一足先にバイクに乗って上り区間へと向かった。
私のドライバーを務めてくれているのは、ロイエンという若い男性。日本で3年間ほど働いていた経験があり、上手な日本語を話す。レースの前日、日本人らしき私をみつけ、嬉しそうに挨拶をしてくれたのがキッカケで、私がドライバーを捜しているのを知って、立候補してくれたのだ。
本来、カメラバイクのドライバーはコミッセールのライセンスが必要だが、インドネシアでは40人のマーシャルがいても、ライセンスどころか、自転車ロードレースのルールを知っている人すら少ない。だから、私と手探りでバイクを走らせているのが現状だ。そして彼の本来の仕事はマーシャルなので、私が写真を撮っているあいだ、彼はコース脇で旗を振っている。
彼をはじめ、インドネシアには日本語を話す人がとても多い。話を聞くと、最近の高校のカリキュラムには、日本語が英語の次に学ぶ第2外国語として組み込まれているのだそう。日本に働きに出る人や、日本の大手企業がインドネシアに子会社を設立するなど、現代の日本とインドネシアとの関係は意外と深い。そのせいか、インドネシアの人たちは日本人を好意的に受け入れてくれ、慣れない土地でも、どこか安心できる雰囲気がある。
私たちは、ロイエンが歌う長渕剛の「乾杯」をBGMに、今日の勝負どころの九十九折りに到着した。私が選んだカーブは「21」。登坂区間のほぼ半分に位置する。そこをトップで通過したのは、インドネシアのアリ・ウスマンだった。そのあと約20秒ほど遅れて、綾部勇成を先頭にした4人のグループが通過。そしてその1分30秒後にイランチームがコントロールするリーダージャージを含む12名ほどのまとまった集団が通過。そのなかには別府匠の姿もあった。
山頂までに、アリが後退し、リーダーグループから、またしてもイランがアタック。山頂のKOMポイントはリーダージャージのミズバニ・ガデールが獲得。さらに彼が51秒の差をつけて、ステージ優勝も獲得した。
今朝、スタートライン横で、リーダージャージを着用しているのに、スターティングセレモニーに参加せず、けだるそうな表情をして座っていたミズバニ。「どうしたの? 疲れているの? きっと今日も勝つんでしょ?」と聞くと答えは「I hope so.」思ったより謙虚な言葉が返ってきた。
アジアのレースを転戦し、2003年のプロデビューより通算60勝(今日のを含めると61勝)挙げている、34才のイラン人選手は、今大会他に圧倒的な力の差をみせつけ、このステージまでに総合優勝を確実なものにした。
愛三チームのステージ最高位は、「前のほうで上りたい」と言っていた綾部が6位でフィニッシュ。先頭集団に入っていたものの、2つ目の上りで遅れてしまったという綾部の表情に悔しさが滲む。
総合順位で上位につける鈴木謙一は3分35秒遅れの20位でゴールし、総合順位は5分40秒遅れの14位に後退してしまった。かわりに総合順位を上げたのは、今大会好調さをみせる別府匠。5分27秒遅れの12位につけている。
そして、今日は「こんなに長い50kmはなかった〜!」と言う綾部が2つのKOMポイントを2位で通過。トップと1ポイント差の山岳賞2位でフィニッシュし表彰台に上った。山岳賞1位は、インドネシア最高位のアリ。そのため繰り上がりで明日からは、綾部が山岳賞ジャージを着用する。(この大会のジャージカラーは基本的に、ツール・ド・フランスと同じ。つまり山岳賞もお馴染みの“赤玉ジャージ”だが、赤玉の配置がどこか、ちょっとイケていない……)。
今日のステージでトップとの差が開いてしまったのは事実。明日からは小さな起伏を利用した逃げ切り優勝を狙いたい愛三チーム。タイム差がついている分、逃げに乗れる可能性は高い。毎日暑い炎天下でのレースだが、愛三チームの底力に期待したい。
text&photo:Sonoko Tanaka
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