2020/10/31(土) - 10:15
"登れるスプリンター向け"ステージでプリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ)がマイヨロホを奪還。登りスプリントを制し、ボーナスタイムを得てリチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ)と同タイムで総合首位浮上を叶えた。
カンタブリア海に面したビーチリゾート、カストロ・ウルディアレスを出発 photo:Unipublic
過酷な山岳ステージに挟まれた平坦ステージ2連戦。大西洋に面したカンタブリア州の海岸線を往復するブエルタ・ア・エスパーニャ第10ステージは、標高0mに近い平坦区間を突き進む。暖かな日差しの下、カストロ・ウルディアレスを157名まで減ったプロトンが出発した。
10月30日(金)第10ステージ カストロ・ウルディアレス〜スアンセス 185km photo:Unipublic
10月30日(金)第10ステージ カストロ・ウルディアレス〜スアンセス 185km photo:Unipublic
コース後半に設定されている1箇所の3級山岳サンシプリアノ(全長4.3km・平均5%)はスプリンターを振り落とすものではないが、美しいビーチが目の前に広がるスアンセスのフィニッシュラインは高低差90m、勾配5%の登坂を駆け上った先にある。大方の予想は登れるスプリンターや、スプリント力に長けるパンチャー向けだったものの、この日は総合が動く意外な展開が待ち受けていた。
ビスケー湾のカンタブリア海に面したビーチリゾート、カストロ・ウルディアレスを出発すると、すぐさま4名が逃げ、続いて追走メンバーが合流して5名に増え、さらに1名が脱落するという展開で4名がエスケープ。今大会最大となる12分ものリードを得て逃げを打った。メンバーは以下の通り。
逃げた4名
ブレント・ファンムール(ベルギー、ロット・スーダル)
ピム・リヒハルト(オランダ、トタル・ディレクトエネルジー)
アレックス・モレナール(オランダ、ブルゴスBH)
ヨナタン・ラストラ(スペイン、カハルラル・セグロスRGA)
メイン集団のコントロールを担ったのは、マイヨブランコを着用中のエンリク・マス(スペイン)擁するモビスターや、前日にサム・ベネット(アイルランド)が降格処分を受けたリベンジを狙うドゥクーニンク・クイックステップ、そしてロバート・スタナード(オーストラリア)での勝利を狙うミッチェルトン・スコットといった各チーム。一時12分あった差は、これらチームがペースアップを図るとすぐ減少傾向に転じた。
美しい秋の入江を駆け抜けて行く photo:Unipublic
逃げグループを率いるピム・リヒハルト(オランダ、トタル・ディレクトエネルジー) photo:CorVos
楽しげなカルロス・バルベロ(スペイン、NTTプロサイクリング)やホセ・ロハス(スペイン、モビスター)たち photo:Unipublic
残り60km地点の3級山岳サンシプリアノでも逃げる先頭グループと追うメイン集団の構図は崩れなかったが、ドゥクーニンク勢がペースメイクするメイン集団後方ではベネットが度々遅れがちになる姿が映し出される。アンドレア・バジオーリ(イタリア)でのスプリントに切り替えた"ウルフパック"が重苦しいダンシングで辛うじて粘るベネットに助け舟を出すことはなかった。
快調なペダリングを見せたブレント・ファンムール(ベルギー、ロット・スーダル)が3級山岳を先頭で越えた一方、出身地が近いヨナタン・ラストラ(スペイン、カハルラル・セグロスRGA)はローテーションを何度か飛ばす苦しい走り。リズムが崩れたこと、そして集団内のピュアスプリンターを振り落とす目的でミッチェルトン・スコットがペースアップしたことで、2グループの差は残り50km地点で3分40秒、残り30kmで1分30秒と減少の一途を辿る。
序盤にメイン集団のコントロールを担ったモビスター photo:CorVos
メイン集団のペースアップを行うドゥクーニンク・クイックステップとミッチェルトン・スコット photo:Unipublic
終盤に入ってクリストファー・フルーム(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)が牽引 photo:CorVos
コースマップに現れない細かいアップダウンを高速巡航する集団からは、残り28km地点で遂にベネットが脱落。目的を達成したミッチェルトン・スコットは早すぎる逃げ吸収を嫌って少しだけペースを調整し、残り16km地点で"グルッポコンパット"。ミッチェルトン、アスタナ、ドウクゥーニンクといったスプリンターチームに加え、イネオス・グレナディアーズといった総合系チームも集団先頭で緊張感ある位置取りを繰り広げた。
2011年、2017年の総合優勝者クリストファー・フルーム(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)が牽引する集団からは、今大会積極的な走りを見せているウィリー・スミット(南アフリカ、ブルゴスBH)が単独アタックして残り10km。カウンターで"クレルモン=フェランのTGV"としておなじみのレミ・カヴァニャ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)が飛び出した。
ウィリー・スミット(南アフリカ、ブルゴスBH)が単独アタック photo:CorVos
集団を置き去りにして逃げたイヴォ・オリヴェイラ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ)とレミ・カヴァニャ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ) photo:CorVos
ミラノ〜サンレモを思わせる海岸線のアップダウンを飛ばすカヴァニャにはイヴォ・オリヴェイラ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ)が合流。フランスとポルトガルのタイムトライアルナショナルチャンピオンは10秒ほどの差を保ち続けたが、イネオス・グレナディアーズの牽引によって残り3kmで引き戻される。スプリンターチームと総合系チームが入り乱れた末に、残り1.5kmから始まる緩斜面を前に、プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ)を引き連れたポール・マルテンス(ドイツ、ユンボ・ヴィズマ)が先頭に立った。
カハルラル・セグロスRGAとアスタナが争いながらフラムルージュ(残り1kmバナー)を通過し、少しペースが緩んだ隙を突いてマイヨモンターニャのギヨーム・マルタン(フランス、コフィディス)が加速する。後続選手が付き切れしたことで大きなリードを手にしたマルタンだったが、残り150mで緑色のジャージが勢い良く前に踊り出た。
後続を突き放すプリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ) photo:CorVos
後続との差を確認するプリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ) photo:Unipublic
14位でフィニッシュしたリチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ) photo:Unipublic
マルタン目掛けて加速したバジオーリに合わせたログリッチは、追いつきざまにもう一段階加速してライバル勢を引き離す。遅れたマイヨロホのリチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ)やダニエル・マーティン(アイルランド、イスラエル・スタートアップネイション)といった総合上位勢を尻目に、圧倒的な爆発力でログリッチが勝利した。
大きな差を付けたログリッチが先着し、次々と選手たちがフィニッシュになだれ込んだ結果、審判団は長い審議の末に8位マルタンまでがログリッチと同タイム、マルタンに距離を空けられた9位フィリプセン以降が3秒遅れという裁定を下す。ボーナスタイムを10秒獲得したログリッチに対し、14位でフィニッシュしたカラパスは3秒遅れとなったため、総合成績でログリッチとカラパスが同タイムに並び、マイヨロホはログリッチに渡るという結果になった。
マイヨロホを奪還したプリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ) photo:Unipublic
「美しい勝利だ。何といっていいか分からないけれど、とにかくスーパーハッピーだ。簡単な勝利なんて無いけれど、今日の僕には脚があった。マイヨロホは僕の元にやってきたけれど、毎日集中して戦うという僕らの作戦は変わらない。明日から厳しい山岳が始まるけれど、レースを楽しんで走りたい」と、マイヨロホを手にしたログリッチはフィニッシュ後のインタビューに答えている。
パンチャーや軽量スプリンターを振り切る加速力を見せつけたログリッチにとっては第1、第8ステージに続くステージ3勝目であり、今季節目の10勝目。マイヨロホとマイヨプントスを確保している31歳は、明日から5日ぶりにリーダーとして動く自由を手にしたカラパスと対峙することとなる。
1級山岳コリャドナ峠、1級山岳コベルトリア峠、1級山岳サンロレンソ峠を立て続けに越え、最後に1級山岳ファラポナ峠頂上を目指す過酷極まりない第11ステージで、再び激しい総合争いが繰り広げられる。
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過酷な山岳ステージに挟まれた平坦ステージ2連戦。大西洋に面したカンタブリア州の海岸線を往復するブエルタ・ア・エスパーニャ第10ステージは、標高0mに近い平坦区間を突き進む。暖かな日差しの下、カストロ・ウルディアレスを157名まで減ったプロトンが出発した。
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コース後半に設定されている1箇所の3級山岳サンシプリアノ(全長4.3km・平均5%)はスプリンターを振り落とすものではないが、美しいビーチが目の前に広がるスアンセスのフィニッシュラインは高低差90m、勾配5%の登坂を駆け上った先にある。大方の予想は登れるスプリンターや、スプリント力に長けるパンチャー向けだったものの、この日は総合が動く意外な展開が待ち受けていた。
ビスケー湾のカンタブリア海に面したビーチリゾート、カストロ・ウルディアレスを出発すると、すぐさま4名が逃げ、続いて追走メンバーが合流して5名に増え、さらに1名が脱落するという展開で4名がエスケープ。今大会最大となる12分ものリードを得て逃げを打った。メンバーは以下の通り。
逃げた4名
ブレント・ファンムール(ベルギー、ロット・スーダル)
ピム・リヒハルト(オランダ、トタル・ディレクトエネルジー)
アレックス・モレナール(オランダ、ブルゴスBH)
ヨナタン・ラストラ(スペイン、カハルラル・セグロスRGA)
メイン集団のコントロールを担ったのは、マイヨブランコを着用中のエンリク・マス(スペイン)擁するモビスターや、前日にサム・ベネット(アイルランド)が降格処分を受けたリベンジを狙うドゥクーニンク・クイックステップ、そしてロバート・スタナード(オーストラリア)での勝利を狙うミッチェルトン・スコットといった各チーム。一時12分あった差は、これらチームがペースアップを図るとすぐ減少傾向に転じた。
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残り60km地点の3級山岳サンシプリアノでも逃げる先頭グループと追うメイン集団の構図は崩れなかったが、ドゥクーニンク勢がペースメイクするメイン集団後方ではベネットが度々遅れがちになる姿が映し出される。アンドレア・バジオーリ(イタリア)でのスプリントに切り替えた"ウルフパック"が重苦しいダンシングで辛うじて粘るベネットに助け舟を出すことはなかった。
快調なペダリングを見せたブレント・ファンムール(ベルギー、ロット・スーダル)が3級山岳を先頭で越えた一方、出身地が近いヨナタン・ラストラ(スペイン、カハルラル・セグロスRGA)はローテーションを何度か飛ばす苦しい走り。リズムが崩れたこと、そして集団内のピュアスプリンターを振り落とす目的でミッチェルトン・スコットがペースアップしたことで、2グループの差は残り50km地点で3分40秒、残り30kmで1分30秒と減少の一途を辿る。
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コースマップに現れない細かいアップダウンを高速巡航する集団からは、残り28km地点で遂にベネットが脱落。目的を達成したミッチェルトン・スコットは早すぎる逃げ吸収を嫌って少しだけペースを調整し、残り16km地点で"グルッポコンパット"。ミッチェルトン、アスタナ、ドウクゥーニンクといったスプリンターチームに加え、イネオス・グレナディアーズといった総合系チームも集団先頭で緊張感ある位置取りを繰り広げた。
2011年、2017年の総合優勝者クリストファー・フルーム(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)が牽引する集団からは、今大会積極的な走りを見せているウィリー・スミット(南アフリカ、ブルゴスBH)が単独アタックして残り10km。カウンターで"クレルモン=フェランのTGV"としておなじみのレミ・カヴァニャ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)が飛び出した。
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ミラノ〜サンレモを思わせる海岸線のアップダウンを飛ばすカヴァニャにはイヴォ・オリヴェイラ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ)が合流。フランスとポルトガルのタイムトライアルナショナルチャンピオンは10秒ほどの差を保ち続けたが、イネオス・グレナディアーズの牽引によって残り3kmで引き戻される。スプリンターチームと総合系チームが入り乱れた末に、残り1.5kmから始まる緩斜面を前に、プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ)を引き連れたポール・マルテンス(ドイツ、ユンボ・ヴィズマ)が先頭に立った。
カハルラル・セグロスRGAとアスタナが争いながらフラムルージュ(残り1kmバナー)を通過し、少しペースが緩んだ隙を突いてマイヨモンターニャのギヨーム・マルタン(フランス、コフィディス)が加速する。後続選手が付き切れしたことで大きなリードを手にしたマルタンだったが、残り150mで緑色のジャージが勢い良く前に踊り出た。
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マルタン目掛けて加速したバジオーリに合わせたログリッチは、追いつきざまにもう一段階加速してライバル勢を引き離す。遅れたマイヨロホのリチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ)やダニエル・マーティン(アイルランド、イスラエル・スタートアップネイション)といった総合上位勢を尻目に、圧倒的な爆発力でログリッチが勝利した。
大きな差を付けたログリッチが先着し、次々と選手たちがフィニッシュになだれ込んだ結果、審判団は長い審議の末に8位マルタンまでがログリッチと同タイム、マルタンに距離を空けられた9位フィリプセン以降が3秒遅れという裁定を下す。ボーナスタイムを10秒獲得したログリッチに対し、14位でフィニッシュしたカラパスは3秒遅れとなったため、総合成績でログリッチとカラパスが同タイムに並び、マイヨロホはログリッチに渡るという結果になった。
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「美しい勝利だ。何といっていいか分からないけれど、とにかくスーパーハッピーだ。簡単な勝利なんて無いけれど、今日の僕には脚があった。マイヨロホは僕の元にやってきたけれど、毎日集中して戦うという僕らの作戦は変わらない。明日から厳しい山岳が始まるけれど、レースを楽しんで走りたい」と、マイヨロホを手にしたログリッチはフィニッシュ後のインタビューに答えている。
パンチャーや軽量スプリンターを振り切る加速力を見せつけたログリッチにとっては第1、第8ステージに続くステージ3勝目であり、今季節目の10勝目。マイヨロホとマイヨプントスを確保している31歳は、明日から5日ぶりにリーダーとして動く自由を手にしたカラパスと対峙することとなる。
1級山岳コリャドナ峠、1級山岳コベルトリア峠、1級山岳サンロレンソ峠を立て続けに越え、最後に1級山岳ファラポナ峠頂上を目指す過酷極まりない第11ステージで、再び激しい総合争いが繰り広げられる。
ブエルタ・ア・エスパーニャ2020第10ステージ結果
1位 | プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ) | 4:14:11 |
2位 | フェリックス・グロスチャートナー(オーストリア、ボーラ・ハンスグローエ) | |
3位 | アンドレア・バジオーリ(イタリア、ドゥクーニンク・クイックステップ) | |
4位 | アレックス・アランブル(スペイン、アスタナ) | |
5位 | ロバート・スタナード(オーストラリア、ミッチェルトン・スコット) | |
6位 | ジュリアン・シモン(フランス、トタル・ディレクトエネルジー) | |
7位 | ダニエル・マーティン(アイルランド、イスラエル・スタートアップネイション) | |
8位 | ギヨーム・マルタン(フランス、コフィディス) | |
9位 | ジャスパー・フィリプセン(ベルギー、UAEチームエミレーツ) | 0:03 |
10位 | マグナス・コルトニールセン(デンマーク、EFプロサイクリング) |
マイヨロホ 個人総合成績
1位 | プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ) | 40:25:15 |
2位 | リチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ) | |
3位 | ダニエル・マーティン(アイルランド、イスラエル・スタートアップネイション) | 0:25 |
4位 | ヒュー・カーシー(イギリス、EFプロサイクリング) | 0:51 |
5位 | エンリク・マス(スペイン、モビスター) | 1:54 |
6位 | フェリックス・グロスチャートナー(オーストリア、ボーラ・ハンスグローエ) | 3:19 |
7位 | エステバン・チャベス(コロンビア、ミッチェルトン・スコット) | 3:28 |
8位 | アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) | 3:35 |
9位 | ワウト・プールス(オランダ、バーレーン・マクラーレン) | 3:47 |
10位 | マルク・ソレル(スペイン、モビスター) | 3:52 |
マイヨモンターニャ(山岳賞ジャージ)
1位 | ギヨーム・マルタン(フランス、コフィディス) | 27pts |
2位 | セップ・クス(アメリカ、ユンボ・ヴィズマ) | 24pts |
3位 | リチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ) | 24pts |
マイヨプントス(ポイント賞ジャージ)
1位 | プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ) | 129pts |
2位 | リチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ) | 83pts |
3位 | ダニエル・マーティン(アイルランド、イスラエル・スタートアップネイション) | 82pts |
マイヨブランコ(ヤングライダー賞ジャージ)
1位 | エンリク・マス(スペイン、モビスター) | 40:27:09 |
2位 | ダヴィ・ゴデュ(フランス、グルパマFDJ) | 4:21 |
3位 | アレクサンドル・ウラソフ(ロシア、アスタナ) | 4:58 |
チーム総合成績
1位 | モビスター | 121:25:21 |
2位 | UAEチームエミレーツ | 5:57 |
3位 | ユンボ・ヴィズマ | 12:43 |
text:So Isobe
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