2020/08/14(金) - 17:14
フィジークからリリースされた3Dプリントパッドサドルの第2弾「ANTARES VERSUS EVO R1 ADAPTIVE」をインプレッション。どのバイクにも馴染みやすいブラックカラーのルックスと、手の届きやすい価格となった期待作の真価を問う。
3Dプリントというキャッチーなテクノロジーと印象的なルックスによって、高い注目を浴びたANTARES VERSUS EVO 00 ADAPTIVE。そのデビューから半年を待つことなく、フィジークは3Dプリントパッドサドルのラインアップを拡充。サドルベースやレールをコストパフォーマンスに優れた素材に置き換えたR1&R3を発表し、盤石の体制を整えた。
ある意味こちらが本命なのだろう。そう感じさせたのは、"00"から20%以上抑えられた価格はもちろん大きな要因ではある。しかし、最も重要なファクターはオールブラックのルックスだ。
"00"の蓄光素材ライクな薄緑色のパッドはいかにも3Dプリントでござい、という存在感を放ってはいたが、自転車のパーツとしては馴染みづらい異質さだった。それは、実験的なプロダクトであることを示すには効果的だっただろうし、ライバルよりも早く世に送り出すための製造上の理由もあったとも聞く。だが、実際に購入して自らのバイクに取り付けるのかと問われれば、二の足を踏むカラーだったことは間違いない。
その点、今回発表されたR1とR3はブラックカラーのパッドを採用し、どんなバイクにもマッチするデザインとなっている。現実的なラインに近づいた価格も相まって、フィジークが3Dプリントパッドを話題を集めるための打ち上げ花火的な存在ではなく、次世代モデルの中核となるテクノロジーとして位置づけたことが窺い知れよう。
さて、それでは肝心の乗り味について書いていこう。まず、3Dプリントパッドの最も大きなメリットは何か。メーカーは従来のフォームサドルよりも弾性のコントロールが容易になり、場所によって硬さを緻密に変化させられることが大きなメリットだと語る。多くの圧力データをもとに、荷重がかかる場所は弾性を高めに、そうでない場所は低めに作ることで、最適なパッド性能を実現したというのが謳い文句だ。
それはすぐに体感できる。指で押せばわかるほど部位によって明らかに柔らかさが違うのは、従来のフォームサドルには無かった特徴だ。しかし、既存のフォームサドルに対する最大の優位性はそこにはないというのが私の偽らざる実感でもある。では、何か。それは「表皮がない」ことだ。
伝統的なサドルはサドルベースの上にフォームを積層し、最後に表皮で留めるという構造を取ってきた。この際、表皮にテンションが掛かることでフォームを潰してしまい、本来のクッション性が損なわれてしまうことが大きな問題となっていた。近年、その問題を解決すべく、表皮であらかじめ包んだフォームパッドをベースに貼り付けるサドルが増えてきていたのだが、ADAPTIVEの3Dパッドはその先を行く。
表皮を省いたことによって、パッドが持つストローク量を100%発揮出来るのが3Dプリントパッドの最大の強みだ。サドルに座った瞬間に、パッドが仕事をしていることが明確に伝わってくるのは、このパッドでしか味わえない感覚。少なくとも、このクラスのレーシングサドルでは考えられないレベルのクッション性で、従来のサドルが動きが渋めのサスだとすれば、ADAPTIVEはさながらカシマコートを施されたハイエンドモデルのごとく滑らかに沈み込んでいく。
非常に大きな役割をパッドが果たしているためか、サドルベースの形状が多少フィットしていなくとも、その違和感を吸収してくれる懐の深さがある。実際、これまで私のサドル遍歴としては、セラSMPのSTRIKE COMPOSITEやファブリックのSCOOP RADIUSなど座面がカーブを描いているサドルがフィットする傾向にあり、フィジークで言えばALIANTEはしっくりくるが、ARIONEは痛く、ANTARESは良いレーパンを履けば乗れなくはない、といった具合。だが、このANTARES ADAPTIVEに関しては、1週間ほど乗り込んでも痛みが出そうな気配もないほど快適に過ごすことが出来た。
今回新モデルの登場に際し、"R1"と"00"を乗り比べてみたが、サドルとしての方向性に大きな違いはもちろん無い。ただ、ベースおよびレールの違いによって、わずかに味付けが違うとも感じた。
"00"のフルカーボンベースは非常に強固でほぼしなることが無いのに対し、"R1"のカーボン強化ナイロンベースは手で押してもある程度変形するしなやかさを備えている。実際に座ってみてもその差は明らかで、"R1"のベースがしなっていることは感じられる。
とはいえ"00"と"R1"の間に大きな快適性の違いがあるわけではない。パッドのクッション性が支配的なADAPTIVEにとって、ベースの差異はそこまで大きな差とはならないのだろう。どちらかと言えばペダリングへの影響の方が大きいと感じる。力強いペダリングを撓ることなく受け止めるダイレクトなフィーリングが魅力的な"00"に対し、"R1"は左右に少しロールすることで脚を回しやすくなる。自分のペダリングスキルや好みによって選べるが、より多くの人にフィットするのは"R1"の方ではないだろうか。
パッド自体に関しては、"00"のほうが気持ち柔らかめに感じた。ただ、新モデルが新品だったのに対し、"00"が500kmほど使われていたため、色素が及ぼす影響なのか、ベースの硬さを考慮した意図的なものなのか、はたまた使用に伴うこなれ感なのかは断言できない。だが、サドル前方に関しては視覚的にも"00"の格子が細く作られていることは確認できたので、意図的なチューニングである可能性は高いと思う。
摩擦係数が高めの素材と格子状の表面形状によって、非常に優れたグリップ感を発揮するのも大きな特徴。サドルにしっかり腰を据えたペダリングが出来るのは、ADAPTIVEシリーズの隠れた長所だ。反面、前後位置を調整するために一旦荷重を抜く必要があるほどのグリップを有しているため、頻繁に座る位置を変える人には向いていないかもしれない。
"00"で提示した3Dパッドサドルのメリットを全て受け継ぎつつ、より万人受けするモデルへと進化した二つの新モデル。今のサドルがしっくりこない人、更に快適性を求める人、薄いサドルを諦めてきた人。フィジークの次世代を担う本命サドルは、そんな沼をさまよう人に垂らされた希望の糸となりそうだ。
現在、ADAPTIVEサドルの乗り心地を体験できるテストライドプログラムも実施中。全国のADAPTIVEスペシャルディーラーにて、事前に予約することで新世代のハイテクサドルを味わうことが可能だ(詳細はこちら)。
text:Naoki.Yasuoka
フィジーク ANTARES VERSUS EVO R1 ADAPTIVE
サイズ:139mm、149mm
重量:174g、180g
レール:10×7mm カーボンブレイデッドレール
シェル:カーボン強化ナイロンシェル
カラー:ブラック
価格:38,300円(税抜)
フィジーク ANTARES VERSUS EVO R3 ADAPTIVE
サイズ:139mm、149mm
重量:209g、215g
レール:7×7mm Ki:umレール
シェル:カーボン強化ナイロンシェル
カラー:ブラック
価格:32,200円(税抜)
3Dプリントというキャッチーなテクノロジーと印象的なルックスによって、高い注目を浴びたANTARES VERSUS EVO 00 ADAPTIVE。そのデビューから半年を待つことなく、フィジークは3Dプリントパッドサドルのラインアップを拡充。サドルベースやレールをコストパフォーマンスに優れた素材に置き換えたR1&R3を発表し、盤石の体制を整えた。
ある意味こちらが本命なのだろう。そう感じさせたのは、"00"から20%以上抑えられた価格はもちろん大きな要因ではある。しかし、最も重要なファクターはオールブラックのルックスだ。
"00"の蓄光素材ライクな薄緑色のパッドはいかにも3Dプリントでござい、という存在感を放ってはいたが、自転車のパーツとしては馴染みづらい異質さだった。それは、実験的なプロダクトであることを示すには効果的だっただろうし、ライバルよりも早く世に送り出すための製造上の理由もあったとも聞く。だが、実際に購入して自らのバイクに取り付けるのかと問われれば、二の足を踏むカラーだったことは間違いない。
その点、今回発表されたR1とR3はブラックカラーのパッドを採用し、どんなバイクにもマッチするデザインとなっている。現実的なラインに近づいた価格も相まって、フィジークが3Dプリントパッドを話題を集めるための打ち上げ花火的な存在ではなく、次世代モデルの中核となるテクノロジーとして位置づけたことが窺い知れよう。
さて、それでは肝心の乗り味について書いていこう。まず、3Dプリントパッドの最も大きなメリットは何か。メーカーは従来のフォームサドルよりも弾性のコントロールが容易になり、場所によって硬さを緻密に変化させられることが大きなメリットだと語る。多くの圧力データをもとに、荷重がかかる場所は弾性を高めに、そうでない場所は低めに作ることで、最適なパッド性能を実現したというのが謳い文句だ。
それはすぐに体感できる。指で押せばわかるほど部位によって明らかに柔らかさが違うのは、従来のフォームサドルには無かった特徴だ。しかし、既存のフォームサドルに対する最大の優位性はそこにはないというのが私の偽らざる実感でもある。では、何か。それは「表皮がない」ことだ。
伝統的なサドルはサドルベースの上にフォームを積層し、最後に表皮で留めるという構造を取ってきた。この際、表皮にテンションが掛かることでフォームを潰してしまい、本来のクッション性が損なわれてしまうことが大きな問題となっていた。近年、その問題を解決すべく、表皮であらかじめ包んだフォームパッドをベースに貼り付けるサドルが増えてきていたのだが、ADAPTIVEの3Dパッドはその先を行く。
表皮を省いたことによって、パッドが持つストローク量を100%発揮出来るのが3Dプリントパッドの最大の強みだ。サドルに座った瞬間に、パッドが仕事をしていることが明確に伝わってくるのは、このパッドでしか味わえない感覚。少なくとも、このクラスのレーシングサドルでは考えられないレベルのクッション性で、従来のサドルが動きが渋めのサスだとすれば、ADAPTIVEはさながらカシマコートを施されたハイエンドモデルのごとく滑らかに沈み込んでいく。
非常に大きな役割をパッドが果たしているためか、サドルベースの形状が多少フィットしていなくとも、その違和感を吸収してくれる懐の深さがある。実際、これまで私のサドル遍歴としては、セラSMPのSTRIKE COMPOSITEやファブリックのSCOOP RADIUSなど座面がカーブを描いているサドルがフィットする傾向にあり、フィジークで言えばALIANTEはしっくりくるが、ARIONEは痛く、ANTARESは良いレーパンを履けば乗れなくはない、といった具合。だが、このANTARES ADAPTIVEに関しては、1週間ほど乗り込んでも痛みが出そうな気配もないほど快適に過ごすことが出来た。
今回新モデルの登場に際し、"R1"と"00"を乗り比べてみたが、サドルとしての方向性に大きな違いはもちろん無い。ただ、ベースおよびレールの違いによって、わずかに味付けが違うとも感じた。
"00"のフルカーボンベースは非常に強固でほぼしなることが無いのに対し、"R1"のカーボン強化ナイロンベースは手で押してもある程度変形するしなやかさを備えている。実際に座ってみてもその差は明らかで、"R1"のベースがしなっていることは感じられる。
とはいえ"00"と"R1"の間に大きな快適性の違いがあるわけではない。パッドのクッション性が支配的なADAPTIVEにとって、ベースの差異はそこまで大きな差とはならないのだろう。どちらかと言えばペダリングへの影響の方が大きいと感じる。力強いペダリングを撓ることなく受け止めるダイレクトなフィーリングが魅力的な"00"に対し、"R1"は左右に少しロールすることで脚を回しやすくなる。自分のペダリングスキルや好みによって選べるが、より多くの人にフィットするのは"R1"の方ではないだろうか。
パッド自体に関しては、"00"のほうが気持ち柔らかめに感じた。ただ、新モデルが新品だったのに対し、"00"が500kmほど使われていたため、色素が及ぼす影響なのか、ベースの硬さを考慮した意図的なものなのか、はたまた使用に伴うこなれ感なのかは断言できない。だが、サドル前方に関しては視覚的にも"00"の格子が細く作られていることは確認できたので、意図的なチューニングである可能性は高いと思う。
摩擦係数が高めの素材と格子状の表面形状によって、非常に優れたグリップ感を発揮するのも大きな特徴。サドルにしっかり腰を据えたペダリングが出来るのは、ADAPTIVEシリーズの隠れた長所だ。反面、前後位置を調整するために一旦荷重を抜く必要があるほどのグリップを有しているため、頻繁に座る位置を変える人には向いていないかもしれない。
"00"で提示した3Dパッドサドルのメリットを全て受け継ぎつつ、より万人受けするモデルへと進化した二つの新モデル。今のサドルがしっくりこない人、更に快適性を求める人、薄いサドルを諦めてきた人。フィジークの次世代を担う本命サドルは、そんな沼をさまよう人に垂らされた希望の糸となりそうだ。
現在、ADAPTIVEサドルの乗り心地を体験できるテストライドプログラムも実施中。全国のADAPTIVEスペシャルディーラーにて、事前に予約することで新世代のハイテクサドルを味わうことが可能だ(詳細はこちら)。
text:Naoki.Yasuoka
フィジーク ANTARES VERSUS EVO R1 ADAPTIVE
サイズ:139mm、149mm
重量:174g、180g
レール:10×7mm カーボンブレイデッドレール
シェル:カーボン強化ナイロンシェル
カラー:ブラック
価格:38,300円(税抜)
フィジーク ANTARES VERSUS EVO R3 ADAPTIVE
サイズ:139mm、149mm
重量:209g、215g
レール:7×7mm Ki:umレール
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カラー:ブラック
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