スペシャライズド・ジャパンが冬季五輪に6大会連続出場したノルディック複合界のレジェンド、渡部暁斗さんをサポート。グラベルクラシックやくらいに「CRUX」で参戦する渡部さんが、レースに向けてスペシャライズドの「Body Geometry Fit」でバイクポジションを最適化。その模様をレポートする。

スペシャライズド・ジャパンがスキー競技のノルディック複合で世界を舞台に活躍した渡部暁斗さんのサポートを発表した photo:Michinari TAKAGI
スペシャライズド・ジャパンが先日、スキー競技のノルディック複合で世界を舞台に活躍した渡部暁斗さんとサポート契約を締結したことを発表した。
スキージャンプとクロスカントリースキーの2つの競技を組み合わせて競うノルディック複合。1988年5月26日生まれ、現在38歳の渡部さんは長野県白馬村出身で、2006年のトリノオリンピックからバンクーバー、ソチ、平昌、北京、そして、2026年のミラノ・コルティナオリンピックまで、20年にわたり6大会連続出場という快挙を成し遂げた生けるレジェンドだ。

2006年のトリノオリンピックから2026年のミラノ・コルティナオリンピックまでオリンピックで6大会連続出場を果たした渡部暁斗さん (c)ファーストトラック

渡部暁斗さんはソチと平昌で銀メダルを含む計4つのメダルを獲得し、今年2月に開催されたミラノ・コルティナオリンピックに出場し、現役引退を宣言した (c)ファーストトラック
ソチと平昌での銀メダルを含む計4つのメダルを獲得し、今年2月に開催されたミラノ・コルティナオリンピックを最後に現役引退を宣言した。そして、引退後の6月から、「WATABE AKITO ENDURANCE LAB」と題したプロジェクトを始動。渡部さんはこのプロジェクトの概要、また始めた理由について以下のように説明する。
「長年、自分の限界に挑み続け、文字通り心臓を限界まで追い込む日々が私の日常でした。しかし、競技の第一線を退き、シーズンを終えた後に受けた健康診断で医師から告げられたのは、長年ハードに動かしてきた心臓は、急に運動をやめると"心臓疾患のリスク"が却って高まるという事実でした。
アスリートの肥大した心臓、いわゆる"スポーツ心臓"は、急激に負荷をゼロにすると、予期せぬトラブルを引き起こすことがあります。医師からの指摘や、実際にトラブルを経験した元選手の友人の経験談を聞くなかで、そのリスクは決して他人事ではないと痛感しました。私はこれからも、"生きるために、エンデュランススポーツを継続していかなければならない"。それが、引退後に訪れた最初の課題でした。

自身のプロジェクト「WATABE AKITO ENDURANCE LAB」について説明をする渡部暁斗さん photo:Michinari TAKAGI
しかし、単に"健康維持のためのジョギング"等を続けるのは、どうしてもモチベーションが湧きませんでした。どうせこれからも走り続けるのであれば、自分のトレーニングのプロセスが、誰かのためになる活動にしたいと考え始めたのがこのラボの原点です」
引退後の渡部さんは北野建設スキークラブのGMを務めながら、家に帰れば一人の父親でもある。限られた時間を工夫しながらやりくりし、「最大効果を引き出す」トレーニングを追求しているのだという。
「時間が限られているビジネスパーソンや子育て世代の皆さんに、『これなら自分も取り入れられるかもしれない』と思ってもらえるような、リアルなロールモデルになりたいと思っています」と、渡部さんはプロジェクトの理想を語る。

スペシャライズド CRUX 5 EXPERT スラム FORCE XPLR完成車 photo:Michinari TAKAGI
始動したプロジェクトの最初のチャレンジとして選定されたのが、8月21〜23日に宮城県加美町で開催される日本初のUCIグラベルワールドシリーズの1戦「HYSK GRAVEL CLASSIC YAKURAI 2026(グラベルクラシックやくらい)」だ。
スペシャライズドはその挑戦を全面的にバックアップ。渡部さんはグラベルレーサーの「CRUX 5 EXPERT」でグラベルクラシックやくらいに挑戦する。機材面でのサポートだけでなく、よりソフト面もスぺシャライズドはカバーする。

スペシャライズドが手掛けるフィッティングプログラム「Body Geometry Fit」 photo:Michinari TAKAGI
それがフィッティングサービスの提供だ。これまで、トレーニングの一環でロードバイクやMTBには乗ってきた渡部さんだが、グラベルバイクに乗るのははじめて。
そこで、スペシャライズドが手掛けるフィッティングプログラム「Body Geometry Fit」を受け、専門の計測機器と3Dデータを用いて、渡部さんの身体の特徴や柔軟性に合わせてCRUXのポジションをミリ単位で最適化していく。
Body Geometry Fitは事前ヒアリングからフィジカルアセスメント、動的データ計測、ポジション調整の4つのステップで、バイクポジションの最適解をミリ単位で導き出していく。フィッターはMTB競技でオリンピアンである小田島梨絵さんが務め、スペシャライズド新宿店長の柴さん、スタッフの石渡さんがバイクの微調整を行う。

Body Geometry Fitは事前ヒアリングから始まる photo:Michinari TAKAGI
Body Geometry Fitは、ライダーの「声」を聴くことから始まる。ステップ1の事前ヒアリングでは、過去の怪我やスポーツ歴、現在の月間走行距離などをカルテに記録していく。
例えば膝の痛み、手のしびれ、腰痛など、現在の問題点を徹底的に洗い出し、自転車における悩みを抽出。さらに、 「レースで勝ちたい。ロングライドでの痛みを消したい」など、ライダーの目標を共有し、目的の明確にしていく。渡部さんの目標は「グラベルクラシックやくらいで年代別の上位25%に入り、年代別世界選手権の出場権の獲得すること」だ。

坐骨幅を計測していく photo:Michinari TAKAGI

身体の柔軟性をチェックしていく photo:Michinari TAKAGI

身体の可動域を計測 photo:Michinari TAKAGI 
土踏まずのアーチの高さを確認する photo:Michinari TAKAGI
続くステップ2はフィジカルアセスメント。バイクに乗る前に、まずはライダー自身の骨格と柔軟性をチェックしていく。坐骨幅、股関節の可動域や前屈の柔軟性、左右の脚長差を測定。土踏まずのアーチの高さや、足の傾き(内反・外反)を測定し、足のアライメントを確認する。身体の特徴を知ることで、「無理のなく動かせる関節可動域の限界線」を把握する。
ステップ3は3Dモーションキャプチャーによる実走ペダリング解析を行う。専用の「Retül Move」と呼ばれるカスタムフィッティングバイクを使用する場合もあるが、今回の場合はフィッティング前のCRUXをフィードバックスポーツのローラーにセットしていく。

LEDセンサーを貼り付けていく photo:Michinari TAKAGI

実際にペダルを漕いでいる状態の動きを毎秒180フレームで捉える3Dカメラで捕捉 photo:Michinari TAKAGI
身体の主要な関節である手首、肘、肩、臀部、膝、足首、踵、母指球に8個のLEDセンサーを貼り付ける。止まった状態ではなく、実際にペダルを漕いでいる状態の動きを毎秒180フレームで捉える3Dカメラで捕捉。 左右の膝の軌道、ペダリング時の足首の角度などがリアルタイムに画面へ映し出されるため、良いポジションを理解しながらフィッティングを進めていける。
そして、最後のステップ4はポジション調整。計測データという『科学的根拠』に基づき、ミリ単位で調整しながら、ライダーに合ったポジションを煮詰めていく。

ステム長を変えられるパーツを取り付けハンドル位置を決めていく photo:Michinari TAKAGI

ショートノーズや3Dプリントなど様々なサドルを試す photo:Michinari TAKAGI 
スタッフの石渡さんがバイクの微調整を行う photo:Michinari TAKAGI
膝の曲がり角度(屈曲角)が最も効率的な範囲に収まるようミリ単位で位置を決定し、1mm単位でサドル高と前後の調整を行う。加えて、ステム長とハンドル幅、ブラケットの角度を調整し、上半身のリラックスさせられるイドポジションと空力を両立できるように調整し、最適なコクピットを選定していく。
ペダリングの土台となるのがフットウェア。そのフィット感を最適化するため、スペシャライズドが提案するBody Geometry Fitの一環として登場したバイクシューズ専用インソール「Custom Footbed(カスタムフットベッド)」を作成していく。

専用のスタンドに腰掛けて足型を取る photo:Michinari TAKAGI

未加工のフットベッドに熱を加えていく photo:Michinari TAKAGI 
ライダーの自重でフットベッドを成型し、冷却していく photo:Michinari TAKAGI
カスタムフットベッドを作成するにあたり渡部さんの足の形状や可動域を細かく測定。専用のスタンドに腰掛けて足型を取る。専用のスタンドはイスの高さを調整して、腰、ひざ、足を90度にセットし、サドル乗車時の荷重分散を再現していく。
成型トレーの足型に熱を加えた未加工のフットベッドを載せて、ライダーの自重でフットベッドを成型する。フットベッドを冷却し、シューズに入っていたインソールに合わせて余分な箇所をハサミでカットしてカスタムフットベッドは完成する。

早速、カスタムフットベッドをシューズにインストールして履いていく photo:Michinari TAKAGI

サドルやステム長を微調整しながら何度もテストを繰り返していく photo:Michinari TAKAGI
カスタムフットベッドをシューズにインストールし、クリート位置の調整やシムを導入し、膝の左右のブレをなくしていく。さらにサドル幅の変更や各種パーツを試しつつ、ハンドルリーチや落差などを細かく調整しながら、データとライダーのフィーリングの両方を確認し、最適解を探り出す。
最適なポジションが完成し、最後にそのバイクのセッティングデータを完全にデジタル化する。デジタル計測器を使い、サドル高、サドル後退幅、ハンドルへのリーチなどを正確にスキャン。計測されたすべての身体データと、確定したバイクの寸法図がライダーにメール等で納品される。新しいバイクを買い足す際や、パーツ交換時にも、このデータがあればいつでも「マイ・ベストポジション」を完璧に再現可能である。そして、Body Geometry Fitは終了した。最後に、渡部暁斗さんのインタビューを行った。

最適なポジションが完成し、フィッターの小田島さんとグータッチ photo:Michinari TAKAGI
渡部暁斗さんインタビュー
─これまでBody Geometry Fitを受けたことはありましたか?
2013年からスキートレーニングの一環でロードバイクに乗り始め、2015年ごろに野沢温泉村にあるスキーバイクショップ「COMPASS HOUSE(コンパスハウス)」でBody Geometry Fitのフィッティングを受けたことはありました。
以前、フィッティングを受けたときと比べると検査機器が大幅に進化していて驚かされましたね。当時はマーカーに有線ケーブルなど色々なものをつけて測定した記憶があるんですが、今はBluetoothで全部が繋がって、ケーブルがないんですね。そのおかげで、実際の走行に近い自然な感覚でフィッティングを受けられました。

Body Geometry Fitについてコメントをする渡部暁斗さん photo:Michinari TAKAGI
─Body Geometry Fitではカスタムフットベッドを作成しましたが、スキー競技でもカスタムインソールは作っていましたか?
スキーブーツのインソールは自分の足形に成形して作ってますね。クロスカントリースキーの板幅はロードバイクのフレームぐらいの幅で、そこに足を置くのでとても不安定なんです。ガチガチの氷だったり、そういう滑りやすいところで直進性を高めるとなると、足の裏の感覚ってすごく重要になるんですよ。足の上に体が全て乗ってるわけで、この土台がしっかりしてないと発揮できるパワーもどんどん削られていってしまう。 やっぱりこの足元っていうのは一番大事な部分で、雪とスキーと自分の体をコネクトする部分なので、インソールにはかなりこだわっていました。
今回、自転車では初めてカスタムインソールを入れましたが、その前と後で思ったより、感覚が違いました。 正直、自転車に関しては、自分の中で接地面の重要性はスキーより少ないと思ってたんです。結局触れているのはペダルの上だけだし、それを踏むだけのために踵からつま先まで全体の感覚ってそこまで必要あるのかな、と思いながら自分は漕いでいました。実際、足型をとってカスタムインソールを入れると、こんなに足の裏の感覚が踏めるようになるんだっていうのは、今日わかりましたね。今までどれだけ自分が無感覚に近い状態でペダリングしてたのかなと思いましたし、これからはより力が伝わるのかなって思うとちょっと楽しみですね。

Body Geometry Fitのフィッティングを受けた後のスペシャライズド CRUXを眺める渡部暁斗さん photo:Michinari TAKAGI
─本日はロードバイクではなく、グラベルバイクのBody Geometry Fitでした
やっぱり(グラベルバイクでも)良いポジションを出すことは大事だなと思いました。ミリ単位でこだわる必要もないのかなと思う自分もいましたが、小田島さんが「もう少し下げてみない?」とか、「もうちょっとこれやってみない?」というアドバイスを受けると、全然フィーリングが変わり驚きました。やっぱりミリ単位での調整でも、ここまで変化するのはすごい面白いです。自転車にはこだわったポジションが特に必要だいうことを改めて思いましたし、今日やってもらってよかったなと思います。
─今後の目標について教えてください。
目標はグラベルクラシックやくらいで年代別の上位25%に入り、年代別の世界選手権の出場権を獲得していくことですね。また、エンデュランスラボに参加したり、知ってくれる人をもっと増やしていきたいので、まずは自分がやくらいで結果を出したいです。でもそれだけじゃなくて、その取り組みの先に誰かの健康だったりとか、誰かのパフォーマンスアップとかに繋がっていくものだと思っています。
そして、自分もアスリートだった身として、自分が見えてない部分、自分だけではわからない部分は誰しもがあると思います。これまで気が付かなかったことに気づき、繋がっていく。色々と意見交換し合えるコミュニティとして規模を大きくしていきたいですね。それが目標です。その第一歩として、グラベルクラシックやくらいでベストを尽くしてきます!

「グラベルクラシックやくらいでベストを尽くしてきます!」 photo:Michinari TAKAGI
渡部暁斗 Chasing the CRUX エピソード 2
photo&text:Michinari TAKAGI

スペシャライズド・ジャパンが先日、スキー競技のノルディック複合で世界を舞台に活躍した渡部暁斗さんとサポート契約を締結したことを発表した。
スキージャンプとクロスカントリースキーの2つの競技を組み合わせて競うノルディック複合。1988年5月26日生まれ、現在38歳の渡部さんは長野県白馬村出身で、2006年のトリノオリンピックからバンクーバー、ソチ、平昌、北京、そして、2026年のミラノ・コルティナオリンピックまで、20年にわたり6大会連続出場という快挙を成し遂げた生けるレジェンドだ。


ソチと平昌での銀メダルを含む計4つのメダルを獲得し、今年2月に開催されたミラノ・コルティナオリンピックを最後に現役引退を宣言した。そして、引退後の6月から、「WATABE AKITO ENDURANCE LAB」と題したプロジェクトを始動。渡部さんはこのプロジェクトの概要、また始めた理由について以下のように説明する。
「長年、自分の限界に挑み続け、文字通り心臓を限界まで追い込む日々が私の日常でした。しかし、競技の第一線を退き、シーズンを終えた後に受けた健康診断で医師から告げられたのは、長年ハードに動かしてきた心臓は、急に運動をやめると"心臓疾患のリスク"が却って高まるという事実でした。
アスリートの肥大した心臓、いわゆる"スポーツ心臓"は、急激に負荷をゼロにすると、予期せぬトラブルを引き起こすことがあります。医師からの指摘や、実際にトラブルを経験した元選手の友人の経験談を聞くなかで、そのリスクは決して他人事ではないと痛感しました。私はこれからも、"生きるために、エンデュランススポーツを継続していかなければならない"。それが、引退後に訪れた最初の課題でした。

しかし、単に"健康維持のためのジョギング"等を続けるのは、どうしてもモチベーションが湧きませんでした。どうせこれからも走り続けるのであれば、自分のトレーニングのプロセスが、誰かのためになる活動にしたいと考え始めたのがこのラボの原点です」
引退後の渡部さんは北野建設スキークラブのGMを務めながら、家に帰れば一人の父親でもある。限られた時間を工夫しながらやりくりし、「最大効果を引き出す」トレーニングを追求しているのだという。
「時間が限られているビジネスパーソンや子育て世代の皆さんに、『これなら自分も取り入れられるかもしれない』と思ってもらえるような、リアルなロールモデルになりたいと思っています」と、渡部さんはプロジェクトの理想を語る。

始動したプロジェクトの最初のチャレンジとして選定されたのが、8月21〜23日に宮城県加美町で開催される日本初のUCIグラベルワールドシリーズの1戦「HYSK GRAVEL CLASSIC YAKURAI 2026(グラベルクラシックやくらい)」だ。
スペシャライズドはその挑戦を全面的にバックアップ。渡部さんはグラベルレーサーの「CRUX 5 EXPERT」でグラベルクラシックやくらいに挑戦する。機材面でのサポートだけでなく、よりソフト面もスぺシャライズドはカバーする。

それがフィッティングサービスの提供だ。これまで、トレーニングの一環でロードバイクやMTBには乗ってきた渡部さんだが、グラベルバイクに乗るのははじめて。
そこで、スペシャライズドが手掛けるフィッティングプログラム「Body Geometry Fit」を受け、専門の計測機器と3Dデータを用いて、渡部さんの身体の特徴や柔軟性に合わせてCRUXのポジションをミリ単位で最適化していく。
Body Geometry Fitは事前ヒアリングからフィジカルアセスメント、動的データ計測、ポジション調整の4つのステップで、バイクポジションの最適解をミリ単位で導き出していく。フィッターはMTB競技でオリンピアンである小田島梨絵さんが務め、スペシャライズド新宿店長の柴さん、スタッフの石渡さんがバイクの微調整を行う。

Body Geometry Fitは、ライダーの「声」を聴くことから始まる。ステップ1の事前ヒアリングでは、過去の怪我やスポーツ歴、現在の月間走行距離などをカルテに記録していく。
例えば膝の痛み、手のしびれ、腰痛など、現在の問題点を徹底的に洗い出し、自転車における悩みを抽出。さらに、 「レースで勝ちたい。ロングライドでの痛みを消したい」など、ライダーの目標を共有し、目的の明確にしていく。渡部さんの目標は「グラベルクラシックやくらいで年代別の上位25%に入り、年代別世界選手権の出場権の獲得すること」だ。




続くステップ2はフィジカルアセスメント。バイクに乗る前に、まずはライダー自身の骨格と柔軟性をチェックしていく。坐骨幅、股関節の可動域や前屈の柔軟性、左右の脚長差を測定。土踏まずのアーチの高さや、足の傾き(内反・外反)を測定し、足のアライメントを確認する。身体の特徴を知ることで、「無理のなく動かせる関節可動域の限界線」を把握する。
ステップ3は3Dモーションキャプチャーによる実走ペダリング解析を行う。専用の「Retül Move」と呼ばれるカスタムフィッティングバイクを使用する場合もあるが、今回の場合はフィッティング前のCRUXをフィードバックスポーツのローラーにセットしていく。


身体の主要な関節である手首、肘、肩、臀部、膝、足首、踵、母指球に8個のLEDセンサーを貼り付ける。止まった状態ではなく、実際にペダルを漕いでいる状態の動きを毎秒180フレームで捉える3Dカメラで捕捉。 左右の膝の軌道、ペダリング時の足首の角度などがリアルタイムに画面へ映し出されるため、良いポジションを理解しながらフィッティングを進めていける。
そして、最後のステップ4はポジション調整。計測データという『科学的根拠』に基づき、ミリ単位で調整しながら、ライダーに合ったポジションを煮詰めていく。



膝の曲がり角度(屈曲角)が最も効率的な範囲に収まるようミリ単位で位置を決定し、1mm単位でサドル高と前後の調整を行う。加えて、ステム長とハンドル幅、ブラケットの角度を調整し、上半身のリラックスさせられるイドポジションと空力を両立できるように調整し、最適なコクピットを選定していく。
ペダリングの土台となるのがフットウェア。そのフィット感を最適化するため、スペシャライズドが提案するBody Geometry Fitの一環として登場したバイクシューズ専用インソール「Custom Footbed(カスタムフットベッド)」を作成していく。



カスタムフットベッドを作成するにあたり渡部さんの足の形状や可動域を細かく測定。専用のスタンドに腰掛けて足型を取る。専用のスタンドはイスの高さを調整して、腰、ひざ、足を90度にセットし、サドル乗車時の荷重分散を再現していく。
成型トレーの足型に熱を加えた未加工のフットベッドを載せて、ライダーの自重でフットベッドを成型する。フットベッドを冷却し、シューズに入っていたインソールに合わせて余分な箇所をハサミでカットしてカスタムフットベッドは完成する。


カスタムフットベッドをシューズにインストールし、クリート位置の調整やシムを導入し、膝の左右のブレをなくしていく。さらにサドル幅の変更や各種パーツを試しつつ、ハンドルリーチや落差などを細かく調整しながら、データとライダーのフィーリングの両方を確認し、最適解を探り出す。
最適なポジションが完成し、最後にそのバイクのセッティングデータを完全にデジタル化する。デジタル計測器を使い、サドル高、サドル後退幅、ハンドルへのリーチなどを正確にスキャン。計測されたすべての身体データと、確定したバイクの寸法図がライダーにメール等で納品される。新しいバイクを買い足す際や、パーツ交換時にも、このデータがあればいつでも「マイ・ベストポジション」を完璧に再現可能である。そして、Body Geometry Fitは終了した。最後に、渡部暁斗さんのインタビューを行った。

渡部暁斗さんインタビュー
─これまでBody Geometry Fitを受けたことはありましたか?
2013年からスキートレーニングの一環でロードバイクに乗り始め、2015年ごろに野沢温泉村にあるスキーバイクショップ「COMPASS HOUSE(コンパスハウス)」でBody Geometry Fitのフィッティングを受けたことはありました。
以前、フィッティングを受けたときと比べると検査機器が大幅に進化していて驚かされましたね。当時はマーカーに有線ケーブルなど色々なものをつけて測定した記憶があるんですが、今はBluetoothで全部が繋がって、ケーブルがないんですね。そのおかげで、実際の走行に近い自然な感覚でフィッティングを受けられました。

─Body Geometry Fitではカスタムフットベッドを作成しましたが、スキー競技でもカスタムインソールは作っていましたか?
スキーブーツのインソールは自分の足形に成形して作ってますね。クロスカントリースキーの板幅はロードバイクのフレームぐらいの幅で、そこに足を置くのでとても不安定なんです。ガチガチの氷だったり、そういう滑りやすいところで直進性を高めるとなると、足の裏の感覚ってすごく重要になるんですよ。足の上に体が全て乗ってるわけで、この土台がしっかりしてないと発揮できるパワーもどんどん削られていってしまう。 やっぱりこの足元っていうのは一番大事な部分で、雪とスキーと自分の体をコネクトする部分なので、インソールにはかなりこだわっていました。
今回、自転車では初めてカスタムインソールを入れましたが、その前と後で思ったより、感覚が違いました。 正直、自転車に関しては、自分の中で接地面の重要性はスキーより少ないと思ってたんです。結局触れているのはペダルの上だけだし、それを踏むだけのために踵からつま先まで全体の感覚ってそこまで必要あるのかな、と思いながら自分は漕いでいました。実際、足型をとってカスタムインソールを入れると、こんなに足の裏の感覚が踏めるようになるんだっていうのは、今日わかりましたね。今までどれだけ自分が無感覚に近い状態でペダリングしてたのかなと思いましたし、これからはより力が伝わるのかなって思うとちょっと楽しみですね。

─本日はロードバイクではなく、グラベルバイクのBody Geometry Fitでした
やっぱり(グラベルバイクでも)良いポジションを出すことは大事だなと思いました。ミリ単位でこだわる必要もないのかなと思う自分もいましたが、小田島さんが「もう少し下げてみない?」とか、「もうちょっとこれやってみない?」というアドバイスを受けると、全然フィーリングが変わり驚きました。やっぱりミリ単位での調整でも、ここまで変化するのはすごい面白いです。自転車にはこだわったポジションが特に必要だいうことを改めて思いましたし、今日やってもらってよかったなと思います。
─今後の目標について教えてください。
目標はグラベルクラシックやくらいで年代別の上位25%に入り、年代別の世界選手権の出場権を獲得していくことですね。また、エンデュランスラボに参加したり、知ってくれる人をもっと増やしていきたいので、まずは自分がやくらいで結果を出したいです。でもそれだけじゃなくて、その取り組みの先に誰かの健康だったりとか、誰かのパフォーマンスアップとかに繋がっていくものだと思っています。
そして、自分もアスリートだった身として、自分が見えてない部分、自分だけではわからない部分は誰しもがあると思います。これまで気が付かなかったことに気づき、繋がっていく。色々と意見交換し合えるコミュニティとして規模を大きくしていきたいですね。それが目標です。その第一歩として、グラベルクラシックやくらいでベストを尽くしてきます!

渡部暁斗 Chasing the CRUX エピソード 2
photo&text:Michinari TAKAGI
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