2020/08/12(水) - 19:00
山、山、山、山、そして山。5日間全てが山頂フィニッシュという、かつてない難易度を誇るツール前哨戦が開幕した。好調プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィズマ)やエガン・ベルナル(コロンビア、チームイネオス)、タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)ら世界屈指の総合勢が集うレースをプレビューする。
1947年に第1回大会が開催され、長年地元新聞紙のドーフィネ・リベレ社によって運営されてきたクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ(UCIワールドツアー)。フランス南東部のドーフィネ地方(現在のイゼール県、ドローム県、オート=アルプ県)を舞台にするステージレースは「ミニ・ツール」と形容され、2010年からツール・ド・フランスと同じA.S.O.(アモリー・スポーツ・オルガニザシオン)が主催したことで、より一層ツール前哨戦としての重要度が高まった。
実際に2012年と2013年、2015年、2016年、2018年はこのドーフィネの総合優勝者がツールの総合優勝に輝いており、マイヨジョーヌ争いを占う最高のリハーサルの場となる。昨年は終盤の超級山岳で粘ったヤコブ・フルサン(デンマーク、アスタナ)が総合優勝に輝いた(今年は不参加)。
2020年大会は新型コロナウイルスの感染拡大によってツールと共に暗雲立ち込めたものの、様々な感染防止策を講じた上、過密スケジュールを踏まえて5日間スケジュールに短縮した上で開催にこぎつけた。しかし「短縮」というマイナスイメージを覆すかのごとく、主催者は大会史上かつてない難関山岳コースを用意した。
今年のドーフィネにはプロローグや個人タイムトライアル、そして平坦ステージは一切無く、5日間全てに山頂フィニッシュが用意される。クレルモン・フェランをスタートする初日だけは登坂力を備えるパンチャーにも可能性があるが、それ以外はピュアクライマー向けの1級または超級山岳フィニッシュ。タイムトライアルの無いドーフィネは1947年以降合計72回の歴史の中で初めてだ。
かつてない厳しいコースレイアウトは1975年、1977年のツール総合覇者ベルナール・テブネ氏のアイディアを形にしたもの。最も難易度が低いとされる初日ですら今大会最長距離の238.5kmの中に合計7箇所のカテゴリー山岳が散りばめられ、獲得標高は3700mにものぼる。大会最初のマイヨジョーヌはミラノ〜サンレモ2位に入ったジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)のような、スプリント力を備えるクライマーに渡るはずだ。
2日目からは怒涛のように難関山岳が現れる。第2ステージは132.5kmで獲得票高2800mと数字こそ派手ではないものの、最後に現れる超級山岳ポルト峠(登坂距離16.6km/平均勾配6.2%)はまさにピュアクライマーのフィールド。ところどころ10〜12%に達する、この地方で最高レベルに難易度の高い峠の序盤から各チームによるふるい落としが行われるはずだ。
ステージ後半にツール25回登場の名峰マドレーヌ峠(距離17.3km/平均8.3%)を越え、1級サン・マルタン・ド・ベルヴィル(距離14.8km/平均6%)を目指す第3ステージは、最終山岳を除く140km地点まではツール第17ステージと同じルートをなぞる。翌第4ステージは序盤から1級山岳を立て続けに2つクリアし、後半に超級モンテ・ド・ビザンヌ(距離12.7km/平均7.7%)を超えてから2級山岳に設定されたムジェーヴの山岳飛行場(距離7.5km/平均4.9%)に上り詰める総獲得標高4700mのクイーンステージだ。
最終日も難易度が下がることは一切無い。約150kmのコースにはカテゴリー山岳が8つも詰め込まれ、距離半分にも満たないうちに超級ロム峠(距離9km/平均8.9%)と1級コロンビエール(距離7.4km/平均8.5%)をクリア。さらに10km以上ある2級山岳と4級山岳、さらに2級山岳2箇所を越えて第4ステージと同じ飛行場(距離7.5km/平均4.9%)でようやく登りっぱなしの大会がフィニッシュする。5日間の総獲得標高はなんと18500mだ。
最注目はチームイネオスvsユンボ・ヴィズマ
ステージが豪華なら出場メンバーも恐ろしく豪華。先週末閉幕したツール・ド・ランで一騎打ちを繰り広げたチームイネオスとユンボ・ヴィズマの再戦が何といっても注目だ。
イネオスはエガン・ベルナル(コロンビア)、ゲラント・トーマス(イギリス)、そしてクリストファー・フルーム(イギリス)のツール総合計6勝メンバーを、対するユンボはラン総合優勝のプリモシュ・ログリッチ(スロベニア)を筆頭に、名アシストぶりを披露したトム・デュムラン(オランダ)と、ステフェン・クライスヴァイク(オランダ)を再びラインナップ。チーム力でやや不安要素を残したイネオスはミハウ・クフィアトコフスキ(ポーランド)とパヴェル・シヴァコフ(ロシア)をメンバー入りさせており、一方ユンボはジョージ・ベネット(ニュージーランド)が外れた。戦力は拮抗していると言って良い。
昨年ツールで大成功を収めたアラフィリップはミラノ〜サンレモのリベンジなるか。アルケア・サムシックは移籍初年度のナイロ・キンタナ(コロンビア)を筆頭にウィネル・アナコナ(コロンビア)とワレン・バルギル(フランス)を従えた過去最強チームで臨むほか、スロベニアナショナル選手権でログリッチと渡り合ったタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)はダヴィデ・フォルモロ(イタリア)を伴って初ツール参戦に向けて意欲を見せる。
ティボー・ピノ(グルパマFDJ)やロマン・バルデ(AG2Rラモンディアール)、ギヨーム・マルタン(コフィディス・ソルシオンクレディ)、ピエール・ロラン(B&Bホテルズ・ヴィタルコンセプト)らフランス勢は13日後に迫る母国最大のレースに向けて好感触を掴んでおきたいところ。リゴベルト・ウラン&セルジオ・イギータ&ダニエル・マルティネスのEFプロサイクリングコンビやミゲルアンヘル・ロペス(アスタナ)などベルナル以外のコロンビア勢も注目だ。
他にもアレハンドロ・バルベルデとエンリク・マス、マルク・ソレルのモビスタートリオに、アダム・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)、リッチー・ポート(オーストラリア、トレック・セガフレード)、ミケル・ランダ(スペイン、バーレーン・マクラーレン)。ダン・マーティン(アイルランド、イスラエル・スタートアップネイション)、エマヌエル・ブッフマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)など、ツール本戦を見据えた超豪華メンバーが過去例のないドーフィネでしのぎを削る。
text:So.Isobe
1947年に第1回大会が開催され、長年地元新聞紙のドーフィネ・リベレ社によって運営されてきたクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ(UCIワールドツアー)。フランス南東部のドーフィネ地方(現在のイゼール県、ドローム県、オート=アルプ県)を舞台にするステージレースは「ミニ・ツール」と形容され、2010年からツール・ド・フランスと同じA.S.O.(アモリー・スポーツ・オルガニザシオン)が主催したことで、より一層ツール前哨戦としての重要度が高まった。
実際に2012年と2013年、2015年、2016年、2018年はこのドーフィネの総合優勝者がツールの総合優勝に輝いており、マイヨジョーヌ争いを占う最高のリハーサルの場となる。昨年は終盤の超級山岳で粘ったヤコブ・フルサン(デンマーク、アスタナ)が総合優勝に輝いた(今年は不参加)。
2020年大会は新型コロナウイルスの感染拡大によってツールと共に暗雲立ち込めたものの、様々な感染防止策を講じた上、過密スケジュールを踏まえて5日間スケジュールに短縮した上で開催にこぎつけた。しかし「短縮」というマイナスイメージを覆すかのごとく、主催者は大会史上かつてない難関山岳コースを用意した。
今年のドーフィネにはプロローグや個人タイムトライアル、そして平坦ステージは一切無く、5日間全てに山頂フィニッシュが用意される。クレルモン・フェランをスタートする初日だけは登坂力を備えるパンチャーにも可能性があるが、それ以外はピュアクライマー向けの1級または超級山岳フィニッシュ。タイムトライアルの無いドーフィネは1947年以降合計72回の歴史の中で初めてだ。
かつてない厳しいコースレイアウトは1975年、1977年のツール総合覇者ベルナール・テブネ氏のアイディアを形にしたもの。最も難易度が低いとされる初日ですら今大会最長距離の238.5kmの中に合計7箇所のカテゴリー山岳が散りばめられ、獲得標高は3700mにものぼる。大会最初のマイヨジョーヌはミラノ〜サンレモ2位に入ったジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)のような、スプリント力を備えるクライマーに渡るはずだ。
2日目からは怒涛のように難関山岳が現れる。第2ステージは132.5kmで獲得票高2800mと数字こそ派手ではないものの、最後に現れる超級山岳ポルト峠(登坂距離16.6km/平均勾配6.2%)はまさにピュアクライマーのフィールド。ところどころ10〜12%に達する、この地方で最高レベルに難易度の高い峠の序盤から各チームによるふるい落としが行われるはずだ。
ステージ後半にツール25回登場の名峰マドレーヌ峠(距離17.3km/平均8.3%)を越え、1級サン・マルタン・ド・ベルヴィル(距離14.8km/平均6%)を目指す第3ステージは、最終山岳を除く140km地点まではツール第17ステージと同じルートをなぞる。翌第4ステージは序盤から1級山岳を立て続けに2つクリアし、後半に超級モンテ・ド・ビザンヌ(距離12.7km/平均7.7%)を超えてから2級山岳に設定されたムジェーヴの山岳飛行場(距離7.5km/平均4.9%)に上り詰める総獲得標高4700mのクイーンステージだ。
最終日も難易度が下がることは一切無い。約150kmのコースにはカテゴリー山岳が8つも詰め込まれ、距離半分にも満たないうちに超級ロム峠(距離9km/平均8.9%)と1級コロンビエール(距離7.4km/平均8.5%)をクリア。さらに10km以上ある2級山岳と4級山岳、さらに2級山岳2箇所を越えて第4ステージと同じ飛行場(距離7.5km/平均4.9%)でようやく登りっぱなしの大会がフィニッシュする。5日間の総獲得標高はなんと18500mだ。
最注目はチームイネオスvsユンボ・ヴィズマ
ステージが豪華なら出場メンバーも恐ろしく豪華。先週末閉幕したツール・ド・ランで一騎打ちを繰り広げたチームイネオスとユンボ・ヴィズマの再戦が何といっても注目だ。
イネオスはエガン・ベルナル(コロンビア)、ゲラント・トーマス(イギリス)、そしてクリストファー・フルーム(イギリス)のツール総合計6勝メンバーを、対するユンボはラン総合優勝のプリモシュ・ログリッチ(スロベニア)を筆頭に、名アシストぶりを披露したトム・デュムラン(オランダ)と、ステフェン・クライスヴァイク(オランダ)を再びラインナップ。チーム力でやや不安要素を残したイネオスはミハウ・クフィアトコフスキ(ポーランド)とパヴェル・シヴァコフ(ロシア)をメンバー入りさせており、一方ユンボはジョージ・ベネット(ニュージーランド)が外れた。戦力は拮抗していると言って良い。
昨年ツールで大成功を収めたアラフィリップはミラノ〜サンレモのリベンジなるか。アルケア・サムシックは移籍初年度のナイロ・キンタナ(コロンビア)を筆頭にウィネル・アナコナ(コロンビア)とワレン・バルギル(フランス)を従えた過去最強チームで臨むほか、スロベニアナショナル選手権でログリッチと渡り合ったタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)はダヴィデ・フォルモロ(イタリア)を伴って初ツール参戦に向けて意欲を見せる。
ティボー・ピノ(グルパマFDJ)やロマン・バルデ(AG2Rラモンディアール)、ギヨーム・マルタン(コフィディス・ソルシオンクレディ)、ピエール・ロラン(B&Bホテルズ・ヴィタルコンセプト)らフランス勢は13日後に迫る母国最大のレースに向けて好感触を掴んでおきたいところ。リゴベルト・ウラン&セルジオ・イギータ&ダニエル・マルティネスのEFプロサイクリングコンビやミゲルアンヘル・ロペス(アスタナ)などベルナル以外のコロンビア勢も注目だ。
他にもアレハンドロ・バルベルデとエンリク・マス、マルク・ソレルのモビスタートリオに、アダム・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)、リッチー・ポート(オーストラリア、トレック・セガフレード)、ミケル・ランダ(スペイン、バーレーン・マクラーレン)。ダン・マーティン(アイルランド、イスラエル・スタートアップネイション)、エマヌエル・ブッフマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)など、ツール本戦を見据えた超豪華メンバーが過去例のないドーフィネでしのぎを削る。
text:So.Isobe
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