2020/08/02(日) - 16:46
イタリアの老舗レーシングブランド、ウィリエールより「Cento1AIR Disc」をインプレッション。イタリアらしい有機的なデザインと最先端のスペックを融合させたミドルグレードエアロロードの実力に迫る。
1906年創業と、100年を越える長い歴史を有するウィリエール。少し年季の入ったロードレースファンにとっては、かのマルコ・パンターニによるラルプ・デュエズ最速登坂記録を支えたイエローのバイクが印象的なブランドではないだろうか。
ウィリエールのレースへの熱意は2020年シーズンでも衰えることを知らず、今季はアスタナへバイクサポートを行っており、8年ぶりにワールドツアーの舞台に帰ってきたことでも話題を呼んだ。ヤコブ・フルサング(デンマーク)をはじめとした有力選手らの走りを、アスタナブルーに彩られたウィリエールのバイクが支えている。
そんなウィリエールのレーシングモデルとして、10年以上受け継がれてきたのがCentoシリーズだ。イタリア語で"100"を意味する通り、創業100周年を記念するモデルとしてデビューして以来、Cento1、Cento10とモデルチェンジを経つつもその名前を残してきた。
トップレーサー向けのCento10シリーズに対し、今回インプレッションを行った「Cento1AIR Disc」はより幅広いレベルのライダーにマッチしたミドルレンジのエアロロードだ。今年は新しくディスクブレーキモデルを追加しており、時代の流れに沿ったラインアップ拡充をしている。
Cento1AIRの最も大きな特徴は艶めかしい曲線美溢れるエアロチュービングだろう。現在ウィリエールエアロロードのハイエンドとなるCento10PROとは、一見すると非常に似通ったフォルムを持っているが、細部を見ていくと受ける印象はかなり異なる。
ステルス機を思わせる直線的なデザインのCento10PROに対し、Cento1AIRはトップチューブやシートステーの付け根などに曲線的なディテールを取り入れ、より柔軟かつしなやかな印象を与えるデザインとなっている。
その印象は決してルックスだけで終わるものではないとウィリエールは主張する。同社のTTバイク"Twin Blade"から受け継いだ翼断面形状のチュービングを採用しつつも、エアロロードにありがちな硬い乗り味ではなく、ロングライドモデルに匹敵する快適性を実現しているという。
一方で、フレームのメイン素材には各社のハイエンドバイクにも使われる60トンカーボンを使用していることもCento1AIRの特徴だ。ミドルグレードではあるものの緻密な剛性バランスの調整を施すことで、ベースとなったリムブレーキモデルの特徴を失わず、Cento1AIRらしいライドフィーリングへと最適化されているという。フレーム約1,200g、フォーク約390gと重量面こそ標準的だが、エアロレーサーとして優れた走行性能を実現している。
今回インプレッションしたのは、シマノULTEGRAで組み上げたテストバイク。イタリアンブランドらしい官能的なフレームワークと最新のマテリアルテクノロジーを駆使することで、クラスを越えた存在感と走行性能を放つCento1AIR DISCをインプレッションライダーはどう見るのか。
― インプレッション
「相反する要素を高次元でバランスする扱いやすい一台」藤野智一(なるしまフレンド)
このバイク、本当にミドルグレードなんですか?(笑)パーツアセンブルを見るとそうなんでしょうけど、フレーム単体で見ればトップモデルに通ずるものを感じました。今回のテストバイクは、アルミのエントリーグレードのホイールとの組み合わせだったのですが、その分を考慮に入れずとも良く走る。
これだけヘビー級のホイールがついていると、登りだとどうしても重さが目立つはずなのですが、そういったネガティブな印象がほぼ無いんです。自分がクランクを回す力が、効率的に推進力へと変換されているのがわかります。フレームのしなりが非常に上手い塩梅にチューニングされているのでしょう。
端的に言えば、非常に乗りやすいバイクなんです。とにかく乗り心地が滑らかで、速度の乗りが良い。振動吸収性も素晴らしいのですが、決して柔らかいバイクというわけではないんですよね。スムーズにペダルを回せ、ハンガー下がりが小さいような加速フィーリングです。一方で高速域での伸びも良いですし、巡航性能も申し分ない。相反する要素をどれも高次元でバランスしている。
もともと、ウィリエールのCento1と言えばハイエンドモデルでしたよね。今はミドルグレードという位置付けになっているとしても、決して名前だけが残されているのではなく、しっかりとそのモデル名に相応しい性能を与えられているのだと思えば、納得できる性能です。
エアロロードという位置付けですが、ワイヤリングも外装ですし最新のエアロモデルに比べると空力性能といった面では大きなアドバンテージがあるとは思いません。ですが、全体的な走行性能で言えば全く引けを取らないバイクに仕上がっていると感じます。
ホイールを交換すれば、ワンランク上の性能を楽しめると思います。登りを含めたオールラウンドに使うのであれば軽量なアルミリム、もしくは30mmハイトのカーボンリム。平坦での伸びに重点を置くなら40mmハイト以上のディープリムを組み合わせれば、スプリントも期待できるでしょう。かなり安定志向のハンドリングですのでトライアスロンにも向いているのではないでしょうか。短いレースであればDHバーを装着したこのバイクに不満が出ることは無いと思います。
「高バランスで懐が深い一台。エアロロードデビューにピッタリ」川原建太郎(ワイズロード東大和)
一見したところ、いかにもエアロロードらしいフォルムを持ったバイクなのですが、実際に乗ってみると、とてもバランスが良くて癖が無い。いい意味で予想を裏切られました。BB周辺もかなりボリューム感のあるルックスなのですが、実のところは硬すぎない剛性感で、高回転でも進むしトルクを掛けてジワっと踏んでいくのも気持ちいい。
言い換えると、守備範囲が広いバイクですね。エアロロードはスイートスポットが狭めのモデルが多いですが、このバイクは懐が深い。そこまで脚力に自信が無い人でも十分乗りこなせますし、僕のように体重があるパワー系のライダーでも満足できます。初めてのエアロロードとしても安心できるのではないでしょうか。
ジオメトリーもナチュラルな印象で、ポジションを作りやすそうです。ヘッドチューブは標準的な数値なので、いろんな体型の人に合わせやすい。エアロロードらしくシートアングルは立ち気味で、エアロポジションで踏んでいったときの気持ちよさは、流石といったところでしょうか。
一見、重心が高そうに見えるんですが、安定感はかなり強めで、トラクションが掛けやすい。粗いカラータイルのような、ガタガタだけど滑り易いような路面でも、しっかり地面を捉えてくれます。そういう意味では、ちょっとしたグラベルなんかも走れるくらいオールラウンドなバイクですね。
どんどんとパーツのインテグレート化が進んでいて、特にエアロロードはその流れが強い中で、ハンドル回りが汎用品を使えるというのも好印象です。初めてエアロロードに乗る人にとって、何よりも重要なのがポジションです。しっかりとポジションが出ていなければ、車体のエアロ効果がいかに優れていても意味がありませんから。
ポジションがしっかり決まっている上級者であれば、専用ハンドルやステムのメリットは大きいと思いますが、このバイクはもっと間口の広いモデルだと思いますので、この仕様は正解でしょう。
総じて、エアロロードの楽しい部分をしっかりと残しつつ、ライダーに負担をかけることはありません。踏み方を強制されるようなことも無く、気張らずに乗りこなせる。神経質なところの一切無い、懐の深さが魅力です。
ウィリエール Cento1AIR Disc
フレーム:60Tカーボン、メカニカル/Di2兼用、フラットマウント
BB:プレスフィット86
カラー:マットブラック、レッド
サイズ:XS、S、M、L
重量:フレーム約1200g、フォーク約390g
価格:
フレームセット 320,000円(税抜)
シマノ105+WH-RS170 395,000円(税抜)
シマノULTEGRA+WH-RS170 510,000円(税抜)
インプレッションライダーのプロフィール
藤野智一(なるしまフレンド)
92年のバルセロナ五輪ロードレースでの21位を皮切りに、94/97年にツール・ド・おきなわ優勝、98/99年は2年連続で全日本選手権優勝など輝かしい戦歴を持つ。引退してからはチームブリヂストンアンカーで若手育成に取り組み同チームの監督を務めた。2012年より出身チームのなるしまフレンドに勤務し店長を務める。ブリヂストン時代にはフレームやタイヤの開発ライダーも務め、機材に対して非常に繊細な感覚を持つ。
なるしまフレンド
CWレコメンドショップページ
川原建太郎(ワイズロード東大和)
ワイズロード東大和店の副店長であり、同社実業団チームのキャプテンも務める。JBCFのE1クラスで走っていた経験を持つ実力派スタッフで、速く走りたいというホビーレーサーへのアドバイスを得意とする。バイオレーサー1級の資格を持ち、ライダーのパフォーマンスを引き出すフィッティングに定評がある。東大和店はワイズロードの中でも関東最大級の店舗で、各ジャンルに精通したスタッフと豊富な品揃えが特徴だ。
ワイズロード東大和
CWレコメンドショップページ
ウェア協力:カステリ
text:Naoki.Yasuoka
photo:Makoto.AYANO
1906年創業と、100年を越える長い歴史を有するウィリエール。少し年季の入ったロードレースファンにとっては、かのマルコ・パンターニによるラルプ・デュエズ最速登坂記録を支えたイエローのバイクが印象的なブランドではないだろうか。
ウィリエールのレースへの熱意は2020年シーズンでも衰えることを知らず、今季はアスタナへバイクサポートを行っており、8年ぶりにワールドツアーの舞台に帰ってきたことでも話題を呼んだ。ヤコブ・フルサング(デンマーク)をはじめとした有力選手らの走りを、アスタナブルーに彩られたウィリエールのバイクが支えている。
そんなウィリエールのレーシングモデルとして、10年以上受け継がれてきたのがCentoシリーズだ。イタリア語で"100"を意味する通り、創業100周年を記念するモデルとしてデビューして以来、Cento1、Cento10とモデルチェンジを経つつもその名前を残してきた。
トップレーサー向けのCento10シリーズに対し、今回インプレッションを行った「Cento1AIR Disc」はより幅広いレベルのライダーにマッチしたミドルレンジのエアロロードだ。今年は新しくディスクブレーキモデルを追加しており、時代の流れに沿ったラインアップ拡充をしている。
Cento1AIRの最も大きな特徴は艶めかしい曲線美溢れるエアロチュービングだろう。現在ウィリエールエアロロードのハイエンドとなるCento10PROとは、一見すると非常に似通ったフォルムを持っているが、細部を見ていくと受ける印象はかなり異なる。
ステルス機を思わせる直線的なデザインのCento10PROに対し、Cento1AIRはトップチューブやシートステーの付け根などに曲線的なディテールを取り入れ、より柔軟かつしなやかな印象を与えるデザインとなっている。
その印象は決してルックスだけで終わるものではないとウィリエールは主張する。同社のTTバイク"Twin Blade"から受け継いだ翼断面形状のチュービングを採用しつつも、エアロロードにありがちな硬い乗り味ではなく、ロングライドモデルに匹敵する快適性を実現しているという。
一方で、フレームのメイン素材には各社のハイエンドバイクにも使われる60トンカーボンを使用していることもCento1AIRの特徴だ。ミドルグレードではあるものの緻密な剛性バランスの調整を施すことで、ベースとなったリムブレーキモデルの特徴を失わず、Cento1AIRらしいライドフィーリングへと最適化されているという。フレーム約1,200g、フォーク約390gと重量面こそ標準的だが、エアロレーサーとして優れた走行性能を実現している。
今回インプレッションしたのは、シマノULTEGRAで組み上げたテストバイク。イタリアンブランドらしい官能的なフレームワークと最新のマテリアルテクノロジーを駆使することで、クラスを越えた存在感と走行性能を放つCento1AIR DISCをインプレッションライダーはどう見るのか。
― インプレッション
「相反する要素を高次元でバランスする扱いやすい一台」藤野智一(なるしまフレンド)
このバイク、本当にミドルグレードなんですか?(笑)パーツアセンブルを見るとそうなんでしょうけど、フレーム単体で見ればトップモデルに通ずるものを感じました。今回のテストバイクは、アルミのエントリーグレードのホイールとの組み合わせだったのですが、その分を考慮に入れずとも良く走る。
これだけヘビー級のホイールがついていると、登りだとどうしても重さが目立つはずなのですが、そういったネガティブな印象がほぼ無いんです。自分がクランクを回す力が、効率的に推進力へと変換されているのがわかります。フレームのしなりが非常に上手い塩梅にチューニングされているのでしょう。
端的に言えば、非常に乗りやすいバイクなんです。とにかく乗り心地が滑らかで、速度の乗りが良い。振動吸収性も素晴らしいのですが、決して柔らかいバイクというわけではないんですよね。スムーズにペダルを回せ、ハンガー下がりが小さいような加速フィーリングです。一方で高速域での伸びも良いですし、巡航性能も申し分ない。相反する要素をどれも高次元でバランスしている。
もともと、ウィリエールのCento1と言えばハイエンドモデルでしたよね。今はミドルグレードという位置付けになっているとしても、決して名前だけが残されているのではなく、しっかりとそのモデル名に相応しい性能を与えられているのだと思えば、納得できる性能です。
エアロロードという位置付けですが、ワイヤリングも外装ですし最新のエアロモデルに比べると空力性能といった面では大きなアドバンテージがあるとは思いません。ですが、全体的な走行性能で言えば全く引けを取らないバイクに仕上がっていると感じます。
ホイールを交換すれば、ワンランク上の性能を楽しめると思います。登りを含めたオールラウンドに使うのであれば軽量なアルミリム、もしくは30mmハイトのカーボンリム。平坦での伸びに重点を置くなら40mmハイト以上のディープリムを組み合わせれば、スプリントも期待できるでしょう。かなり安定志向のハンドリングですのでトライアスロンにも向いているのではないでしょうか。短いレースであればDHバーを装着したこのバイクに不満が出ることは無いと思います。
「高バランスで懐が深い一台。エアロロードデビューにピッタリ」川原建太郎(ワイズロード東大和)
一見したところ、いかにもエアロロードらしいフォルムを持ったバイクなのですが、実際に乗ってみると、とてもバランスが良くて癖が無い。いい意味で予想を裏切られました。BB周辺もかなりボリューム感のあるルックスなのですが、実のところは硬すぎない剛性感で、高回転でも進むしトルクを掛けてジワっと踏んでいくのも気持ちいい。
言い換えると、守備範囲が広いバイクですね。エアロロードはスイートスポットが狭めのモデルが多いですが、このバイクは懐が深い。そこまで脚力に自信が無い人でも十分乗りこなせますし、僕のように体重があるパワー系のライダーでも満足できます。初めてのエアロロードとしても安心できるのではないでしょうか。
ジオメトリーもナチュラルな印象で、ポジションを作りやすそうです。ヘッドチューブは標準的な数値なので、いろんな体型の人に合わせやすい。エアロロードらしくシートアングルは立ち気味で、エアロポジションで踏んでいったときの気持ちよさは、流石といったところでしょうか。
一見、重心が高そうに見えるんですが、安定感はかなり強めで、トラクションが掛けやすい。粗いカラータイルのような、ガタガタだけど滑り易いような路面でも、しっかり地面を捉えてくれます。そういう意味では、ちょっとしたグラベルなんかも走れるくらいオールラウンドなバイクですね。
どんどんとパーツのインテグレート化が進んでいて、特にエアロロードはその流れが強い中で、ハンドル回りが汎用品を使えるというのも好印象です。初めてエアロロードに乗る人にとって、何よりも重要なのがポジションです。しっかりとポジションが出ていなければ、車体のエアロ効果がいかに優れていても意味がありませんから。
ポジションがしっかり決まっている上級者であれば、専用ハンドルやステムのメリットは大きいと思いますが、このバイクはもっと間口の広いモデルだと思いますので、この仕様は正解でしょう。
総じて、エアロロードの楽しい部分をしっかりと残しつつ、ライダーに負担をかけることはありません。踏み方を強制されるようなことも無く、気張らずに乗りこなせる。神経質なところの一切無い、懐の深さが魅力です。
ウィリエール Cento1AIR Disc
フレーム:60Tカーボン、メカニカル/Di2兼用、フラットマウント
BB:プレスフィット86
カラー:マットブラック、レッド
サイズ:XS、S、M、L
重量:フレーム約1200g、フォーク約390g
価格:
フレームセット 320,000円(税抜)
シマノ105+WH-RS170 395,000円(税抜)
シマノULTEGRA+WH-RS170 510,000円(税抜)
インプレッションライダーのプロフィール
藤野智一(なるしまフレンド)
92年のバルセロナ五輪ロードレースでの21位を皮切りに、94/97年にツール・ド・おきなわ優勝、98/99年は2年連続で全日本選手権優勝など輝かしい戦歴を持つ。引退してからはチームブリヂストンアンカーで若手育成に取り組み同チームの監督を務めた。2012年より出身チームのなるしまフレンドに勤務し店長を務める。ブリヂストン時代にはフレームやタイヤの開発ライダーも務め、機材に対して非常に繊細な感覚を持つ。
なるしまフレンド
CWレコメンドショップページ
川原建太郎(ワイズロード東大和)
ワイズロード東大和店の副店長であり、同社実業団チームのキャプテンも務める。JBCFのE1クラスで走っていた経験を持つ実力派スタッフで、速く走りたいというホビーレーサーへのアドバイスを得意とする。バイオレーサー1級の資格を持ち、ライダーのパフォーマンスを引き出すフィッティングに定評がある。東大和店はワイズロードの中でも関東最大級の店舗で、各ジャンルに精通したスタッフと豊富な品揃えが特徴だ。
ワイズロード東大和
CWレコメンドショップページ
ウェア協力:カステリ
text:Naoki.Yasuoka
photo:Makoto.AYANO
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