イタリアのシーズンを締めくくる「落ち葉のクラシック」ことイル・ロンバルディアで、残り19kmを独走したバウケ・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード)が自身初のモニュメント制覇を達成した。モレマは翌週のジャパンカップに出場予定だ。


秋晴れのコモ湖沿いを走る選手たち秋晴れのコモ湖沿いを走る選手たち photo:RCS Sport
イル・ロンバルディア2019イル・ロンバルディア2019 photo:RCS Sportイル・ロンバルディア2019イル・ロンバルディア2019 photo:RCS Sport

1905年に第1回大会が開催され、今年で開催113回目を迎えるイル・ロンバルディア(元ジロ・ディ・ロンバルディア)。ミラノ〜サンレモ(1907年〜)、ロンド・ファン・フラーンデレン(1913年〜)、パリ〜ルーベ(1896年〜)、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ(1892年〜)と並んで「モニュメント(世界五大クラシック)」と称される伝統の一戦だ。例年決まって秋に開催されることから、イタリア国内では「落ち葉のクラシック(クラッシカ・デッレ・フォリエ・モルテ)」と呼び親しまれている。

中国のツアー・オブ・広西が開催を控えているためUCIワールドツアー最終戦ではないが、翌日の10月13日にフランスで開催されるパリ〜トゥール(UCI1.HC)とともにヨーロッパのシーズン最終戦だと言っていい。ロード世界選手権後、イタリアで2週間にわたって開催されてきたワンデークラシック連戦を締めくくる大一番。レースの舞台となるのはレース名の通りイタリア北部のロンバルディア州で、2019年大会はベルガモをスタートし、山岳地帯を経てコモに至る243kmコースが用意された。合計6つの主要峠が組み込まれており、数あるクラシックレースの中で最も登坂力を要求するレースとして知られている。

晴れ時々曇り、気温17〜19度。獲得標高差が3,600mを超える山岳レースはダヴィデ・バッレリーニ(イタリア、アスタナ)とチェザーレ・ベネデッティ(イタリア、ボーラ・ハンスグローエ)によるファーストアタックでスタート。ここにレミ・カヴァニャ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)やトムス・スクインシュ(ラトビア、トレック・セガフレード)らが追いつき、8名による先頭グループが形成された。

最大タイム差5分40秒でロンバルディア平原を駆け抜けた逃げグループがリードを失いながらコモ湖のある湖水地方へと入っていく。例年レースが動き始めるマドンナ・デル・ギザッロ(登坂距離8.6km/平均勾配6.2%/最大勾配14%)で逃げグループは崩壊。独走に持ち込んでギザッロ教会前を先頭通過したファウスト・マスナダ(イタリア、アンドローニジョカトリ・シデルメク)には特別賞が与えられている。

先頭から2分25秒遅れでギザッロ教会を通過したメイン集団は、ユンボ・ヴィズマやチームイネオス、EFエデュケーションファーストに導かれる形で次のムーロ・ディ・ソルマーノ(登坂距離1.9km/平均勾配15.8%/最大勾配27%)へ。カウンターアタックを仕掛けたボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク、ドゥクーニンク・クイックステップ)は引き戻され、ソルマーノの急勾配区間を前に逃げメンバーは全員吸収された。

コモ湖沿いのワインディングを走るメイン集団コモ湖沿いのワインディングを走るメイン集団 photo:RCS Sport
マドンナ・デル・ギザッロを先頭通過するファウスト・マスナダ(イタリア、アンドローニジョカトリ・シデルメク)マドンナ・デル・ギザッロを先頭通過するファウスト・マスナダ(イタリア、アンドローニジョカトリ・シデルメク) photo:RCS Sport
最大勾配27%のムーロ・ディ・ソルマーノをよじ登る最大勾配27%のムーロ・ディ・ソルマーノをよじ登る photo:RCS Sport
最大勾配が27%に達し、トップ選手であってもスピードが10km/hを切る激坂ソルマーノでセップ・クス(アメリカ、ユンボ・ヴィズマ)やイバン・ソーサ(コロンビア、チームイネオス)、ジュリオ・チッコーネ(イタリア、トレック・セガフレード)、ラファル・マイカ(ポーランド、ボーラ・ハンスグローエ)らがペースアップ。これらのサブエース級選手が少し先行した状態で激坂ソルマーノを越えたが、下り区間でメイン集団は一つにまとまった。

コモ湖に向かうダイナミックなダウンヒルでメイン集団は35名ほどに人数を増やし、隊列が一列になるコモ湖沿いのワインディングをハイスピードでこなす。平坦区間で飛び出して30秒のリードを得たティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・スーダル)とエマヌエル・ブッフマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)の2人を、ユンボ・ヴィズマのアシスト陣率いるメイン集団が追いかける展開でチヴィリオ(登坂距離4.2km/平均勾配9.7%/最大勾配14%)の登りに突入した。

フィニッシュまで17kmを残したこのチヴィリオの麓で、前走者が捨てたボトルを踏んだヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、バーレーン・メリダ)がバランスを崩してしまう。落車を免れたものの、先頭でルーベン・フェルナンデス(スペイン、モビスター)がペースを上げるメイン集団にニバリは復帰できず。2015年と2017年のロンバルディア覇者ニバリがここで戦線を離脱した。

先行していたブッフマンとウェレンスをチヴィリオの登りで捉えたメイン集団では、3日前のミラノ〜トリノでレースを掻き回したダヴィ・ゴデュ(フランス、グルパマFDJ)やマイケル・ウッズ(カナダ、EFエデュケーションファースト)、そしてアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)がアタックを仕掛ける。チヴィリオ頂上まで3kmほどを残してバルベルデが先頭に立ったものの、ブエルタ・ア・エスパーニャで総合争いを繰り広げたプリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、ユンボ・ヴィズマ)がこの動きを封じる。

すると、チヴィリオ頂上まで2kmを切ったところでバウケ・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード)がアタック。集団内にチッコーネを残して飛び出したモレマが、牽制するライバルたちから一気に20秒のリードを得た。単独追走を仕掛けたピエール・ラトゥール(フランス、アージェードゥーゼール)を振り切って、モレマがメイン集団に25秒差をつけてチヴィリオ頂上を越えた。

チヴィリオでアタックを仕掛けたバウケ・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード)チヴィリオでアタックを仕掛けたバウケ・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード) photo:RCS Sport
モレマの後ろで牽制し合うアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)やプリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、ユンボ・ヴィズマ)モレマの後ろで牽制し合うアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)やプリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、ユンボ・ヴィズマ) photo:RCS Sport
サンフェルモ・デッラ・バッターリアでアタックするマイケル・ウッズ(カナダ、EFエデュケーションファースト)サンフェルモ・デッラ・バッターリアでアタックするマイケル・ウッズ(カナダ、EFエデュケーションファースト) photo:RCS Sport
アシストが脱落し、エースだけで構成された10名弱のメイン集団はローテーションが回らずペースが上がらない。タイム差45秒で残り10kmアーチを通過すると、牽制するメイン集団からプリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、ユンボ・ヴィズマ)が単独追走を試みたが先頭モレマの背中は見えてこなかった。

残り5km地点で頂上を迎えるサンフェルモ・デッラ・バッターリア(登坂距離2.7km/平均勾配7.2%/最大勾配10%)でもモレマのペースは落ちなかった。飛び出していたログリッチェにウッズやバルベルデ、ヤコブ・フルサング(デンマーク、アスタナ)、エガン・ベルナル(コロンビア、チームイネオス)が追いついて追走グループを形成。ベルナルの強烈なアタックによって先頭モレマとのタイム差は25秒にまで縮まったが、アタックと牽制を繰り返すメイン集団のペースは上がりきらない。

コモの街まで安全に下りきり、後方を振り返って追走者の不在を確認したモレマがフィニッシュラインまでウィニングラン。1週間後のジャパンカップにも出場予定のモレマが自身初のモニュメント制覇を果たした。後方では、下りで飛び出したバルベルデにベルナルとフルサングが追いついてスプリントへ。2位バルベルデ、3位ベルナル、4位フルサングの順でモレマから16秒遅れでフィニッシュしている。

サンフェルモ・デッラ・バッターリアを先頭で駆け上がるバウケ・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード)サンフェルモ・デッラ・バッターリアを先頭で駆け上がるバウケ・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード) photo:RCS Sport
独走でフィニッシュするバウケ・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード)独走でフィニッシュするバウケ・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード) photo:RCS Sport
「タイム差がすぐに20秒まで広がった時は驚いたよ。ライバルたちはお互いを見合っていた。後方で何が起こっていたのかは分からないけど、下りもよく知っていたし、逃げ切れると信じてタイムトライアルを続けたんだ。一度後ろを振り返った時にログリッチェの姿が見えたけど、遥か遠くだったので自信を得た。最後まで良いリズムで走れたし、追いつかれることはなかった」。モレマは約19kmにわたる独走をそう振り返る。

オランダ人選手によるロンバルディア制覇は1981年以来4回目。モレマは2016年にクラシカ・サンセバスティアンを制しているが、モニュメントでの優勝や表彰台はこれが初めて。ロンバルディアでは2012年の7位が最高位だった。「シーズン最後のモニュメントで優勝するなんて。今日は両親も来ていたし、特別な1日になったよ」。モレマはこの日アシストとして好走したチッコーネや別府史之とともにジャパンカップに出場する。

「ロンバルディアでの表彰台は意味がある。2位という結果には満足している」。そう語るのは2013年と2014年に続く自身3度目の2位に入ったバルベルデ。2019年ミラノ〜サンレモ7位、ロンド・ファン・フラーンデレン8位、ツール・ド・フランス総合9位、ブエルタ・ア・エスパーニャ総合2位のバルベルデが、ロンバルディア史上最高齢記録となる39歳で表彰台に登った。「良いアタックを仕掛けて逃げ切って見せたモレマには脱帽だ。彼の後ろでは追走を組織できず、一人また一人とアタックするというペースが上がらない状態に陥ってしまった。今日は勝てる力があったけど展開に恵まれなかった」。

2017年13位、2018年12位からジャンプアップして3位に入ったツール覇者ベルナルは「正直言うと表彰台に登れるとは思っていなかった。自分にとって初めてのモニュメントの表彰台。シーズンを良いコンディションで締めくくることができて嬉しいよ。モレマのアタックは強力で、ログリッチェのアタックも届かず。まだ22歳なので、これからもっと力をつけていっていつの日かモニュメントで勝ちたいと思う」とコメント。シーズンを終えたベルナルは2週間後のツール・ド・フランスさいたまクリテリウムに出場予定だ。

2位アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)、1位バウケ・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード)、3位エガン・ベルナル(コロンビア、チームイネオス)2位アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)、1位バウケ・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード)、3位エガン・ベルナル(コロンビア、チームイネオス) photo:RCS Sport
イル・ロンバルディア2019結果
1位 バウケ・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード) 5:52:59
2位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) 0:00:16
3位 エガン・ベルナル(コロンビア、チームイネオス)
4位 ヤコブ・フルサング(デンマーク、アスタナ)
5位 マイケル・ウッズ(カナダ、EFエデュケーションファースト) 0:00:34
6位 ジャック・ヘイグ(オーストラリア、ミッチェルトン・スコット)
7位 プリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、ユンボ・ヴィズマ)
8位 エマヌエル・ブッフマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ) 0:00:50
9位 ピエール・ラトゥール(フランス、アージェードゥーゼール)
10位 ルディ・モラール(フランス、グルパマFDJ)
text:Kei Tsuji

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