2010/05/06(木) - 03:05
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タイムが2010年モデルとして放ったNXR INSTINCT(インスティンクト)は、同社の新しいコンセプト「インテグラルRTM」を採用したフルカーボンフレームだ。インテグラルRTMとは、モノブロックデザインとタイムが誇るRTMテクノロジーを組み合わせた新しい技術。その高性能は、我々の想像をはるかに上回るものだった。
ここ数年、「RXR ULTEAM」、「VXRS ULTEAM WORLD STAR」と、魅力的なモデルを次々と発表しているタイムであるが、2010年モデル最大の目玉は、何といっても「NXR INSTINCT」の登場だ。上から3番目に位置する中堅モデルながらも、タイムの最新モデルだけあって実に多くのテクノロジーが搭載されている。
前三角のメインフレームには、モノブロックデザインとRTMテクノロジーを融合させたインテグラルRTMを採用。
RTM(レンジ・トランスファー・モールディング)テクノロジーとは、フレームの部位によって最も適したカーボンファイバーの選択や、必要な強度の違いを自由自在にコントロールできるタイム独自のテクノロジーのこと。インテグラルRTMとは、そのRTMを一体成形のモノブロック構造に応用した最新テクノロジーである。
NXR INSTINCTで新たに採用されたインテグラルRTMは、それまで継ぎ手を使ったラグドフレームが中心だったタイムにとって、次世代へ向けた新しいフレームコンセプトといえる。
振動吸収性の向上には、振動減衰性に優れた特殊繊維をカーボンとともに織り込む、バイブレーザーを採用。これによりカーボン独特の軽量性や剛性といった性能を犠牲にすることなく、振動を取り除くことに成功しているという。
さらに母材を強化するために、タイム独自のナノストレングステクノロジーを採用。これはナノレベルの細かい粒子を注入することで、樹脂を高密度にして耐久性を向上させ、高級カーボンフレームで懸案となる破断の危険性についても、不安を最小限としている。
また、左右の違った応力に対応するため、左右それぞれにカーボンの選択から形状までを変えた非対称のチェーンステーを採用。このチェーンステーは、フロントフォーク、ウィッシュボーンともども、ツール・ド・フランスのステージ優勝でその実力が証明されているRXR ULTEAMのそれらを流用している。
このようにタイムが誇る数々のテクノロジーが惜しげもなく投入されたNXR INSTINCTは、カーボン繊維の編み上げから全てを自社で製造できる、カーボンスペシャリストのタイム社らしい仕上がりに満ちた、注目のNEWモデルといえる。
タイム社の説明によると、ダイナミックな走り、高速の下りでの安定性、バイブレーサーによる振動吸収性の高さがこのフレームの最大の魅力であるという。そして、そのフレームの特性から、競技指向のライダーだけでなく、ロングライドやエンデューロなどの走りにも向いているとのことだ。
RXR ULTEAMやVXRS ULTEAM WORLD STARはバリバリのプロユースバイクである。もちろん、スキルの高い上級ライダーなら、これらのバイクもロングライドの頼もしい相棒になってくれることは間違いない。しかし、もう少し肩の力を抜いて走りたいというライダーにとっては、少々オーバースペックであるということも否めないだろう。
その点、NXR INSTINCTは多くのホビーライダーにとってちょうどよい位置にあるバイクだ。プロユースバイクと同じ技術を踏襲しつつ、一般ユーザー寄りのテイストを盛り込んでいるのであるから、ホビーレーサーやレース指向ではない上級ライダーにとって、これほど理にかなったバイクもないだろう。
さて、タイムの自信作NXR INSTINCTを、2人のインプレライダーはどう評価したのだろうか? さっそくインプレッションをお届けしよう!
―インプレッション
「上位機種に優るとも劣らない高性能」 戸津井 俊介(OVER-DOバイカーズサポート)
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加速感は本当に気持ちがよい。踏み込んでいくと、グッと伸びるイメージだ。ロングライドに向いているフレームということだが、これは明らかにレーシングバイクの乗り味。スピードの緩急が激しいレースで使っても、まったく問題がないどころか、そういう使い方がまさしく向いているとさえ言える。
上りのフィーリングもすごく良い。脚があるうちなら、グイグイといくらでも上っていける。ヒルクライムバイクとしても十分に使えるだろう。
ハンドリングはややクイックな印象だが、不思議と直進安定性も高い。これもレーシングバイクらしい味付けだ。ハイスピードのコーナーが連続する下りでもなんら緊張感を強いられることなくハンドル操作ができるし、長い直線が続く平坦路でも不安定さを感じることはまったくない。とてもよく煮詰められたハンドリングであると思う。
剛性感の高いフレームであるため、振動吸収性はやや犠牲にされている印象だ。しかし、路面からの衝撃がガツンときても、パッとそれが収まるので、不快感はまったくない。レーシングバイクらしい味付けであるといえるだろう。
オススメしたいのは、やはりレースでの使用だ。ホビーレースレベルなら、なにもRXR ULTEAMやVXRS ULTEAM WORLD STARでなくても、このNXR INSTINCTで十分以上の性能が得られるだろう。とにかく、これら上位機種と比べて、特に劣っているという部分はみじんも感じられない。まさに優るとも劣らない高性能だ。距離の短いレースからツール・ド・おきなわ市民200kmのような長いレースまで、平坦路でのスプリントからヒルクライムまで、どんなシチュエーションで使っても、まず文句が出ることはないだろう。
もちろん、メーカーが説明するように、ロングライドで使ってもよい。しかし、どちらかというと初心者がのんびり乗るというよりは、スキルのある上級者がハイスピードで乗るフレームだろうと思った。
「誰がどのようなシチュエーションで使ってもOK!」 仲沢 隆(自転車ジャーナリスト)
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タイムのよいところは、HMカーボンを採用しつつも、チューブが極端に太くないところにあると思う。アルミラグのVX SPECIAL PROからカーボンラグになったVXR、トランスリンクを採用したVXRSと、一貫して極太チューブを採用していない。そのおかげで、レーシングバイクとしての十分な剛性感を確保しながらも、上質な乗り味を演出する上でなくてはならない振動吸収性の高さや「しなり」も上手く確保しているのである。
そういった点で、RXR ULTEAMの登場は、少なからず衝撃的であった。タイムトライアルバイクならともかく、通常のライディングの場合、あの極太のチューブでは、タイムらしさが感じられないのではないかと思ったからだ。
しかし、それはまったくの杞憂だった。たしかにRXRは剛性感が優ったバイクであったが、それでもフォークやウィッシュボーン、シートステーの設計がよいので、レーシングバイクとしての節度ある振動吸収性を確保しており、「しなり」もそれなりに感じられた。さらに、その体躯に似合わず上り性能もとても良かったのには、本当に驚かされた。さすがタイムだな、と感心させられた。
前三角がモノブロックデザインになったとはいえ、このNXR INSTINCTもやはりタイムだった。フォークやウィッシュボーン、シートステーにRXR ULTEAMの技術をそのまま受け継いでおり、乗り味もRXR ULTEAMにとても近い。剛性感の高い前三角でペダリングパワーを受け止め、フォークやウィッシュボーン、シートステーで衝撃を吸収するというコンセプトだ。
踏み出しは本当に気持ちがよい。最近の極太薄肉のカーボンバイクの場合、カンカンとした硬さで踏み出しも「ピューン」という感じだが、NXR INSTINCTはややしっとりとした印象で「スーッ」っと涼しげに加速していくのだ。実に高級感のある乗り味である。
予想通り、上りでも第一級の性能だった。RXR ULTEAMも素晴らしい上り性能を持っているが、ホビーレベルで使うならNXR INSTINCTの方がリズムに乗せやすいかもしれない。
性能とは関係ないことだが、フレームのグラフィックを含めタイムのたたずまいは本当にカッコイイ! 長年、ツール・ド・フランスやクラシックレースの現場で見てきたからそのように感じるのだと思うが、やはり趣味の自転車として、そのようにカッコ良さを感じさせることは本当に重要だと思う。カラーリングにも流行のグリーンをさりげなく取り入れているあたりも、さすがフレンチブランドという感じだ。
使用用途は選ばない。上級モデルなので、もちろんレースやハイスピードのロングライド向けなのだが、「タイムが好き!」という人なら誰がどのようなシチュエーションで乗ってもそれなりに楽しめるだろう。街乗りで人に見せびらかすのだって、十分に楽しい。それだけ懐の広いバイクである。
タイム NXR インスティンクト
フレーム: エルゴドライブポジション、インテグラルRTMフルカーボン、タイム・マトリックス+バイブレーサー、RTMテクノロジー、ナノストレングス、トランスリンクシートポスト+CMTサドル台座、RXRアルティウム・チェーンステイ、RXRアルティウム・ウィッシュボーン
フォーク: フルカーボンセーフ+2
BBサイズ:BB30
シートポスト:トランスリンク
フロントディレイラー:直付け
リアディレイラー:リプレイスメントエンド
ヘッドセット:タイム・クイックヘッドセット 1-1/8インチ
カラー:ブラック、ホワイト
サイズ:XXS(495)、XS(510)、S(530)、M(550)、L(570)、XL(590 mm)
フレーム重量:1,700g(Mサイズ、フォーク、ヘッドセット、シートポスト込み)
付属品:カーボンボトルケージ(1つ)
希望小売価格(税込み):448,000円(フレームセット)
インプレライダーのプロフィール
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1990年代から2000年代にかけて、日本を代表するマウンテンバイクライダーとして世界を舞台に活躍した経歴を持つ。1999年アジア大陸マウンテンバイク選手権チャンピオン。MTBレースと並行してロードでも活躍しており、2002年の3DAY CYCLE ROAD熊野BR-2 第3ステージ優勝など、数多くの優勝・入賞経験を持つ。現在はOVER-DOバイカーズサポート代表。ショップ経営のかたわら、お客さんとのトレーニングやツーリングなどで飛び回り、忙しい毎日を送っている。09年からは「キャノンデール・ジャパンMTBチーム」のメカニカルディレクターも務める。
最近埼玉県所沢市北秋津に2店舗目となるOVER DO所沢店を開店した(日常勤務も所沢店)。
OVER-DOバイカーズサポート
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ツール・ド・フランスやジロ・デ・イタリアなどのロードレースの取材、選手が使用するロードバイクの取材、自転車工房の取材などを精力的に続けている自転車ジャーナリスト。ロードバイクのインプレッションも得意としており、乗り味だけでなく、そのバイクの文化的背景にまで言及できる数少ないジャーナリストだ。これまで試乗したロードバイクの数は、ゆうに500台を超える。2007年からは早稲田大学大学院博士後期課程(文化人類学専攻)に在学し、自転車文化に関する研究を数多く発表している。
text:Takashi.NAKAZAWA
photo&edit:Makoto.AYANO
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