2019/07/26(金) - 20:56
ツールの最難関ステージに「今日こそマイヨジョーヌ最後の日だろう」という予想も覆し、遅れなかったアラフィリップ。そしてベルナルにアタックを指示したトーマス。厳しいアルプス山岳の皮切りになるガリビエ峠の攻防は、またしてもフランス人のツール覇者誕生への期待をつなぐステージになった。
前日に物議を醸した、レース中に喧嘩をしたルーク・ロウ(チームイネオス)とトニー・マルティン(ユンボ・ヴィズマ)の2人の失格。その裁定は結局は翻ることはなかった。ユンボ・ヴィズマの広報担当者のセッティングにより、2人が揃って謝罪する動画インタビューがその夜のうちに流されるというファインプレーにより、2人のイメージがどん底まで低下するのだけは避けられたが、こうしたUCIレース審判による決定はCAS(スポーツ仲裁機構)へ持ち込んで審議されたうえでなら変わることがあるが、つまりはレース直後にいくら物言いをつけようが変えようがないということ。
共同声明による嘆願を出したチームイネオスのブレイルスフォードGMは、警告や罰金までで済ませるべきで、レース除外という処分は行き過ぎで厳しすぎるとした。ロウのチームメイトのミカル・クウィアトコウスキーはツィッターで「マイヨジョーヌ100周年のツールなんだから、レッドカードじゃなく『イエロー』がふさわしいと思う」とユーモアを込めたお願いを投稿した。一昨年のペテル・サガンとカヴェンディッシュの一件によるサガンの追放の顛末が記憶に新しいが、追放処分が適切だったかどうかについては後日のやりとり(があれば)によって決まる。しかし後味とイメージの悪さはいつまでも残るもの。
ただ言えることは、映像で捉えられることが分かりきっているプロトンの最前列での喧嘩は、世界中の視聴者がその一部始終を目にすることになり、それを分かっていながらやってしまった2人はどうしても分が悪かったということ。そして総合優勝を争う2つのチームの重要な働きをするアシストが去ってしまうということは、今後の2チームのレースには戦力ダウンとして大いに影響するということ。
33人という大人数の逃げを追うメイン集団では、マイヨジョーヌ擁するドゥクーニンク・クイックステップが先頭に立ち集団をコントロールした。エンリク・マスが体調不良から復活し、厳しい峠でのアラフィリップのサポートにあたった。平坦路ではエリア・ヴィヴィアーニも山岳入り口までサポート。スプリンターのヴィヴィアーニにとってはアルプスを乗り越えればシャンゼリゼでのスプリントステージが控えているのに、その自身のチャンスを潰してまでの献身的なサポートだ。それがアラフィリップのモチベーションにプラスに働いた。
アラフィリップはレース後に「今日のチームの皆の働きには脱帽しか無い。僕らのチームは山岳のサポートができるチームじゃないから。ヴィヴィアーニのようなスプリンターが峠の入口まで集団を引いてくれた。彼は僕を助けたかったと。それが皆のモチベーションアップになったし、僕はそれにただベストを尽くして応えるのみだった」と語っている。
今ツール中のクイーンステージ(最難関ステージ)。ハイライトとなる最後の超級山岳ガリビエ峠には近年稀にみる厳重な警備体制が敷かれた。アリフィリップのマイヨジョーヌと優勝にかかる期待、そして各国からの応援団や観客たちが大挙して詰めかけることは必至。ガリビエ峠山頂付近のスペースは決して狭くはないが、観客の人数過多&加熱によるトラブル回避のためにブリアンソンからの自転車での登頂は警備員によって早めに締め切られ、逆ルートのフィニッシュのバロワーズ側からの登頂も頂上付近でシャットダウンされたようだ。
この数年、クイーンステージ山頂での観客との接触によるトラブルが続いたツール。その厳重な警備と人数制限によってリスクを減らそうとしているのが分かった。頂上付近の残り1kmの沿道にもロープが張られ、原則観客はその外側に居ることに。それでも、この超級山岳の最終バトルは大いに盛り上がり、死闘を繰り広げる選手たちを大きな盛り上がりで迎えた。
逃げグループに乗ってからの、ナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)のガリビエ峠頂上まで7kmを残した早めの仕掛け。そのスピード差のあるアタックには誰も着いていくことができなかった。独走で山頂を越えるキンタナに、頂上付近のつづら折れに陣取ったコロンビア人ファンたちのコーナーが歓喜に沸いた。
ジロ・デ・イタリアとブエルタ・ア・エスパーニャに勝っても、ツールには勝てない年が続くキンタナ。総合順位を少し戻すも、このツールもまた表彰台圏外。しかし一時は評価を下げながらも、再びの高評価に。2年連続でクイーンステージを制し、グランツールに勝てる可能性がまだあることを証明した。キンタナは来季アルケア・サムシックへの移籍が決まっていると噂されている。
続くロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール)の追走もガリビエ峠のフランス人観客たちを大いに沸かせたが、やはり観客たちのこの日最大の興味はアラフィリップの走り。
エガン・ベルナル(チームイネオス)がマイヨジョーヌ集団からアタックしてグループから飛び出し、独走すると再びコロンビアコーナーが沸く。そのベルナルに次いでゲラント・トーマス(チームイネオス)がアタックしたときにはいつものようにフランス人ファンからブーイングも起こった。ライバル集団から遅れるアラフィリップに対しては、悲鳴にも似た声が。しかし続いてトーマスへのブーイング以上にアラフィリップへの応援の声が恐ろしいまでに沸き起こった。
20秒遅れで頂上を通過したアラフィリップは、リスクを負ってテクニカルなダウンヒルを攻め、トーマスらライバル集団に追いついた。
「下りではリスクを負った。とてもテクニカルだった。でも冷静に集中して下った。コーナーでは前を行くモトのラインをトレースした。そして頂上でついたタイムを取り戻した。こうした下りは好きなんだ」とアラフィリップ。
ライバル集団に追いついてからは前に出るシーンも。下りやバイクコントロールに秀でたアラフィリップ。コーナーごとにブレーキングのポイントを遅らせることができ、結果速く下れたのはディスクブレーキ仕様のバイクに乗っていた恩恵もあったように見えた。総合争いのトップグループでディスクブレーキを使っているのはエマヌエル・ブッフマン(ボーラ・ハンスグローエ)とアラフィリップの2人のみ。他の選手たちはホイールの軽さ優先でリムブレーキを使用している。
ライバルたちから脱落したかに思えたガリビエの頂上手前のアラフィリップの遅れは、自身の限界までは追い込まない、あえての自制の走りだったようだ。「もし頂上でクラック(崩れること)していたら、今日のようにはダウンヒルを速くは下れなかった。なんとかジャージを守ることができたよ」。
アラフィリップに対してアタックを決め、32秒の返上と総合も2位に上げることに成功したベルナルとチームイネオス。ベルナルのアタックはトーマスの指示を受けての動きだった。
「G(トーマス)に調子はどう?と聞かれて、『とても良いよ』、と応えたらレースを動かすためにアタックしてみろと言ってくれたんだ。チームカーの監督からの指示も受けていた。彼は後からのアタックで僕に追いついて来たかったようだけど、他の選手たちに着いてこられて、結局はそれができずライバルたちをフォローする走りになったんだ」とベルナルは言う。
トーマスをグループに残してのベルナルのアタックはライバルたちの躊躇を生んだ。しかし遅れてグループからアタックしたのはトーマス自身だった。そのアタックがなければベルナルとアラフィリップのタイム差はもっと開いたかもしれない。
トーマスは言う「ペースを厳しくしたかった。でもライバルたちに着いてこられて十分ハードにはしきれないと思っていた。エガンに飛び出させたのはレースを動かす始まりにしたいと思ったんだ。マスが一定ペースの走りに持ち込んできたので、それを崩すために強く行ったんだ。何か起こらないかって。でも彼らは頂上までに追いついてきた」。
ベルナルはトーマスのアタックは問題ないと言う。「僕らはアラフィリップに対してタイム差を返すことに成功した。Gのしたことは問題ない。僕らはチームなんだから。アラフィリップにタイム差をつけることが必要なんだ。他のライバルたちがどうだったかはわからないけど、レースを厳しくすることが必要だったし、一度はアラフィリップを脱落させることができた。今日僕らはいいレースをしたと思う」。
「レースでは決断しなくてはいけないことがあって、それは毎日の調子にもよる。僕はGが今日も正直なレースをしてくれたことにお礼を言わなきゃいけない」。
下りフィニッシュに、あるいは脚がなかったのか、動けなかったライバルたち。ティボー・ピノ(グルパマFDJ)は「ベルナルのアタックに反応するには調子が良くなかった」とレース後話した。
アルプスの厳しいステージを2日残して、アラフィリップのリードは総合2位ベルナルに1分30秒と依然として大きい。トーマスが1分35秒、クライスヴァイクが1分47秒、ピノが1分50秒と、2位から5位が20秒以内にひしめき合う状況。そしてブッフマンが2分14秒遅れで続く。
第2休息日の記者会見で、チームイネオスのブレイルスフォードGMは「トップグループの中に、強いアラフィリップを崩すために彼を脱落させるレースと、僅差にひしめく総合ライバルたちの順位争いのふたつのレースがある」と状況を説明した。3日間連続の厳しいアルプスステージ初日はまさにそのとおりのレースとなり、アラフィリップは持ちこたえた。
アルプス山岳は残り2つ。第19ステージのティーニュ上りフィニッシュは距離が126.5kmと短い。爆発力のあるアラフィリップ向きで、不得意としないだろうとの声が多く聞かれる。つまりアラフィリップは多くのタイムは失わないだろうと。そして同様にピノ向きでもあると。そしてベルナルも標高が高くなるにつれ調子を上げ、トーマスもアタックしたことから調子を上げているのは明らかで、最後の2日間勝負のためにガリビエ峠ではセーブしたように見える。
ティボー・ピノの休息日インタビューの言葉を借りれば、「第20ステージのバルトランスがすべてを決める。登りの長さ、厳しさは疲れた脚では騙しがきかない、差がつく決定的なステージになる」。
総合2・3位のベルナルとトーマス、究極に贅沢なダブルエースのチームイネオスも、しかし表彰台の真ん中を仕留めるエースをどちらかに決めなければ両脇に甘んじる可能性が高まってしまう。ベルナルで揺さぶりをかけ、トーマスで勝負するのか、2日間の積み重ねで勝負するのか、最終日前の土曜日のバルトランスに一発勝負をかけるのか、戦術が問われる。今年もイネオスの贅沢な悩み「ダブルエース問題」は続く。
そしてアラフィリップは「もしもし僕がクラックしたら、ピノにマイヨジョーヌを引き継いでもらいたい。ベストフレンドじゃないけど、彼のことはリスペクトしている」と、フランス人の間でマイヨジョーヌを留めたい考えも表明。ピノの登りの強さを考えれば、ピノ自身の表彰台の可能性とともに、共にアタックを決めれば総合優勝する選手のキーを握るのはピノとも考えられる。
「もし金曜のティニュでマイヨジョーヌを守り、土曜に1分のタイム差を保持して臨むならアラフィリップが勝てる」、「いや、それでも十分じゃない」と、関係者の間でも話もまとまらない。とにかくこのツールは最後に勝つ選手、表彰台に登る3人でさえ未だに絞りきれないという、面白いレースになっている。
text&photo:Makoto.AYANO in Valloire FRANCE
前日に物議を醸した、レース中に喧嘩をしたルーク・ロウ(チームイネオス)とトニー・マルティン(ユンボ・ヴィズマ)の2人の失格。その裁定は結局は翻ることはなかった。ユンボ・ヴィズマの広報担当者のセッティングにより、2人が揃って謝罪する動画インタビューがその夜のうちに流されるというファインプレーにより、2人のイメージがどん底まで低下するのだけは避けられたが、こうしたUCIレース審判による決定はCAS(スポーツ仲裁機構)へ持ち込んで審議されたうえでなら変わることがあるが、つまりはレース直後にいくら物言いをつけようが変えようがないということ。
共同声明による嘆願を出したチームイネオスのブレイルスフォードGMは、警告や罰金までで済ませるべきで、レース除外という処分は行き過ぎで厳しすぎるとした。ロウのチームメイトのミカル・クウィアトコウスキーはツィッターで「マイヨジョーヌ100周年のツールなんだから、レッドカードじゃなく『イエロー』がふさわしいと思う」とユーモアを込めたお願いを投稿した。一昨年のペテル・サガンとカヴェンディッシュの一件によるサガンの追放の顛末が記憶に新しいが、追放処分が適切だったかどうかについては後日のやりとり(があれば)によって決まる。しかし後味とイメージの悪さはいつまでも残るもの。
ただ言えることは、映像で捉えられることが分かりきっているプロトンの最前列での喧嘩は、世界中の視聴者がその一部始終を目にすることになり、それを分かっていながらやってしまった2人はどうしても分が悪かったということ。そして総合優勝を争う2つのチームの重要な働きをするアシストが去ってしまうということは、今後の2チームのレースには戦力ダウンとして大いに影響するということ。
33人という大人数の逃げを追うメイン集団では、マイヨジョーヌ擁するドゥクーニンク・クイックステップが先頭に立ち集団をコントロールした。エンリク・マスが体調不良から復活し、厳しい峠でのアラフィリップのサポートにあたった。平坦路ではエリア・ヴィヴィアーニも山岳入り口までサポート。スプリンターのヴィヴィアーニにとってはアルプスを乗り越えればシャンゼリゼでのスプリントステージが控えているのに、その自身のチャンスを潰してまでの献身的なサポートだ。それがアラフィリップのモチベーションにプラスに働いた。
アラフィリップはレース後に「今日のチームの皆の働きには脱帽しか無い。僕らのチームは山岳のサポートができるチームじゃないから。ヴィヴィアーニのようなスプリンターが峠の入口まで集団を引いてくれた。彼は僕を助けたかったと。それが皆のモチベーションアップになったし、僕はそれにただベストを尽くして応えるのみだった」と語っている。
今ツール中のクイーンステージ(最難関ステージ)。ハイライトとなる最後の超級山岳ガリビエ峠には近年稀にみる厳重な警備体制が敷かれた。アリフィリップのマイヨジョーヌと優勝にかかる期待、そして各国からの応援団や観客たちが大挙して詰めかけることは必至。ガリビエ峠山頂付近のスペースは決して狭くはないが、観客の人数過多&加熱によるトラブル回避のためにブリアンソンからの自転車での登頂は警備員によって早めに締め切られ、逆ルートのフィニッシュのバロワーズ側からの登頂も頂上付近でシャットダウンされたようだ。
この数年、クイーンステージ山頂での観客との接触によるトラブルが続いたツール。その厳重な警備と人数制限によってリスクを減らそうとしているのが分かった。頂上付近の残り1kmの沿道にもロープが張られ、原則観客はその外側に居ることに。それでも、この超級山岳の最終バトルは大いに盛り上がり、死闘を繰り広げる選手たちを大きな盛り上がりで迎えた。
逃げグループに乗ってからの、ナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)のガリビエ峠頂上まで7kmを残した早めの仕掛け。そのスピード差のあるアタックには誰も着いていくことができなかった。独走で山頂を越えるキンタナに、頂上付近のつづら折れに陣取ったコロンビア人ファンたちのコーナーが歓喜に沸いた。
ジロ・デ・イタリアとブエルタ・ア・エスパーニャに勝っても、ツールには勝てない年が続くキンタナ。総合順位を少し戻すも、このツールもまた表彰台圏外。しかし一時は評価を下げながらも、再びの高評価に。2年連続でクイーンステージを制し、グランツールに勝てる可能性がまだあることを証明した。キンタナは来季アルケア・サムシックへの移籍が決まっていると噂されている。
続くロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール)の追走もガリビエ峠のフランス人観客たちを大いに沸かせたが、やはり観客たちのこの日最大の興味はアラフィリップの走り。
エガン・ベルナル(チームイネオス)がマイヨジョーヌ集団からアタックしてグループから飛び出し、独走すると再びコロンビアコーナーが沸く。そのベルナルに次いでゲラント・トーマス(チームイネオス)がアタックしたときにはいつものようにフランス人ファンからブーイングも起こった。ライバル集団から遅れるアラフィリップに対しては、悲鳴にも似た声が。しかし続いてトーマスへのブーイング以上にアラフィリップへの応援の声が恐ろしいまでに沸き起こった。
20秒遅れで頂上を通過したアラフィリップは、リスクを負ってテクニカルなダウンヒルを攻め、トーマスらライバル集団に追いついた。
「下りではリスクを負った。とてもテクニカルだった。でも冷静に集中して下った。コーナーでは前を行くモトのラインをトレースした。そして頂上でついたタイムを取り戻した。こうした下りは好きなんだ」とアラフィリップ。
ライバル集団に追いついてからは前に出るシーンも。下りやバイクコントロールに秀でたアラフィリップ。コーナーごとにブレーキングのポイントを遅らせることができ、結果速く下れたのはディスクブレーキ仕様のバイクに乗っていた恩恵もあったように見えた。総合争いのトップグループでディスクブレーキを使っているのはエマヌエル・ブッフマン(ボーラ・ハンスグローエ)とアラフィリップの2人のみ。他の選手たちはホイールの軽さ優先でリムブレーキを使用している。
ライバルたちから脱落したかに思えたガリビエの頂上手前のアラフィリップの遅れは、自身の限界までは追い込まない、あえての自制の走りだったようだ。「もし頂上でクラック(崩れること)していたら、今日のようにはダウンヒルを速くは下れなかった。なんとかジャージを守ることができたよ」。
アラフィリップに対してアタックを決め、32秒の返上と総合も2位に上げることに成功したベルナルとチームイネオス。ベルナルのアタックはトーマスの指示を受けての動きだった。
「G(トーマス)に調子はどう?と聞かれて、『とても良いよ』、と応えたらレースを動かすためにアタックしてみろと言ってくれたんだ。チームカーの監督からの指示も受けていた。彼は後からのアタックで僕に追いついて来たかったようだけど、他の選手たちに着いてこられて、結局はそれができずライバルたちをフォローする走りになったんだ」とベルナルは言う。
トーマスをグループに残してのベルナルのアタックはライバルたちの躊躇を生んだ。しかし遅れてグループからアタックしたのはトーマス自身だった。そのアタックがなければベルナルとアラフィリップのタイム差はもっと開いたかもしれない。
トーマスは言う「ペースを厳しくしたかった。でもライバルたちに着いてこられて十分ハードにはしきれないと思っていた。エガンに飛び出させたのはレースを動かす始まりにしたいと思ったんだ。マスが一定ペースの走りに持ち込んできたので、それを崩すために強く行ったんだ。何か起こらないかって。でも彼らは頂上までに追いついてきた」。
ベルナルはトーマスのアタックは問題ないと言う。「僕らはアラフィリップに対してタイム差を返すことに成功した。Gのしたことは問題ない。僕らはチームなんだから。アラフィリップにタイム差をつけることが必要なんだ。他のライバルたちがどうだったかはわからないけど、レースを厳しくすることが必要だったし、一度はアラフィリップを脱落させることができた。今日僕らはいいレースをしたと思う」。
「レースでは決断しなくてはいけないことがあって、それは毎日の調子にもよる。僕はGが今日も正直なレースをしてくれたことにお礼を言わなきゃいけない」。
下りフィニッシュに、あるいは脚がなかったのか、動けなかったライバルたち。ティボー・ピノ(グルパマFDJ)は「ベルナルのアタックに反応するには調子が良くなかった」とレース後話した。
アルプスの厳しいステージを2日残して、アラフィリップのリードは総合2位ベルナルに1分30秒と依然として大きい。トーマスが1分35秒、クライスヴァイクが1分47秒、ピノが1分50秒と、2位から5位が20秒以内にひしめき合う状況。そしてブッフマンが2分14秒遅れで続く。
第2休息日の記者会見で、チームイネオスのブレイルスフォードGMは「トップグループの中に、強いアラフィリップを崩すために彼を脱落させるレースと、僅差にひしめく総合ライバルたちの順位争いのふたつのレースがある」と状況を説明した。3日間連続の厳しいアルプスステージ初日はまさにそのとおりのレースとなり、アラフィリップは持ちこたえた。
アルプス山岳は残り2つ。第19ステージのティーニュ上りフィニッシュは距離が126.5kmと短い。爆発力のあるアラフィリップ向きで、不得意としないだろうとの声が多く聞かれる。つまりアラフィリップは多くのタイムは失わないだろうと。そして同様にピノ向きでもあると。そしてベルナルも標高が高くなるにつれ調子を上げ、トーマスもアタックしたことから調子を上げているのは明らかで、最後の2日間勝負のためにガリビエ峠ではセーブしたように見える。
ティボー・ピノの休息日インタビューの言葉を借りれば、「第20ステージのバルトランスがすべてを決める。登りの長さ、厳しさは疲れた脚では騙しがきかない、差がつく決定的なステージになる」。
総合2・3位のベルナルとトーマス、究極に贅沢なダブルエースのチームイネオスも、しかし表彰台の真ん中を仕留めるエースをどちらかに決めなければ両脇に甘んじる可能性が高まってしまう。ベルナルで揺さぶりをかけ、トーマスで勝負するのか、2日間の積み重ねで勝負するのか、最終日前の土曜日のバルトランスに一発勝負をかけるのか、戦術が問われる。今年もイネオスの贅沢な悩み「ダブルエース問題」は続く。
そしてアラフィリップは「もしもし僕がクラックしたら、ピノにマイヨジョーヌを引き継いでもらいたい。ベストフレンドじゃないけど、彼のことはリスペクトしている」と、フランス人の間でマイヨジョーヌを留めたい考えも表明。ピノの登りの強さを考えれば、ピノ自身の表彰台の可能性とともに、共にアタックを決めれば総合優勝する選手のキーを握るのはピノとも考えられる。
「もし金曜のティニュでマイヨジョーヌを守り、土曜に1分のタイム差を保持して臨むならアラフィリップが勝てる」、「いや、それでも十分じゃない」と、関係者の間でも話もまとまらない。とにかくこのツールは最後に勝つ選手、表彰台に登る3人でさえ未だに絞りきれないという、面白いレースになっている。
text&photo:Makoto.AYANO in Valloire FRANCE
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