2010/04/26(月) - 23:21
ウィリエール・トリエスティーナ社は、北イタリアのロッサノ・ベネトに本社を構える。その歴史は古く、現ウィリエールの前身となった「スチールホース」という工房を含めると、1906年までさかのぼる老舗のバイクメーカーだ。そんな歴史あるイタリアの老舗が送り出した2010 年の最新モデルが、ウィリエール・インペリアーレである。
同社にはフラッグシップモデルのCENTO 1(チェント・ウノ)があるが、インペリアーレはセカンドモデル、もしくは使用用途を少々異にするもうひとつのフラッグシップモデルと言えるかもしれない。
「風を味方に」をコンセプトに、エアロダイナミクスを徹底的に追求した見事なフォルムで、フレームやフォーク、シートピラーなど随所にフィンを設けたエアロ形状は、まるでTTバイクのような雰囲気を醸し出している。このエアロフォルムの開発には、ウィリエールの最先端TTバイク、「トライクロノ」をデザインしたジョン・コブ氏が開発に直接参画しているという。
ジョン・コブ氏は自転車の世界にエアロダイナミクスの理論を持ち込んだ人物であり、風洞実験によりこれまでも数々のTTバイクやパーツを開発してきた、自転車におけるエアロダイナミクスのパイオニア的人物である。インペリアーレのデザインには、そのエアロフォルムを追求したディテールが随所に盛り込まれていてる。
先端がくちばしのように尖ったヘッドチューブはトップチューブへとつながり、後方へゆるやかにカーブしながらシートチューブへ向う。そしてリアトライアングル構造は、現代のウィリエールの特徴にもなっているチェーンステーとシートステーにつなぎ目がない一体構造のインテグレーテッドリアエンドだ。
このインテグレーテッドリアエンドのシートステー上端は、シートチューブとトップチューブを外側から覆うようにしっかりとホールドされる。シートステーとチェーンステーには、エアロフォルムをまとうようにかなり明確なフィンが形成されている。シートポストはインテグレーテッドタイプを採用し、こちらも当然のように翼断面形状。リアホイールに近い内側部分はTTバイクのように削られる。
さらに独特の形状のフロントフォークは、後ろ側にフィンを備えたインペリアーレ専用設計だ。そしてダウンチューブにもフロントホイールに向かって伸びたフィンを設けることで、前後ホイールが生み出す空気の乱れを、速やかに整流する工夫が随所に施されている。
これらのスタイルは決して奇をてらうデザインではなく、「風を味方に」をテーマに掲げるインペリアーレにおいて重要なディテールだ。ハイアベレージスピードを維持するために生み出された、必然ともいえる特徴的なスペックなのだ。
ではインペリアーレは完全にトライアスロンやTTを目指したバイクなのか? と言うと決してそうではない。シートチューブの角度や各部分のフレームディメンション、完成車として組み合わされるパーツアッセンブルを見ても、明らかにロードフレームを目指した設計といえるだろう。
今回はデュラエースで組まれた完成車をテストした。見た目にも十分楽しませるスタイルで、一度見たら忘れられない独特の存在感を放つウィリエール・インペリアーレ。
さて、この個性的なスタイルを身にまとったフルカーボンモノコックバイクは、果たしてどんな走りを見せてくれるのだろうか?
―インプレッション
「設計思想のはっきりした個性的なバイク」 戸津井 俊介(OVER-DOバイカーズサポート)
独特のしなやかなフィーリングが特徴のバイクだ。ソフトで全体のしなりを活かした設計がまず印象的。まるでリア周りを振り出すようにも感じるしなやかさは、最近のバイクにはない個性的な味付けで、他のバイクとはまるで違う。
ただし柔らかさを感じるものの、不思議と力が逃げているような感じはしない。そこが面白い!
最初こそこのソフトな感覚が少し頼りなくも感じるが、ケイデンスを一定に保ってリズムよくウィップを活かした走りをしていくと、ペダリングに伸びが出てきて気持ちよく、まるでTTバイクのようにドンドン加速して行く感じがある。
その反面、ダンシングでスピードを上げたり、力の緩急をつけた走りをしたときには、若干リアを振るような感覚がある。
短時間の試乗ではソフトな乗り味ばかりが印象に残るが、そのしなやかさはプロが200km以上の長時間を走ったときにも、最後まで疲れをためずに足を残すという強みとなることだろう。
この乗り心地の良さは、部分的な素材の柔らかさではなく、トータルな設計で実現しているものだろう。フォークの振動吸収性も高く、フレームと合わせて車体全体で縦のしなりを活かした絶妙なバランスを保っている。
ハンドリングはクセがなく、どのスピード域でもマージンを残しているような、ゆったりとした印象を受けた。ハンドリングを含めた全体の落ち着いた味付けは、タイムトライアルやエンデューロなどに向いているだろう。デザインはしっとりとしていてカッコイイ。風を味方につけるような形状も特徴的で見た目のインパクトがある。
設計思想がはっきりしているだけに、パーツを含めたトータルなアッセブルに拘りたい。用途としては、ロードレースよりもトライアスロンやロングライドに向いている。個性的な味付けをさらに引き出すためにも、ディープリムなどを組み合わせて、じっくりと乗ってみたい。
「クロモリフレームで育ってきた世代にオススメの乗り味」 仲沢 隆(自転車ジャーナリスト)
エアロ形状のシートチューブ、インテグラルシートポスト、かつてのYeti(イエティ)のMTBを彷彿とさせるようなリヤエンドが印象的なフルカーボンバイクだ。踏み出しは結構軽い。
ペダルへの入力に対して機敏に反応し、スーッとスピードに乗ることができる。なかなか気持ちの良い加速感だ。低速から中速への伸び、中速から高速への伸びも良い。
BBのウィップのリズムに乗せて加速させると、まるで背中を後から押されているかのようなフィーリングを体験することができる。
ただし、あまりウィップのない高剛性バイクに慣れている人にとっては、この「リズムに乗せる」という感覚が気に入らないかもしれない。
これはクロモリフレームで育った世代には受け入れやすいテイストだが、アルミフレームや高剛性なカーボンフレームで育った世代には、やや剛性が物足りないという感覚をもつこともあり得る。
しかし、それ以上のものがこのインペリアーレには確実にある。驚いたのが高速巡航性の高さだ。私のようなレベルの人間でも35km/hくらいで巡航できたから、ちょっと脚力に自信のある人ならば40km/hオーバーで簡単に巡航できるだろう。
そういった点で、速度変化の激しいロードレースよりは、一定ペースで走るロングライドやトライアスロンに向いているバイクだと言えるだろう。ハンドリングは直進安定性重視の味付け。これは多くのイタリアンバイクにいえることだが、クイックな操作感よりは、手放しで乗っても何ら緊張感を強いられない直視安定性を実現している。
振動吸収性も比較的良い。荒れた路面では路面の凹凸がしっかりと伝わってくるものの、上手くその角を取っている感じだ。決して柔らかいというほどではないが、レーシングバイクとして節度のある振動吸収性だといえるだろう。
使用用途としては、上に述べたようにロングライドやトライアスロンが良いだろう。もちろんホビーレースで使っても問題ないが、その場合にオススメしたいのは、「クロモリフレームで育ってきた世代の人」へだ。
没個性的なカーボンバイクが多いなか、インペリアーレは特色ある性能を追求した稀有な存在のロードバイクだ。
ウィリエール・インペリアーレ
カラー:ホワイト、ブラック
フレーム:カーボンモノコック
フォーク:カスタムウィリエールモノコック
フレーム重量:1130g
フォーク重量:360g
フレームサイズ:XS・S・M・L・XL・XXL
完成車価格(税込み)
コンポーネント:カンパニョーロ スーパーレコード
ホイール:フルクラム レーシングゼロ
990,150円
コンポーネント:シマノ デュラエース
ホイール:フルクラム レーシングゼロ
815,850円
コンポーネント:シマノ デュラエース
ホイール:シマノ WH-7850SL
721,350円
コンポーネント:シマノ アルテグラ
ホイール:シマノ WH-6700
548,100円
コンポーネント:シマノ アルテグラ
ホイール:マビック RS10
525,000円
フレームセット価格(税込み)
420,000円
インプレライダーのプロフィール
戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)
1990年代から2000年代にかけて、日本を代表するマウンテンバイクライダーとして世界を舞台に活躍した経歴を持つ。1999年アジア大陸マウンテンバイク選手権チャンピオン。MTBレースと並行してロードでも活躍しており、2002年の3DAY CYCLE ROAD熊野BR-2 第3ステージ優勝など、数多くの優勝・入賞経験を持つ。現在はOVER-DOバイカーズサポート代表。ショップ経営のかたわら、お客さんとのトレーニングやツーリングなどで飛び回り、忙しい毎日を送っている。09年からは「キャノンデール・ジャパンMTBチーム」のメカニカルディレクターも務める。
最近埼玉県所沢市北秋津に2店舗目となるOVER DO所沢店を開店した(日常勤務も所沢店)。
OVER-DOバイカーズサポート
仲沢 隆(自転車ジャーナリスト)
ツール・ド・フランスやジロ・デ・イタリアなどのロードレースの取材、選手が使用するロードバイクの取材、自転車工房の取材などを精力的に続けている自転車ジャーナリスト。ロードバイクのインプレッションも得意としており、乗り味だけでなく、そのバイクの文化的背景にまで言及できる数少ないジャーナリストだ。これまで試乗したロードバイクの数は、ゆうに500台を超える。2007年からは早稲田大学大学院博士後期課程(文化人類学専攻)に在学し、自転車文化に関する研究を数多く発表している。
text:Takashi.NAKAZAWA・Takashi.KAYABA
photo&edit:Makoto.AYANO
フォトギャラリー
リンク