2019/07/20(土) - 16:26
マイヨジョーヌがツール・ド・フランスに誕生してから100年という記念の年を祝う祭典が設定されたこの日、フランス人のジュリアン・アラフィリップがステージ優勝とマイヨジョーヌの更新というサプライズを成し遂げた。期せぬ大勝利にフランスじゅうは大盛り上がり。まさにイエローマジックな一日となった。
ツール・ド・フランスが毎年必ず訪れる地域であるピレネー山脈。ヌーヴェル=アキテーヌ地域圏、ピレネー=アトランティック県の主要都市ポー。ツールにはお馴染みのこの街での第13ステージに用意されたのは、今年のテーマになっているマイヨジョーヌ100周年記念の式典。朝から女子レースのラ・コルスの開催、そして100周年式典と何かと忙しい一日。このところ少し涼しささえ感じる日が続いていたが、この日は南らしい厳しい暑さが堪える一日になった。
この日の前夜にはマイヨブランとマイヨジョーヌ2人のTTスキンスーツ製作が行われた。エガン・ベルナルとジュリアン・アラフィリップのために、パリ近郊のロミィからジャージスポンサー務めるルコックスポルティフのパタンナーが呼ばれ、それぞれのホテルで採寸が行われた(山岳賞とポイント賞ジャージはカスタム不要とされるようだ)。
これはTTの際には近年恒例になっているサービスで、エアロ素材をもとに選手の好みも反映させられるという。2人とも明日は夏日になるというのに長袖を選んだのはエアロダイナミクスの観点から。袖丈は7分(8分)で、乗車姿勢をとったそれぞれの体型に合わせて、メッシュの配置も希望通りにカスタムメイドされる。アリフィリップは標準のTTスーツの寸法からは袖を10cm、パンツ丈を3cm短く、襟首周りも1cm 低く設定したという。
そのアラフィリップのマイヨジョーヌは、おそらく今日で見納めか、あるいは「どれだけリードを削られ、あるいは今日ぐらいは持ちこたえるか」という見通しで語られていた。「トーマスとの1分12秒を守りきれるか否か」。
レースのスタート地点となった川沿いのポー駅前から市街地へはフニクラ(登山電車)があるほど、ポーは高低差のある街。スタートしていきなりのループ道路の登り、そして数キロして街を過ぎれば緑深い丘陵地帯へと分け入っていく。このカントリーサイドのコース半分は登り基調、かつテクニカルなダウンヒルを含み、純TTコースとしては厳し目。それでも後半の10kmは直線的な平坦路が続き、総合的にはTTスペシャリストのゲラント・トーマスに有利と言えるコースには違いなかった。前日、アラフィリップはコースが自分に向いているとしてステージ優勝を狙うと言っていたものの、誰がリップサービス以上に思っただろう。
「ワウト・ファンアールトが優勝候補本命」とは、優勝候補のトーマスまでその名前を口にしていたほど。なぜかといえば、当のファンアールトはこの2日間は第11ステージの平坦でも第12ステージのピレネー山岳でもまったく無理をせずに走り、グルペットの最高尾でフィニッシュしていた。事情がつかめない観客たちにとっては調子の悪さを心配されるほどの潔い遅れっぷりは、もちろん省エネ走行に徹することで今日のステージに脚を貯める作戦だった。ファンアールトは新人賞対象選手だが、それを追うよりももうひとつステージの勝利を増やすことを選んだ。何よりエースのクライスヴァイクのアシストという仕事もある。
しかし好走をみせていたファンアールトはバリアに引っかかり転倒。そのままリタイアへ。脚を深く切った怪我を負ったが、治療は無事成功。骨折はないという。
注目を浴びたファンアールトの3番手後方でスタートしたトーマス・デヘント(ロット・スーダル)は、特別注目を浴びない地味な様子は変わりなかったが、その時点でのトップタイムを出し、このTTでも脚があることを証明。ホットシートに長く座り続けた。結局は最後の2人が走り終わるまで。
午前の女子レース、ラ・コルスbyツール・ド・フランスでマリアンヌ・フォスがアタックして駆け上がったコース最終盤の最大勾配17%という激坂は、総合上位が軒並み揃う最終盤、アラフィリップが中間地点で好タイムを出し好走を続けているという情報に大盛り上がり。
「アレ!、ジュリアン!、アレ!、ジュリアン!!」の合唱で、バリアの広告ボードを揃って手で叩き、声を揃えての大合唱が始まった。もちろんロマン・バルデやティボー・ピノにも大声援。刻々と伝えられるレースの内容に熱狂している。フランス人観客がこんなに団結して盛り上がっている姿を見るのは何時ぶりだろう? 「トーマスとの1分12秒を守りきれるか否か」は、いつのまにか、「アリフィリップはマイヨジョーヌを守るどころかステージ優勝も持っていくんじゃないか?」
そしてタイム差の僅かなゲラント・トーマスが激坂区間に到達するやいなや、大合唱は心無いブーイングに変わる。それはいただけない、と思いつつも、すでにタイムを失っているベルナルには応援の声がかかるという、願っているのはアラフィリップのマイヨジョーヌ維持とステージ勝利ということが判りやすいほどに伝わってくる応援だ。
この激坂でのアラフィリップの走りは誰よりも凄かった。フレーシュ・ワロンヌのユイの壁で見せた あの勝利のアタックを思い出させる素早い身体の動きで、乗っているのがTTバイクということも感じさせない軽やかなダンシングで駆け上がった。前に通過したトーマスもベルナルも、頭を下げ、苦しんでいるのが見て取れた後だけに、その違いは歴然だった。それでもマイヨ・ジョーヌは維持できても、ステージ優勝までは無いだろう、と観客も思っていたかもしれない。
マイヨジョーヌ100周年を祝うその日に、フランス人選手がマイヨジョーヌを着てのステージ優勝とマイヨジョーヌの維持を決める。まさかそんなサプライズが待っていようとは。ツールの個人タイムトライアルでフランス人選手が優勝するのは、2001年のクリストフ・モロー以来18年ぶり。マイヨジョーヌを着たフランス人選手による個人タイムトライアルの勝利は、1984年のローラン・フィニョン以来35年ぶりのこととなる。
ポディウム・フォトコレールには、過去のマイヨジョーヌ着用経験者が集めら、登壇した。今日のために招待された方を含め、ブリュッセルでホストしたエディ・メルクス氏の姿も再び。すでにポディウムのプレゼンター役は退いているベルナール・イノー氏も。ひとりひとりの紹介があったわけではないので数人判らなかった方がいるが、登壇したのは次の方々(名前の判る範囲で)
イェンス・フォイクト、アンディ・シュレク、シリル・デッセル、ベルナール・テブネ、ヨープ・ズートメルク、トマ・ヴォクレール、ロナン・パンセック、シャーリー・モテ、セドリック・ヴァスール、グレッグ・レモン、ローラン・ジャラベール、シルヴァン・シャヴァネル、エディ・メルクス、ベルナール・イノー、そしてジュリアン・アラフィリップがそこに加わった。アルベルト・コンタドールはポディウム脇に居たものの、それを放送する方に回っていたのか登壇せず。日本でおなじみのジャン・フランソワ・ベルナールなども恥ずかしがっているのか、登壇せず。そんな方もまだまだ会場周辺に居そうだった。
今もメディアのコメンテーターやツール・ド・フランスのパートナーと呼ばれるスポンサー関係の仕事のVIP対応としてツールに帯同する仕事に就いている方も多い。用意された特版の大きなマイヨジョーヌにサインが集められた。
マイヨジョーヌ100周年が用意した記念式典は、思いがけず(主催者の予想以上に)盛り上がった。そして、明日からは再び山岳の厳しい戦いへと入る。総合争いの観点では、これからも変わらず「アラフィリップがどこまで耐えられるか、いつ遅れるのか」ということが焦点にはなるのだろう。長く厳しいピレネーとアルプスの難関山岳ステージで、グランツールで今までに総合争いをしたことがないアラフィリップはどこまで食らいつけるのか?
しかし今日トーマスとベルナルのイネオスの2人が見せた弱さと、対象的なアラフィリップの走りを見ると、JU JUは誰よりもフレッシュで絶好調、疲れ知らずに見える。昨年は山岳賞マイヨアポアを勝ち取った経験もすでにある。そしてドゥクーニンク・クイックステップはエンリク・マスの新人賞首位で、総合争いにおいては2人を揃える。
パリ・シャンゼリゼでベルナール・イノー以来のフランス人マイヨジョーヌ覇者が生まれるのか。マイヨ・ジョーヌ100周年の記念すべき年にそれが実現したら、それは出来すぎたストーリーだろう。今日のアラフィリップの勢いならもしや?と思ってしまう。黄色いジャージを着れば実力以上の力が発揮できるという、「マイヨジョーヌ・マジック」は続くのか。明日のトゥールマレー峠の頂上では、エマヌエル・マクロン仏共和国大統領がアラフィリップの到着を待つという。
text&photo:Makoto.AYANO in Pau, FRANCE
ツール・ド・フランスが毎年必ず訪れる地域であるピレネー山脈。ヌーヴェル=アキテーヌ地域圏、ピレネー=アトランティック県の主要都市ポー。ツールにはお馴染みのこの街での第13ステージに用意されたのは、今年のテーマになっているマイヨジョーヌ100周年記念の式典。朝から女子レースのラ・コルスの開催、そして100周年式典と何かと忙しい一日。このところ少し涼しささえ感じる日が続いていたが、この日は南らしい厳しい暑さが堪える一日になった。
この日の前夜にはマイヨブランとマイヨジョーヌ2人のTTスキンスーツ製作が行われた。エガン・ベルナルとジュリアン・アラフィリップのために、パリ近郊のロミィからジャージスポンサー務めるルコックスポルティフのパタンナーが呼ばれ、それぞれのホテルで採寸が行われた(山岳賞とポイント賞ジャージはカスタム不要とされるようだ)。
これはTTの際には近年恒例になっているサービスで、エアロ素材をもとに選手の好みも反映させられるという。2人とも明日は夏日になるというのに長袖を選んだのはエアロダイナミクスの観点から。袖丈は7分(8分)で、乗車姿勢をとったそれぞれの体型に合わせて、メッシュの配置も希望通りにカスタムメイドされる。アリフィリップは標準のTTスーツの寸法からは袖を10cm、パンツ丈を3cm短く、襟首周りも1cm 低く設定したという。
そのアラフィリップのマイヨジョーヌは、おそらく今日で見納めか、あるいは「どれだけリードを削られ、あるいは今日ぐらいは持ちこたえるか」という見通しで語られていた。「トーマスとの1分12秒を守りきれるか否か」。
レースのスタート地点となった川沿いのポー駅前から市街地へはフニクラ(登山電車)があるほど、ポーは高低差のある街。スタートしていきなりのループ道路の登り、そして数キロして街を過ぎれば緑深い丘陵地帯へと分け入っていく。このカントリーサイドのコース半分は登り基調、かつテクニカルなダウンヒルを含み、純TTコースとしては厳し目。それでも後半の10kmは直線的な平坦路が続き、総合的にはTTスペシャリストのゲラント・トーマスに有利と言えるコースには違いなかった。前日、アラフィリップはコースが自分に向いているとしてステージ優勝を狙うと言っていたものの、誰がリップサービス以上に思っただろう。
「ワウト・ファンアールトが優勝候補本命」とは、優勝候補のトーマスまでその名前を口にしていたほど。なぜかといえば、当のファンアールトはこの2日間は第11ステージの平坦でも第12ステージのピレネー山岳でもまったく無理をせずに走り、グルペットの最高尾でフィニッシュしていた。事情がつかめない観客たちにとっては調子の悪さを心配されるほどの潔い遅れっぷりは、もちろん省エネ走行に徹することで今日のステージに脚を貯める作戦だった。ファンアールトは新人賞対象選手だが、それを追うよりももうひとつステージの勝利を増やすことを選んだ。何よりエースのクライスヴァイクのアシストという仕事もある。
しかし好走をみせていたファンアールトはバリアに引っかかり転倒。そのままリタイアへ。脚を深く切った怪我を負ったが、治療は無事成功。骨折はないという。
注目を浴びたファンアールトの3番手後方でスタートしたトーマス・デヘント(ロット・スーダル)は、特別注目を浴びない地味な様子は変わりなかったが、その時点でのトップタイムを出し、このTTでも脚があることを証明。ホットシートに長く座り続けた。結局は最後の2人が走り終わるまで。
午前の女子レース、ラ・コルスbyツール・ド・フランスでマリアンヌ・フォスがアタックして駆け上がったコース最終盤の最大勾配17%という激坂は、総合上位が軒並み揃う最終盤、アラフィリップが中間地点で好タイムを出し好走を続けているという情報に大盛り上がり。
「アレ!、ジュリアン!、アレ!、ジュリアン!!」の合唱で、バリアの広告ボードを揃って手で叩き、声を揃えての大合唱が始まった。もちろんロマン・バルデやティボー・ピノにも大声援。刻々と伝えられるレースの内容に熱狂している。フランス人観客がこんなに団結して盛り上がっている姿を見るのは何時ぶりだろう? 「トーマスとの1分12秒を守りきれるか否か」は、いつのまにか、「アリフィリップはマイヨジョーヌを守るどころかステージ優勝も持っていくんじゃないか?」
そしてタイム差の僅かなゲラント・トーマスが激坂区間に到達するやいなや、大合唱は心無いブーイングに変わる。それはいただけない、と思いつつも、すでにタイムを失っているベルナルには応援の声がかかるという、願っているのはアラフィリップのマイヨジョーヌ維持とステージ勝利ということが判りやすいほどに伝わってくる応援だ。
この激坂でのアラフィリップの走りは誰よりも凄かった。フレーシュ・ワロンヌのユイの壁で見せた あの勝利のアタックを思い出させる素早い身体の動きで、乗っているのがTTバイクということも感じさせない軽やかなダンシングで駆け上がった。前に通過したトーマスもベルナルも、頭を下げ、苦しんでいるのが見て取れた後だけに、その違いは歴然だった。それでもマイヨ・ジョーヌは維持できても、ステージ優勝までは無いだろう、と観客も思っていたかもしれない。
マイヨジョーヌ100周年を祝うその日に、フランス人選手がマイヨジョーヌを着てのステージ優勝とマイヨジョーヌの維持を決める。まさかそんなサプライズが待っていようとは。ツールの個人タイムトライアルでフランス人選手が優勝するのは、2001年のクリストフ・モロー以来18年ぶり。マイヨジョーヌを着たフランス人選手による個人タイムトライアルの勝利は、1984年のローラン・フィニョン以来35年ぶりのこととなる。
ポディウム・フォトコレールには、過去のマイヨジョーヌ着用経験者が集めら、登壇した。今日のために招待された方を含め、ブリュッセルでホストしたエディ・メルクス氏の姿も再び。すでにポディウムのプレゼンター役は退いているベルナール・イノー氏も。ひとりひとりの紹介があったわけではないので数人判らなかった方がいるが、登壇したのは次の方々(名前の判る範囲で)
イェンス・フォイクト、アンディ・シュレク、シリル・デッセル、ベルナール・テブネ、ヨープ・ズートメルク、トマ・ヴォクレール、ロナン・パンセック、シャーリー・モテ、セドリック・ヴァスール、グレッグ・レモン、ローラン・ジャラベール、シルヴァン・シャヴァネル、エディ・メルクス、ベルナール・イノー、そしてジュリアン・アラフィリップがそこに加わった。アルベルト・コンタドールはポディウム脇に居たものの、それを放送する方に回っていたのか登壇せず。日本でおなじみのジャン・フランソワ・ベルナールなども恥ずかしがっているのか、登壇せず。そんな方もまだまだ会場周辺に居そうだった。
今もメディアのコメンテーターやツール・ド・フランスのパートナーと呼ばれるスポンサー関係の仕事のVIP対応としてツールに帯同する仕事に就いている方も多い。用意された特版の大きなマイヨジョーヌにサインが集められた。
マイヨジョーヌ100周年が用意した記念式典は、思いがけず(主催者の予想以上に)盛り上がった。そして、明日からは再び山岳の厳しい戦いへと入る。総合争いの観点では、これからも変わらず「アラフィリップがどこまで耐えられるか、いつ遅れるのか」ということが焦点にはなるのだろう。長く厳しいピレネーとアルプスの難関山岳ステージで、グランツールで今までに総合争いをしたことがないアラフィリップはどこまで食らいつけるのか?
しかし今日トーマスとベルナルのイネオスの2人が見せた弱さと、対象的なアラフィリップの走りを見ると、JU JUは誰よりもフレッシュで絶好調、疲れ知らずに見える。昨年は山岳賞マイヨアポアを勝ち取った経験もすでにある。そしてドゥクーニンク・クイックステップはエンリク・マスの新人賞首位で、総合争いにおいては2人を揃える。
パリ・シャンゼリゼでベルナール・イノー以来のフランス人マイヨジョーヌ覇者が生まれるのか。マイヨ・ジョーヌ100周年の記念すべき年にそれが実現したら、それは出来すぎたストーリーだろう。今日のアラフィリップの勢いならもしや?と思ってしまう。黄色いジャージを着れば実力以上の力が発揮できるという、「マイヨジョーヌ・マジック」は続くのか。明日のトゥールマレー峠の頂上では、エマヌエル・マクロン仏共和国大統領がアラフィリップの到着を待つという。
text&photo:Makoto.AYANO in Pau, FRANCE
Amazon.co.jp
LE COQ SPORTIF(ルコック スポルティフ) 2019 ツールドフランス マイヨジョーヌ レプリカジャージ [Col(イエロー)]
LE COQ SPORTIF(ルコック スポルティフ)
LE COQ SPORTIF(ルコック スポルティフ) 2019 ツールドフランス マイヨジョーヌ レプリカジャージ [Grand Depart(イエロー)]
LE COQ SPORTIF(ルコック スポルティフ)