2019/07/09(火) - 16:28
ツール・ド・フランス第3ステージはベルギーを離れフランスへ。215kmのステージは後半にシャンパーニュ地方を訪れる。葡萄畑とシャンパンが、フランスでのツールを歓迎してくれる。レースを追いかけながらの現地レポート。
グランデパールで5日間を過ごしたブリュッセルから70km移動して、スタートの街となるバンシュへ。2013年と17年にフレーシュ・ワロンヌをホストした街であり、故フランク・ヴァンデンブルックのメモリアルレースのセミクラシック「バンシュ〜シメイ〜バンシュ」の開催地でもある。街には大きな6つのアマチュア自転車クラブがあり、ワンティ・グループゴベールの拠点でもあるだけに、地元の自転車関係者やサイクリストが多く集っていた。
第1ステージがエディ・メルクスとロンド・ファン・フラーンデレン由来のコースをとったのに対し、第3ステージはフランスに向かうもののアルデンヌクラシック風味を感じさせる。上りフィニッシュに対し、ペテル・サガン(ボーラ・ハンスグローエ)は「今日はラスト500mの勝負。脚があるヤツが勝つ」と言う。
ややオレンジがかった水玉模様に身を包み、ヘルメットまで水玉で揃え、金色のバイクを駆ることでもはやカラーコーディネイトとしてはすごい状態になっているGVAことグレッグ・ファンアーフェルマート(ベルギー、CCCチーム)は「今日のフィニッシュは間違いなく自分向き。ステージ勝利とマイヨアポアを着続けることのダブルを狙う」と意気込む。神経質にタイヤの空気を何度も確かめては、ホイールの状態をチェックする。
真剣なGVAの肩を叩き、激励のひと声をかけて通り過ぎるのは今季からグルパマ・FDJのジャージを着る元チームメイトのシュテファン・キュング。キュングは少し離れたディメンションデータのバスに元BMCで走ったマヌエル・クインツァートの姿を見つけると立ちどまり、そこに同じスイス人選手の「仲良しペア」のもうひとりミヒャエル・シェアー(CCCチーム)もやってきた。
ディメンションデータのスタッフとして働くBMCのテクニカル担当ステファノ・カッタイ氏、そしてマヌエル・クインツァート。つまり元BMC&スイスコネクションが顔を揃える。BMCレーシングはCCCチームに名を変えて、ワールドツアーチームとして継続したが、契約の時間的問題の狭間で分散してしまったメンバーも、こうしてツールの場での再会を喜び合う。
ツール・ド・フランスさいたまクリテリウムのスタッフが日本からやってきて、クリスティアン・プリュドム氏に各賞ジャージのカラーで折られた千羽鶴「鶴・ド・フランス」を手渡すセレモニーも催された。
今年は主催・運営体制の変更があるものの、さいたまクリテリウムは今年も続いて開催される。言うまでもなく今大会で活躍した選手に出場オファーが出されることになる。ちなみにASOからもリリースが配信されるので、世界各国メディアも自分たちにはあまり関係ないというスタンスながらも理解は深めている様子。彼らからはさいたま取材に行ってみたいという声をかけられる(ASOに言って欲しいが)。
バンシュをスタートするとすぐにフランスに入国することになる。国境検問もなく、目に見える境界線も手続きも感じさせない入国だが、しばらくすると風景もフランスの田園風景に切り替わるから不思議だ。
レース情報を伝える無線ラジオツールがベルギーのグランデパールを支えた各関係者の名前を順次上げながら御礼の言葉を述べ、最後を「メルシー、エディ」で締めくくった。エディ・メルクス氏の今回の仕事はこれにて終了。これからはフランスのツール・ド・フランスに戻る。
フランスに入国して、目指すはもっともフランスらしさを感じさせるシャンパーニュの村々。うねるような斜面に規則的な筋を描く葡萄畑。ラスト50kmになって切り替わった風景の美しさに息を呑む。
そして沿道では観客達があちこちでシャンパンを飲んで盛り上がっている...。
レースコースはシャンパーニュの葡萄畑の主要な地点を結ぶように敷かれ、通過する村ではどこもシャンパンのデコレーションがユニーク。写真を撮ろうと停まるたびに「この村のシャンパンを飲んで行け」とグラスを差し出される。しかしやはりレース随行中はNo Alcholと規則本にあり、お断りします(レース中でなくても運転中)。一帯に漂うアルコールのニオイは少し気になるものの、しかし沿道の人たちの酔っ払い方もどこか高貴な感じでけっして不快感は無かったのはさすがシャンパーニュと言うべきか。
上りフィニッシュのパンチ力で勝負が決まると予想していたステージで、早めに仕掛けたのはジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)。3級山岳ミュティニー峠でアタックし、ライバルたちを出し抜いた。先行するティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・スーダル)がパンクに苦しみ失速。頂上でホイール交換を待つ不運で独走になったが、独りとは思えないスピードを維持して逃げ切った。昨年の山岳賞ジャージを着ての逃げの再現で、掴んだのはマイヨジョーヌ!
フランス人にマイヨジョーヌをもたらしたアラフィリップの勝利のキーナンバーは5と85と7。2014年にトニー・ガロパンがミュルーズで獲得して以来、フランス人のマイヨジョーヌ獲得は5年ぶり。そして1919年にユージン・クリストフが初の着用者となって以来、通算で史上85人目のフランス人マイヨジョーヌ着用者に。
そして(ドゥクーニンク・)クイックステップはツール・ド・フランスに参戦したこれまでの過去7年間それぞれの大会で少なくとも1つ以上のステージ優勝を挙げたチームとなった。ちなみにカヴェンディッシュ、マルティン、トレンティン (2013)、トレンティン、マルティン(2014)、マルティン、スティバル、カヴェンディッシュ (2015)、キッテル、 (2016、2017)、ガヴィリア、アラフィリップ (2018)がそれらのチーム勝利だ。
アラフィリップの勝利を喜ぶドゥクーニンク・クイックステップのパトリック・ルフェーブルGMは、フレンチカンカンな(?)気取った帽子をかぶってすでにチームバスの前でご満悦。「Lou Lou(ルル)はやってくれたな。今日のお祝い? どうなるだろうね。我々は今夜シャンパーニュのホテルに泊まるからね。フランスでも最高のホテルなんだ。たぶんシャンパン5本ぐらいにとどめておくのかな? 誰かをドン・ペリニヨンを買いにやらせないとな」と静かに笑う。
ドゥクーニンク・クイックステップにはフィリップ・ジルベールの移籍の噂話が持ち上がったばかり。ロット・スーダルと驚きの3年契約という話が濃厚と、ベルギーメディアなど複数で出始めている。ジルベールが今ツール出場メンバーに選ばれなかったのは、チームからの契約更新をジルベールが拒んだからとの話も出ている。奇しくもドゥクーニンクとロットがキーを握ったこの日、その件についてルフェーブル氏はノーコメント。「そんな話よりクラッシュしてまだ走っているアスグリーンのことを心配してくれ」。
アラフィリップに出し抜かれたパンチャー&スプリンターたちがアップヒルスプリントで競り合う後方で、ティボー・ピノ(フランス、グルパマFDJ)、ティシュ・べノート(ベルギー、ロット・スーダル)に次いでエガン・ベルナル(コロンビア、チームイネオス)がフィニッシュ。そのあとは中切れがあり、ゲラント・トーマス(イギリス、チームイネオス)がフィニッシュ。その間、集団は割れたと判断されて、計時されたタイム差は5秒。
総合優勝争いをするメンバーではピノとベルナル(もしかするとべノートも)がパンチャーたちに食らいついた。ベルナルとトーマスの差5秒。ベルナルは総合6位でアラフィリップに+40秒。トーマスは総合7位で45秒。
ベルナルとトーマス、どちらがチームイネオスのリーダーになる? 昨年、フルームとトーマスに起こったことは、仲間割れの無い静かな覇権争い。それは結局は秒差が決めること。急坂よりも長くて厳しい山岳で勝負する二人だが、短い急坂の切れ味はベルナルのほうがトーマスよりも鋭かった。
text&photo:Makoto.AYANO in Epernay FRANCE
グランデパールで5日間を過ごしたブリュッセルから70km移動して、スタートの街となるバンシュへ。2013年と17年にフレーシュ・ワロンヌをホストした街であり、故フランク・ヴァンデンブルックのメモリアルレースのセミクラシック「バンシュ〜シメイ〜バンシュ」の開催地でもある。街には大きな6つのアマチュア自転車クラブがあり、ワンティ・グループゴベールの拠点でもあるだけに、地元の自転車関係者やサイクリストが多く集っていた。
第1ステージがエディ・メルクスとロンド・ファン・フラーンデレン由来のコースをとったのに対し、第3ステージはフランスに向かうもののアルデンヌクラシック風味を感じさせる。上りフィニッシュに対し、ペテル・サガン(ボーラ・ハンスグローエ)は「今日はラスト500mの勝負。脚があるヤツが勝つ」と言う。
ややオレンジがかった水玉模様に身を包み、ヘルメットまで水玉で揃え、金色のバイクを駆ることでもはやカラーコーディネイトとしてはすごい状態になっているGVAことグレッグ・ファンアーフェルマート(ベルギー、CCCチーム)は「今日のフィニッシュは間違いなく自分向き。ステージ勝利とマイヨアポアを着続けることのダブルを狙う」と意気込む。神経質にタイヤの空気を何度も確かめては、ホイールの状態をチェックする。
真剣なGVAの肩を叩き、激励のひと声をかけて通り過ぎるのは今季からグルパマ・FDJのジャージを着る元チームメイトのシュテファン・キュング。キュングは少し離れたディメンションデータのバスに元BMCで走ったマヌエル・クインツァートの姿を見つけると立ちどまり、そこに同じスイス人選手の「仲良しペア」のもうひとりミヒャエル・シェアー(CCCチーム)もやってきた。
ディメンションデータのスタッフとして働くBMCのテクニカル担当ステファノ・カッタイ氏、そしてマヌエル・クインツァート。つまり元BMC&スイスコネクションが顔を揃える。BMCレーシングはCCCチームに名を変えて、ワールドツアーチームとして継続したが、契約の時間的問題の狭間で分散してしまったメンバーも、こうしてツールの場での再会を喜び合う。
ツール・ド・フランスさいたまクリテリウムのスタッフが日本からやってきて、クリスティアン・プリュドム氏に各賞ジャージのカラーで折られた千羽鶴「鶴・ド・フランス」を手渡すセレモニーも催された。
今年は主催・運営体制の変更があるものの、さいたまクリテリウムは今年も続いて開催される。言うまでもなく今大会で活躍した選手に出場オファーが出されることになる。ちなみにASOからもリリースが配信されるので、世界各国メディアも自分たちにはあまり関係ないというスタンスながらも理解は深めている様子。彼らからはさいたま取材に行ってみたいという声をかけられる(ASOに言って欲しいが)。
バンシュをスタートするとすぐにフランスに入国することになる。国境検問もなく、目に見える境界線も手続きも感じさせない入国だが、しばらくすると風景もフランスの田園風景に切り替わるから不思議だ。
レース情報を伝える無線ラジオツールがベルギーのグランデパールを支えた各関係者の名前を順次上げながら御礼の言葉を述べ、最後を「メルシー、エディ」で締めくくった。エディ・メルクス氏の今回の仕事はこれにて終了。これからはフランスのツール・ド・フランスに戻る。
フランスに入国して、目指すはもっともフランスらしさを感じさせるシャンパーニュの村々。うねるような斜面に規則的な筋を描く葡萄畑。ラスト50kmになって切り替わった風景の美しさに息を呑む。
そして沿道では観客達があちこちでシャンパンを飲んで盛り上がっている...。
レースコースはシャンパーニュの葡萄畑の主要な地点を結ぶように敷かれ、通過する村ではどこもシャンパンのデコレーションがユニーク。写真を撮ろうと停まるたびに「この村のシャンパンを飲んで行け」とグラスを差し出される。しかしやはりレース随行中はNo Alcholと規則本にあり、お断りします(レース中でなくても運転中)。一帯に漂うアルコールのニオイは少し気になるものの、しかし沿道の人たちの酔っ払い方もどこか高貴な感じでけっして不快感は無かったのはさすがシャンパーニュと言うべきか。
上りフィニッシュのパンチ力で勝負が決まると予想していたステージで、早めに仕掛けたのはジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)。3級山岳ミュティニー峠でアタックし、ライバルたちを出し抜いた。先行するティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・スーダル)がパンクに苦しみ失速。頂上でホイール交換を待つ不運で独走になったが、独りとは思えないスピードを維持して逃げ切った。昨年の山岳賞ジャージを着ての逃げの再現で、掴んだのはマイヨジョーヌ!
フランス人にマイヨジョーヌをもたらしたアラフィリップの勝利のキーナンバーは5と85と7。2014年にトニー・ガロパンがミュルーズで獲得して以来、フランス人のマイヨジョーヌ獲得は5年ぶり。そして1919年にユージン・クリストフが初の着用者となって以来、通算で史上85人目のフランス人マイヨジョーヌ着用者に。
そして(ドゥクーニンク・)クイックステップはツール・ド・フランスに参戦したこれまでの過去7年間それぞれの大会で少なくとも1つ以上のステージ優勝を挙げたチームとなった。ちなみにカヴェンディッシュ、マルティン、トレンティン (2013)、トレンティン、マルティン(2014)、マルティン、スティバル、カヴェンディッシュ (2015)、キッテル、 (2016、2017)、ガヴィリア、アラフィリップ (2018)がそれらのチーム勝利だ。
アラフィリップの勝利を喜ぶドゥクーニンク・クイックステップのパトリック・ルフェーブルGMは、フレンチカンカンな(?)気取った帽子をかぶってすでにチームバスの前でご満悦。「Lou Lou(ルル)はやってくれたな。今日のお祝い? どうなるだろうね。我々は今夜シャンパーニュのホテルに泊まるからね。フランスでも最高のホテルなんだ。たぶんシャンパン5本ぐらいにとどめておくのかな? 誰かをドン・ペリニヨンを買いにやらせないとな」と静かに笑う。
ドゥクーニンク・クイックステップにはフィリップ・ジルベールの移籍の噂話が持ち上がったばかり。ロット・スーダルと驚きの3年契約という話が濃厚と、ベルギーメディアなど複数で出始めている。ジルベールが今ツール出場メンバーに選ばれなかったのは、チームからの契約更新をジルベールが拒んだからとの話も出ている。奇しくもドゥクーニンクとロットがキーを握ったこの日、その件についてルフェーブル氏はノーコメント。「そんな話よりクラッシュしてまだ走っているアスグリーンのことを心配してくれ」。
アラフィリップに出し抜かれたパンチャー&スプリンターたちがアップヒルスプリントで競り合う後方で、ティボー・ピノ(フランス、グルパマFDJ)、ティシュ・べノート(ベルギー、ロット・スーダル)に次いでエガン・ベルナル(コロンビア、チームイネオス)がフィニッシュ。そのあとは中切れがあり、ゲラント・トーマス(イギリス、チームイネオス)がフィニッシュ。その間、集団は割れたと判断されて、計時されたタイム差は5秒。
総合優勝争いをするメンバーではピノとベルナル(もしかするとべノートも)がパンチャーたちに食らいついた。ベルナルとトーマスの差5秒。ベルナルは総合6位でアラフィリップに+40秒。トーマスは総合7位で45秒。
ベルナルとトーマス、どちらがチームイネオスのリーダーになる? 昨年、フルームとトーマスに起こったことは、仲間割れの無い静かな覇権争い。それは結局は秒差が決めること。急坂よりも長くて厳しい山岳で勝負する二人だが、短い急坂の切れ味はベルナルのほうがトーマスよりも鋭かった。
text&photo:Makoto.AYANO in Epernay FRANCE
フォトギャラリー
Amazon.co.jp