2010/04/17(土) - 08:05
ヨーロッパのロードレースファンの関心は「北のクラシック」から「アルデンヌ・クラシック」へ。3連戦の幕開けを告げる第45回アムステル・ゴールドレース(UCUプロツアー)が、今年もオランダ南部の丘陵地帯で行なわれる。合計31カ所の急坂が登場する起伏に富んだコースを制するのは?
カウベルグに至る257kmのアップダウンコース
オランダと聞いて思い描くのは、チューリップが咲き、風車が穏やかに回る平原だ。確かに国土の大半は標高0メートル、もしくはそれ以下。国名Nederland(英語でNetherlands)が「低地の国」を意味するほど、国土の大部分は起伏に乏しい。
しかしそんなオランダ最大のロードレースであるアムステル・ゴールドレースは、上りが勝負の鍵を握る起伏溢れるレース。フレーシュ・ワロンヌ、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュと続くアルデンヌ3連戦がここから始まる。
オランダなのに起伏がある? それもそのはず、オランダはオランダでも、レース開催地は南部の丘陵地帯。ベルギーとドイツに隣接したリンブルグ州を駆け巡る大小3つの周回コースが設定される。登場する短い上りの数は31カ所。259kmのコースはアップダウンの連続だ。
特に終盤の小周回に登場するヴォルフスベルグ、クルイスベルグ、アイゼルボスウェグ、ケウテンベルグはいずれも急勾配で、上りでのアタックとカウンターアタックが集団の人数を減らしていく。文字通りサバイバルレースが展開される。
そして、最後はアムステル名物のカウベルグを駆け上がってゴール。この上りは大小3つの周回コースの起点に設定されているため、選手たちは計3回通過することになる。上りの長さは1450mで勾配は12%。この上りで激しいスプリント勝負が繰り広げられるのが通例で、例年沿道にはみっちり観客が詰めかける。
コースは全体的に道幅が狭く、「1000のカーブ」と呼ばれるほどコーナーが連続。アップダウンとワインディングの繰り返しは「ジェットコースター」のよう。これらの試練を“フレッシュな状態”で乗り越え、最後のカウベルグに全力をぶつけることが出来るかが勝負の分かれ道。一瞬の判断ミスが敗戦に繋がることもあり、アタックチャンスを感じ取る優れた嗅覚も問われる。ちなみにメインスポンサーのアムステル社はオランダのビール会社だ。
アルデンヌでは北のクラシックとはまた違った面々が活躍
先週まで開催されていた「北のクラシック」で活躍していたのは、平地に強い大柄なクラシックレーサーたち。一方、起伏に富んだアルデンヌでは、軽量級のクラシックレーサーが活躍する。
グランツールで総合上位を狙えるようなオールラウンダーも優勝候補に名を連ね、短い上りをこなす登坂力とスプリント力に長けた選手が毎年上位に絡む。レース終盤のアタックに反応し、最後まで先頭グループに食らいつくタフさが要求される。先頭グループでカウベルグに挑まない限りチャンスは回ってこない。
昨年はカウベルグの上りで少人数グループから飛び出したセルゲイ・イワノフ(ロシア、カチューシャ)が優勝。今年もカチューシャは強力な布陣でアムステルに挑む。アルデンヌ向きの選手が揃っていると言っていいだろう。
カチューシャには昨年リエージュ〜バストーニュ〜リエージュで2位に入り、今シーズンボルタ・ア・カタルーニャで総合優勝したホアキン・ロドリゲス(スペイン)の他、これまでロード世界選手権で銀メダルを2つ獲得しているアレクサンドル・コロブネフ(ロシア)が揃う。2008年のフレーシュ・ワロンヌ優勝者のキム・キルシェン(ルクセンブルク)はリザーブだ。
アルデンヌの優勝候補の筆頭は、やはりアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ)だろう。持ち前の登坂力とスプリント力を活かし、これまでフレーシュとリエージュで優勝。しかし何故かスペイン人はアムステルと相性が悪い。アムステルの表彰台に上ったことのあるスペイン人は、バルベルデ(2008年3位)一人だけだ。
バルベルデは今年、ツアー・メディテラネアンで総合優勝を飾っているものの、その後は2位が連続。パリ〜ニース2位、GPミゲール・インドゥライン2位、そしてブエルタ・アル・パイスバスコ総合2位(ステージ2勝)。現在ワールドランキング1位のルイスレオン・サンチェス(スペイン)とともに、アムステル初制覇を目指す。
昨年リエージュを圧倒的な力で制したアンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)は、兄のフランク・シュレク(ルクセンブルク)と揃って出場。兄のフランクは2006年大会の優勝者であり、2008年大会でも2位に入るなど相性がいい。
しかし今年は弟アンディがアムステル制覇に決意を新たにしている。なお、ロンドとルーベで優勝したファビアン・カンチェラーラ(スイス)は疲労を理由に出場をキャンセルした。
地元オランダ人が望んでいるのは、もちろんオランダ人によるアムステル制覇。オランダ人の優勝者は2001年のエリック・デッケル以降出て来ていない。しかし昨年は2位にカルステン・クローン(オランダ、BMCレーシングチーム)、3位にロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)が入り、オランダの復権を予感させた。
クローンは今年、世界チャンピオンのカデル・エヴァンス(オーストラリア)を従えて、ヘーシンクはオスカル・フレイレ(スペイン)を従えての出場だ。
昨年、シーズン終盤にジロ・ディ・ロンバルディアを制すなど、怒濤の活躍を見せたフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)もアップダウンに強いクラシックレーサー。昨年ジルベールはアムステルで4位に入っている。今年はダニエル・モレーノ(スペイン)という心強い伴侶を得た。
2008年のツール・ド・フランス覇者カルロス・サストレ(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)は、今シーズンここまで目立った成績を残していない。シーズン前半の目標であるジロ・デ・イタリアに向けてそろそろ調子を上げておきたいところ。
2004年に22歳の若さでジロ・デ・イタリアを制し、現在はワンディクラシックを中心に活躍するダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ)は、2008年大会の優勝者。しかしウィルス性の疾患により少し調子を落としている。元チームメイトのエンリーコ・ガスパロット(イタリア)は現在アスタナのエース格だ。
アウトサイダーとしてはロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス)やサイモン・ジェランス(オーストラリア、チームスカイ)シルヴァン・シャヴァネル(フランス、クイックステップ)、ビョルン・ルークマンス(ベルギー、ヴァカンソレイユ)らが有力か。昨年は新城幸也(Bboxブイグテレコム)の逃げに沸いたアムステルだが、残念ながら今年は日本人選手出場の予定は無い。
シクロワイアードではアムステル・ゴールドレースのテキストライブを4月18日(日)21時頃からお送りする予定です!!
text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos
カウベルグに至る257kmのアップダウンコース
オランダと聞いて思い描くのは、チューリップが咲き、風車が穏やかに回る平原だ。確かに国土の大半は標高0メートル、もしくはそれ以下。国名Nederland(英語でNetherlands)が「低地の国」を意味するほど、国土の大部分は起伏に乏しい。
しかしそんなオランダ最大のロードレースであるアムステル・ゴールドレースは、上りが勝負の鍵を握る起伏溢れるレース。フレーシュ・ワロンヌ、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュと続くアルデンヌ3連戦がここから始まる。
オランダなのに起伏がある? それもそのはず、オランダはオランダでも、レース開催地は南部の丘陵地帯。ベルギーとドイツに隣接したリンブルグ州を駆け巡る大小3つの周回コースが設定される。登場する短い上りの数は31カ所。259kmのコースはアップダウンの連続だ。
特に終盤の小周回に登場するヴォルフスベルグ、クルイスベルグ、アイゼルボスウェグ、ケウテンベルグはいずれも急勾配で、上りでのアタックとカウンターアタックが集団の人数を減らしていく。文字通りサバイバルレースが展開される。
そして、最後はアムステル名物のカウベルグを駆け上がってゴール。この上りは大小3つの周回コースの起点に設定されているため、選手たちは計3回通過することになる。上りの長さは1450mで勾配は12%。この上りで激しいスプリント勝負が繰り広げられるのが通例で、例年沿道にはみっちり観客が詰めかける。
コースは全体的に道幅が狭く、「1000のカーブ」と呼ばれるほどコーナーが連続。アップダウンとワインディングの繰り返しは「ジェットコースター」のよう。これらの試練を“フレッシュな状態”で乗り越え、最後のカウベルグに全力をぶつけることが出来るかが勝負の分かれ道。一瞬の判断ミスが敗戦に繋がることもあり、アタックチャンスを感じ取る優れた嗅覚も問われる。ちなみにメインスポンサーのアムステル社はオランダのビール会社だ。
アルデンヌでは北のクラシックとはまた違った面々が活躍
先週まで開催されていた「北のクラシック」で活躍していたのは、平地に強い大柄なクラシックレーサーたち。一方、起伏に富んだアルデンヌでは、軽量級のクラシックレーサーが活躍する。
グランツールで総合上位を狙えるようなオールラウンダーも優勝候補に名を連ね、短い上りをこなす登坂力とスプリント力に長けた選手が毎年上位に絡む。レース終盤のアタックに反応し、最後まで先頭グループに食らいつくタフさが要求される。先頭グループでカウベルグに挑まない限りチャンスは回ってこない。
昨年はカウベルグの上りで少人数グループから飛び出したセルゲイ・イワノフ(ロシア、カチューシャ)が優勝。今年もカチューシャは強力な布陣でアムステルに挑む。アルデンヌ向きの選手が揃っていると言っていいだろう。
カチューシャには昨年リエージュ〜バストーニュ〜リエージュで2位に入り、今シーズンボルタ・ア・カタルーニャで総合優勝したホアキン・ロドリゲス(スペイン)の他、これまでロード世界選手権で銀メダルを2つ獲得しているアレクサンドル・コロブネフ(ロシア)が揃う。2008年のフレーシュ・ワロンヌ優勝者のキム・キルシェン(ルクセンブルク)はリザーブだ。
アルデンヌの優勝候補の筆頭は、やはりアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ)だろう。持ち前の登坂力とスプリント力を活かし、これまでフレーシュとリエージュで優勝。しかし何故かスペイン人はアムステルと相性が悪い。アムステルの表彰台に上ったことのあるスペイン人は、バルベルデ(2008年3位)一人だけだ。
バルベルデは今年、ツアー・メディテラネアンで総合優勝を飾っているものの、その後は2位が連続。パリ〜ニース2位、GPミゲール・インドゥライン2位、そしてブエルタ・アル・パイスバスコ総合2位(ステージ2勝)。現在ワールドランキング1位のルイスレオン・サンチェス(スペイン)とともに、アムステル初制覇を目指す。
昨年リエージュを圧倒的な力で制したアンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)は、兄のフランク・シュレク(ルクセンブルク)と揃って出場。兄のフランクは2006年大会の優勝者であり、2008年大会でも2位に入るなど相性がいい。
しかし今年は弟アンディがアムステル制覇に決意を新たにしている。なお、ロンドとルーベで優勝したファビアン・カンチェラーラ(スイス)は疲労を理由に出場をキャンセルした。
地元オランダ人が望んでいるのは、もちろんオランダ人によるアムステル制覇。オランダ人の優勝者は2001年のエリック・デッケル以降出て来ていない。しかし昨年は2位にカルステン・クローン(オランダ、BMCレーシングチーム)、3位にロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)が入り、オランダの復権を予感させた。
クローンは今年、世界チャンピオンのカデル・エヴァンス(オーストラリア)を従えて、ヘーシンクはオスカル・フレイレ(スペイン)を従えての出場だ。
昨年、シーズン終盤にジロ・ディ・ロンバルディアを制すなど、怒濤の活躍を見せたフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)もアップダウンに強いクラシックレーサー。昨年ジルベールはアムステルで4位に入っている。今年はダニエル・モレーノ(スペイン)という心強い伴侶を得た。
2008年のツール・ド・フランス覇者カルロス・サストレ(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)は、今シーズンここまで目立った成績を残していない。シーズン前半の目標であるジロ・デ・イタリアに向けてそろそろ調子を上げておきたいところ。
2004年に22歳の若さでジロ・デ・イタリアを制し、現在はワンディクラシックを中心に活躍するダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ)は、2008年大会の優勝者。しかしウィルス性の疾患により少し調子を落としている。元チームメイトのエンリーコ・ガスパロット(イタリア)は現在アスタナのエース格だ。
アウトサイダーとしてはロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス)やサイモン・ジェランス(オーストラリア、チームスカイ)シルヴァン・シャヴァネル(フランス、クイックステップ)、ビョルン・ルークマンス(ベルギー、ヴァカンソレイユ)らが有力か。昨年は新城幸也(Bboxブイグテレコム)の逃げに沸いたアムステルだが、残念ながら今年は日本人選手出場の予定は無い。
シクロワイアードではアムステル・ゴールドレースのテキストライブを4月18日(日)21時頃からお送りする予定です!!
text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos