2019/06/09(日) - 12:15
ピナレロのグラベルロード「GREVIL+」をインプレッション。東レのT1100カーボンを使用したハイパフォーマンスな走行性能や、スケッチを元に形状を煮詰めたアグレッシブなフレームデザインが大きな特徴。グラベルカテゴリーにもピナレロのDNAを色濃く取り入れた1台に仕上がる。
常にプロライダーの高い要求に応える先進的でハイパフォーマンスなバイクを生み出し続けてきたピナレロ。チームスカイ(現在はチームイネオス)によるワールドツアーでの勝利は数知れず。ロードバイクのフラッグシップモデル「DOGMA」シリーズは世界最高峰のバイクの一つと言えるだろう。そんなレーシングブランドのフィロソフィーをグラベルロードに落とし込み誕生したのが「GREVIL+」だ。
最高の性能を探求し続けるピナレロの開発エンジニアが、グラベルロードに本気で取り組んだ形がこの1台。ゆったりまったりキャンプツーリングを楽しむモデルでは決してなく、ハイパフォーマンスを信条とするピナレロのDNAが色濃く反映された高性能グラベルロードに仕上がっている。バイクパッキングへの拡張性などのユーティリティは削ぎ落とした、あくまでも高速の走りを楽しむバイクと言える。
ブランド初のグラベルロード開発に取り掛かるに当たり、まずはグラベルライディングにどういった性能が必要なのかを細かく分析。アスファルトからマッドコンディションまで幅広い路面や地形に対応していること、長距離ツーリングもこなせる快適性を持っていること、そして時にアグレッシブに走るための反応性を有していることを念頭に置いて開発が進められた。
機能性だけでなく、デザインにもこだわりを散りばめるのはイタリアンブランドならでは。戦闘機のような見た目をしたスケッチイラストを元にフレームデザインを煮詰めていったといい、ピナレロらしいアグレッシブなルックスも大きな特徴だ。パソコンによるシミュレーションだけでフレーム形状を決定していくブランドとは一線を画すやり方だろう。
そんなGREVIL+はグラベルライドのために完全新設計されたジオメトリーを採用。リーチは短くすることでハンドリング性能を向上させ、スタックを伸ばすことでリラックスポジションを推進。加えてヘッドアングルは寝かせることで、グラベルでの走行安定性を向上させ、振動吸収性も向上させている。
一般的にグラベルロードはホイールベースを伸ばすことで安定性の強化を図るが、それは同時にバイクの反応性を悪化させる。そのため、GREVIL+では安定性と反応性の両立を目指し、ホイールベースの増加量をロードバイクと比較して2.5%までに留めている。シートチューブアングルもロードバイクと比較して寝かせ気味とし、加えてシートポスト自体も振動吸収性に優れたFlexタイプを使用することで、路面からの突き上げを低減している。
ピナレロが代々受け継ぐアシンメトリーなフレーム設計を引き続き採用し、リアトライアングルはもちろんダウンチューブやBB周辺部まで左右非対称の造形に。ワイドなタイヤクリアランスを確保するためドライブ側のチェーンステーは下方向にオフセット。それに対応するように、同じくドライブ側のシートステーもシートチューブとの接合位置を下げており、左右のデザインを変化させることで応力分散のバランスを取っている。
フレーム素材はピナレロのみに独占供給される東レのT1100 1Kカーボンを使用しており、ロードレーシングモデルと違わない高性能な走りを実現。DOGMAシリーズから受け継ぐエアロフォルムを各所に取り入れ、ボトル取付部を窪ませた「Concaveダウンチューブ」やフロントフォーク先端の「フォークフラップ」によって整流効果を生み出す。またチェーンステーを扁平させた「フレックスステイ」テクノロジーによって振動吸収性を高めている。
泥や埃の付着を避けるためブレーキホースやシフトケーブルは内装仕様に。またシートクランプもボルトの泥づまりを考慮して、DOGMAのようにシートチューブ後方から締め込むタイプではなく、上側からボルトを締め込む臼式のものを採用している。かつグラベルライドの負荷に対応できるよう、クランプ面積を42%増やしたFSCクランプとすることで固定力を高めている。
積載容量を増やすためにダウンチューブ下にもボトルケージ台座を配置。ドリンクボトルの3本装備も可能だ。また、フロントディレイラー台座が取り外し可能となっており、ライドシーンや好みに応じてフロントギアをシングル/ダブルから選ぶことができる。
ホイールは700Cと650B(27.5インチ)の2サイズに対応し、前者では25mm~42mm幅まで、後者では2.1インチ幅まで装着可能なタイヤクリアランスを備えている。ホイールやタイヤチョイスによって様々な走り方に対応するだろう。フレームサイズは44~59cmまでの豊富な6サイズを用意。各サイズごとに最適な剛性感やジオメトリーを実現するMade4Youコンセプトが採用されており、操作性や踏み心地など適正化も図られている。
GREVIL+はフレームセットで販売され価格は54万円(税抜)。カーボングレードをT700 UDカーボンに変更したGREVILもラインアップする。今回はスラムのForceワンバイコンポーネントで組まれた試乗車にてテストした。オフロード遊びに造詣の深いライズライドの鈴木祐一店長がインプレッション。
― インプレッション
「グラベルロードながらレーシングな走りを楽しむための1台」鈴木祐一(ライズライド)
数あるグラベルバイクの中でも最もレース志向の強い一台と言えますね。フレームの剛性も強く、大きいギアを掛けた時の反応の早さ、それから回転力を維持しやすいフレームの硬さなど、ピナレロのロードレーサーをグラベルバイクに置き換えたものというイメージそのもの。ペダリングに関する味付けは、ガンガン踏んでいくためだと感じます。
つまり、グラベルバイクだからといって振動吸収性能を重視しているわけじゃない。積極的に振動を吸収するタイプでは無く、ライダー側のアクションで凹凸をいなすことが求められますね。フワフワしていないので路面状況を掴みやすいという側面もありますが、やっぱりそういう意味でもレーサーバイクと言えるでしょう。
グラベルバイクは、例えばロードレーサーのギアを変えるように、状況やコースに応じて様々なタイヤセッティングを行うことが可能です。しかしこのグレヴィルは速く走るためを考えられていますし、そういう目的、使い方に合わせたセッティングをしてあげるのが吉でしょう。硬質な乗り味からは、”間違ってもバイクパッキング用じゃない”という開発者のメッセージが伝わってきます。
乗り味としてはピナレロのロードバイクに近いのですが、それでいてロードバイクに無理やり太いタイヤを履かせてグラベルを走るようなピーキーさが無いのは流石というべきでしょうか。ハンドリングにも癖はありませんし、グラベルレーサーとしての性能はまとまっているように感じます。
今回のインプレッションではピナレロのシクロクロスバイクも試しましたが、そちらはレース中に何百回とスプリントを繰り返すシクロクロスレースのために作られた柔らかい乗り味でした。それだけにこのグレヴィルとの味付けの差は印象的です。グラベルレースはシクロクロスのようなインターバルでは無く、もう少しロードレース的、あるいはよりエンデュランス的に踏み続けるものだと考えれば、このような乗り味になったことはよく理解できます。単純な価格としては非常に高価であるものの、興味深い、面白い一台でした。
ピナレロ GREVIL+
フレーム:TORAYCA T1100 1Kカーボン
フォーク:デディケイテッドONDAフォーク
BB:イタリアンスレッド
カラー:508 カーボン/ペトロール、294 BOB、268 カーボンバーティゴブルー
サイズ:44、47、50、53、56、59(cm)
価 格:540,000円(税抜、フレームセット)
インプレッションライダーのプロフィール
鈴木祐一(RiseRide)
サイクルショップ・ライズライド代表。バイシクルトライアル、シクロクロス、MTB-XCの3つで世界選手権日本代表となった経歴を持つ。元ブリヂストンMTBクロスカントリーチーム選手としても活躍した。2007年春、神奈川県橋本市にショップをオープン。クラブ員ともにバイクライドを楽しみながらショップを経営中。シクロクロスやMTBなど、各種レースにも参戦している。セルフディスカバリー王滝100Km覇者。
サイクルショップ・ライズライドHP
text:Yuto.Murata
photo:Makoto.AYANO
常にプロライダーの高い要求に応える先進的でハイパフォーマンスなバイクを生み出し続けてきたピナレロ。チームスカイ(現在はチームイネオス)によるワールドツアーでの勝利は数知れず。ロードバイクのフラッグシップモデル「DOGMA」シリーズは世界最高峰のバイクの一つと言えるだろう。そんなレーシングブランドのフィロソフィーをグラベルロードに落とし込み誕生したのが「GREVIL+」だ。
最高の性能を探求し続けるピナレロの開発エンジニアが、グラベルロードに本気で取り組んだ形がこの1台。ゆったりまったりキャンプツーリングを楽しむモデルでは決してなく、ハイパフォーマンスを信条とするピナレロのDNAが色濃く反映された高性能グラベルロードに仕上がっている。バイクパッキングへの拡張性などのユーティリティは削ぎ落とした、あくまでも高速の走りを楽しむバイクと言える。
ブランド初のグラベルロード開発に取り掛かるに当たり、まずはグラベルライディングにどういった性能が必要なのかを細かく分析。アスファルトからマッドコンディションまで幅広い路面や地形に対応していること、長距離ツーリングもこなせる快適性を持っていること、そして時にアグレッシブに走るための反応性を有していることを念頭に置いて開発が進められた。
機能性だけでなく、デザインにもこだわりを散りばめるのはイタリアンブランドならでは。戦闘機のような見た目をしたスケッチイラストを元にフレームデザインを煮詰めていったといい、ピナレロらしいアグレッシブなルックスも大きな特徴だ。パソコンによるシミュレーションだけでフレーム形状を決定していくブランドとは一線を画すやり方だろう。
そんなGREVIL+はグラベルライドのために完全新設計されたジオメトリーを採用。リーチは短くすることでハンドリング性能を向上させ、スタックを伸ばすことでリラックスポジションを推進。加えてヘッドアングルは寝かせることで、グラベルでの走行安定性を向上させ、振動吸収性も向上させている。
一般的にグラベルロードはホイールベースを伸ばすことで安定性の強化を図るが、それは同時にバイクの反応性を悪化させる。そのため、GREVIL+では安定性と反応性の両立を目指し、ホイールベースの増加量をロードバイクと比較して2.5%までに留めている。シートチューブアングルもロードバイクと比較して寝かせ気味とし、加えてシートポスト自体も振動吸収性に優れたFlexタイプを使用することで、路面からの突き上げを低減している。
ピナレロが代々受け継ぐアシンメトリーなフレーム設計を引き続き採用し、リアトライアングルはもちろんダウンチューブやBB周辺部まで左右非対称の造形に。ワイドなタイヤクリアランスを確保するためドライブ側のチェーンステーは下方向にオフセット。それに対応するように、同じくドライブ側のシートステーもシートチューブとの接合位置を下げており、左右のデザインを変化させることで応力分散のバランスを取っている。
フレーム素材はピナレロのみに独占供給される東レのT1100 1Kカーボンを使用しており、ロードレーシングモデルと違わない高性能な走りを実現。DOGMAシリーズから受け継ぐエアロフォルムを各所に取り入れ、ボトル取付部を窪ませた「Concaveダウンチューブ」やフロントフォーク先端の「フォークフラップ」によって整流効果を生み出す。またチェーンステーを扁平させた「フレックスステイ」テクノロジーによって振動吸収性を高めている。
泥や埃の付着を避けるためブレーキホースやシフトケーブルは内装仕様に。またシートクランプもボルトの泥づまりを考慮して、DOGMAのようにシートチューブ後方から締め込むタイプではなく、上側からボルトを締め込む臼式のものを採用している。かつグラベルライドの負荷に対応できるよう、クランプ面積を42%増やしたFSCクランプとすることで固定力を高めている。
積載容量を増やすためにダウンチューブ下にもボトルケージ台座を配置。ドリンクボトルの3本装備も可能だ。また、フロントディレイラー台座が取り外し可能となっており、ライドシーンや好みに応じてフロントギアをシングル/ダブルから選ぶことができる。
ホイールは700Cと650B(27.5インチ)の2サイズに対応し、前者では25mm~42mm幅まで、後者では2.1インチ幅まで装着可能なタイヤクリアランスを備えている。ホイールやタイヤチョイスによって様々な走り方に対応するだろう。フレームサイズは44~59cmまでの豊富な6サイズを用意。各サイズごとに最適な剛性感やジオメトリーを実現するMade4Youコンセプトが採用されており、操作性や踏み心地など適正化も図られている。
GREVIL+はフレームセットで販売され価格は54万円(税抜)。カーボングレードをT700 UDカーボンに変更したGREVILもラインアップする。今回はスラムのForceワンバイコンポーネントで組まれた試乗車にてテストした。オフロード遊びに造詣の深いライズライドの鈴木祐一店長がインプレッション。
― インプレッション
「グラベルロードながらレーシングな走りを楽しむための1台」鈴木祐一(ライズライド)
数あるグラベルバイクの中でも最もレース志向の強い一台と言えますね。フレームの剛性も強く、大きいギアを掛けた時の反応の早さ、それから回転力を維持しやすいフレームの硬さなど、ピナレロのロードレーサーをグラベルバイクに置き換えたものというイメージそのもの。ペダリングに関する味付けは、ガンガン踏んでいくためだと感じます。
つまり、グラベルバイクだからといって振動吸収性能を重視しているわけじゃない。積極的に振動を吸収するタイプでは無く、ライダー側のアクションで凹凸をいなすことが求められますね。フワフワしていないので路面状況を掴みやすいという側面もありますが、やっぱりそういう意味でもレーサーバイクと言えるでしょう。
グラベルバイクは、例えばロードレーサーのギアを変えるように、状況やコースに応じて様々なタイヤセッティングを行うことが可能です。しかしこのグレヴィルは速く走るためを考えられていますし、そういう目的、使い方に合わせたセッティングをしてあげるのが吉でしょう。硬質な乗り味からは、”間違ってもバイクパッキング用じゃない”という開発者のメッセージが伝わってきます。
乗り味としてはピナレロのロードバイクに近いのですが、それでいてロードバイクに無理やり太いタイヤを履かせてグラベルを走るようなピーキーさが無いのは流石というべきでしょうか。ハンドリングにも癖はありませんし、グラベルレーサーとしての性能はまとまっているように感じます。
今回のインプレッションではピナレロのシクロクロスバイクも試しましたが、そちらはレース中に何百回とスプリントを繰り返すシクロクロスレースのために作られた柔らかい乗り味でした。それだけにこのグレヴィルとの味付けの差は印象的です。グラベルレースはシクロクロスのようなインターバルでは無く、もう少しロードレース的、あるいはよりエンデュランス的に踏み続けるものだと考えれば、このような乗り味になったことはよく理解できます。単純な価格としては非常に高価であるものの、興味深い、面白い一台でした。
ピナレロ GREVIL+
フレーム:TORAYCA T1100 1Kカーボン
フォーク:デディケイテッドONDAフォーク
BB:イタリアンスレッド
カラー:508 カーボン/ペトロール、294 BOB、268 カーボンバーティゴブルー
サイズ:44、47、50、53、56、59(cm)
価 格:540,000円(税抜、フレームセット)
インプレッションライダーのプロフィール
鈴木祐一(RiseRide)
サイクルショップ・ライズライド代表。バイシクルトライアル、シクロクロス、MTB-XCの3つで世界選手権日本代表となった経歴を持つ。元ブリヂストンMTBクロスカントリーチーム選手としても活躍した。2007年春、神奈川県橋本市にショップをオープン。クラブ員ともにバイクライドを楽しみながらショップを経営中。シクロクロスやMTBなど、各種レースにも参戦している。セルフディスカバリー王滝100Km覇者。
サイクルショップ・ライズライドHP
text:Yuto.Murata
photo:Makoto.AYANO
リンク
Amazon.co.jp