2010/04/15(木) - 15:01
石畳を走ることが特徴的な北のクラシック全三戦を闘ったバイクをクローズアップして紹介しよう。荒れた路面からの振動や、砂、泥を克服する工夫が凝らされているバイクは、他のレースでは類を見ないチューンナップが施されている。
ベルギーとフランス北部で行われるヘント~ウェベルヘム、ロンド・ファン・フラーンデレン、パリ~ルーベの3戦は通称「北のクラシック」と呼ばれ、高いステータスを誇る。
硬いブロック状の石を敷き詰めたパヴェ(石畳)や、通常走らないような悪路の急坂を走ることもあって、選手たちの乗るバイクにも振動や負荷が大きくかかる。これらに有効に対処することがメカニックたちの腕の見せどころだ。
エースクラスに用意されたスペシャルバイク
カンチェラーラのスペシャライズド S-Works Roubaix プロトタイプ
普段使用するバイクをパヴェ仕様にチューンすることが一般的だが、勝負をかける選手のいるチーム、あるいはエースライダーには特別製のバイクが供給されることがある。それらはプロトタイプである場合や、次期製品のテストを兼ねることもある。
ファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)は黒い無塗装のスペシャライズドのバイクでパリ~ルーベに現れた。同社に「ルーベ」というパヴェ対策の施された製品シリーズがあるが、カンチェラーラが駆ったのは間違いなくその次期モデルのプロトだろう。振動吸収に優れた樹脂エラストマー"ゼルツ"をフォークやシートステイなど随所に仕込んだフレームは一目でそれとわかる。
2007年にトム・ボーネン(クイックステップ)がパリ~ルーべに勝利した際も、現行S-Works Roubaix プロトタイプが投入され、勝利を収めた。スペシャライズドにとってパリ~ルーベはRoubaixの有効性を実証する最高のフィールドテストなのだ。まして乗った選手が勝ってチャンピオンになれば、その優秀性は実証される。一方で機材トラブルで勝利を失う危険があることを考えると、リスクを顧みないその姿勢はメーカーの製品への自信の表れと言えそうだ。
プロトとRoubaix現行モデルとの違いは、ケーブルが内蔵処理されていることだろう。他にどんなテクノロジーで進化しているのかは新製品の発表を待ちたいところだ。
フレチャのピナレロ・KOBH 60.1
優勝候補に挙げられていたフアンアントニオ・フレチャ(スペイン、チームスカイ)はピナレロ・KOBH 60.1という新機材を投入した。北のクラシックウィークに突入する直前にはピナレロ社から情報を得ていたが、お目見えしたのはほぼ当日のこと。ドグマに似たフォルムだが、よく見れば細部は違っている。
まずシートステイなどのバックステーが細身になっていること。当然振動性を高める工夫だろう。タイヤとのクリアランスもドグマより大きそうだ。
このクラスのカーボンバイクはいきなりたくさんは作れない。もうひとチームのケースデパーニュはドグマまたはピナレロのシクロクロス車を用意(ドグマはプリンスよりも振動吸収性に優れるバイクだ)。
KOBH 60.1は優勝候補フレチャのいるチームスカイに優先供給されたようだ。
市販化はあるのか? また、モデル名「KOBH」とは? これも発表を待ちたい。
チームスカイは通常通りほぼ全員がシマノの電動メカ デュラエース7980Di-2を使用した。もはや信頼性に疑問のつくレベルではなく、あえて選ばれる信頼度を獲得しているようだ。
他にもレディオシャックは外観上はまったくマドンのチームモデルに見えながらもタイヤクリアランスの大きなパヴェスペシャルを用意。金属フレームでは比較的用意な仕様変更だが、カーボンフレームでは大変なコストがかかるだろう。
キャノンデールがスポンサードするリクイガスはシナプスを投入。このモデルもグランフォンド(ロングライド)向きであるため、振動吸収性に優れるのが特徴だ。スコットがスポンサードするチームHTCコロンビアは普段アディクトに乗るが、あえて1グレード下げたアディクトR1ノーマルシートポスト仕様を選択。
ドイツのブランドであるサイレンス・ロットはキャニオンのノーマルバイクを選択。他のモデルも多く取り揃えるブランドだが、とくにノーマルのロードバイクを選択しているように見えた。
コルナゴがサポートするBBoxブイグテレコムやリドレーがサポートするカチューシャはカンティブレーキ仕様のシクロクロスバイクを選択。ともにシクロクロスを得意とするブランドだけに、ロードレースでも使用できる性能に自信があるのだろう。
ボーネンの駆ったエディメルクス EMX-1
昨年覇者のトム・ボーネンは通常ロードレースで使うエディメルクス EMX-5のロードバイクで走った。ステイン・デヴォルデルはレース中にスカンジウムのAMX-1に乗っていたシーンが有ったが、振動吸収に優れたモデルだ。しかしスペアバイクなのか最初からの選択なのかは不明だ。
スポークホイール&チューブラーが圧倒的多数 タイヤ&ホイールの選択
スペシャルな色合いが最も濃いのはタイヤおよびホイールまわりだろう。完成ホイールが主流の今も、各チームがこぞって使うのはアンブロッシオ・ネメシス等のノーマルチューブラーリムにノーマルスポークの組み合わせの、手組みホイールだ。クロス組のスポークホイールはもちろん振動吸収性に優れる。
タイヤはFMB社製がエースクラスの選手のホイールに使われる。コットンやセタ(絹)をコードに使用した手造りのタイヤは27mm程と太く、空気量が多く、クッション性に優れる。パンクにも強いため、好んで使用される。
体重や乗り方にも左右されるが、空気圧は5気圧~6気圧程度。天然ゴムを用いたチューブは空気が抜けるが、そのことも計算に入れてセットされる。
優勝したカンチェラーラはZipp製のディープリムの完成ホイールを用いた。カーボンリムの中ではやや振動吸収性に優れる製品であるとはいえ、割れるリスクは金属リムよりも高い。ひとり逃げの際の高速巡航性を重視した選択だったのだろう。
photo:Sonoko.TANAKA
text:Makoto.AYANO
ベルギーとフランス北部で行われるヘント~ウェベルヘム、ロンド・ファン・フラーンデレン、パリ~ルーベの3戦は通称「北のクラシック」と呼ばれ、高いステータスを誇る。
硬いブロック状の石を敷き詰めたパヴェ(石畳)や、通常走らないような悪路の急坂を走ることもあって、選手たちの乗るバイクにも振動や負荷が大きくかかる。これらに有効に対処することがメカニックたちの腕の見せどころだ。
エースクラスに用意されたスペシャルバイク
カンチェラーラのスペシャライズド S-Works Roubaix プロトタイプ
普段使用するバイクをパヴェ仕様にチューンすることが一般的だが、勝負をかける選手のいるチーム、あるいはエースライダーには特別製のバイクが供給されることがある。それらはプロトタイプである場合や、次期製品のテストを兼ねることもある。
ファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)は黒い無塗装のスペシャライズドのバイクでパリ~ルーベに現れた。同社に「ルーベ」というパヴェ対策の施された製品シリーズがあるが、カンチェラーラが駆ったのは間違いなくその次期モデルのプロトだろう。振動吸収に優れた樹脂エラストマー"ゼルツ"をフォークやシートステイなど随所に仕込んだフレームは一目でそれとわかる。
2007年にトム・ボーネン(クイックステップ)がパリ~ルーべに勝利した際も、現行S-Works Roubaix プロトタイプが投入され、勝利を収めた。スペシャライズドにとってパリ~ルーベはRoubaixの有効性を実証する最高のフィールドテストなのだ。まして乗った選手が勝ってチャンピオンになれば、その優秀性は実証される。一方で機材トラブルで勝利を失う危険があることを考えると、リスクを顧みないその姿勢はメーカーの製品への自信の表れと言えそうだ。
プロトとRoubaix現行モデルとの違いは、ケーブルが内蔵処理されていることだろう。他にどんなテクノロジーで進化しているのかは新製品の発表を待ちたいところだ。
フレチャのピナレロ・KOBH 60.1
優勝候補に挙げられていたフアンアントニオ・フレチャ(スペイン、チームスカイ)はピナレロ・KOBH 60.1という新機材を投入した。北のクラシックウィークに突入する直前にはピナレロ社から情報を得ていたが、お目見えしたのはほぼ当日のこと。ドグマに似たフォルムだが、よく見れば細部は違っている。
まずシートステイなどのバックステーが細身になっていること。当然振動性を高める工夫だろう。タイヤとのクリアランスもドグマより大きそうだ。
このクラスのカーボンバイクはいきなりたくさんは作れない。もうひとチームのケースデパーニュはドグマまたはピナレロのシクロクロス車を用意(ドグマはプリンスよりも振動吸収性に優れるバイクだ)。
KOBH 60.1は優勝候補フレチャのいるチームスカイに優先供給されたようだ。
市販化はあるのか? また、モデル名「KOBH」とは? これも発表を待ちたい。
チームスカイは通常通りほぼ全員がシマノの電動メカ デュラエース7980Di-2を使用した。もはや信頼性に疑問のつくレベルではなく、あえて選ばれる信頼度を獲得しているようだ。
他にもレディオシャックは外観上はまったくマドンのチームモデルに見えながらもタイヤクリアランスの大きなパヴェスペシャルを用意。金属フレームでは比較的用意な仕様変更だが、カーボンフレームでは大変なコストがかかるだろう。
キャノンデールがスポンサードするリクイガスはシナプスを投入。このモデルもグランフォンド(ロングライド)向きであるため、振動吸収性に優れるのが特徴だ。スコットがスポンサードするチームHTCコロンビアは普段アディクトに乗るが、あえて1グレード下げたアディクトR1ノーマルシートポスト仕様を選択。
ドイツのブランドであるサイレンス・ロットはキャニオンのノーマルバイクを選択。他のモデルも多く取り揃えるブランドだが、とくにノーマルのロードバイクを選択しているように見えた。
コルナゴがサポートするBBoxブイグテレコムやリドレーがサポートするカチューシャはカンティブレーキ仕様のシクロクロスバイクを選択。ともにシクロクロスを得意とするブランドだけに、ロードレースでも使用できる性能に自信があるのだろう。
ボーネンの駆ったエディメルクス EMX-1
昨年覇者のトム・ボーネンは通常ロードレースで使うエディメルクス EMX-5のロードバイクで走った。ステイン・デヴォルデルはレース中にスカンジウムのAMX-1に乗っていたシーンが有ったが、振動吸収に優れたモデルだ。しかしスペアバイクなのか最初からの選択なのかは不明だ。
スポークホイール&チューブラーが圧倒的多数 タイヤ&ホイールの選択
スペシャルな色合いが最も濃いのはタイヤおよびホイールまわりだろう。完成ホイールが主流の今も、各チームがこぞって使うのはアンブロッシオ・ネメシス等のノーマルチューブラーリムにノーマルスポークの組み合わせの、手組みホイールだ。クロス組のスポークホイールはもちろん振動吸収性に優れる。
タイヤはFMB社製がエースクラスの選手のホイールに使われる。コットンやセタ(絹)をコードに使用した手造りのタイヤは27mm程と太く、空気量が多く、クッション性に優れる。パンクにも強いため、好んで使用される。
体重や乗り方にも左右されるが、空気圧は5気圧~6気圧程度。天然ゴムを用いたチューブは空気が抜けるが、そのことも計算に入れてセットされる。
優勝したカンチェラーラはZipp製のディープリムの完成ホイールを用いた。カーボンリムの中ではやや振動吸収性に優れる製品であるとはいえ、割れるリスクは金属リムよりも高い。ひとり逃げの際の高速巡航性を重視した選択だったのだろう。
photo:Sonoko.TANAKA
text:Makoto.AYANO