2010/04/05(月) - 09:50
近年これほどまで圧倒的な力でロンド・ファン・フラーンデレンを制した選手は他にいただろうか?2010年4月4日に開催された第94回大会で、ファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)はモーレンベルグで集団を粉砕し、ミュールでライバルのボーネンを置き去りに。独走でロンドの初タイトル獲得を成し遂げた。
モーレンベルグとミュールで飛び出したスイスチャンピオン
スタート地点ブルージュに集まった198名の選手たちを迎えたのは、小雨がパラつく生憎の(ロンド的には絶好の)天候。気まぐれなフランドルの天候は刻々と変化したが、大崩れすることは無かった。
フランドルの熱狂的な声援に包まれてスタートした直後、ミハイル・イグナチエフ(ロシア、カチューシャ)やフローリス・フーシンニン(オランダ、スキル・シマノ)を含む8名の逃げが決まる。前半の平坦区間でこの先頭グループは最大13分ものリードを稼ぎ出した。
メイン集団はチームスカイやクイックステップ、サクソバンクがコントロールし、幾つもの落車を切り抜けながら急坂が連続するレース後半へ。ゴールの62km手前から連続して登場するオウデ・クワレモント、パテルベルグ、コッペンベルグの3つの石畳坂を前に、サクソバンクが集団先頭を陣取り、完全に主導権を握った。
狭く急勾配でしかも石畳の急坂で、サクソバンクのペースコントロールによって集団は縮小。最大勾配が20%を超えるパテルベルグでマッティ・ブレシェル(デンマーク、サクソバンク)がペースアップを仕掛けると、トム・ボーネン(ベルギー、クイックステップ)を始めとするほとんどの有力選手が合流。しかしゴールまでの距離とメンバーの豪華さが影響し、集団は一つに戻った。
続くコッペンベルグでもブレシェルが積極的にペースを上げ、ボーネンがすかさず反応。これも決定的な動きには繋がらなかったが、最大勾配22%の激坂コッペンベルグでは、蛇行する選手、立ち止まって再スタート出来ない選手、歩く選手が続出。集団は30名ほどに絞られた。
人数を揃えたチームスカイが牽引するメイン集団は、序盤から逃げていた選手をゴール60km手前で吸収。しばらく膠着状態が続いたが、ゴール50km手前でのマシュー・ヘイマン(オーストラリア、チームスカイ)のアタックで再び活性化。
ヘイマンにはダニエル・オス(イタリア、リクイガス)ら3名が合流し、10秒ほど先行して最大勾配14%のモーレンベルグに差し掛かった。
このゴール44km手前のモーレンベルグで二強が動いた。逃げていたヘイマンらを吸収したメイン集団から飛び出したのはカンチェラーラ。この動きにはボーネンだけが合流。スイスチャンピオンとベルギーチャンピオンが、後続を引き離し始めた。
後方ではデーヴィット・ミラー(イギリス、ガーミン・トランジションズ)のアタックにフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)とビョルン・ルークマンス(ベルギー、ヴァカンソレイユ)が反応して3名で追走グループを形成。しかし前のカンチェラーラ=ボーネンのコンビとのタイム差は広がるばかり。
後続を1分近く引き離したカンチェラーラとボーネンは、肩を突き合わせながらロンド名物のミュール・カペルミュールに突入。ゴール15km手前に位置するこの最大勾配19.8%の上りでカンチェラーラが強烈なペースアップ。
右脚を攣ったボーネンはこの動きに反応出来ず、ミュール頂上通過時で20秒のタイム差が付いてしまう。独走体制に入った世界最強のTTスペシャリストの勢いは誰にも止められず。ボーネンを引き離したカンチェラーラは、ゴールまで独走で走り抜いた。
モニュメント全制覇も不可能ではない?
「パーフェクトなレースだった!夢が叶った瞬間だ!」ゴール前で沿道からスイス国旗を受け取り、余裕の表情でゴールに飛び込んだカンチェラーラ。圧倒的な走りを見せたスイスの超特急が、レース後に喜びを打ちまけた。
「サクソバンクのチームメイトたちは力を尽くし、集団を縮小してくれた。そして、終盤の急坂を前に絶好のポジションをキープしてくれたんだ。一旦集団から飛び出してからは自信を持って走っていた」。
「ミュールで加速した時、もうそのままゴールまで単独で走るんだろうと確信しながら踏んで行った。ミュールでのアタックは予定したものではなかった。本能的に加速したんだ。そこで勝負が決まったと思う」。
スイス人の優勝は1923年のヘイリ・シュテール以来。2006年にパリ〜ルーベ、2008年にミラノ〜サンレモを制しているカンチェラーラが、2010年、ついにロンド・ファン・フラーンデレン制覇を成し遂げた。
「すでにキャリアの中にはミラノ〜サンレモとパリ〜ルーベの優勝がある。そこにロンド・ファン・フラーンデレンでの勝利を加えるのはタブーを破るような気分だ。明日からはリエージュ〜バストーニュ〜リエージュとジロ・ディ・ロンバルディアに向けてトレーニングを始めるべきかな。つまり、モニュメント全戦制覇に挑戦すべきだ」。
モニュメントとは、クラシックレースの中でも特に伝統のあるミラノ〜サンレモ、ロンド・ファン・フラーンデレン、パリ〜ルーベ、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ、ジロ・ディ・ロンバルディア5大クラシックをまとめた総称。長い歴史の中で、過去にこのモニュメント全制覇を成し遂げているのはエディ・メルクス(ベルギー)、ロジェ・デフラミンク(ベルギー)、リック・ファンローイ(ベルギー)の3人だけだ。
カンチェラーラはもちろんパリ〜ルーベでも優勝候補の筆頭。「しばらくこの勝利の喜びに浸っていたい。次は来週末のパリ〜ルーベ。コンディションはバッチリだ」と、春のクラシック最終戦に向けて自信を覗かせた。
カンチェラーラとの力勝負で敗れたボーネンは、フランドルの大歓声に包まれながら1分15秒遅れでゴール。ボーネンは「ミュールで右脚が攣ってしまい、カンチェラーラに先行を許してしまった。頂上通過後は軽いギアを回して何とかペダリングを取り戻したけど、その時点で負けは決まっていた」と、力勝負での負けを認めた。
3位争いは、ミュールでミラーを振るい落としたジルベールとルークマンスのスプリントに持ち込まれ、ジルベールが先着。ジルベールが2年連続3位に入った。
この日の完走者は95名。ランス・アームストロング(アメリカ、レディオシャック)は2分35秒遅れの集団内でゴールし、レディオシャックのチーム内最高位となる27位でロンドを終えた。
選手コメントはサクソバンク公式サイト、ならびにガゼッタ紙より。
レースの模様はフォトギャラリーで!4月6日写真追加!
ロンド・ファン・フラーンデレン2010結果
1位 ファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク) 6h25'56"
2位 トム・ボーネン(ベルギー、クイックステップ) +1'15"
3位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット) +2'11"
4位 ビョルン・ルークマンス(ベルギー、ヴァカンソレイユ) +2'15"
5位 タイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ) +2'35"
6位 ジョージ・ヒンカピー(アメリカ、BMCレーシングチーム)
7位 ロジャー・ハモンド(イギリス、サーヴェロ・テストチーム)
8位 マキシム・イグリンスキー(カザフスタン、アスタナ)
9位 ダニーロ・ホンド(ドイツ、ランプレ)
10位 ウィリアム・ボネ(フランス、Bboxブイグテレコム)
11位 ジョニー・フーガーランド(オランダ、ヴァカンソレイユ)
12位 ステイン・ファンデンベルグ(ベルギー、カチューシャ)
13位 マシュー・ヘイマン(オーストラリア、チームスカイ)
14位 ロイド・モンドリー(フランス、アージェードゥーゼル)
15位 マッティ・ブレシェル(デンマーク、サクソバンク)
16位 ベルンハルト・アイゼル(オーストリア、チームHTC・コロンビア)
17位 ストゥヴ・シェネル(フランス、Bboxブイグテレコム)
18位 フレデリック・ゲドン(フランス、フランセーズデジュー)
19位 マールテン・ワイナンツ(ベルギークイックステップ)
20位 マークス・ブルグハート(ドイツ、BMCレーシングチーム)
text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos
モーレンベルグとミュールで飛び出したスイスチャンピオン
スタート地点ブルージュに集まった198名の選手たちを迎えたのは、小雨がパラつく生憎の(ロンド的には絶好の)天候。気まぐれなフランドルの天候は刻々と変化したが、大崩れすることは無かった。
フランドルの熱狂的な声援に包まれてスタートした直後、ミハイル・イグナチエフ(ロシア、カチューシャ)やフローリス・フーシンニン(オランダ、スキル・シマノ)を含む8名の逃げが決まる。前半の平坦区間でこの先頭グループは最大13分ものリードを稼ぎ出した。
メイン集団はチームスカイやクイックステップ、サクソバンクがコントロールし、幾つもの落車を切り抜けながら急坂が連続するレース後半へ。ゴールの62km手前から連続して登場するオウデ・クワレモント、パテルベルグ、コッペンベルグの3つの石畳坂を前に、サクソバンクが集団先頭を陣取り、完全に主導権を握った。
狭く急勾配でしかも石畳の急坂で、サクソバンクのペースコントロールによって集団は縮小。最大勾配が20%を超えるパテルベルグでマッティ・ブレシェル(デンマーク、サクソバンク)がペースアップを仕掛けると、トム・ボーネン(ベルギー、クイックステップ)を始めとするほとんどの有力選手が合流。しかしゴールまでの距離とメンバーの豪華さが影響し、集団は一つに戻った。
続くコッペンベルグでもブレシェルが積極的にペースを上げ、ボーネンがすかさず反応。これも決定的な動きには繋がらなかったが、最大勾配22%の激坂コッペンベルグでは、蛇行する選手、立ち止まって再スタート出来ない選手、歩く選手が続出。集団は30名ほどに絞られた。
人数を揃えたチームスカイが牽引するメイン集団は、序盤から逃げていた選手をゴール60km手前で吸収。しばらく膠着状態が続いたが、ゴール50km手前でのマシュー・ヘイマン(オーストラリア、チームスカイ)のアタックで再び活性化。
ヘイマンにはダニエル・オス(イタリア、リクイガス)ら3名が合流し、10秒ほど先行して最大勾配14%のモーレンベルグに差し掛かった。
このゴール44km手前のモーレンベルグで二強が動いた。逃げていたヘイマンらを吸収したメイン集団から飛び出したのはカンチェラーラ。この動きにはボーネンだけが合流。スイスチャンピオンとベルギーチャンピオンが、後続を引き離し始めた。
後方ではデーヴィット・ミラー(イギリス、ガーミン・トランジションズ)のアタックにフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)とビョルン・ルークマンス(ベルギー、ヴァカンソレイユ)が反応して3名で追走グループを形成。しかし前のカンチェラーラ=ボーネンのコンビとのタイム差は広がるばかり。
後続を1分近く引き離したカンチェラーラとボーネンは、肩を突き合わせながらロンド名物のミュール・カペルミュールに突入。ゴール15km手前に位置するこの最大勾配19.8%の上りでカンチェラーラが強烈なペースアップ。
右脚を攣ったボーネンはこの動きに反応出来ず、ミュール頂上通過時で20秒のタイム差が付いてしまう。独走体制に入った世界最強のTTスペシャリストの勢いは誰にも止められず。ボーネンを引き離したカンチェラーラは、ゴールまで独走で走り抜いた。
モニュメント全制覇も不可能ではない?
「パーフェクトなレースだった!夢が叶った瞬間だ!」ゴール前で沿道からスイス国旗を受け取り、余裕の表情でゴールに飛び込んだカンチェラーラ。圧倒的な走りを見せたスイスの超特急が、レース後に喜びを打ちまけた。
「サクソバンクのチームメイトたちは力を尽くし、集団を縮小してくれた。そして、終盤の急坂を前に絶好のポジションをキープしてくれたんだ。一旦集団から飛び出してからは自信を持って走っていた」。
「ミュールで加速した時、もうそのままゴールまで単独で走るんだろうと確信しながら踏んで行った。ミュールでのアタックは予定したものではなかった。本能的に加速したんだ。そこで勝負が決まったと思う」。
スイス人の優勝は1923年のヘイリ・シュテール以来。2006年にパリ〜ルーベ、2008年にミラノ〜サンレモを制しているカンチェラーラが、2010年、ついにロンド・ファン・フラーンデレン制覇を成し遂げた。
「すでにキャリアの中にはミラノ〜サンレモとパリ〜ルーベの優勝がある。そこにロンド・ファン・フラーンデレンでの勝利を加えるのはタブーを破るような気分だ。明日からはリエージュ〜バストーニュ〜リエージュとジロ・ディ・ロンバルディアに向けてトレーニングを始めるべきかな。つまり、モニュメント全戦制覇に挑戦すべきだ」。
モニュメントとは、クラシックレースの中でも特に伝統のあるミラノ〜サンレモ、ロンド・ファン・フラーンデレン、パリ〜ルーベ、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ、ジロ・ディ・ロンバルディア5大クラシックをまとめた総称。長い歴史の中で、過去にこのモニュメント全制覇を成し遂げているのはエディ・メルクス(ベルギー)、ロジェ・デフラミンク(ベルギー)、リック・ファンローイ(ベルギー)の3人だけだ。
カンチェラーラはもちろんパリ〜ルーベでも優勝候補の筆頭。「しばらくこの勝利の喜びに浸っていたい。次は来週末のパリ〜ルーベ。コンディションはバッチリだ」と、春のクラシック最終戦に向けて自信を覗かせた。
カンチェラーラとの力勝負で敗れたボーネンは、フランドルの大歓声に包まれながら1分15秒遅れでゴール。ボーネンは「ミュールで右脚が攣ってしまい、カンチェラーラに先行を許してしまった。頂上通過後は軽いギアを回して何とかペダリングを取り戻したけど、その時点で負けは決まっていた」と、力勝負での負けを認めた。
3位争いは、ミュールでミラーを振るい落としたジルベールとルークマンスのスプリントに持ち込まれ、ジルベールが先着。ジルベールが2年連続3位に入った。
この日の完走者は95名。ランス・アームストロング(アメリカ、レディオシャック)は2分35秒遅れの集団内でゴールし、レディオシャックのチーム内最高位となる27位でロンドを終えた。
選手コメントはサクソバンク公式サイト、ならびにガゼッタ紙より。
レースの模様はフォトギャラリーで!4月6日写真追加!
ロンド・ファン・フラーンデレン2010結果
1位 ファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク) 6h25'56"
2位 トム・ボーネン(ベルギー、クイックステップ) +1'15"
3位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット) +2'11"
4位 ビョルン・ルークマンス(ベルギー、ヴァカンソレイユ) +2'15"
5位 タイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ) +2'35"
6位 ジョージ・ヒンカピー(アメリカ、BMCレーシングチーム)
7位 ロジャー・ハモンド(イギリス、サーヴェロ・テストチーム)
8位 マキシム・イグリンスキー(カザフスタン、アスタナ)
9位 ダニーロ・ホンド(ドイツ、ランプレ)
10位 ウィリアム・ボネ(フランス、Bboxブイグテレコム)
11位 ジョニー・フーガーランド(オランダ、ヴァカンソレイユ)
12位 ステイン・ファンデンベルグ(ベルギー、カチューシャ)
13位 マシュー・ヘイマン(オーストラリア、チームスカイ)
14位 ロイド・モンドリー(フランス、アージェードゥーゼル)
15位 マッティ・ブレシェル(デンマーク、サクソバンク)
16位 ベルンハルト・アイゼル(オーストリア、チームHTC・コロンビア)
17位 ストゥヴ・シェネル(フランス、Bboxブイグテレコム)
18位 フレデリック・ゲドン(フランス、フランセーズデジュー)
19位 マールテン・ワイナンツ(ベルギークイックステップ)
20位 マークス・ブルグハート(ドイツ、BMCレーシングチーム)
text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos
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