今年で開催94回目を迎えるロンド・ファン・フラーンデレン(ツール・デ・フランドル)が4月4日、ベルギー・フランドル地方で開催される。合計15の急坂が261kmのコースに散りばめられており、その多くが石畳の覆われた悪路。今年もビッグタイトルを懸けて猛者がフランドルに集う。

スタート地点はブルージュのマルクト広場スタート地点はブルージュのマルクト広場 photo:Cor Vos「モニュメント」と呼ばれる世界を代表する5つのワンディクラシックの中でも、ひと際大きな存在感を見せるのが、「クラシックの王様」の異名を持つこのロンド・ファン・フラーンデレンだ。フランス語で「ツール・デ・フランドル」と呼ばれるこのフランドル地方最大のワンディクラシックは、世界一のステータスを誇ると言っても過言ではない。

1913年に第1回大会が開催され、今年で開催94回目。自転車競技熱が高いフランドル地方で開催されるだけに、沿道には熱狂的なファンが詰めかけ、頭上には黄色のフランドルフラッグが翻る。今年もフランドル地方の熱気はこのロンドで頂点に達する。

261kmのコース後半に詰め込まれた15の急坂、そして石畳

ロンド・ファン・フラーンデレン2010コースマップロンド・ファン・フラーンデレン2010コースマップ image:rvv.beロンド・ファン・フラーンデレンがそれだけ高いステータスを誇っている理由、それは他のクラシックレースには見られない過酷なコースだろう。毎年スタート地点とゴール地点に変更は無いが、その二点をつなぐルートは毎年変更が加えられ、登場する急坂の種類や数は年によって異なる。

今年は全長261kmのコースに、急坂が15カ所も設定された。そのうち9カ所は石畳に覆われており、レーススピードで急坂をクリアするには高度なテクニックが必要とされる。更に、石畳で覆われた平坦区間も24カ所登場し、選手たちに休む暇を与えない。

ロンド・ファン・フラーンデレン2010コースプロフィールロンド・ファン・フラーンデレン2010コースプロフィール image:rvv.be選手たちを苦しめるのはその難易度の高いコースだけではない。フランドル地方特有の気まぐれな天候がレース展開に大きく影響する。北海から吹き付ける強風、石畳の急坂を濡らし、グリップ力を低下させる雨、etc。時には雪が降ることもある。

2009年大会 コッペンベルグで肩をつき合わすフィリッポ・ポッツァート(イタリア、カチューシャ)とトム・ボーネン(ベルギー、クイックステップ)2009年大会 コッペンベルグで肩をつき合わすフィリッポ・ポッツァート(イタリア、カチューシャ)とトム・ボーネン(ベルギー、クイックステップ) photo:Cor Vos今年もスタート地点は世界遺産の街ブルージュで、内陸部のゴール地点ニノーヴェに向かってフランドル地方を蛇行しながら駆け抜ける。今年は前半に北海近くを通過するが、ゴールまで距離があるため大きな集団分裂は起こらないだろう。それよりも横風によって発生する落車が曲者だ。

レース後半に入ると急坂の洗礼が始まる。特にゴール手前の100kmの間に難易度の高い上りが設定されており、レースの進行とともに集団の人数が減るサバイバルレースが繰り広げられる。フランドル地方の急坂は道幅が狭いのが特徴で、集団後方に下がった状態で急坂に突入すれば、その時点でレースが終了する可能性も。

2009年大会 観客が詰めかけたミュールを駆け上がるステイン・デヴォルデル(ベルギー、クイックステップ)2009年大会 観客が詰めかけたミュールを駆け上がるステイン・デヴォルデル(ベルギー、クイックステップ) photo:Cor Vos急坂シリーズ前半の山場は、今年も「オウデ・クワレモント」「パテルベルグ」「コッペンベルグ」の3つ。いずれも石畳に覆われた急勾配の上りで、ここで集団は絞り込まれるだろう。中でも最大勾配が20%前後の「パテルベルグ」と「コッペンベルグ」は、プロ選手でも蛇行して上るような激坂。天候が崩れて路面が濡れれば、トラクションを得られずに歩く選手も現れる。

その後も容赦ない急坂の洗礼は続き、レース最大の勝負ポイントはラスト15kmで姿を現す。「ミュール・カペルミュール」だ。「ミュール」は「壁」の意。最大勾配が20%近いこの上りは狭く、途中でカーブも連続。この難所を越えるとゴールまで残り14km。頂上に教会が佇むこの上りで決定的なアタックが生まれる可能性は高い。

続く「ボスベルグ」は距離が長く、攻撃を仕掛ける最後のチャンス。連続する急坂が縮小した集団から、この2つの上りで飛び出した選手がゴールまで逃げ切るか、それとも小集団のスプリント勝負に持ち込まれるか。最後まで手に汗握るバトルが繰り広げられるだろう。

登場する15の急坂(名前をクリックすると写真にジャンプします)
1 131km地点 デン・アスト       アスファルト 平均5% 最大11% 長さ450m
2 165km地点 クルイスベルグ      アスファルト 平均7% 最大14% 長さ925m
3 172km地点 クノクテベルグ      アスファルト 平均7% 最大13% 長さ1260m
4 180km地点 オウデ・クワレモント   石畳 平均3% 最大11% 長さ2500m
5 183km地点 パテルベルグ       石畳 平均12% 最大20% 長さ361m
6 190km地点 コッペンベルグ      石畳 平均9% 最大19% 長さ682m
7 195km地点 シュテインビークドリシュ 石畳 平均5% 最大6% 長さ700m
8 197km地点 ターインベルグ      石畳 平均6% 最大15% 長さ530m
9 203km地点 エイケンベルグ      石畳 平均5% 最大9% 長さ1252m
10 218km地点 モーレンベルグ     石畳 平均7% 最大14% 長さ462m
11 225km地点 レベルグ        アスファルト 平均3% 最大13% 長さ1130m
12 229km地点 ベレンドリシュ     アスファルト 平均7% 最大12% 長さ936m
13 236km地点 テンボシュ       アスファルト 平均6% 最大8% 長さ453m
14 247km地点 ミュール・カペルミュール 石畳 平均9% 最大19% 長さ1075m
15 250km地点 ボスベルグ       石畳 平均5% 最大10% 長さ986m

クイックステップの三強にカンチェやフレチャが挑む

ベルギーチャンピオンジャージを着て母国最大のレースに挑むトム・ボーネン(ベルギー、クイックステップ)ベルギーチャンピオンジャージを着て母国最大のレースに挑むトム・ボーネン(ベルギー、クイックステップ) photo:Cor Vos近年ロンド・ファン・フラーンデレンで圧倒的な力を誇示しているのが、地元ベルギーのクイックステップだ。2005年から2年連続で優勝したトム・ボーネン(ベルギー)と、2008年から2連覇中のステイン・デヴォルデル(ベルギー)は、今年も優勝候補の筆頭だ。

今年もボーネン=デヴォルデルの強力タッグを中心にレースは展開するだろう。過去に3勝している選手は4名しかおらず、この2人が勝てば最多勝記録に並ぶ。デヴォルデルが勝てば、史上2人目の3連覇達成者となる。

E3プライス・フラーンデレンで優勝したファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)E3プライス・フラーンデレンで優勝したファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク) photo:Cor Vosクイックステップからはシルヴァン・シャヴァネル(フランス)も出場。ライバルチームを寄せ付けない選手層の厚さは、レース終盤に大きなアドバンテージになるだろう。

クイックステップの最大の対抗馬は、勢いのあるファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)だ。スイスチャンピオンジャージを着るこの現世界TTチャンピオンは、「リトル・ロンド」とも呼ばれるE3プライス・フラーンデレンで優勝しており、ロンド初制覇に燃える。ドワーズ・ドア・フラーンデレン覇者のマッティ・ブレシェル(デンマーク)が後ろ盾となってカンチェラーラの活躍を支える。

スペイン人選手初優勝を目指すフアンアントニオ・フレチャ(スペイン、チームスカイ)スペイン人選手初優勝を目指すフアンアントニオ・フレチャ(スペイン、チームスカイ) photo:Cor VosE3プライスで最後までボーネン&カンチェラーラとバトルを繰り広げたフアンアントニオ・フレチャ(スペイン、チームスカイ)は、石畳を走れる希有なスペイン人として同国出身選手初のロンド制覇を目指す。なお、チームメイトのエドヴァルド・ボアッソン(ノルウェー)はアキレス腱の炎症のため欠場する予定だ。

昨年大会で2位に入ったハインリッヒ・ハウッスラー(ドイツ、サーヴェロ・テストチーム)は、落車で痛めた膝が完治していないため欠場。昨年5位のフィリッポ・ポッツァート(イタリア、カチューシャ)は前週に風邪で体調を崩し、ロンドを欠場する可能性も(4月2日にポッツァートはロンド欠場を発表)。

決戦用パヴェバイクを披露したフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)決戦用パヴェバイクを披露したフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット) photo:Cor Vosクイックステップと同じベルギーチームのオメガファーマ・ロットは、昨年3位のフィリップ・ジルベール(ベルギー)をエースに立てる。ジルベールの上りアタックの切れ味は抜群。ジルベールは昨年のジロ・ディ・ロンバルディアに続くモニュメントのタイトルを狙う。

オメガファーマ・ロットからは、これまでロンドで3度に渡って2位を経験しているレイフ・ホステ(ベルギー)も出場。ホステは「万年2位」の汚名を返上出来るか。

コッペンベルグを試走するランス・アームストロング(アメリカ、レディオシャック)コッペンベルグを試走するランス・アームストロング(アメリカ、レディオシャック) photo:Cor Vos2007年大会でホステとの一騎打ちを制して優勝したアレッサンドロ・バッラン(イタリア)は、プロコンチネンタルのBMCレーシングチームを率いての出場。同チームからはマークス・ブルグハート(ドイツ)やカルステン・クローン(オランダ)と言ったクラシックハンターたちも出場予定だ。

他にもヘント〜ウェベルヘムで優勝したベルンハルト・アイゼル(オーストリア、チームHTC・コロンビア)を始め、トル・フースホフト(ノルウェー、サーヴェロ・テストチーム)やマルティン・マースカント(オランダ、ガーミン・トランジションズ)、ラース・ボーム(オランダ、ラボバンク)らが上位に絡んでくるだろう。

ヘント〜ウェベルヘムで落車リタイアした別府史之(レディオシャック)は残念ながら欠場。レディオシャックはランス・アームストロング(アメリカ)の出場に注目が集まる。

text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos, rvv.be

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