快晴の中行われた全日本選手権ロードレース男子エリートは、最終周回で攻撃した山本元喜(キナンサイクリングチーム)が佐野淳哉(マトリックス・パワータグ)から32秒のリードを奪い優勝し、初の全日本エリートタイトルを獲得。その詳報をお伝えする。



日本一決定戦、男子エリートレースが開催される全日本選手権ロードの3日目。6月24日(日)の島根県西部の益田市上空は雲ひとつ無い快晴。早朝から日差しが降り注いだことで気温はぐんぐんと上昇し、気温は1日目に続いて30℃前後にまで上昇。14.2kmを15周回する213.0km/累積獲得標高3,825mの行程は、サバイバルレースの状況を呈すことが予想された。

朝から広がった青空の下で行われたロード日本一決定戦朝から広がった青空の下で行われたロード日本一決定戦 photo:Satoru Kato
朝9時にスタートの号砲が鳴った直後、いきなりレースは動いた。石橋学(チームブリヂストンサイクリング)や酒井紀章(バルバレーシングクラブ)らがスタートアタックを掛け、山本元喜(キナンサイクリングチーム)や佐野淳哉(マトリックス・パワータグ)、岡本隼(愛三工業レーシング)ら各チームのエース級選手が次々と飛び乗ることに。吉田隼人(NIPPOヴィーニファンティーニ・エウロパオヴィーニ)や小野寺玲(宇都宮ブリッツェン)、新城雄大(キナンサイクリングチーム)、安原大貴(マトリックス・パワータグ)のブリッジが最終便となり、最終的に32名という巨大なエスケープが逃げ始めた。

スタート直後に先行した岡篤志(宇都宮ブリッツェン)ら4人スタート直後に先行した岡篤志(宇都宮ブリッツェン)ら4人 photo:Satoru Kato30名を超える先頭集団が後続を引き離す30名を超える先頭集団が後続を引き離す photo:Kei Tsuji

先頭集団に加わったクラブチーム勢もローテーションに加わる先頭集団に加わったクラブチーム勢もローテーションに加わる photo:Satoru Katoペースが上がらず、先頭集団に先行を許すメイン集団ペースが上がらず、先頭集団に先行を許すメイン集団 photo:Kei Tsuji

一方、後続集団に残ったのは入部正太朗(シマノレーシング)や窪木一茂(チームブリヂストンサイクリング)、ディフェンディングチャンピオンでゼッケン1をつける畑中勇介(TeamUKYO)といった有力勢。各チームがエースやサブエースを含む複数名を逃げに載せたことでメイン集団を組織的に牽くチームが現れず、7周目には8分半というメイン集団が足切りになる可能性もある大差が生まれた。

失速する後続を尻目に、逃げる先頭集団内では高岡亮寛(Roppongi Express)や井上亮(Magellan Systems Japan)といった強豪ホビーレーサーが登りでペースメイク。タイム差の広がりに危機感を感じたシマノレーシングやチームブリヂストンサイクリングがメイン集団のコントロールを開始したことで、タイム差は中盤を過ぎてようやく縮小傾向に転じた。

那須ブラーゼンの2人を先頭に行く35人の先頭集団那須ブラーゼンの2人を先頭に行く35人の先頭集団 photo:Satoru Katoレース中盤からはシマノレーシングが中心となってメイン集団のペースアップを図るレース中盤からはシマノレーシングが中心となってメイン集団のペースアップを図る photo:Satoru Kato

10周目 先頭集団からアタックする樋口俊明(那須ブラーゼン)10周目 先頭集団からアタックする樋口俊明(那須ブラーゼン) photo:Satoru Kato
レースの3分の2を消化した10周目、樋口峻明(那須ブラーゼン)の抜け出しをきっかけに先頭集団内の争いが勃発する。11周目の登りで抜け出した石橋が樋口を捉え、阿部嵩之(宇都宮ブリッツェン)が鈴木龍や小野寺玲のために引き戻す。この動きで岡本隼らが遅れ、先頭人数は17名に絞り込まれた。

12周目の登りでは小石祐馬(チーム右京)と山本元喜が抜け出し、この2人を追えたのは佐野淳哉、新城雄大、小野寺玲、石橋学というメンバーのみ。この時点で必死に追走するメイン集団は6分半後ろであり、チャンピオンジャージの行方は先頭の6名へと委ねられる。

12周目 先頭集団から山本元喜(キナンサイクリングチーム)と小石祐馬(チーム右京)が先行12周目 先頭集団から山本元喜(キナンサイクリングチーム)と小石祐馬(チーム右京)が先行 photo:Satoru Kato
13周目 逃げる2人を追う石橋学(チームブリヂストンサイクリング)ら4人13周目 逃げる2人を追う石橋学(チームブリヂストンサイクリング)ら4人 photo:Satoru Kato14周目 逃げる2人にブリッジを試みる新城雄大(キナンサイクリングチーム)14周目 逃げる2人にブリッジを試みる新城雄大(キナンサイクリングチーム) photo:Satoru Kato

追走グループからは苦しい表情を見せていた小野寺が遅れたものの、佐野と新城はおよそ2周に渡る追走の末に、全15周回中の14周目に小石と山本をキャッチ。コース再奥部の短い登りでアタックした佐野が10秒を得たが、これを山本が封じ、遅れて監督の指示を受けて小石を置き去りにした新城も合流。こうして単独の佐野vsキナン2名という構図が生まれた。

14周目 7km地点の牧場への登りでアタックする佐野淳哉(マトリックスパワータグ)14周目 7km地点の牧場への登りでアタックする佐野淳哉(マトリックスパワータグ) photo:Satoru Kato
14周目 佐野淳哉(マトリックスパワータグ)と山本元喜(キナンサイクリングチーム)の後方に新城雄大(キナンサイクリングチーム)が迫る14周目 佐野淳哉(マトリックスパワータグ)と山本元喜(キナンサイクリングチーム)の後方に新城雄大(キナンサイクリングチーム)が迫る photo:Satoru Kato
すると「新城の脚が攣っていたので自分が攻める必要があったし、今の自分なら佐野さんを千切れると思った」と言う山本が最終周回突入直後の登りで渾身のアタックを繰り出した。すると「それまで使わせられてしまった脚がいっぱいいっぱいだった」という佐野が遅れ、山本のリードは下りと平坦基調の半周を残して40秒にまで広がった。

平坦区間では佐野がタイム差を削り取ったものの、上りで生まれたリードはあまりにも大きかった。優勝に向けて突き進んだ山本は、最終的に佐野を32秒、足が攣り後退を余儀なくされた新城を2分引き離してチームメイトやスタッフが待つフィニッシュラインへ。全日本タイトル獲得を決めた直後、歓喜の涙を流すスタッフや弟の大喜らと抱き合った。

最終周回 最初の登りでアタックした山本元喜(キナンサイクリングチーム)最終周回 最初の登りでアタックした山本元喜(キナンサイクリングチーム) photo:Satoru Kato
独走でフィニッシュした山本元喜(キナンサイクリングチーム)独走でフィニッシュした山本元喜(キナンサイクリングチーム) photo:Kei Tsuji
監督やチームメイトに祝福される山本元喜(キナンサイクリングチーム)監督やチームメイトに祝福される山本元喜(キナンサイクリングチーム) photo: So Isobeフィニッシュして倒れ込んだ佐野淳哉(マトリックスパワータグ)すぐに起き上がって「悔しい!」と一言フィニッシュして倒れ込んだ佐野淳哉(マトリックスパワータグ)すぐに起き上がって「悔しい!」と一言 photo:Satoru Kato

奈良出身で、鹿屋体育大学在籍時にU23カテゴリーを2連覇している山本だが、エリートタイトルは今回が初となる。NIPPOヴィーニファンティーニ時代の2016年にジロ・デ・イタリア完走を果たし、去年父親としてのスタートを切った26歳は、満面の笑みでチャンピオンジャージと金メダルを受け取った。

表彰台 2位佐野淳哉(マトリックス・パワータグ)、1位山本元喜(キナンサイクリングチーム)、3位新城雄大(キナンサイクリングチーム)表彰台 2位佐野淳哉(マトリックス・パワータグ)、1位山本元喜(キナンサイクリングチーム)、3位新城雄大(キナンサイクリングチーム) photo:Kei Tsuji
全日本選手権ロードレース 男子エリート 結果
1位 山本元喜(キナンサイクリングチーム) 5時間46分53秒
2位 佐野淳哉(マトリックス・パワータグ) +32秒
3位 新城雄大(キナンサイクリングチーム) +2分43秒
4位 入部正太朗(シマノレーシング) +4分26秒
5位 平塚吉光(チーム右京) +4分32秒
6位 小石祐馬(チーム右京) +4分39秒
7位 中島康晴(キナンサイクリングチーム) +4分44秒
8位 井上亮(Megellan Cycling Team) +5分20秒
9位 阿曹圭佑(愛三工業レーシングチーム) +5分37秒
10位 小森亮平(愛三工業レーシングチーム)
11位 高岡亮寛(Roppongi Express) +5分39秒
12位 寺崎武郎(バルバレーシングクラブ) +5分55秒
13位 窪木一茂(チームブリヂストンサイクリング)
14位 吉田隼人(NIPPO・ヴィーニファンティーニ・エウロパオヴィーニ)
15位 早川朋宏(愛三工業レーシングチーム)
16位 石橋学(チームブリヂストンサイクリング) +7分49秒
17位 鈴木龍(宇都宮ブリッツェン) +7分52秒
18位 小野寺玲(宇都宮ブリッツェン) +8分34秒
19位 下島将輝(那須ブラーゼン) +10分10秒
20位 近谷涼(チームブリヂストンサイクリング) +10分35秒
text: So Isobe, Yuichiro Hosoda
photo: Satoru Kato, Kei Tsuji, So Isobe

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