2018/05/05(土) - 13:27
エルサレムの戦いはデュムランの勝利に終わった。第101回ジロ・デ・イタリアがイスラエルで開幕。本当に、本当にイスラエルで開幕したのかというのが率直な意見。イタリアから2000km離れた中東の地で、特殊な3日間が始まった。
エルサレムは丘の街である。その複雑な歴史や多様な建造物に注目されがちで地形は見逃されているが、街の中心部を含めて標高800m前後の山と丘しかない。そして全ての山と丘が宗教的な意味合いを持っていたりする。
エルサレムは英語発音でジュルサルム、イタリア語発音でジェルサレンメ。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地がひしめく東エルサレム(パレスチナ)の旧市街は、この街の複雑な歴史を今に伝えている。エルサレムならびにイスラエルの歴史について書き始めると本当にきりがないので是非ご自身で調べてください。そしてそのまで理解するために訪れることをお勧めします。日本のパスポートだとビザなしで入国可です。
エルサレムを象徴する旧市街と選手を一緒に写真に収めたいという望みは届かず、コースは旧市街とは関係のない、特に目立った歴史的建造物のないエルサレム西部の新市街に設定された。前述の通り丘の街を走るコースはアップダウンの連続で、そこに約20カ所のコーナーが組み合わされるためとにかくスピードの強弱が多い。ロードバイクよりも圧倒的に練習時間が短いTTバイクを如何に巧みに操れるかが勝負の鍵となる。
試走を終えた選手たちに聞くと「リズムが常に変わる難易度の高いコース」という答えばかりが返ってくる。テクニカルコースでのブレーキング性能を重視するためか、スポンサーの方針なのかは不明だが、EFエデュケーションファースト・ドラパックとウィリエール・トリエスティーナはディスクブレーキ搭載TTバイクを投入した。
なお、9.7kmのコースは完全にフェンスに覆われ、30〜40mごとに警備員が立ち、50台の警察バイクが循環して先導し、77台の監視カメラがレースを見張った。慢性的に街中の交通量が多く、渋滞も多いエルサレム。自転車レースに馴染みのない市民や観光客が警備員や大会関係者とぶつかるシーンも見られたが、概ねトラブルなく開幕を迎えたと言える。コース発表時から治安を疑問視する声もあったが、トム・デュムラン(オランダ、サンウェブ)が「近年のパリシャンゼリゼを走るより危険だとは思わない」とコメントする通り、イスラエルは平和だ(もちろんガザ地区などは除く)。
「コーナーリングが得意な自分にとってパーフェクトなコースだった」。マリアローザを手にしたデュムランはスムーズに9.7kmを走りきった。シーズン序盤はメカトラやパンクが相次ぎ、フラストレーションを表に出してしまうどこかネガティブなイメージが付きまとったが、長い沈黙(高地トレーニング)を経て本来の力を取り戻した感がある。「リードを奪ったことより、自信につながるステージ優勝を飾ったことが嬉しい」という言葉は、本人が自信を失っていたことを意味している。そして、個人的な印象としては、1年前よりも細く絞れている。
「3週間ずっとマリアローザを守り続けるつもりはない」とは言うものの、平坦ステージでボーナスタイムを獲得するようなスプリンターたちと大きなタイム差がついてしまった。集団スプリントで先頭争いに加わるようなスプリンターの中で総合成績が最も良いのはサーシャ・モードロ(イタリア、EFエデュケーションファースト・ドラパック)で、デュムランから1分13秒遅れ。どれだけステージ優勝を重ねてもデュムランから総合首位の座を奪うのは不可能だ。
2秒差の総合2位ローハン・デニス(オーストラリア、BMCレーシング)と総合3位ヴィクトール・カンペナールツ(ベルギー、ロット・フィックスオール)がどうしてもマリアローザを着たい場合は、スプリントポイントなどでボーナスタイムを獲得して逆転することは可能。しかしどこまで本気でデニスやカンペナールツがマリアローザを狙ってくるかは分からない。
このまま大逃げなどが決まらない限り、サンウェブがレースをコントロールする状況は第6ステージのエトナ火山まで続きそう。それはつまりチームメイトたちを消耗させてしまうことを意味しており、3週目の戦いに響く可能性もある。逃げグループにマリアローザをプレゼントする日は近いかもしれない。
2年連続ジロ総合優勝を狙う男と、3連続グランツール総合優勝を狙う男の戦いは、まずは前者に軍配が上がった。
「コスタ(カンスタンティン・シウトソウ)のように、落車がリタイアにつながる可能性もあった。もっと悪い結果になりえた」と、右膝に血を滲ませながら走ったクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)はクールダウンをしながら取材陣に語った。バーレーン・メリダのチームスタッフによると、シウトソウは試走中に複雑なコーナーでハンドルを取られ、前転するようにして転倒。頭から地面に落ち、第三頸椎の骨折を負っている。
フルームの落車はそれほどスピードが出ていたわけではない。右コーナーでブレーキング中に前輪がグリップを失って右側に転倒。仮に試走中に落車していなければ、より速いレーススピードでコーナーに突っ込み、もっと派手に転倒して大怪我を負っていたかもしれない。早速デュムランから37秒というタイムを失ったものの、安全にレースを走りきったことをフルームは満足している印象。そもそもフルームは短距離タイムトライアルが決して得意ではなく、2015年ツール・ド・フランスの13km開幕タイムトライアルでフルームはステージ優勝したデニスから50秒、デュムランから42秒も遅れている。そしてその後の山岳ステージで挽回して2度目の総合優勝に輝いている。
「もちろんどんな小さな落車であっても痛みを伴う」という言葉の通り、おそらく痛みはあるが、長期的にパフォーマンスに影響するようなダメージはないというのがチームスカイの発表。「確かにタイムを失ったものの、総合狙いの選手の中で底辺の成績ではなく、ちょうど真ん中あたり」と、ローマまでまだたっぷり3週間ある戦いの中で巻き返しを図る。
翌日の第2ステージはエルサレムから約2時間北上したハイファから大都市テルアビブまで走る平坦コース。慣れない海外でのレース運営に早くもイタリア人スタッフたちに疲れの色が見え始めているが、なんとか残り2日間踏ん張ってほしい。
text&photo:Kei Tsuji in Jerusalem, Israel
エルサレムは丘の街である。その複雑な歴史や多様な建造物に注目されがちで地形は見逃されているが、街の中心部を含めて標高800m前後の山と丘しかない。そして全ての山と丘が宗教的な意味合いを持っていたりする。
エルサレムは英語発音でジュルサルム、イタリア語発音でジェルサレンメ。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地がひしめく東エルサレム(パレスチナ)の旧市街は、この街の複雑な歴史を今に伝えている。エルサレムならびにイスラエルの歴史について書き始めると本当にきりがないので是非ご自身で調べてください。そしてそのまで理解するために訪れることをお勧めします。日本のパスポートだとビザなしで入国可です。
エルサレムを象徴する旧市街と選手を一緒に写真に収めたいという望みは届かず、コースは旧市街とは関係のない、特に目立った歴史的建造物のないエルサレム西部の新市街に設定された。前述の通り丘の街を走るコースはアップダウンの連続で、そこに約20カ所のコーナーが組み合わされるためとにかくスピードの強弱が多い。ロードバイクよりも圧倒的に練習時間が短いTTバイクを如何に巧みに操れるかが勝負の鍵となる。
試走を終えた選手たちに聞くと「リズムが常に変わる難易度の高いコース」という答えばかりが返ってくる。テクニカルコースでのブレーキング性能を重視するためか、スポンサーの方針なのかは不明だが、EFエデュケーションファースト・ドラパックとウィリエール・トリエスティーナはディスクブレーキ搭載TTバイクを投入した。
なお、9.7kmのコースは完全にフェンスに覆われ、30〜40mごとに警備員が立ち、50台の警察バイクが循環して先導し、77台の監視カメラがレースを見張った。慢性的に街中の交通量が多く、渋滞も多いエルサレム。自転車レースに馴染みのない市民や観光客が警備員や大会関係者とぶつかるシーンも見られたが、概ねトラブルなく開幕を迎えたと言える。コース発表時から治安を疑問視する声もあったが、トム・デュムラン(オランダ、サンウェブ)が「近年のパリシャンゼリゼを走るより危険だとは思わない」とコメントする通り、イスラエルは平和だ(もちろんガザ地区などは除く)。
「コーナーリングが得意な自分にとってパーフェクトなコースだった」。マリアローザを手にしたデュムランはスムーズに9.7kmを走りきった。シーズン序盤はメカトラやパンクが相次ぎ、フラストレーションを表に出してしまうどこかネガティブなイメージが付きまとったが、長い沈黙(高地トレーニング)を経て本来の力を取り戻した感がある。「リードを奪ったことより、自信につながるステージ優勝を飾ったことが嬉しい」という言葉は、本人が自信を失っていたことを意味している。そして、個人的な印象としては、1年前よりも細く絞れている。
「3週間ずっとマリアローザを守り続けるつもりはない」とは言うものの、平坦ステージでボーナスタイムを獲得するようなスプリンターたちと大きなタイム差がついてしまった。集団スプリントで先頭争いに加わるようなスプリンターの中で総合成績が最も良いのはサーシャ・モードロ(イタリア、EFエデュケーションファースト・ドラパック)で、デュムランから1分13秒遅れ。どれだけステージ優勝を重ねてもデュムランから総合首位の座を奪うのは不可能だ。
2秒差の総合2位ローハン・デニス(オーストラリア、BMCレーシング)と総合3位ヴィクトール・カンペナールツ(ベルギー、ロット・フィックスオール)がどうしてもマリアローザを着たい場合は、スプリントポイントなどでボーナスタイムを獲得して逆転することは可能。しかしどこまで本気でデニスやカンペナールツがマリアローザを狙ってくるかは分からない。
このまま大逃げなどが決まらない限り、サンウェブがレースをコントロールする状況は第6ステージのエトナ火山まで続きそう。それはつまりチームメイトたちを消耗させてしまうことを意味しており、3週目の戦いに響く可能性もある。逃げグループにマリアローザをプレゼントする日は近いかもしれない。
2年連続ジロ総合優勝を狙う男と、3連続グランツール総合優勝を狙う男の戦いは、まずは前者に軍配が上がった。
「コスタ(カンスタンティン・シウトソウ)のように、落車がリタイアにつながる可能性もあった。もっと悪い結果になりえた」と、右膝に血を滲ませながら走ったクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)はクールダウンをしながら取材陣に語った。バーレーン・メリダのチームスタッフによると、シウトソウは試走中に複雑なコーナーでハンドルを取られ、前転するようにして転倒。頭から地面に落ち、第三頸椎の骨折を負っている。
フルームの落車はそれほどスピードが出ていたわけではない。右コーナーでブレーキング中に前輪がグリップを失って右側に転倒。仮に試走中に落車していなければ、より速いレーススピードでコーナーに突っ込み、もっと派手に転倒して大怪我を負っていたかもしれない。早速デュムランから37秒というタイムを失ったものの、安全にレースを走りきったことをフルームは満足している印象。そもそもフルームは短距離タイムトライアルが決して得意ではなく、2015年ツール・ド・フランスの13km開幕タイムトライアルでフルームはステージ優勝したデニスから50秒、デュムランから42秒も遅れている。そしてその後の山岳ステージで挽回して2度目の総合優勝に輝いている。
「もちろんどんな小さな落車であっても痛みを伴う」という言葉の通り、おそらく痛みはあるが、長期的にパフォーマンスに影響するようなダメージはないというのがチームスカイの発表。「確かにタイムを失ったものの、総合狙いの選手の中で底辺の成績ではなく、ちょうど真ん中あたり」と、ローマまでまだたっぷり3週間ある戦いの中で巻き返しを図る。
翌日の第2ステージはエルサレムから約2時間北上したハイファから大都市テルアビブまで走る平坦コース。慣れない海外でのレース運営に早くもイタリア人スタッフたちに疲れの色が見え始めているが、なんとか残り2日間踏ん張ってほしい。
text&photo:Kei Tsuji in Jerusalem, Israel