27ヶ所の登坂区間が登場するブラバンツペイルで、チーム力を活かしたティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・スーダル)が独走勝利。マイケル・ホーラールツ(ベルギー)を偲ぶ静かなフィニッシュだった。



ブラバンツペイル2018  コースプロフィールブラバンツペイル2018 コースプロフィール photo:CorVos今年で開催58回目を迎えたブラバンツペイル(UCI1.HC)、はベルギーのフランドル地方とワロン地方を繋ぐセミクラシックレース。フランス語では「ラ・フレーシュ・ブラバンソンヌ(ブラバントの矢)」と呼ばれ親しまれる平日開催の大会だ。

同一主催者のフランドルクラシックシリーズ(オンループ、ドワーズドア、ヘント、ロンド、シュヘルデ、ブラバンツ)の最終戦にあたるが、起伏に富んだコースはアルデンヌ・クラシック寄り。そのため、週末から始まるアルデンヌ3連戦(アムステル、フレーシュ、リエージュ)を見据えたクラシックレーサーが集まる。

マイケル・ホーラールツ(ベルギー)を偲ぶ選手たちマイケル・ホーラールツ(ベルギー)を偲ぶ選手たち photo:CorVosステイン・デヴォルデルやワウト・ヴァンアールト(ベルギー、ヴェランダスヴィレムス・クレラン)もスタート地点に現れたステイン・デヴォルデルやワウト・ヴァンアールト(ベルギー、ヴェランダスヴィレムス・クレラン)もスタート地点に現れた photo:CorVos

バーレーン・メリダがプレゼンテーションを受ける。右端に新城幸也の姿バーレーン・メリダがプレゼンテーションを受ける。右端に新城幸也の姿 photo:CorVosマルコ・カノラ(イタリア)をエースにしたNIPPOヴィーニファンティーニ・エウロパオヴィーニ。右端が小林海マルコ・カノラ(イタリア)をエースにしたNIPPOヴィーニファンティーニ・エウロパオヴィーニ。右端が小林海 photo:CorVos


レースの舞台となるのは、ベルギーの首都ブリュッセル南東に広がる丘陵地帯。地理的にはロンドに代表されるフランドルクラシックの開催場所よりも東だ。そのため丘陵は比較的緩やかとなり、激坂と呼ぶような急勾配の登りは登場しないのが特徴。

ルーヴェンからオーベレルエイセに至る202kmコースには、合計27カ所の短い登りが設定されている。フィニッシュ手前には5つの坂「ハーガールト(平均勾配10%)」「ヘルトストラート(平均勾配4%)」「ホルストハイデ(平均勾配5%)」「エイケルダーラーン(平均勾配7%)」「シャヴェイ(平均勾配6%)」が詰め込まれた23kmの周回コースが用意されており、選手たちはここを4周する。

前年度覇者ソニー・コルブレッリ(イタリア)や新城幸也を擁するバーレーン・メリダら、7のワールドチームが顔を揃えた第58回大会は、先週末のパリ〜ルーベ中に死去したマイケル・ホーラールツ(ベルギー)へ捧げる黙祷と共に静かな幕開けを迎えた。悲しみの渦中にあるヴェランダスヴィレムス・クレランはホーラールツの家族の願いもあり、予定通り出走を選択。ワウト・ヴァンアールト(ベルギー)ら、出走しないメンバーやチームスタッフ全員がスタート地点に集まり、それぞれの形で故人を偲んだ。

スタートラインの先頭に並んだヴェランダスヴィレムス・クレランのメンバースタートラインの先頭に並んだヴェランダスヴィレムス・クレランのメンバー photo:CorVos
ヴェランダスヴィレムス・クレランのメンバーを先頭にパレードランを行い、リアルスタートが切られるとドリス・デボンド(ベルギー、ヴェランダスヴィレムス・クレラン)が真っ先にアタック。ここにエドゥアルド・グロス(ルーマニア、NIPPOヴィーニファンティーニ)らが乗り、合計7名の選手がエスケープを形成した。

レースが残り100kmを切る頃には新城幸也を中心としたバーレーン・メリダとロットNLユンボがメイン集団のペースアップを開始し、周回コース突入後最大勾配16%を誇るハーガールト(残り70km)ではロット・スーダルが2名先行させるなど徐々に動きが生まれてくる。ジャック・ヘイグ(オーストラリア、ミッチェルトン・スコット)とトッシュ・ヴァンデルサンド(ベルギー、ロット・スーダル)が飛び出したのは残り60kmを手前にした時点だった。

ルーヴェンの街をスタートしていくルーヴェンの街をスタートしていく photo:CorVosエドゥアルド・グロス(ルーマニア、NIPPOヴィーニファンティーニ)ら7名が逃げるエドゥアルド・グロス(ルーマニア、NIPPOヴィーニファンティーニ)ら7名が逃げる photo:CorVos

残り70kmの「ハーガールト」でロット・スーダルが攻撃に転じる残り70kmの「ハーガールト」でロット・スーダルが攻撃に転じる photo:CorVos
ジャック・ヘイグ(オーストラリア、ミッチェルトン・スコット)とトッシュ・ヴァンデルサンド(ベルギー、ロット・スーダル)が逃げるジャック・ヘイグ(オーストラリア、ミッチェルトン・スコット)とトッシュ・ヴァンデルサンド(ベルギー、ロット・スーダル)が逃げる photo:CorVos
2名はすぐにエスケープグループをキャッチし、暫くのランデブーから粘ったグロスを切り離して再び2名となり逃げ続ける。道幅の狭いアップダウンコースではメイン集団も激しく動き、分断と合流を繰り返しながら人数を減らしていった。

最大勾配12%を誇る最後のホルストハイデ(残り12km地点)で逃げ続けたヘイグとヴァンデルサンドが捕まると、ロット・スーダルが総攻撃に打って出た。マキシム・モンフォール(ベルギー)のペースアップからイエール・ヴァネンデル(ベルギー)がアタックしたことで、エースのティム・ウェレンス(ベルギー)を含む8名が逃げ始める。

ヴァネンデル、ウェレンス、エンリーコ・ガスパロット(イタリア、バーレーン・メリダ)、カルロス・ベローナ(スペイン、ミッチェルトン・スコット)、ベアトヤン・リンデマン(オランダ、ロットNLユンボ)といった強力なメンバーが集団を引き離すと、残り7kmの向かい風区間でウェレンスがアタック。一気に25秒のリードを拡大すると、フィニッシュまで続く独走態勢へと持ち込んだ。

連続する登坂区間でもウェレンスの独走は衰えず、牽引役不在の集団は追走への一手を欠いてしまう。最後のシャヴェイを単独で登りきったウェレンスが、静かに天を指差してフィニッシュ。アルデンヌクラシックを狙う26歳が、パリ〜ニース後1か月の休養空けレースで勝利を飾った。9秒差のメイン集団ではコルブレッリがベノートをスプリントで下し2位に滑り込んだ。

残り7kmの向かい風区間でアタックしたティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・スーダル)残り7kmの向かい風区間でアタックしたティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・スーダル) photo:CorVos
天を指差してフィニッシュするティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・スーダル)天を指差してフィニッシュするティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・スーダル) photo:CorVos
9秒届かなかった集団ではソニー・コルブレッリ(イタリア、バーレーン・メリダ)が先着9秒届かなかった集団ではソニー・コルブレッリ(イタリア、バーレーン・メリダ)が先着 photo:CorVosインタビューエリアに座り込むティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・スーダル)インタビューエリアに座り込むティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・スーダル) photo:CorVos


「今日は僕たちのチームが強力なメンバーを揃えていたから、なるべく早くから展開を作っていくつもりで臨んでいた。ヴァンデルサンドの逃げで脚を溜めて、僕の要求通りにヴァネンデルがアタック。完璧なチームワークだったよ。最初はリードを稼ぐことが目標だったけれど、セリーたちは追走できなかったのですぐに25秒を稼ぐことができた。3つのアルデンヌクラシックとこのブラバンツを含めて4つのチャンスがあって、もう1勝できた。当然他の3つとはレベルが違うけれど、いつだって勝利は難しい。チームの本拠地であるベルギーのレースで勝てたことは大きい」と語ったウェレンス。天を指差してゴールしたことについては、「もちろんホーラールツのため。彼と特別仲が良かった訳ではないけれど、とても大きな損失だ。彼の家族のことを考えてあまり喜びを表現したくはなかったんだ」と答えた。

また、集団牽引に力を尽くした新城は1分18秒遅れの43位、マルコ・カノラ(イタリア)をサポートした小林はグルペットで完走している。新城は「チームの作戦は、もちろん昨年優勝のコルブレッリと、ガスパロットの2人をリーダーに挑んだ。50km過ぎから集団牽引に加わり、7分半あったタイム差を2分半まで縮めて周回に入り、予定通りに1周回目にペースアップし、レースが活発化。自分は辛うじて集団に残りながら、局面ではチームメイトと集団の前方に上がって、位置取りをする繰り返しで、久しぶりのインターバルトレーニングになった(笑)。バスクで苦しんだ分、しっかり回復も出来ていて、厳しいレースだったが、良い感触で走れていたので、次のレースは楽しみだ」と語っている。

ブラバンツペイル2018 表彰台ブラバンツペイル2018 表彰台 photo:CorVos
ブラバンツペイル2018結果
1位 ティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・スーダル) 4h42’48”
2位 ソニー・コルブレッリ(イタリア、バーレーン・メリダ) +09”
3位 ティシュ・ベノート (ベルギー、ロット・スーダル)
4位 ピーター・セリー(ベルギー、クイックステップフロアーズ)
5位 ヤン・トラトニク(スロベニア、CCCスプランディ・ポルコウィチェ)
6位 アンドレア・パスカロン(イタリア、ワンティ・グループゴベール)
7位 ディラン・トゥーンス(ベルギー、BMCレーシング)
8位 ヒューブ・ドゥイン(ベルギー、ヴェランダスヴィレムス・クレラン) +12”
9位 トーマス・スプリンガース(ベルギー、スポーロフラーンデレン・バロワーズ) +14”
10位 ダリル・インピー(南アフリカ、ミッチェルトン・スコット)
43位 新城幸也(バーレーン・メリダ) +1’18”
96位 小林海(NIPPOヴィーニファンティーニ・エウロパオヴィーニ) +17’44”
text:So.Isobe
photo:CorVos
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