2009/12/18(金) - 12:04
北京パラリンピック女子個人追抜・女子ロード個人TTの金メダリストであるイギリスのスター、サラ・ストーリーが、2012年はパラリンピックのみならず五輪へも参加を目指す。「片足のスイマー」ナタリー・デュトイの五輪・パラ両大会出場が話題になったが、自転車競技でも両大会に出場する選手が誕生するか、世界の注目を集めそうだ。
サラ・ストーリー(以下サラ)は強豪揃いのイギリス・パラサイクリングチームの柱となる女子選手の一人で、その追随を許さない強さと明るくオープンな人柄で親しまれている人気選手だ。障害者スポーツをより多くの人に知ってもらうための活動などに参加する姿も親しまれ、イギリスでは比較的知名度の高いスポーツ選手である。
左手先端が欠損した状態で生まれたサラだが、年少のころよりネットボール、卓球などの選手として全国レベルで活躍していた。10歳から水泳のトレーニングを始め、14歳で1992年のパラリンピック・バルセロナ大会に出場し、金・銀・銅あわせて6個のメダルを獲得(当時は旧姓のサラ・バーレー)。
2004年まで水泳選手としてパラリンピックに4回出場したのち、2005年に自転車競技に転向。パラサイクリングの世界選手権で順調に記録を打ち立てて行き、北京パラリンピックでは2種目で金メダルを獲得した。
北京パラリンピックでは2個目の金メダルを取った後、早急に帰国。健常者のトラックイギリス選手権に出場、北京でのメダルからわずか1週間後、女子個人追抜で見事優勝した。
今年10月にも同大会に出場し、女子個人追抜では、2位のHannah Mayhoを5秒近く引き離してタイトルを保持している。このときのタイムは3分40秒244であった。
ブリティッシュサイクリング(イギリス車連)のプレスリリースによると、北京パラリンピックでのサラの個人追抜のタイムは、五輪でもトップ8入りに相当する好成績だという。
健常者と競いたい
自転車に転向した際、「自分には両脚が揃っているのに、本当にパラサイクリストとして参加していいのか戸惑った」という本人の弁が、12月3日付のタイムズ紙には掲載されているが、これは健常者に匹敵する記録に裏打ちされた発言か。
もちろん左手の握力がないということはスタートの加速時に大きなハンデとなる。が、常に目標を高く掲げて先を見据え、トレーニングに励んで目標制覇を目指すのが彼女のスタイルだ。スタートからペースを崩すことなく、周を追うごとにぐんぐん速くなっていく彼女の走りは魅力的である。
「水泳をしていたころ、5回目のパラリンピックは自転車選手としての参加になると誰かに予言されても信じなかったと思う」と、北京前にブリティッシュサイクリングのインタビューで語ったサラ。が、自転車に転向し、そこでも成功を収めるだけではとどまらない。パラサイクリストではあってもここまでタイムを追い上げてきているからには、健常者・障害者という枠組みを超えた舞台がふさわしいと思うのは自然な気持ちであろう。
彼女の目標とするところを知るだけでその志の高さが知れよう。なにしろタイムズ紙によると目下彼女が最高目標とするのは、2004年にサラ・ウルマー(ニュージーランド)が樹立した健常者の女子個人追抜の世界記録、3分24秒537を打ち破ることだという。
ちなみに11月にイギリス・マンチェスターで行われたUCIパラサイクリングトラック世界選手権、女子個人追抜(LC1)に出場した際の彼女の予選でのタイムは、LC1クラス世界新の3分34秒266。ウルマーの世界記録には劣るものの、たとえば今年11月にオーストラリアはメルボルンで行われたUCIトラック・ワールドカップ・クラシクス第2戦における女子個人追抜の記録と比べると、3位に食い込める速さである。
12月10日、IOCはロンドン五輪での新しいトラック競技種目構成を発表。獲得可能なメダル数を男女平等にするための再構成だが、男女とも個人追抜は削除された。タイムズ紙の報道で、サラが目標種目とするのは団体追抜とされているのはそれを見越してのもの。
2008年には、南アフリカの「片足のスイマー」ナタリー・デュトイが、オープンウォーター(マラソンスイム)種目で五輪に出場した。奇しくも二人は水泳選手生活で旧知の間柄だが、サラはこの件に関して意見を交わしたことはないとタイムズ紙では語っている。が、パラ・五輪両大会への参加を果たしたナタリーにサラも触発されたに違いない。
健常者と走りたいというサラの意向は、すでにブリティッシュ・サイクリング側にも伝えられているという。Performance Directorであるデイブ・ブレイルスフォードを中心に、柔軟にサイクリングスポーツと取り組んできているブリティッシュサイクリングが、本人の希望と可能性をどのように受け止めていくかが注目される。
さしあたり、来年3月にコペンハーゲンで行われるUCIトラック世界選手権に参加が叶うか、また健常者の選手と一緒のトレーニングが認められるかどうかといったところに興味を引かれる。
Text:Yuko YAMAWAKI/山脇祐子(在マンチェスター)
Photo:Yuko SATO/佐藤有子
サラ・ストーリー(以下サラ)は強豪揃いのイギリス・パラサイクリングチームの柱となる女子選手の一人で、その追随を許さない強さと明るくオープンな人柄で親しまれている人気選手だ。障害者スポーツをより多くの人に知ってもらうための活動などに参加する姿も親しまれ、イギリスでは比較的知名度の高いスポーツ選手である。
左手先端が欠損した状態で生まれたサラだが、年少のころよりネットボール、卓球などの選手として全国レベルで活躍していた。10歳から水泳のトレーニングを始め、14歳で1992年のパラリンピック・バルセロナ大会に出場し、金・銀・銅あわせて6個のメダルを獲得(当時は旧姓のサラ・バーレー)。
2004年まで水泳選手としてパラリンピックに4回出場したのち、2005年に自転車競技に転向。パラサイクリングの世界選手権で順調に記録を打ち立てて行き、北京パラリンピックでは2種目で金メダルを獲得した。
北京パラリンピックでは2個目の金メダルを取った後、早急に帰国。健常者のトラックイギリス選手権に出場、北京でのメダルからわずか1週間後、女子個人追抜で見事優勝した。
今年10月にも同大会に出場し、女子個人追抜では、2位のHannah Mayhoを5秒近く引き離してタイトルを保持している。このときのタイムは3分40秒244であった。
ブリティッシュサイクリング(イギリス車連)のプレスリリースによると、北京パラリンピックでのサラの個人追抜のタイムは、五輪でもトップ8入りに相当する好成績だという。
健常者と競いたい
自転車に転向した際、「自分には両脚が揃っているのに、本当にパラサイクリストとして参加していいのか戸惑った」という本人の弁が、12月3日付のタイムズ紙には掲載されているが、これは健常者に匹敵する記録に裏打ちされた発言か。
もちろん左手の握力がないということはスタートの加速時に大きなハンデとなる。が、常に目標を高く掲げて先を見据え、トレーニングに励んで目標制覇を目指すのが彼女のスタイルだ。スタートからペースを崩すことなく、周を追うごとにぐんぐん速くなっていく彼女の走りは魅力的である。
「水泳をしていたころ、5回目のパラリンピックは自転車選手としての参加になると誰かに予言されても信じなかったと思う」と、北京前にブリティッシュサイクリングのインタビューで語ったサラ。が、自転車に転向し、そこでも成功を収めるだけではとどまらない。パラサイクリストではあってもここまでタイムを追い上げてきているからには、健常者・障害者という枠組みを超えた舞台がふさわしいと思うのは自然な気持ちであろう。
彼女の目標とするところを知るだけでその志の高さが知れよう。なにしろタイムズ紙によると目下彼女が最高目標とするのは、2004年にサラ・ウルマー(ニュージーランド)が樹立した健常者の女子個人追抜の世界記録、3分24秒537を打ち破ることだという。
ちなみに11月にイギリス・マンチェスターで行われたUCIパラサイクリングトラック世界選手権、女子個人追抜(LC1)に出場した際の彼女の予選でのタイムは、LC1クラス世界新の3分34秒266。ウルマーの世界記録には劣るものの、たとえば今年11月にオーストラリアはメルボルンで行われたUCIトラック・ワールドカップ・クラシクス第2戦における女子個人追抜の記録と比べると、3位に食い込める速さである。
12月10日、IOCはロンドン五輪での新しいトラック競技種目構成を発表。獲得可能なメダル数を男女平等にするための再構成だが、男女とも個人追抜は削除された。タイムズ紙の報道で、サラが目標種目とするのは団体追抜とされているのはそれを見越してのもの。
2008年には、南アフリカの「片足のスイマー」ナタリー・デュトイが、オープンウォーター(マラソンスイム)種目で五輪に出場した。奇しくも二人は水泳選手生活で旧知の間柄だが、サラはこの件に関して意見を交わしたことはないとタイムズ紙では語っている。が、パラ・五輪両大会への参加を果たしたナタリーにサラも触発されたに違いない。
健常者と走りたいというサラの意向は、すでにブリティッシュ・サイクリング側にも伝えられているという。Performance Directorであるデイブ・ブレイルスフォードを中心に、柔軟にサイクリングスポーツと取り組んできているブリティッシュサイクリングが、本人の希望と可能性をどのように受け止めていくかが注目される。
さしあたり、来年3月にコペンハーゲンで行われるUCIトラック世界選手権に参加が叶うか、また健常者の選手と一緒のトレーニングが認められるかどうかといったところに興味を引かれる。
Text:Yuko YAMAWAKI/山脇祐子(在マンチェスター)
Photo:Yuko SATO/佐藤有子