2017/07/15(土) - 15:06
観客の入場が規制され、静かな1級山岳ミュール・ド・ペゲールで繰り広げられたマイヨジョーヌ争い。12年ぶりにフランス人がフランス革命記念日に勝った。総合争いは緊迫した状況のままアルプスに向かう。
バイクを押さずに担いで運ぶメカニック photo:Kei Tsuji / TDWsport
人垣ができるチームパドックエリア photo:Kei Tsuji / TDWsport
職場に向かうUCIコミッセールの皆様 photo:Kei Tsuji / TDWsport
前日に続いて曇り空のピレネー地方 photo:Kei Tsuji / TDWsport
7月14日はフランスのお祭りの日。いわゆる革命記念日で、フランスでは「フェト・ナシオナル・フランセーズ」と呼ばれ、国全体がお休みになる。1789年のバスティーユ牢獄襲撃に端を発した革命を記念したもので、「カトルズ・ジュイェ(7月14日)」もしくは英語で「バスティーユ・デイ」とも呼ばれる。
9日後に選手たちが走るパリのシャンゼリゼ通りで軍事パレードが行われるのが通例。1年前の2016年7月14日にニースでトラックが暴走して86名の犠牲者を出したテロ事件が発生したこともあり、スタートとフィニッシュ地点はいつにも増して厳重な警備体制が敷かれた。
第13ステージの101kmという距離は他のステージの約半分しかない。タイムトライアルを除くと101kmというステージは過去45年の中で最も短い。ここまで極端に距離が短いのは、コンパクトにまとめることで警備を強化するためなんじゃないかと勘ぐってしまう。距離を半分にすることで警備を二倍にできる。きっとそんな簡単なことじゃないんだろうけど。
既報の通り、第13ステージの朝の話題はリゴベルト・ウラン(コロンビア、キャノンデール・ドラパック)とジョージ・ベネット(ニュージーランド、ロットNLユンボ)、セルジュ・パウェルス(ベルギー、ディメンションデータ)に与えられていたタイムペナルティの取り下げで持ちきりだった。
同じく補給禁止区間でボトルを受け取ったロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール)にペナルティが与えられない明白な不公平さにキャノンデール・ドラパックのジョナサン・ヴォーターズGMが声を上げ、UCI側がこれを認めて折れた形だが、形式上は「補給禁止区間の手前でチームカーによる補給が難しい状況だったため」という理由によるもの。
ではペナルティの取り下げで全てが丸く収まるかというとそうではなく、ルールに沿ってボトルを頑なに受け取らなかった選手が不利になる(正直者が馬鹿を見る)状況であるとも言える。とにかくUCIコミッセールの判断は正義だが、今大会は公平さに欠けるとして話題に上ることが多い。
初日にリタイアしたヨン・イサギレ(スペイン、バーレーン・メリダ)のゼッケンが常に貼られている photo:Kei Tsuji / TDWsport
アレッサンドロ・デマルキ(イタリア、BMCレーシング)のタトゥー photo:Kei Tsuji / TDWsport
久々にチームジャージで登場したクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ) photo:Kei Tsuji / TDWsport
マイヨジョーヌを着るイタリアチャンピオン photo:Kei Tsuji / TDWsport
旧道のトンネルを通過する photo:Kei Tsuji / TDWsport
コースの距離とコースの難易度は必ずしも比例しない。むしろ距離が短ければそれだけ強度が上がるため、タフな展開に持ち込まれがちだ。完走を目指すスプリンターたちにとっても短距離コースは厄介なもので、タイムリミットの基準となるステージ優勝タイムが短くなるため大きな遅れが許されない。スプリンターたちは登りも下りも常に全開走行。最初の1級山岳ラトラップ峠で早速グルペットが形成され、スタートからたった30km走った時点でメイン集団の人数が20名前後という激しさだった。
前述の通り、フランス革命記念日だけにレース全体の警備が厳しめ。近年は選手の安全を最優先するために山岳ステージの峠道へのアクセスが厳しく規制されがちで、レース当日は一般車両はもちろんのことサイクリストも走行禁止になる場合がほとんど。観客は前日入りするか徒歩で麓から登る必要がある。今年は沿道の観客が少なめだという声も聞かれるが、そんなコースへのアクセスの悪さも原因の一つだ。
この日最後の1級山岳ミュール・ド・ペゲールは急勾配でしかも道幅が車両一台分しかない。前半部分は観客で埋まったが、後半部分は観客の立ち入りが完全に規制された。プレスカーやチームカーの停車や駐車も禁止される厳しさ。2012年にミュール・ド・ペゲールがツールに最後に登場した際、鋲が巻かれて30人がパンクした事件の影響もあると思われる。
2年前のラセ・ド・モンヴェルニエと同じ無観客試合。観客のいない登りの沿道にはジャンダルマリー(憲兵)が等間隔に立ち、侵入者がいないか耳をすませ、見つけ次第コース脇から追い出す徹底ぶり。小鳥のさえずりを聞きながらレースを待つのは新鮮そのもので、歓声も何もない急坂を突然コンタドールが先頭で登ってきた。
1級山岳ミュール・ド・ペゲールを先頭で登るアルベルト・コンタドール(スペイン、トレック・セガフレード)ら photo:Kei Tsuji / TDWsport
1級山岳ミュール・ド・ペゲールで先頭コンタドールを追うワレン・バルギル(フランス、サンウェブ) photo:Kei Tsuji / TDWsport
観客のいない1級山岳ミュール・ド・ペゲールを登るメイングループ photo:Kei Tsuji / TDWsport
1級山岳ミュール・ド・ペゲールを登るクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)ら photo:Kei Tsuji / TDWsport
観客のいない1級山岳ミュール・ド・ペゲールを登る photo:Kei Tsuji / TDWsport
2005年のダヴィ・モンクティエ以来となるフランス人選手によるフランス革命記念日のステージ優勝。バルギルがフランスにステージ4勝目(デマール、カルメジャーヌ、バルデ、バルギル)をもたらした。
バルギルはフランス北西部のブルターニュ地方出身で、同地方出身者のステージ優勝は1993年以来となる。そのためフランス人のブルターニュ人の二重国籍だと自負しているバルギルにとってはかなり特別な勝利だった。しかも子供の頃からのヒーローであるコンタドールを打ち破っての勝利。ブルターニュ地方でアマチュアレースを走っていた頃、バルギルは勝利の際にコンタドールを真似て拳銃を打つポーズを見せていたという。
グランツールの総合争いは一般的に日を追う毎にタイム差が広がっていくものだが、2017年のツールはどこか違う。クリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)が支配的な強さを見せていないこともあり、3週目に向けてむしろ総合タイム差は縮まりつつある。第13ステージで総合7位ランダ、総合8位キンタナ、総合11位コンタドールが2分近い差で逃げ切ったため、総合タイム差がぎゅっと濃縮された。
パリまで8ステージを残してマイヨジョーヌから総合4位ウランまで35秒差で、総合8位のキンタナまで2分07秒差という僅差。参考までに、2016年は第13ステージ終了時点で総合1位フルームと総合2位モレマは1分47秒差で、総合8位のポートとは4分27秒差だった。2015年に至っては総合1位フルームと総合2位ヴァンガーデレンが2分52秒差で、総合8位のガロパンとは7分32秒差だった。これらのタイム差を見ると2017年がどれだけ僅差なのかが分かる。21世紀で最もタイトな総合争いだとも言われる。
補給はチームの垣根を越える photo:Kei Tsuji / TDWsport
1級山岳ミュール・ド・ペゲールを登る新城幸也(バーレーン・メリダ) photo:Kei Tsuji / TDWsport
下りに備えて沿道から新聞を受け取るルーク・ロウ(イギリス、チームスカイ) photo:Kei Tsuji / TDWsport
グルペットで下りに突入するマルセル・キッテル(ドイツ、クイックステップフロアーズ) photo:Kei Tsuji / TDWsport
ステージ優勝を飾ったワレン・バルギル(フランス、サンウェブ)がマイヨアポワを着る photo:Tim de Waele / TDWsport
マイヨジョーヌ争いにおいて鍵を握っているのはおそらく総合5位に浮上したミケル・ランダ(スペイン、チームスカイ)だ。登坂力だけを見ると今大会出場者の中でフルームを退けてナンバーワン。第12ステージのフィニッシュ後にランダが「フルームを待て」というチームオーダーを出したニコラ・ポルタル監督に明らかな苛立ちを見せるシーンも。
フルームが「ランダはマイヨジョーヌ争いの脅威」と半分冗談で話すほどランダは登れている。「ライバルたちがアシストを欠く中、カードを二枚持っていることは大きなアドバンテージになる。総合争いにおいてパーフェクトな状況だ」とフルームは自信を見せているが、かつて自身が経験したウィギンズとの確執のようなものが生まれれば話はややこしくなる。
内容の濃いピレネーの2日間を終えて、ツールは翌日からアルプスへの移動期間に入る。第14ステージのスタート地点ブラニャックは新城幸也(バーレーン・メリダ)が渡仏した際に所属していたアマチュアチームがある場所。新城の第二の故郷とも言えるブラニャックで逃げ切り向きのステージがスタートする。
text&photo:Kei Tsuji in Foix, France
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7月14日はフランスのお祭りの日。いわゆる革命記念日で、フランスでは「フェト・ナシオナル・フランセーズ」と呼ばれ、国全体がお休みになる。1789年のバスティーユ牢獄襲撃に端を発した革命を記念したもので、「カトルズ・ジュイェ(7月14日)」もしくは英語で「バスティーユ・デイ」とも呼ばれる。
9日後に選手たちが走るパリのシャンゼリゼ通りで軍事パレードが行われるのが通例。1年前の2016年7月14日にニースでトラックが暴走して86名の犠牲者を出したテロ事件が発生したこともあり、スタートとフィニッシュ地点はいつにも増して厳重な警備体制が敷かれた。
第13ステージの101kmという距離は他のステージの約半分しかない。タイムトライアルを除くと101kmというステージは過去45年の中で最も短い。ここまで極端に距離が短いのは、コンパクトにまとめることで警備を強化するためなんじゃないかと勘ぐってしまう。距離を半分にすることで警備を二倍にできる。きっとそんな簡単なことじゃないんだろうけど。
既報の通り、第13ステージの朝の話題はリゴベルト・ウラン(コロンビア、キャノンデール・ドラパック)とジョージ・ベネット(ニュージーランド、ロットNLユンボ)、セルジュ・パウェルス(ベルギー、ディメンションデータ)に与えられていたタイムペナルティの取り下げで持ちきりだった。
同じく補給禁止区間でボトルを受け取ったロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール)にペナルティが与えられない明白な不公平さにキャノンデール・ドラパックのジョナサン・ヴォーターズGMが声を上げ、UCI側がこれを認めて折れた形だが、形式上は「補給禁止区間の手前でチームカーによる補給が難しい状況だったため」という理由によるもの。
ではペナルティの取り下げで全てが丸く収まるかというとそうではなく、ルールに沿ってボトルを頑なに受け取らなかった選手が不利になる(正直者が馬鹿を見る)状況であるとも言える。とにかくUCIコミッセールの判断は正義だが、今大会は公平さに欠けるとして話題に上ることが多い。
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前述の通り、フランス革命記念日だけにレース全体の警備が厳しめ。近年は選手の安全を最優先するために山岳ステージの峠道へのアクセスが厳しく規制されがちで、レース当日は一般車両はもちろんのことサイクリストも走行禁止になる場合がほとんど。観客は前日入りするか徒歩で麓から登る必要がある。今年は沿道の観客が少なめだという声も聞かれるが、そんなコースへのアクセスの悪さも原因の一つだ。
この日最後の1級山岳ミュール・ド・ペゲールは急勾配でしかも道幅が車両一台分しかない。前半部分は観客で埋まったが、後半部分は観客の立ち入りが完全に規制された。プレスカーやチームカーの停車や駐車も禁止される厳しさ。2012年にミュール・ド・ペゲールがツールに最後に登場した際、鋲が巻かれて30人がパンクした事件の影響もあると思われる。
2年前のラセ・ド・モンヴェルニエと同じ無観客試合。観客のいない登りの沿道にはジャンダルマリー(憲兵)が等間隔に立ち、侵入者がいないか耳をすませ、見つけ次第コース脇から追い出す徹底ぶり。小鳥のさえずりを聞きながらレースを待つのは新鮮そのもので、歓声も何もない急坂を突然コンタドールが先頭で登ってきた。
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2005年のダヴィ・モンクティエ以来となるフランス人選手によるフランス革命記念日のステージ優勝。バルギルがフランスにステージ4勝目(デマール、カルメジャーヌ、バルデ、バルギル)をもたらした。
バルギルはフランス北西部のブルターニュ地方出身で、同地方出身者のステージ優勝は1993年以来となる。そのためフランス人のブルターニュ人の二重国籍だと自負しているバルギルにとってはかなり特別な勝利だった。しかも子供の頃からのヒーローであるコンタドールを打ち破っての勝利。ブルターニュ地方でアマチュアレースを走っていた頃、バルギルは勝利の際にコンタドールを真似て拳銃を打つポーズを見せていたという。
グランツールの総合争いは一般的に日を追う毎にタイム差が広がっていくものだが、2017年のツールはどこか違う。クリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)が支配的な強さを見せていないこともあり、3週目に向けてむしろ総合タイム差は縮まりつつある。第13ステージで総合7位ランダ、総合8位キンタナ、総合11位コンタドールが2分近い差で逃げ切ったため、総合タイム差がぎゅっと濃縮された。
パリまで8ステージを残してマイヨジョーヌから総合4位ウランまで35秒差で、総合8位のキンタナまで2分07秒差という僅差。参考までに、2016年は第13ステージ終了時点で総合1位フルームと総合2位モレマは1分47秒差で、総合8位のポートとは4分27秒差だった。2015年に至っては総合1位フルームと総合2位ヴァンガーデレンが2分52秒差で、総合8位のガロパンとは7分32秒差だった。これらのタイム差を見ると2017年がどれだけ僅差なのかが分かる。21世紀で最もタイトな総合争いだとも言われる。
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マイヨジョーヌ争いにおいて鍵を握っているのはおそらく総合5位に浮上したミケル・ランダ(スペイン、チームスカイ)だ。登坂力だけを見ると今大会出場者の中でフルームを退けてナンバーワン。第12ステージのフィニッシュ後にランダが「フルームを待て」というチームオーダーを出したニコラ・ポルタル監督に明らかな苛立ちを見せるシーンも。
フルームが「ランダはマイヨジョーヌ争いの脅威」と半分冗談で話すほどランダは登れている。「ライバルたちがアシストを欠く中、カードを二枚持っていることは大きなアドバンテージになる。総合争いにおいてパーフェクトな状況だ」とフルームは自信を見せているが、かつて自身が経験したウィギンズとの確執のようなものが生まれれば話はややこしくなる。
内容の濃いピレネーの2日間を終えて、ツールは翌日からアルプスへの移動期間に入る。第14ステージのスタート地点ブラニャックは新城幸也(バーレーン・メリダ)が渡仏した際に所属していたアマチュアチームがある場所。新城の第二の故郷とも言えるブラニャックで逃げ切り向きのステージがスタートする。
text&photo:Kei Tsuji in Foix, France
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