ベルギー・フランドル地方の自転車熱が頂点に達する週末がやってくる。4月2日(日)に開催される「クラシックの王様」こと第101回ロンド・ファン・フラーンデレンのコースや選手の見どころをチェックしておこう。



オウデ・クワレモントとパテルベルグを含むフランドルの激坂巡り

ロンド・ファン・フラーンデレン2017ロンド・ファン・フラーンデレン2017 image: www.rondevanvlaanderen.be「モニュメント」と呼ばれる世界五大ワンデークラシックの中でも、ひと際大きな存在感を見せるのが「クラシックの王様」ことロンド・ファン・フラーンデレンだ。1913年に初開催され、長年ベルギー北部のフランドル地方で愛され続けてきた大会が、4月2日(日)、101回目の開催を迎える。

ミュールを試走するトム・ボーネン(ベルギー、クイックステップフロアーズ)ミュールを試走するトム・ボーネン(ベルギー、クイックステップフロアーズ) photo: TDWsport / KTフランス語名の「ツール・デ・フランドル」と呼ばれることもあるが、現地フラマン語(オランダ語)に準じると「ロンド・ファン・フラーンデレン」。フランドル地方最大のロードレースであり、そのステータスは「世界一」と言える。

バイクを押してコッペンベルグを登るバイクを押してコッペンベルグを登る photo:TDWsport / KT自転車競技熱が高いフランドル地方で開催されるだけに、沿道には熱狂的なファンが詰めかけ、頭上にはフランドルの象徴である(ベルギー全体の象徴ではない)フレミッシュライオンが描かれたイエローフラッグが翻る。今年もフランドル地方のクラシックシーズンの熱気はこのロンドで頂点に達する。人口650万人のフランドル地方にあって、毎年70万人前後の観客が沿道に駆けつけると言われる。

フランドル地方のアップダウンコースを走るフランドル地方のアップダウンコースを走る photo:TDWsport / KTロンド・ファン・フラーンデレンがそれだけ高いステータスを誇っている理由、それは他のクラシックレースには見られない過酷なコース設定だ。テクニカルかつ細い農道を駆け抜け、断続的に登場する石畳に覆われた急坂に挑む。コース全長は260km。最も高い場所でも標高150mほどだが、1日の獲得標高差は2,300mに達する。

オウデ・クワレモントを登るプロトンオウデ・クワレモントを登るプロトン photo:TDWsport / KT1913年から1976年はヘント、1977年から1997年はセント・ニクラス、そして1998年から19年間ブルージュでスタートが切られてきたが、2017年から2021年までスタート地点はアントワープに。フィニッシュ地点はレース博物館のあるオウデナールデのままだ。

2017年最大のトピックはスタート地点の変更と名物「ミュール・カペルミュール(正式名称ミュール・ファン・ヘラールツベルヘン)」の5年ぶりの復活。とは言っても「ミュール」はフィニッシュから90km以上離れており、勝負に直接影響する動きは生まれにくいだろう。

勝負を決めるのは「オウデ・クワレモント」と「パテルベルグ」を含む大小の周回コースだ。例年レースが本格化するのは2回目の「オウデ・クワレモント」から。渋滞によってバイクを押す選手も続出する最大勾配22%の「コッペンベルグ」を皮切りに、フィニッシュまで一瞬たりとも気が抜けない約1時間の闘いが始まる。登り単体ではなく、チーム力が問われる登り手前の位置取り合戦も重要なファクターを担う。

連続する石畳の登りでのアタック合戦を経て(集団は精鋭に絞られた状態で)、本命たちが最後の「オウデ・クワレモント」と「パテルベルグ」に突入する。この2つの名物坂はいずれも石畳に覆われており、前者が平均4%・最大11.6%・長さ2200m、後者が平均12.9%・最大20.3%・長さ360m。フィニッシュから13kmしか離れていない最後の「パテルベルグ」で決定的な動きが生まれるはずだ。

天気予報によると、フィニッシュ地点オウデナールデの天候は曇りで、気温は最高14度/最低6度。降水の心配は少なく、風が弱いという予報が出ている。



登場する18カ所の急坂
1 115km地点 オウデ・クワレモント 石畳 平均4% 最大11.6% 長さ2200m
2 126km地点 コルテケール アスファルト 平均6.4% 最大17.1% 長さ1000m
3 133km地点 エイケンベルグ 石畳 平均5.2% 最大10% 長さ1200m
4 136km地点 ウォルヴェンベルグ アスファルト 平均7.9% 最大17.3% 長さ645m
5 145km地点 レベルグ アスファルト 平均4.2% 最大13.8% 長さ950m
6 149km地点 ベレンドリース アスファルト 平均7% 最大12.3% 長さ940m
7 154km地点 テンボッシュ アスファルト 平均6.9% 最大8.7% 長さ450m
8 165km地点 ミュール・カペルミュール 石畳 平均9.2% 最大19.8% 長さ1075m
9 183km地点 ポッテルベルグ アスファルト 平均6.5% 最大8% 長さ1300m
10 189km地点 カナリーベルグ アスファルト 平均7.7% 最大14% 長さ1000m
11 205km地点 オウデ・クワレモント 石畳 平均4% 最大11.6% 長さ2200m
12 209km地点 パテルベルグ 石畳 平均12.9% 最大20.3% 長さ360m
13 215km地点 コッペンベルグ 石畳 平均11.6% 最大22% 長さ600m
14 220km地点 シュテインビークドリシュ アスファルト 平均5.3% 最大6.7% 長さ700m
15 223km地点 ターインベルグ 石畳 平均6.6% 最大15.8% 長さ530m
16 233km地点 クルイスベルグ 石畳 平均5% 最大9% 長さ2500m
17 243km地点 オウデ・クワレモント 石畳 平均4% 最大11.6% 長さ2200m
18 247km地点 パテルベルグ 石畳 平均12.9% 最大20.3% 長さ360m


ロンド・ファン・フラーンデレン2017ロンド・ファン・フラーンデレン2017 image: www.rondevanvlaanderen.be


ボーネンのラストロンド サガン、GVA、ジルベールが三強か

ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ) photo: TDWsport / KTアントワープのスタートラインに並ぶのは18あるUCIワールドチームにスポートフラーンデレン、ワンティ・グループグベルト、ヴェランダスウィレムス、ディレクトエネルジー、コフィディス、ルームポット、ウィリエールトリエスティーナを加えた25チーム、200名の選手たち。

グレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー、BMCレーシング)グレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー、BMCレーシング) photo: TDWsport / KT優勝候補の筆頭に挙げられるのはディフェンディングチャンピオンのペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)だ。2016年に自身6回目のロンド挑戦で初勝利。再びアルカンシェルを着てロンドの頂点を狙う。

フィリップ・ジルベール(ベルギー、クイックステップフロアーズ)フィリップ・ジルベール(ベルギー、クイックステップフロアーズ) photo: TDWsport / KT独走でもスプリントでも勝てるオールラウンドな脚質の持ち主サガンはクールネ〜ブリュッセル〜クールネで勝利したが、ここまでミラノ〜サンレモ2位、ヘント〜ウェヴェルヘム3位と、今シーズンまだメジャークラシックでの勝利はない。サバイバルレースの終盤にサガンの脇を固めるようなチーム戦力の欠如が唯一の懸念事項。さらにヘント〜ウェヴェルヘムで激しく他選手を押しのけながらポジション取りする映像が流れるなどしたため、ベルギー国内では少々風あたりが悪い。

レース前の記者会見に臨むトム・ボーネン(ベルギー、クイックステップフロアーズ)レース前の記者会見に臨むトム・ボーネン(ベルギー、クイックステップフロアーズ) photo: TDWsport / KT好敵手として近年サガンの前に立ちはだかっているグレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー、BMCレーシング)は、2週間前のE3ハーレルベーケと1週間前のヘント〜ウェヴェルヘムで連勝。好調の波に乗っているリオ五輪金メダリストはこれまでロンドに11回出場し、2014年2位、2015年3位という成績を残している。「もはや自分が優勝候補の一人であることに疑いの余地はない」と初勝利に照準を合わす。

アレクサンドル・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ・アルペシン)アレクサンドル・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ・アルペシン) photo: TDWsport / KTヴァンアーヴェルマートとともにベルギーの期待を背負う双璧を担うのが元チームメイトのフィリップ・ジルベール(ベルギー、クイックステップフロアーズ)。ワロン地方出身のベルギーチャンピオンは2009年と2010年のロンドで3位。「アルデンヌクラシック」と「北のクラシック」の双方で勝利を狙える稀有なクラシックライダーであり、今季ドワーズ・ドール・フラーンデレンとE3ハーレルベーケで2位に入り、直前のデパンヌ〜コクサイデ3日間レースで総合優勝を飾っている。

ジョン・デゲンコルブ(ドイツ、トレック・セガフレード)ジョン・デゲンコルブ(ドイツ、トレック・セガフレード) photo:TDWsport / KT「石畳を速く快適に走る感触が戻ってきた」という絶好調ジルベールだが、屈強なクイックステップフロアーズのメンバーの一人に過ぎない。2005年、2006年、2012年大会の優勝者で、1週間後のパリ〜ルーベを最後に現役を引退するトム・ボーネン(ベルギー)やニキ・テルプストラ(オランダ)、ゼネク・スティバル(チェコ)という勝てる強力メンバーがずらり。時にその強さが裏目にでることもあるが、チームの戦力としては他チームを圧倒していると言える。

いつも勝負どころで優勝候補に食らいつき、表彰台の常連となりつつあるセップ・ヴァンマルク(ベルギー、キャノンデール・ドラパック)の他、直前のクラシックで好走したオリバー・ナーセン(ベルギー、アージェードゥーゼール)やイェンス・クールレール(ベルギー、オリカ・スコット)らも地元ベルギー最大のタイトル獲得を狙う。2015年に21歳ながら5位に入ったティエシー・ブノート(ベルギー、ロット・ソウダル)はベルギーチームのエースナンバーをつけての出場だ。

石畳坂でのアタック合戦を耐え凌ぎ、スプリント勝負に持ち込むことができればアレクサンドル・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ・アルペシン)やジョン・デゲンコルブ(ドイツ、トレック・セガフレード)らにチャンスが回ってくる。サバイバルレースに強いソニー・コルブレッリ(イタリア、バーレーン・メリダ)やアルノー・デマール(フランス、エフデジ)も同様だ。

クリストフは2013年以降4年連続でトップ5フィニッシュしており、2015年に初優勝。今シーズンまだ大きな勝利はないが、デパンヌでのステージ優勝で調子の良さを見せている。2015年に7位に入ったデゲンコルブはカンチェラーラなきトレック・セガフレードを率いての出場となる。

2008年と2009年大会の優勝者ステイン・デヴォルデル(ベルギー、ヴェランダスウィレムス)は出場選手中最多となる15回目の出場(ボーネン、ラスト、アイゼルは14回目)。最年長は38歳と348日のマシュー・ヘイマン(オーストラリア、オリカ・スコット)で、最年少は21歳と134日のイバン・ガルシア(スペイン、バーレーン・メリダ)だ。



ロンド・ファン・フラーンデレン歴代優勝者
2016年 1位サガン、2位カンチェラーラ、3位ヴァンマルク
2015年 1位クリストフ、2位テルプストラ、3位ヴァンアーヴェルマート
2014年 1位カンチェラーラ、2位ヴァンアーヴェルマート、3位ヴァンマルク
2013年 1位カンチェラーラ、2位サガン、3位ルーランズ
2012年 1位ボーネン、2位ポッツァート、3位バッラン
2011年 1位ナイエンス、2位シャヴァネル、3位カンチェラーラ
2010年 1位カンチェラーラ、2位ボーネン、3位ジルベール
2009年 1位デヴォルデル、2位ハウッスラー、3位ジルベール
2008年 1位デヴォルデル、2位ナイエンス、3位フレチャ
2007年 1位バッラン、2位ホステ、3位パオリーニ
2006年 1位ボーネン、2位ホステ、3位ヒンカピー
2005年 1位ボーネン、2位クリアー、3位ファンペテヘム




text:Kei Tsuji