2017/03/27(月) - 09:49
新たに未舗装区間が追加されたヘント〜ウェヴェルヘム。「ケンメルベルグ」で形成された精鋭グループの中から抜け出し、クークレールとのスプリント一騎打ちでグレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー、BMCレーシング)が大会初制覇を果たした。
レース中盤の横風区間でメイン集団が分裂する photo: TDWsport / KT
ヘント〜ウェヴェルヘム2017 image: Gent-Wevelgemロンド・ファン・フラーンデレンを1週間後、パリ〜ルーベを2週間後に控えた3月26日に開催されたヘント〜ウェヴェルヘム。上記2戦と比べると歴史は浅いが、浅いと言っても1934年にスタートしたのだから伝統の一戦であることに変わりはない。
レース序盤から集団内で落車が多発 photo: TDWsport / KT2005年からUCIプロツアー(現UCIワールドツアー)に組み込まれており、2017年は開催79回目。長年ロンドとルーベに挟まれた水曜日に開催されてきたが、2011年からロンド前週の日曜日に開催日が移された。なお、第1次世界大戦の戦後100周年に合わせ、同大戦の舞台となった地域を通過することから2015年からは「ヘント〜ウェヴェルヘム:イン・フランドルフィールズ・クラシック」という正式名称が採用されている。
1回目の「ケンメルベルグ」を先頭で上るトム・ボーネン(ベルギー、クイックステップフロアーズ) photo: TDWsport / KTレース名の通り、コースは概ねベルギー・フランドル地方のヘントからウェヴェルヘムまで。ヘントの南西15kmに位置するデインセをスタートし、一路北海沿いのデパンヌに向かって西進。そこから内陸部へと進路を変え、ウェヴェルヘムでフィニッシュを迎える。
未舗装区間「プラグストリート」でアタックしたゼネク・スティバル(チェコ、クイックステップフロアーズ) photo: TDWsport / KT249kmコースの大半はフラットで、他のクラシックレースと比べるとスプリンター向きであると言える。かと言ってすんなりと大集団スプリントに持ち込まれるわけではなく、2017年大会には短い急坂が11カ所登場する。いずれも後半に詰め込まれており、中でも合計2回登場する「バネベルグ」「ケンメルベルグ」のセットがスプリンターたちの脚を苦しめる。
新登場した未舗装区間「プラグストリート」を駆け抜ける photo: TDWsport / KT1回目の「ケンメルベルグ(1,500m/平均6%/最大22%)」は東側からの登坂。その後「モンテベルグ」と「バネベルグ」をこなし、続いて西側から「ケンメルベルグ(700m/平均9%/最大22%)」を上る。最後の「ケンメルベルグ」からフィニッシュまでは34kmの平坦路。2017年はさらに未舗装区間も新たに取り入れられ、石畳&急坂&未舗装路の組み合わせがスペクタクルなレースを予感させた。
2016年大会のレース中に亡くなったアントワーヌ・デモアティエ(ベルギー)を偲び、ワンティ・グループグベルトを先頭に1分間の黙祷を経てレースはスタートした。直後に始まったハイスピードアタック合戦から抜け出した9名の逃げグループをメイン集団が追いかける展開に。
レース前半は比較的穏やかな進行となったが、急坂が連続する中盤から集団内は慌ただしくなっていく。細く曲がりくねった道では落車が多発。さらに横風区間でペースアップが図られ、本格的な勝負どころを前に人数が絞られるサバイバルレースとなる。
トム・ボーネン(ベルギー、クイックステップフロアーズ)を先頭に1回目の「ケンメルベルグ」をクリアすると、そこからクイックステップフロアーズがレースを作った。続く未舗装区間「プラグストリート」で元シクロクロス世界王者ゼネク・スティバル(チェコ、クイックステップフロアーズ)がアタックした。
砂埃舞う未舗装路でのスティバルの加速に対応できた数名が追走グループを形成し、それまで逃げていた選手たちを吸収しながら先を急ぐ。しかしBMCレーシングがメイン集団を率い、スティバルらの動きを封じ込める。
するとBMCレーシングは攻撃に転じ、残り39km地点の「バネベルグ」でダニエル・オス(イタリア、BMCレーシング)がアタック。オスは先頭単独で逃げ続けていたプレベン・ヴァンヘッケ(ベルギー、スポートフラーンデレン)を追い抜いたものの、メイン集団を振り切るには至らなかった。
2回目の「ケンメルベルグ」でアタックするグレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー、BMCレーシング) photo: TDWsport / KT
「ケンメルベルグ」でヴァンアーヴェルマートを追うペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ) photo: TDWsport / KT頻発するアタックを経て集団は一つのまま最後の「ケンメルベルグ」に突入。するとヴァンアーヴェルマートの攻撃が始まった。最大勾配22%の石畳坂でペースを上げたヴァンアーヴェルマートには、因縁のライバルであるペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)がすかさずジョイン。下り区間でジョン・デゲンコルブ(ドイツ、トレック・セガフレード)、エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、ディメンションデータ)、ニキ・テルプストラ(オランダ、クイックステップフロアーズ)らが追いつき、最後の難所を終えて強力な先頭グループが形成される。
5名で先頭グループを形成するイェンス・クールレール(ベルギー、オリカ・スコット)ら photo: TDWsport / KTサガンが積極的に先頭グループを率いたものの、フィニッシュまで30kmを残してマイケル・マシューズ(オーストラリア、サンウェブ)やイェンス・クールレール(ベルギー、オリカ・スコット)、オリバー・ナーセン(ベルギー、アージェードゥーゼール)を含む8名が合流。こうして14名が先頭グループを形成し、50名ほどのメイン集団から30秒リードで先行した。
残り16km地点でサガンらを置き去りにしたイェンス・クールレール(ベルギー、オリカ・スコット)とグレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー、BMCレーシング) photo: TDWsport / KT協調性を欠いた先頭グループの中から残り22km地点でクークレールがアタックを繰り返すと、セレクションがかかって先頭はヴァンアーヴェルマート、サガン、クークレール、テルプストラ、ソーレンクラーク・アンデルセン(デンマーク、サンウェブ)の5名に。
先頭クークレールとヴァンアーヴェルマートの後ろでスプリントするペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)とメイン集団 photo: TDWsport / KT後方の追走グループにチームメイト2名(トレンティンとスティバル)を残し、ローテーションに加わらないテルプストラに対してサガンは露骨に苛立ちを見せた。残り16km地点でサガンは故意にペースを弱めてテルプストラを前に出すも、2014年のパリ〜ルーベ覇者は応じない。そのタイミングでヴァンアーヴェルマートとクークレールが前に抜け出した。
クークレールとのスプリント一騎打ちに勝利したグレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー、BMCレーシング) photo: TDWsport / KT牽制するライバルたちを振り切って先行を開始したヴァンアーヴェルマートとクークレール。順調にそのリードを広げ、ウェヴェルヘムの街に差し掛かったところでスプリントに向けた心理戦が始まる。残り150mから2人によるスプリント一騎打ちが始まった。
先行したヴァンアーヴェルマートを、2016年ブエルタ・ア・エスパーニャで集団スプリントを制しているスプリンターのクークレールが並ぶ。しかし好調なリオ五輪金メダリストは最後まで粘った。先頭を守り切ったヴァンアーヴェルマートがフィニッシュライン通過後に手を挙げた。
「ヘント〜ウェヴェルヘムは決して自分向きではないので、この優勝は予想していなかった。信じられない気持ち。クラシックレース3勝目であり、間違いなくキャリア最高のシーズンだ」。オンループ・ヘットニュースブラッドとレコードバンク・E3ハーレルベーケに続くクラシック3勝目を飾ったヴァンアーヴェルマートはここまで大成功のクラシックシーズンを喜ぶ。
「未舗装路でクイックステップフロアーズが先行した時もチームメイトのキュングとヴリーヘンが引き戻してくれたし、オスは常にそばでサポートしてくれた。ハードなレースには強いチームが欠かせない。とても調子が良かったので、集団を絞り込みたくてケンメルベルグでペースを上げたんだ。その結果、強力なメンバーで構成された先頭グループが出来上がった。ライバルのアタックを追撃するよりも力を使わずに済むので、積極的に先頭グループの前を引いたんだ。クークレールと抜け出してからは、お互いに言葉を交わすことなくただ頭を下げて踏み続けた。パーフェクトな展開から生まれた最高の勝利だ」。ヴァンアーヴェルマートは1週間後の大一番に向けて「ハードなレースを締めくくるスプリントでは負けない。ロンド・ファン・フラーンデレンに向けた自信がより確固としたものになった」と語っている。
2位には終盤に自ら動きを作ったクークレールが入った。28歳のクラシックスペシャリストはこれまでドワーズ・ドール・フラーンデレンで4度トップ10フィニッシュし、2015年パリ〜ルーベ6位、E3ハーレルベーケ9位という成績を残している。「今日は僅差で負けたけど、2位という結果は勝利の可能性を意味している。これはロンド・ファン・フラーンデレンでもチャンスがあるということ。オリカ・スコットはこれまで4つのモニュメントを制しており、ロンドだけが欠けているんだ。チームは自分を信頼してくれているし、なんとかロンドで勝ちたい」と意気込む。
スプリンターを含むメイン集団に飲み込まれながらも、フィニッシュラインまで踏み抜いたサガンが3位。大会連覇を逃したが、しっかりと表彰台を射止めた。「アタックして逃げに乗ったのに、協力しようとはしないテルプストラの考えがわからなかった。この結果には失望していない。勝ち続けているとモチベーションを失ってしまうので、今までよりもっと勝ちたいという思いが強まっている」と、ロンドに向けて気持ちを切り替えている。
表彰台 2位イェンス・クールレール(ベルギー、オリカ・スコット)、1位グレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー、BMCレーシング)、3位ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ) photo: TDWsport / KT
ヘント〜ウェヴェルヘム2017結果
1位 グレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー、BMCレーシング) 5h39'05"
2位 イェンス・クールレール(ベルギー、オリカ・スコット)
3位 ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ) +06"
4位 ニキ・テルプストラ(オランダ、クイックステップフロアーズ)
5位 ジョン・デゲンコルブ(ドイツ、トレック・セガフレード)
6位 トム・ボーネン(ベルギー、クイックステップフロアーズ)
7位 イェンス・デブシェール(ベルギー、ロット・ソウダル)
8位 マイケル・マシューズ(オーストラリア、サンウェブ)
9位 フェルナンド・ガビリア(コロンビア、クイックステップフロアーズ)
10位 サーシャ・モードロ(イタリア、UAEチームエミレーツ)
text:Kei Tsuji
photo:TDWsport
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2016年大会のレース中に亡くなったアントワーヌ・デモアティエ(ベルギー)を偲び、ワンティ・グループグベルトを先頭に1分間の黙祷を経てレースはスタートした。直後に始まったハイスピードアタック合戦から抜け出した9名の逃げグループをメイン集団が追いかける展開に。
レース前半は比較的穏やかな進行となったが、急坂が連続する中盤から集団内は慌ただしくなっていく。細く曲がりくねった道では落車が多発。さらに横風区間でペースアップが図られ、本格的な勝負どころを前に人数が絞られるサバイバルレースとなる。
トム・ボーネン(ベルギー、クイックステップフロアーズ)を先頭に1回目の「ケンメルベルグ」をクリアすると、そこからクイックステップフロアーズがレースを作った。続く未舗装区間「プラグストリート」で元シクロクロス世界王者ゼネク・スティバル(チェコ、クイックステップフロアーズ)がアタックした。
砂埃舞う未舗装路でのスティバルの加速に対応できた数名が追走グループを形成し、それまで逃げていた選手たちを吸収しながら先を急ぐ。しかしBMCレーシングがメイン集団を率い、スティバルらの動きを封じ込める。
するとBMCレーシングは攻撃に転じ、残り39km地点の「バネベルグ」でダニエル・オス(イタリア、BMCレーシング)がアタック。オスは先頭単独で逃げ続けていたプレベン・ヴァンヘッケ(ベルギー、スポートフラーンデレン)を追い抜いたものの、メイン集団を振り切るには至らなかった。
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「ヘント〜ウェヴェルヘムは決して自分向きではないので、この優勝は予想していなかった。信じられない気持ち。クラシックレース3勝目であり、間違いなくキャリア最高のシーズンだ」。オンループ・ヘットニュースブラッドとレコードバンク・E3ハーレルベーケに続くクラシック3勝目を飾ったヴァンアーヴェルマートはここまで大成功のクラシックシーズンを喜ぶ。
「未舗装路でクイックステップフロアーズが先行した時もチームメイトのキュングとヴリーヘンが引き戻してくれたし、オスは常にそばでサポートしてくれた。ハードなレースには強いチームが欠かせない。とても調子が良かったので、集団を絞り込みたくてケンメルベルグでペースを上げたんだ。その結果、強力なメンバーで構成された先頭グループが出来上がった。ライバルのアタックを追撃するよりも力を使わずに済むので、積極的に先頭グループの前を引いたんだ。クークレールと抜け出してからは、お互いに言葉を交わすことなくただ頭を下げて踏み続けた。パーフェクトな展開から生まれた最高の勝利だ」。ヴァンアーヴェルマートは1週間後の大一番に向けて「ハードなレースを締めくくるスプリントでは負けない。ロンド・ファン・フラーンデレンに向けた自信がより確固としたものになった」と語っている。
2位には終盤に自ら動きを作ったクークレールが入った。28歳のクラシックスペシャリストはこれまでドワーズ・ドール・フラーンデレンで4度トップ10フィニッシュし、2015年パリ〜ルーベ6位、E3ハーレルベーケ9位という成績を残している。「今日は僅差で負けたけど、2位という結果は勝利の可能性を意味している。これはロンド・ファン・フラーンデレンでもチャンスがあるということ。オリカ・スコットはこれまで4つのモニュメントを制しており、ロンドだけが欠けているんだ。チームは自分を信頼してくれているし、なんとかロンドで勝ちたい」と意気込む。
スプリンターを含むメイン集団に飲み込まれながらも、フィニッシュラインまで踏み抜いたサガンが3位。大会連覇を逃したが、しっかりと表彰台を射止めた。「アタックして逃げに乗ったのに、協力しようとはしないテルプストラの考えがわからなかった。この結果には失望していない。勝ち続けているとモチベーションを失ってしまうので、今までよりもっと勝ちたいという思いが強まっている」と、ロンドに向けて気持ちを切り替えている。
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ヘント〜ウェヴェルヘム2017結果
1位 グレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー、BMCレーシング) 5h39'05"
2位 イェンス・クールレール(ベルギー、オリカ・スコット)
3位 ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ) +06"
4位 ニキ・テルプストラ(オランダ、クイックステップフロアーズ)
5位 ジョン・デゲンコルブ(ドイツ、トレック・セガフレード)
6位 トム・ボーネン(ベルギー、クイックステップフロアーズ)
7位 イェンス・デブシェール(ベルギー、ロット・ソウダル)
8位 マイケル・マシューズ(オーストラリア、サンウェブ)
9位 フェルナンド・ガビリア(コロンビア、クイックステップフロアーズ)
10位 サーシャ・モードロ(イタリア、UAEチームエミレーツ)
text:Kei Tsuji
photo:TDWsport
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