2016/12/11(日) - 19:27
宇都宮のろまんちっく村で22歳の新チャンピオンが誕生。「勝つことだけを考えていた」という沢田時(ブリヂストンアンカー)がスタートから積極的な走りを見せ、エリート初年度にして全日本のタイトルを獲得した。
最高8度まで上がった気温が下降を始めた午後1時50分、横8名x縦8列のスタートグリッドに並んだ64名のエリートライダーたちが一斉にスタートを切った。
ホールショットで第1コーナーに先頭に飛び込んだは竹之内悠(東洋フレーム)。大会6連覇がかかった竹之内がスタートから先頭で展開したものの「最初の平坦路で伸びないなと感じた」と振り返り、小坂光(宇都宮ブリッツェンシクロクロス)に先頭を譲る。激しくポジションを争いながら、コースが狭まる林間セクションに入った。
小坂と竹之内には沢田時(ブリヂストンアンカー)と武井亨介(TEAM FORZA)、前田公平(弱虫ペダルサイクリング)が加わって先頭は5名に。武井が積極的にペースを上げると、ディフェンディングチャンピオンの竹之内がまず遅れた。
続いて先頭パックから脱落したのは武井。「去年の状態だったらあのまま行けたけれど、今年は無理だった」と武井は語る。こうして先頭は沢田、小坂、前田の3名となり、一進一退の走りを見せながら合計8周回のレースは3周目へと入る。
すると、泥のキャンバー区間を乗車で踏み抜いた沢田が、小坂と前田との距離を広げた。「5秒差を開くことができればモノにできるコースだなと、U23のレースを見て思っていました。とにかく先頭で走ることで有利にレースを運ぶことができるコース。差が付いたのはキャンバーです。1回しか乗れなかったけれど、そこで決定的な差を生むことができた」。沢田が独走を開始した。
追走パックを形成する小坂と前田に対し、5秒、10秒とリードを積み上げていった沢田。1日を通して転倒者が続出したキャンバーの切り返しではリスクを犯すことなく下車し、確実に歩を進めていく。
後方では小坂が前田を振り切って単独2番手に。しかし「決して得意とは言えないコースでしたが、シーズンを通してロードレースに打ち込んだことでスピードがついたように感じている」という前田が挽回し、逆に小坂を抜いて2位に浮上。30秒先を行く沢田を追い続けたが、最後までタイム差が縮小に転じることはなかった。
片手を上げて声援に応え、空を見上げながら両手を上げてフィニッシュラインを切り、ウィニングバイクを誇らしげに持ち上げた沢田。昨年U23の全日本チャンピオンに輝いた1994年1月12日生まれの22歳が、エリート初年度に日本一に輝いた。
「勝てると思ったタイミングは?」との問いに、沢田は毅然とした表情で「スタート前からです」と素早く答えた。「ただ勝つことだけを意識していました。すごく良いレースができたので満足していますが、(差が生まれた)キャンバーを毎周回乗っていくことができなかったので、点数をつけるなら90点ですね」。
沢田は今年6月のMTB世界選手権(チェコ)試走中に転倒して左鎖骨と肘を骨折。リハビリとトレーニングを経て復帰すると、パワーウェイトレシオを向上させたその軽い身体でMTBクロスカントリーCJ(クップ・ドュ・ジャポン)で5連勝を飾った。11月まで並行してMTBとシクロクロスを走り、関西シクロクロス第4戦マキノ(UCI/JCX)で優勝。Raphaスーパークロス野辺山(UCI/JCX)では2日連続で勝負に絡んで2位に入っている。
山あり谷ありのシーズンの終盤にビッグタイトルをつかんだ沢田はその先に目を向ける。「全日本チャンピオンだからこそ、ここから進化していくことが求められる。もっと強くならないといけない。エリート1年目でどうなるかわかりませんが、今までで最強のコンディションで臨む世界選手権に向けて気合いを入れたい」。
2位に入った前田と3位の小坂は「今日は時が強かった」と口を揃えた。前田は「今シーズンは序盤から全然歯車が噛み合わずに辛い思いをしてきました。やっと挽回できたような思いです。今日は負けはしたものの、勝負に絡むことができてスッキリしています」と明るい表情を見せる。
表彰式後も約1時間にわたってメディア対応を続けた小坂は「今日ここまで、やれることは全てやってきました。真っ赤に染まるほどの応援の中で全力を尽くすことができたので、全く後悔はありません」と、風になびく宇都宮ブリッツェンの旗を眺めながら話した。「(沢田)時にキャンバーで距離を広げられてしまい、そこからペースを上げたものの追いつかなかった。冷静でミスのないイーブンな走りを見せた時はやっぱり最強でした。時に心からおめでとうございますと言いたい。また諦めずにやっていきたいです」。
タイトル防衛を逃した竹之内は(身構えたインタビュアーが拍子抜けするほど)淡々と、レースを振り返った。「先頭のパックから少し遅れても、泥の区間では自分が速いと分かっていたので、心は冷静でした。でも徐々に踏めなくなってきて、差は埋まらなかった。連覇は途絶えたけど、それは全体のレベルが上がっていることを意味するので、嬉しい気持ちもあります。(沢田)時と(前田)公平は速かった。若い選手のワンツーフィニッシュは嬉しかった。自分が決して遅くなったわけじゃなくて、周りも同様に伸びていると感じます」。
「(タイトルを獲れなかったことで)ヨーロッパでの扱われ方は変わると思います。ナショナルタイトルの意味は大きいので、スーパープレスティージュの年間契約も取れなくなる。でも、それでもかわらず継続していかなければいけないし、それが責任だと思っています。ジャージを失ったからといって死んだわけではない。レース中、遅れて走っている僕に『腐ってんじゃねえぞ!』と声援を送ってくれる人もいましたが、腐ってるわけではありません」。竹之内は翌週ベルギーに帰国し、引き続きUCIワールドカップや全戦出場が決まっているスーパープレスティージュを転戦する予定だ。
エリート男子結果
1位 沢田時(ブリヂストンアンカー) 1h02’22”
2位 前田公平(弱虫ペダルサイクリング) +34”
3位 小坂光(宇都宮ブリッツェンシクロクロス) +40”
4位 竹之内悠(東洋フレーム) +1’42”
5位 武井亨介(TEAM FORZA) +2’18”
6位 丸山厚(BOMA Racing) +2’18”
7位 小坂正則(スワコレーシング) +2’36”
8位 門田基志(TEAM GIANT) +3’47”
9位 宮津旭(PAX PROJECT) +3’52”
10位 兼子博昭(スワコレーシング) +4’18”
text:Kei Tsuji
最高8度まで上がった気温が下降を始めた午後1時50分、横8名x縦8列のスタートグリッドに並んだ64名のエリートライダーたちが一斉にスタートを切った。
ホールショットで第1コーナーに先頭に飛び込んだは竹之内悠(東洋フレーム)。大会6連覇がかかった竹之内がスタートから先頭で展開したものの「最初の平坦路で伸びないなと感じた」と振り返り、小坂光(宇都宮ブリッツェンシクロクロス)に先頭を譲る。激しくポジションを争いながら、コースが狭まる林間セクションに入った。
小坂と竹之内には沢田時(ブリヂストンアンカー)と武井亨介(TEAM FORZA)、前田公平(弱虫ペダルサイクリング)が加わって先頭は5名に。武井が積極的にペースを上げると、ディフェンディングチャンピオンの竹之内がまず遅れた。
続いて先頭パックから脱落したのは武井。「去年の状態だったらあのまま行けたけれど、今年は無理だった」と武井は語る。こうして先頭は沢田、小坂、前田の3名となり、一進一退の走りを見せながら合計8周回のレースは3周目へと入る。
すると、泥のキャンバー区間を乗車で踏み抜いた沢田が、小坂と前田との距離を広げた。「5秒差を開くことができればモノにできるコースだなと、U23のレースを見て思っていました。とにかく先頭で走ることで有利にレースを運ぶことができるコース。差が付いたのはキャンバーです。1回しか乗れなかったけれど、そこで決定的な差を生むことができた」。沢田が独走を開始した。
追走パックを形成する小坂と前田に対し、5秒、10秒とリードを積み上げていった沢田。1日を通して転倒者が続出したキャンバーの切り返しではリスクを犯すことなく下車し、確実に歩を進めていく。
後方では小坂が前田を振り切って単独2番手に。しかし「決して得意とは言えないコースでしたが、シーズンを通してロードレースに打ち込んだことでスピードがついたように感じている」という前田が挽回し、逆に小坂を抜いて2位に浮上。30秒先を行く沢田を追い続けたが、最後までタイム差が縮小に転じることはなかった。
片手を上げて声援に応え、空を見上げながら両手を上げてフィニッシュラインを切り、ウィニングバイクを誇らしげに持ち上げた沢田。昨年U23の全日本チャンピオンに輝いた1994年1月12日生まれの22歳が、エリート初年度に日本一に輝いた。
「勝てると思ったタイミングは?」との問いに、沢田は毅然とした表情で「スタート前からです」と素早く答えた。「ただ勝つことだけを意識していました。すごく良いレースができたので満足していますが、(差が生まれた)キャンバーを毎周回乗っていくことができなかったので、点数をつけるなら90点ですね」。
沢田は今年6月のMTB世界選手権(チェコ)試走中に転倒して左鎖骨と肘を骨折。リハビリとトレーニングを経て復帰すると、パワーウェイトレシオを向上させたその軽い身体でMTBクロスカントリーCJ(クップ・ドュ・ジャポン)で5連勝を飾った。11月まで並行してMTBとシクロクロスを走り、関西シクロクロス第4戦マキノ(UCI/JCX)で優勝。Raphaスーパークロス野辺山(UCI/JCX)では2日連続で勝負に絡んで2位に入っている。
山あり谷ありのシーズンの終盤にビッグタイトルをつかんだ沢田はその先に目を向ける。「全日本チャンピオンだからこそ、ここから進化していくことが求められる。もっと強くならないといけない。エリート1年目でどうなるかわかりませんが、今までで最強のコンディションで臨む世界選手権に向けて気合いを入れたい」。
2位に入った前田と3位の小坂は「今日は時が強かった」と口を揃えた。前田は「今シーズンは序盤から全然歯車が噛み合わずに辛い思いをしてきました。やっと挽回できたような思いです。今日は負けはしたものの、勝負に絡むことができてスッキリしています」と明るい表情を見せる。
表彰式後も約1時間にわたってメディア対応を続けた小坂は「今日ここまで、やれることは全てやってきました。真っ赤に染まるほどの応援の中で全力を尽くすことができたので、全く後悔はありません」と、風になびく宇都宮ブリッツェンの旗を眺めながら話した。「(沢田)時にキャンバーで距離を広げられてしまい、そこからペースを上げたものの追いつかなかった。冷静でミスのないイーブンな走りを見せた時はやっぱり最強でした。時に心からおめでとうございますと言いたい。また諦めずにやっていきたいです」。
タイトル防衛を逃した竹之内は(身構えたインタビュアーが拍子抜けするほど)淡々と、レースを振り返った。「先頭のパックから少し遅れても、泥の区間では自分が速いと分かっていたので、心は冷静でした。でも徐々に踏めなくなってきて、差は埋まらなかった。連覇は途絶えたけど、それは全体のレベルが上がっていることを意味するので、嬉しい気持ちもあります。(沢田)時と(前田)公平は速かった。若い選手のワンツーフィニッシュは嬉しかった。自分が決して遅くなったわけじゃなくて、周りも同様に伸びていると感じます」。
「(タイトルを獲れなかったことで)ヨーロッパでの扱われ方は変わると思います。ナショナルタイトルの意味は大きいので、スーパープレスティージュの年間契約も取れなくなる。でも、それでもかわらず継続していかなければいけないし、それが責任だと思っています。ジャージを失ったからといって死んだわけではない。レース中、遅れて走っている僕に『腐ってんじゃねえぞ!』と声援を送ってくれる人もいましたが、腐ってるわけではありません」。竹之内は翌週ベルギーに帰国し、引き続きUCIワールドカップや全戦出場が決まっているスーパープレスティージュを転戦する予定だ。
エリート男子結果
1位 沢田時(ブリヂストンアンカー) 1h02’22”
2位 前田公平(弱虫ペダルサイクリング) +34”
3位 小坂光(宇都宮ブリッツェンシクロクロス) +40”
4位 竹之内悠(東洋フレーム) +1’42”
5位 武井亨介(TEAM FORZA) +2’18”
6位 丸山厚(BOMA Racing) +2’18”
7位 小坂正則(スワコレーシング) +2’36”
8位 門田基志(TEAM GIANT) +3’47”
9位 宮津旭(PAX PROJECT) +3’52”
10位 兼子博昭(スワコレーシング) +4’18”
text:Kei Tsuji
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