2016/11/14(月) - 19:29
ホビーレーサー王者の座を決めるツール・ド・おきなわ市民210km。高岡亮寛(イナーメ信濃山形)が得意の独走に持ち込み、他を圧倒。昨年に続く連覇を達成、通算4勝目を挙げた。
ホビーレースとしては国内最長かつ最難関のコースで行われる市民210kmレース。日本のレースとして他に類を見ない厳しさゆえにステイタスも高く、このレースを最大の目標として練習を重ねてきた挑戦者が今年も名護に集った。
コースは本部半島をほぼ一周してから海岸線を北上し、最北端の辺戸岬を経由し、普久川ダムへの6kmの登り「与那の坂」を2回こなし、アップダウンが連続する東海岸を南下。消耗したレース終盤には勝負どころとして羽地ダムへの登坂が待ち構える。
天候は晴れ。降水確率0%の予報の中、371人が形成する巨大なプロトンは朝7時45分にスタート。朝陽を浴びながら本部半島へと進んでいく。例年以上に強豪選手が集まり、優勝争いの行方に興味が集まる。
美ら海水族館のある海洋公園のダウンヒルで、約80人ほどが巻き込まれる大量落車が発生。優勝候補の選手も含まれていたため、先頭はややスローペースで集団復帰を待つシーンも見られた。
海岸線では少人数のアタックが繰り返され、小さな逃げができるも、有力選手やそのチームメイトは含まれない。天候が良いため集団のペースは速く、その差は大きく開かない。80kmに及ぶ海岸線での逃げは結局決まらず、集団はひとつにまとまったまま、与那の坂へと向かう。この登りのKOMポイントの先にある普久川ダムまでの2回の登りを皮切りに、国定公園に指定されたばかりのやんばるの森の厳しいアップダウンによる消耗戦が始まる。
300人以上の大集団も、この6kmの登りで削られ、その数を徐々に減らす。2度の登りともに大きなアタックは無かったものの、2度めの山頂補給ポイントに至る登りで武井享介(チームFORZA)がペースを上げ、先頭集団は長く伸びる。余裕の無くなった選手と絡んだ西谷雅史(オーベスト)が落車。負傷した西谷は再び走り出すも、戦列を離れた。
武井のペースアップで、それまで有力勢が多いことでお互いを見合っていた先頭集団が一気に活性化、アタックが始まった。主にペースを上げるのは高岡と武井。アップダウンの繰り返すやんばる路で、登り坂のたびにふるい落としの動きが繰り返された。
先頭で繰り返される動きのなかで昨年3位の井上亮(Magellan Systems Japan)の前輪タイヤが高岡の左脚のふくらはぎに接触、バランスを崩した井上が落車してしまう。常に前で展開して調子の良さが見て取れた井上だが、ここで先頭グループから脱落。
50kmを残した時点で絞られた先頭グループは9人ほど。挑発する声を挙げ、小さなアタックを繰り返す武井に高岡が反応し、2人が抜け出した。距離が開いたことでさらに踏みこんだ2人。後続の7人は協力しあって追うも、差は1分半に開いた。
逃げる2人は協調しあうものの、武井が高岡の登りのハイペースに着いて行くのが厳しくなり、離れてしまう。高岡はひとりになってもペースを緩めず、そのまま独走を続ける。その後方の武井が戻った7人グループは、青木峻二(ウォークライド)、河合宏樹(オッティモ)、松木健治(有限会社村上建具工房ハイランダー)、中尾峻(Team SHIDO)、原純一(KMCycle)そして武井のチームメイトである新井康文(チームFORZA)。
この7人も厳しいアップダウンに分解しては再合流する動きを繰り返す。高岡は登りではダンシングでハイペースを刻み、下りは深いエアロ姿勢をとってペースを緩めない。上りに強い清宮洋幸(竹芝レーシング) が単独で高岡を追うも届かず、ひとりで泳ぐ状況が続く。
高岡は羽地ダムの登りを単独で越え、後続との差を開き続けながら名護へと到達した。ゴール手前1kmから両手を挙げ、左右の手の2本指で4勝をアピールしながらフィニッシュラインを越えた。後続に5分40秒もの大差をつけての連覇達成だ。
後続の追走集団は羽地ダムの頂上付近でシルベスト松木、ウォークライド青木、オッティモ河合の3人に絞られた。3人は名護市街まで協調した後、ゴールスプリントに備えて牽制に入っていたが、フィニッシュラインまで残り500mを切って突然後方から青いジャージの選手にパスされる。オレンジ色のゼッケンは市民210kmの選手、落車して戦列を離れたはずの井上亮(Magellan Systems Japan)だ。
「誰が先に仕掛ける」と見合っているうちに意表を突かれた3人は反応が遅れ、井上の先行を許してしまう。高岡に遅れること5分40秒、2位をさらったのは安波で落車して戦列を離れたと思われていた井上だった。慌てて追走したオッティモ河合が3位でラインを越え、青木が4位、松木が5位でフィニッシュ。
2位をさらった井上は次のように話す。「高江で高岡さんとハスって落車したときにハンドルもブレーキレバーも曲がってしまい、リタイアを覚悟しました。しばらく第2追走集団で走って、羽地ダムの登りから単独で追い上げを開始しました。前から落ちてくる人を抜かすたびに、一桁内に入れたらいいと思って諦めずに踏み続けました。
ラスト300mぐらいで前を行く3人が見えたので、これを抜けば5位ぐらいに入れるのかな?と思っていました。TTスタイルでスピードに乗っていたので追いつかれないように踏み続けました。落車した割に最後まで頑張ったな、と自分を褒めてあげたい。2位というのは後で言われて気づきました。走っているときは高岡さんが怪我していなければいいな、とずっと気になっていました。運良く2位になれて良かった。高岡さんとの差は順位以上に感じるけど、来年も諦めずに狙いたいですね」。
3位の表彰台を獲得した河合宏樹(オッティモ)は言う。「3人でラスト500mでスプリント体制に入る前のお見合いになっていたところを、後ろから井上さんにやられてしまった。3人ともずっと念入りに後方を確認しながらいたはずだったのに、まさか井上さんが来ていたとは気づかなかった。意表を突かれて最後はスプリントどころじゃなく、追いかけた僕が3位になったという感じです」。
河合はJBCFレースではE1クラスタの2位入賞がある程度のノーマーク選手。しかも8月に鎖骨を骨折しての復帰間もないレースだった。
「おきなわは13位が過去最高位です。直前一ヶ月の頑張りが功を奏しました。キツいレース展開に耐えたというのが好成績に繋がった要因です。武井さんと高岡さんが登りのたびにペースアップして、頻繁にインターバルのかかる走りを強いられました。比較的ペースの強弱に強い自分が脚を残せる結果になった。気づいたら自分が残っていて、長距離だけ得意な選手などは苦しんだんじゃないでしょうか。自分はこれからもノーマークの選手でいいです」と謙遜した。
連覇を達成、通算では2007年、2011年、2015年に続く4勝目を挙げた高岡亮寛。過去3度優勝した高山忠志(1993、1995、2001年)の記録を塗り替え、史上初の4勝ライダーとなった。その4度ともが独走での勝利だ。高岡は次のようにレースを振り返った。
「後ろとの差を開くまで武井さんとふたりで行けたことが大きかった。武井さんは集団の人数を減らそうと盛んに動いていたから、それを読んで着いていったんです。最後まで連れて行ったらやっかいな相手だけど、ふたりで逃げているときも武井さんはすでに引けなくなっていたから、羽地ダムで千切ればいいとも思っていました。
後ろとの差が2分着いたときにやっと余裕が持てましたが、それまでは気が気でなかった。今回は強豪揃いだったことで皆がお互いの動きを待っていたような気がします。我慢して後半勝負だと思っていました。今まででタイム差はいちばん大きいし、上手く走れた感じはあります。スタート前の自分は100%の好調で臨んだとはいえ、厳しい展開を予想していましたが、終わってみれば大差をつけることができました」。
前人未到の4勝目。来年は5勝目に挑戦するのだろうか?
「来年は40歳ですが、おきなわは最高のレースですから出場する限り優勝を狙い続けたいですね」。
市民レース210kmリザルト
1位 高岡亮寛(イナーメ信濃山形) 5:20:20.546
2位 井上亮(Magellan Systems Japan) +5:40.578
3位 河合宏樹(オッティモ) +5:41.933
4位 青木峻二(ウォークライド) +5:42.499
5位 松木健治(有限会社村上建具工房ハイランダー) +5:43.537
6位 中尾峻(Team SHIDO) +6:15.326
7位 原純一(KMCycle) +6:19.042
8位 清宮洋幸(竹芝レーシング) +6:32.051
9位 雑賀大輔(湾岸ユナイテッド) +7:04.524
10位 奈良浩(ウォークライド) +7:04.716
text&photo:Makoto.AYANO(綾野真)
photo:Hideaki.TAKAGI(高木秀彰)
ホビーレースとしては国内最長かつ最難関のコースで行われる市民210kmレース。日本のレースとして他に類を見ない厳しさゆえにステイタスも高く、このレースを最大の目標として練習を重ねてきた挑戦者が今年も名護に集った。
コースは本部半島をほぼ一周してから海岸線を北上し、最北端の辺戸岬を経由し、普久川ダムへの6kmの登り「与那の坂」を2回こなし、アップダウンが連続する東海岸を南下。消耗したレース終盤には勝負どころとして羽地ダムへの登坂が待ち構える。
天候は晴れ。降水確率0%の予報の中、371人が形成する巨大なプロトンは朝7時45分にスタート。朝陽を浴びながら本部半島へと進んでいく。例年以上に強豪選手が集まり、優勝争いの行方に興味が集まる。
美ら海水族館のある海洋公園のダウンヒルで、約80人ほどが巻き込まれる大量落車が発生。優勝候補の選手も含まれていたため、先頭はややスローペースで集団復帰を待つシーンも見られた。
海岸線では少人数のアタックが繰り返され、小さな逃げができるも、有力選手やそのチームメイトは含まれない。天候が良いため集団のペースは速く、その差は大きく開かない。80kmに及ぶ海岸線での逃げは結局決まらず、集団はひとつにまとまったまま、与那の坂へと向かう。この登りのKOMポイントの先にある普久川ダムまでの2回の登りを皮切りに、国定公園に指定されたばかりのやんばるの森の厳しいアップダウンによる消耗戦が始まる。
300人以上の大集団も、この6kmの登りで削られ、その数を徐々に減らす。2度の登りともに大きなアタックは無かったものの、2度めの山頂補給ポイントに至る登りで武井享介(チームFORZA)がペースを上げ、先頭集団は長く伸びる。余裕の無くなった選手と絡んだ西谷雅史(オーベスト)が落車。負傷した西谷は再び走り出すも、戦列を離れた。
武井のペースアップで、それまで有力勢が多いことでお互いを見合っていた先頭集団が一気に活性化、アタックが始まった。主にペースを上げるのは高岡と武井。アップダウンの繰り返すやんばる路で、登り坂のたびにふるい落としの動きが繰り返された。
先頭で繰り返される動きのなかで昨年3位の井上亮(Magellan Systems Japan)の前輪タイヤが高岡の左脚のふくらはぎに接触、バランスを崩した井上が落車してしまう。常に前で展開して調子の良さが見て取れた井上だが、ここで先頭グループから脱落。
50kmを残した時点で絞られた先頭グループは9人ほど。挑発する声を挙げ、小さなアタックを繰り返す武井に高岡が反応し、2人が抜け出した。距離が開いたことでさらに踏みこんだ2人。後続の7人は協力しあって追うも、差は1分半に開いた。
逃げる2人は協調しあうものの、武井が高岡の登りのハイペースに着いて行くのが厳しくなり、離れてしまう。高岡はひとりになってもペースを緩めず、そのまま独走を続ける。その後方の武井が戻った7人グループは、青木峻二(ウォークライド)、河合宏樹(オッティモ)、松木健治(有限会社村上建具工房ハイランダー)、中尾峻(Team SHIDO)、原純一(KMCycle)そして武井のチームメイトである新井康文(チームFORZA)。
この7人も厳しいアップダウンに分解しては再合流する動きを繰り返す。高岡は登りではダンシングでハイペースを刻み、下りは深いエアロ姿勢をとってペースを緩めない。上りに強い清宮洋幸(竹芝レーシング) が単独で高岡を追うも届かず、ひとりで泳ぐ状況が続く。
高岡は羽地ダムの登りを単独で越え、後続との差を開き続けながら名護へと到達した。ゴール手前1kmから両手を挙げ、左右の手の2本指で4勝をアピールしながらフィニッシュラインを越えた。後続に5分40秒もの大差をつけての連覇達成だ。
後続の追走集団は羽地ダムの頂上付近でシルベスト松木、ウォークライド青木、オッティモ河合の3人に絞られた。3人は名護市街まで協調した後、ゴールスプリントに備えて牽制に入っていたが、フィニッシュラインまで残り500mを切って突然後方から青いジャージの選手にパスされる。オレンジ色のゼッケンは市民210kmの選手、落車して戦列を離れたはずの井上亮(Magellan Systems Japan)だ。
「誰が先に仕掛ける」と見合っているうちに意表を突かれた3人は反応が遅れ、井上の先行を許してしまう。高岡に遅れること5分40秒、2位をさらったのは安波で落車して戦列を離れたと思われていた井上だった。慌てて追走したオッティモ河合が3位でラインを越え、青木が4位、松木が5位でフィニッシュ。
2位をさらった井上は次のように話す。「高江で高岡さんとハスって落車したときにハンドルもブレーキレバーも曲がってしまい、リタイアを覚悟しました。しばらく第2追走集団で走って、羽地ダムの登りから単独で追い上げを開始しました。前から落ちてくる人を抜かすたびに、一桁内に入れたらいいと思って諦めずに踏み続けました。
ラスト300mぐらいで前を行く3人が見えたので、これを抜けば5位ぐらいに入れるのかな?と思っていました。TTスタイルでスピードに乗っていたので追いつかれないように踏み続けました。落車した割に最後まで頑張ったな、と自分を褒めてあげたい。2位というのは後で言われて気づきました。走っているときは高岡さんが怪我していなければいいな、とずっと気になっていました。運良く2位になれて良かった。高岡さんとの差は順位以上に感じるけど、来年も諦めずに狙いたいですね」。
3位の表彰台を獲得した河合宏樹(オッティモ)は言う。「3人でラスト500mでスプリント体制に入る前のお見合いになっていたところを、後ろから井上さんにやられてしまった。3人ともずっと念入りに後方を確認しながらいたはずだったのに、まさか井上さんが来ていたとは気づかなかった。意表を突かれて最後はスプリントどころじゃなく、追いかけた僕が3位になったという感じです」。
河合はJBCFレースではE1クラスタの2位入賞がある程度のノーマーク選手。しかも8月に鎖骨を骨折しての復帰間もないレースだった。
「おきなわは13位が過去最高位です。直前一ヶ月の頑張りが功を奏しました。キツいレース展開に耐えたというのが好成績に繋がった要因です。武井さんと高岡さんが登りのたびにペースアップして、頻繁にインターバルのかかる走りを強いられました。比較的ペースの強弱に強い自分が脚を残せる結果になった。気づいたら自分が残っていて、長距離だけ得意な選手などは苦しんだんじゃないでしょうか。自分はこれからもノーマークの選手でいいです」と謙遜した。
連覇を達成、通算では2007年、2011年、2015年に続く4勝目を挙げた高岡亮寛。過去3度優勝した高山忠志(1993、1995、2001年)の記録を塗り替え、史上初の4勝ライダーとなった。その4度ともが独走での勝利だ。高岡は次のようにレースを振り返った。
「後ろとの差を開くまで武井さんとふたりで行けたことが大きかった。武井さんは集団の人数を減らそうと盛んに動いていたから、それを読んで着いていったんです。最後まで連れて行ったらやっかいな相手だけど、ふたりで逃げているときも武井さんはすでに引けなくなっていたから、羽地ダムで千切ればいいとも思っていました。
後ろとの差が2分着いたときにやっと余裕が持てましたが、それまでは気が気でなかった。今回は強豪揃いだったことで皆がお互いの動きを待っていたような気がします。我慢して後半勝負だと思っていました。今まででタイム差はいちばん大きいし、上手く走れた感じはあります。スタート前の自分は100%の好調で臨んだとはいえ、厳しい展開を予想していましたが、終わってみれば大差をつけることができました」。
前人未到の4勝目。来年は5勝目に挑戦するのだろうか?
「来年は40歳ですが、おきなわは最高のレースですから出場する限り優勝を狙い続けたいですね」。
市民レース210kmリザルト
1位 高岡亮寛(イナーメ信濃山形) 5:20:20.546
2位 井上亮(Magellan Systems Japan) +5:40.578
3位 河合宏樹(オッティモ) +5:41.933
4位 青木峻二(ウォークライド) +5:42.499
5位 松木健治(有限会社村上建具工房ハイランダー) +5:43.537
6位 中尾峻(Team SHIDO) +6:15.326
7位 原純一(KMCycle) +6:19.042
8位 清宮洋幸(竹芝レーシング) +6:32.051
9位 雑賀大輔(湾岸ユナイテッド) +7:04.524
10位 奈良浩(ウォークライド) +7:04.716
text&photo:Makoto.AYANO(綾野真)
photo:Hideaki.TAKAGI(高木秀彰)
フォトギャラリー
Amazon.co.jp