2016/11/12(土) - 09:19
着実に評価を高めているロードバイク用チューブレスタイヤ。マウンテンバイクの世界でチューブレスを多く手がけるマキシスがリリースするレーシングタイヤ「パドロネTR」をインプレッションした。
1967年に台湾で創業し、現在はアメリカ・ジョージア州を拠点に製品開発を行う世界トップクラスの総合タイヤブランドがMAXXIS(マキシス)だ。今や28,000人のスタッフと170カ国の販売ネットワークをもつに至たり、自社のテスト施設や世界有数のタイヤ研究開発施設から、最高のパフォーマンスをもつタイヤの生産を目指している。
おもにマウンテンバイクのタイヤの評価が高く、オフロード界では確固たるブランドとして認知されているマキシスだが、ロードバイク界ではその認知度は今ひとつというのが現実だろう。しかしその製品開発力から着実に評価を高めつつある。
近年はワールドツアーレースを含めた欧州のトップカテゴリーを走る実力をもつUCIプロコンチネンタルチームであるユナイテッドヘルスケアに継続的にタイヤサポートを行い、チームとともにR&Dを進めてきた。またジャパンカップに出場したノボ ノルディスクもマキシス製タイヤを使用する。
そんなマキシスが放つチューブレスレディのレーシングタイヤが「パドロネTR」だ。同名の前作「パドロネ」は2011年にリリースされたチューブレスタイヤだったが、今回紹介するパドロネはTR=つまりチューブレスレディタイプとなり、太さも現在ロードレーシングタイヤの主流となっている25Cが採用され、まったくの新モデルとして刷新された。
「チューブレスレディ」とはシーラントを使用することを前提としたチューブレスタイヤであり、チューブレスよりも軽量に仕上がることがメリットだ。チューブレスおよびチューブレスレディ対応のホイールも最近とみにその数を増やしており、もはやマイナーな存在とは言えなくなってきている。
クリンチャータイヤに対するメリットとしてはチューブがないことによる内部抵抗の減少、転がり抵抗の減少、耐パンク性能の向上、パンク時のエア抜けによる減圧がクリンチャーに比べて緩やかなことなどから安全性も高い。メリットが多いものの、取扱いに慣れが必要なことなどから普及は遅々としている。
パドロネTRは、パドロネの5年ぶりのリニューアルであるとともに、チューブレスロードタイヤとしては2013年にデビューしたラジアル式のラディエール・チューブレスに次ぐモデルとなる。
TL(チューブレス)からTR(チューブレスレディ)になったパドロネTRの特徴は、295g(23C)から260g(25C)と、太さこそ違うが大幅な軽量化を果たしている。「ONE70」と呼ぶ170TPIのケーシングを採用し、高強度のカーボンファイバービードによりリムへの確実な圧着を実現している。トレッドの表面上は境目の見えないデュアルコンパウンドを採用し、サイドウォールまで耐パンク性を高めるシルクシールドがタイヤ全周を覆い、サイドカットなども起こしにくくしている。サイズは700✕25Cの1種類のみ。
マキシスのアナウンスでは「重量の軽さ、軽い乗り心地、耐久性、ロングライドにも耐えうる耐パンク性能のすべてを満たすレーシングタイヤ」としている。同ブランドのトップモデルに据えるチューブレスレディロードタイヤの実力を、長期テストによるインプレッションで紹介する。
インプレッション
前作パドロネTL、ラディエール・チューブレスについてもインプレを担当したため、また、他社製含めてチューブレスタイヤを多く乗り継いでいるCW編集部・綾野が長期テストを担当した。個人的にもチューブレスタイヤの特性と将来性に大きく期待しているため、普段から経験値を積むべくあらゆるタイヤをテストしている。
まずパドロネTRのリムへの取り付けからレポートしよう。用意したホイールはカンパニョーロ・シャマルTwoWay-Fitと、ジャイアントSLR-0カーボンの2つ。両方共に滑走剤として石鹸水を使用し、スムーズにリムに収めることができたため、キツいということはなかった。しかし嵌合が緩いぶんビードを上げるのに数回のトライを要した。ビードが上がりにくかったものの、シーラント無しで数日放置してもエア抜けはほとんど無かったことから、気密性の高さは安心できるものだと言えるだろう。またメーカー側ではシマノ・アルテグラホイールとの適性も確認しているという。
バルブコアを外して定番のスタンズ製シーラントを注入する。気密性が高いことで少量(20ccほど)を注入した。もちろんその量は多いほどエア漏れは少なくできるし、ピンホールパンクの自己修復性も期待できる。しかし重量増となるのはもちろんだ。レーシングタイヤ的な用途を追求するために少量にとどめ、3ヶ月ほど使用してみた。
印象的なのはしなやかさ。チューブレス独特のモチモチ感は少ないものの、振動吸収性の高さからくる路面追従性の高さは非常に高いレベルにあるように感じる。空気圧は体重64kgとして6.5気圧ほどがベスト(推奨空気圧は7.2-8.6だが、体型による一つのケースとして考えて欲しい)と感じた。
様々な空気圧のセッティングを探ってみたところ、5.8〜8気圧までの間で性能に破錠が無かった。その間なら低めの圧でも腰砕け感が無く、高めでも跳ねたり硬すぎたりといったことが無く、セッティングの幅がかなり広いタイヤだと感じた。これは25cと太めなのも影響しているだろう。路面が荒れていれば下げ、滑らかで凹凸が無い路面なら高圧気味にすれば良い。ツーリングやトレーニング的用途なら低めに、レースなら高めで反応性を高めて使うことができるだろう。
パドロネTLやラディエールが細身のため空気圧セッティングがシビアだったのに比べ、このパドロネTRは大雑把に圧を決めてもそれなりに走れてしまう懐の深さがある。そのことで非常に扱いやすいタイヤになっている。
期間中、雨の日も数回使うことができ、ウェット路面のグリップの良さも確認できた。パターンの全く無いスリックトレッドだが、急にグリップを失うといったことがない。コンパウンドの喰いつきの良さと、サイドからタイヤ全体にかけての柔軟性の高さからくる相乗効果で良いグリップ性能が出ているのだろう。
実測値256gはチューブレスレディタイヤとしてとくに軽い部類のタイヤではないが、走りの軽さが光る。だが危うさを感じないことで、レースからツーリング的ライドまでオールラウンドな使い方に向く印象を受けた。
使用期間3ヶ月と走行600kmを越えたが、トレッドのヒビ割れや痛み、コンパウンド表面の乾きなどが無いため、耐久性もそれなりに高そうだ。パンクも運に左右される面もあるが、まだ無い。
マキシス PADRONE(パドロネ) TR
サイズ:700c×25C
仕様:170TPI、CarbonFiberビード
重量:260g
最大空気圧:125psi
付属品:タイヤレバー2本
価格:8,900(税抜)
取扱い:インターテック
ショップ店長たちによるインプレッション
ここではパドロネTRをサイクルショップの店長たち4人が使ってのインプレッションを、アンケート回答方式によって記そう。なおこのアンケートの依頼・収集はマキシスの取扱代理店であるインターテックが行った。
錦織大祐(FORTUNEBIKE)
転がり抵抗:TRタイヤとしての転がり感の良さ以上に路面状況を感じやすく、振動の収束も素早い。
コーナリング性能:25Cの太さ故、倒しこみ角度の感触は好みが分かれるがコンパウンドの食いつきに不安感はなく良質なコーナリング性能だと感じた。
ブレーキ性能:しなやかなのにハードブレーキング時の下支えとなるケーシングのたわみが少なく、芯のある感触に好感を持てた。ケーシングの繊維方向なども工夫があるのだろうか?ただし後述する空気圧設定の反映度合いがハッキリしているため、低圧時の変形やその場合のブレーキング感触には好みが分かれるように思う。
丈夫さ:試用期間が長いわけではなく検証期間が短いが、タイヤサイドの耐久性やチューブレスの最も気になる点であるビード周辺は耐久性が高そう。
グリップ:全く不安感が無く、倒しこみや切り返し時の路面の掴み感が把握しやすい。ケーシングの信頼感と合わせて、ホビーライダーに安心感がある味付け。
加速性:あえて辛口にしているが”一瞬のタメ感”を感じるのであって、もたつくわけではないと思う。低圧よりだとタメが強く感じたが、逆に言えば、路面コンディションに関係なく接地面を掴んでいる感触の裏返し。MTBタイヤ的な反応というか、ワンテンポ後にしっかりかかって、そのあと伸びる感じ。トータルで加速が悪いわけではない。
総合評価:非常に良い作りで安心感も高い。重量面でもネガティブさを感じないが、マキシスが本気出したら、さらに軽く出来るような気もするし、レース専用にさらに突き詰めたらより攻撃的な味付けのものも作れそうな気がするという勝手な理由で9点。
おすすめポイント:本来はシーラント併用で最初から作業するべきところをシーラントを使用せず、ビードにきっちりハメてエア圧を加えてみました。装着は極めて容易でレバー不要だった。簡単にビードも上がり、7.2気圧を加えて一晩放置してみたがほぼエア抜けなしだった。マイクロホールくらいは開いているものが多いチューブレスレディの中で、タイヤ内面が非常に高いレベルで成形されているのだと感じた。コンパウンドのグリップ感、ベースケーシングの信頼感、着脱やエアの保持性を含めた運用性の高さのバランスがとても良質なタイヤ。
1. シーラントを投入してなじませた後は低圧7.2気圧から試乗開始。振動の収束感がありながらも前への転がりにもたつきを感じないので好印象。ただし切り返す動きだとややヨレを感じる。これはタイヤの剛性がむしろしっかりしていることに起因すると感じたので悪い感触ではない。もっと圧を加えたほうが良さが出そうだったので次は8気圧に変更。
2. 8気圧にしてみると自分の体重ではやや高すぎる空気圧だが、跳ねは圧倒的に少なく、グリップにも乏しさを感じない。逆にテストホイールがアルテグラだったのでホイールのねじれ剛性の低さのほうが気になったくらい。振動吸収性だけでなく、転がり感を感じやすい。ただ、設定推奨圧が7.2~8.6なのでやや高め寄りなのだと再認識。
3. 何度かエア圧設定を繰り返し、7.6気圧あたりで転がり/振動吸収/振動の収束(おさまり)/タイヤ全体の変形感などがバランスが良く感じた。そう感じるとチューブレスの利点を全て発揮した上で、パドロネTRがさらにもう一段しなやかさを持ち合わせているように感じる。加速に対しては、一瞬のタメのあとでスパっと伸び始める感触。振動吸収だけに味付けが偏らない使いやすさが好感触。
0.3気圧くらいの変化で変形量を含めてかなりタイヤの表情が変わるように感じた。タイヤは何でもエア圧で変わるものだが、シビアに感触を変える代わりに、どのシチュエーションでもグリップ感の損失は感じにくい。自分の使い方が見つけやすいタイヤだ。高剛性化しているホイール、フレームセットとの相性は非常にいいと思う。
生駒元保(RIDEWORKS)
転がり抵抗:漕ぎ出しもすごく軽い。
コーナリング性能:へばりついてる感があり安心できます。
グリップ:下りのコーナーでも攻めることができる。
加速性:タイヤが路面にへばりつく感じが少しあるため、加速はワンテンポ遅れる感がある。
総合評価:グリップする感じ、体で感じる振動はすごく上質。エアー漏れも少なく非常に良い。ホイールとの相性もあると思うが、ビードが少し上がりにくいものもあった。
おすすめポイント:とてもやさしい乗り心地でロングライドにオススメ。シルキーな乗り心地はヤミツキになる。
小西祐介 (なるしまフレンド神宮店)
転がり抵抗:チューブレスタイヤの中でも非常に高いレベルにあると感じた。今回のテスト前に使用していたIRCのFORMULA RBCC(旧モデル)より走行感は軽く感じる。
コーナリング性能:装着直後のタイヤではコーナーを攻めるのは不安があり、タイヤの性能を把握しにくいが、なるしま社員旅行で宮崎の山の中を走った今回のタイヤはグリップに常に余裕を感じることができた。
丈夫さ:現在トータルで600kmほど走行しているがパンクはしていないし、する気配もない。エアーの保持も良いようだ。トレッド部に切り傷も無いことから、なかなか丈夫なようだと判断できる。
加速性:加速はクリンチャーの良い物や、カーボンリムに装着された良品チューブラーに一歩譲った感じだろうか。加速後の巡航は転がり抵抗の少なさもありスムーズ。走行時の加速やスプリントでは剛性がありとても良く進む。(加速性能の評価はゼロ発進時)
総合評価:バランスの良いタイヤという印象。特にグリップ性能は濡れた路面でも滑る感じがなく良く感じる。チューブレスレディということでシーラントを使うことが前提であり価格も高いことから、レースやイベント参加のユーザーに勧めたい。2週間程度のライドでは耐久性までは判断しかねるが、トレッド面にも傷がないことからも耐久性はあると判断できる。3ヶ月ほど経ってシーラントが経年劣化し半分固まってきた頃にどう感じるかや、サイドのヒビ割れの入ってくるタイミングも見ていきたい。タイヤ寿命を迎えるにあたり、ファーストインプレッションとどの様に評価が変化するかも今後の課題として見ていきたい。
遠藤健太(サイクルワークスフィンズ)
転がり抵抗:重さを感じるが中の上ぐらい。
コーナリング性能:ニュートラルに曲がることができる。
ブレーキ性能:しっかり停まる。
丈夫さ:耐久性に優れている4000〜5000kmは可能か。
グリップ:IRCには劣るものの、まずまずの評価。雨天時にやや滑る。
加速性:空気圧が高く設定できるので、加速は良い。
総合評価:バランスは非常に良いと思う。
おすすめポイント:空気圧を高めに設定できるため、速く走ることができる。またクッション性が比較的高い点。ロングライドのような重いギアで低ケイデンスよりは軽いギアでクルクル回すようなレース向き。個人的には高評価だが、最近はカーボンクリンチャーなどクリンチャータイヤの増加に拍車がかかるような流れになっており、選ばれにくいかもしれない。
text&edit:Makoto.AYANO
photo:Makoto.AYANO,Gakuto.Fujiwara
1967年に台湾で創業し、現在はアメリカ・ジョージア州を拠点に製品開発を行う世界トップクラスの総合タイヤブランドがMAXXIS(マキシス)だ。今や28,000人のスタッフと170カ国の販売ネットワークをもつに至たり、自社のテスト施設や世界有数のタイヤ研究開発施設から、最高のパフォーマンスをもつタイヤの生産を目指している。
おもにマウンテンバイクのタイヤの評価が高く、オフロード界では確固たるブランドとして認知されているマキシスだが、ロードバイク界ではその認知度は今ひとつというのが現実だろう。しかしその製品開発力から着実に評価を高めつつある。
近年はワールドツアーレースを含めた欧州のトップカテゴリーを走る実力をもつUCIプロコンチネンタルチームであるユナイテッドヘルスケアに継続的にタイヤサポートを行い、チームとともにR&Dを進めてきた。またジャパンカップに出場したノボ ノルディスクもマキシス製タイヤを使用する。
そんなマキシスが放つチューブレスレディのレーシングタイヤが「パドロネTR」だ。同名の前作「パドロネ」は2011年にリリースされたチューブレスタイヤだったが、今回紹介するパドロネはTR=つまりチューブレスレディタイプとなり、太さも現在ロードレーシングタイヤの主流となっている25Cが採用され、まったくの新モデルとして刷新された。
「チューブレスレディ」とはシーラントを使用することを前提としたチューブレスタイヤであり、チューブレスよりも軽量に仕上がることがメリットだ。チューブレスおよびチューブレスレディ対応のホイールも最近とみにその数を増やしており、もはやマイナーな存在とは言えなくなってきている。
クリンチャータイヤに対するメリットとしてはチューブがないことによる内部抵抗の減少、転がり抵抗の減少、耐パンク性能の向上、パンク時のエア抜けによる減圧がクリンチャーに比べて緩やかなことなどから安全性も高い。メリットが多いものの、取扱いに慣れが必要なことなどから普及は遅々としている。
パドロネTRは、パドロネの5年ぶりのリニューアルであるとともに、チューブレスロードタイヤとしては2013年にデビューしたラジアル式のラディエール・チューブレスに次ぐモデルとなる。
TL(チューブレス)からTR(チューブレスレディ)になったパドロネTRの特徴は、295g(23C)から260g(25C)と、太さこそ違うが大幅な軽量化を果たしている。「ONE70」と呼ぶ170TPIのケーシングを採用し、高強度のカーボンファイバービードによりリムへの確実な圧着を実現している。トレッドの表面上は境目の見えないデュアルコンパウンドを採用し、サイドウォールまで耐パンク性を高めるシルクシールドがタイヤ全周を覆い、サイドカットなども起こしにくくしている。サイズは700✕25Cの1種類のみ。
マキシスのアナウンスでは「重量の軽さ、軽い乗り心地、耐久性、ロングライドにも耐えうる耐パンク性能のすべてを満たすレーシングタイヤ」としている。同ブランドのトップモデルに据えるチューブレスレディロードタイヤの実力を、長期テストによるインプレッションで紹介する。
インプレッション
前作パドロネTL、ラディエール・チューブレスについてもインプレを担当したため、また、他社製含めてチューブレスタイヤを多く乗り継いでいるCW編集部・綾野が長期テストを担当した。個人的にもチューブレスタイヤの特性と将来性に大きく期待しているため、普段から経験値を積むべくあらゆるタイヤをテストしている。
まずパドロネTRのリムへの取り付けからレポートしよう。用意したホイールはカンパニョーロ・シャマルTwoWay-Fitと、ジャイアントSLR-0カーボンの2つ。両方共に滑走剤として石鹸水を使用し、スムーズにリムに収めることができたため、キツいということはなかった。しかし嵌合が緩いぶんビードを上げるのに数回のトライを要した。ビードが上がりにくかったものの、シーラント無しで数日放置してもエア抜けはほとんど無かったことから、気密性の高さは安心できるものだと言えるだろう。またメーカー側ではシマノ・アルテグラホイールとの適性も確認しているという。
バルブコアを外して定番のスタンズ製シーラントを注入する。気密性が高いことで少量(20ccほど)を注入した。もちろんその量は多いほどエア漏れは少なくできるし、ピンホールパンクの自己修復性も期待できる。しかし重量増となるのはもちろんだ。レーシングタイヤ的な用途を追求するために少量にとどめ、3ヶ月ほど使用してみた。
印象的なのはしなやかさ。チューブレス独特のモチモチ感は少ないものの、振動吸収性の高さからくる路面追従性の高さは非常に高いレベルにあるように感じる。空気圧は体重64kgとして6.5気圧ほどがベスト(推奨空気圧は7.2-8.6だが、体型による一つのケースとして考えて欲しい)と感じた。
様々な空気圧のセッティングを探ってみたところ、5.8〜8気圧までの間で性能に破錠が無かった。その間なら低めの圧でも腰砕け感が無く、高めでも跳ねたり硬すぎたりといったことが無く、セッティングの幅がかなり広いタイヤだと感じた。これは25cと太めなのも影響しているだろう。路面が荒れていれば下げ、滑らかで凹凸が無い路面なら高圧気味にすれば良い。ツーリングやトレーニング的用途なら低めに、レースなら高めで反応性を高めて使うことができるだろう。
パドロネTLやラディエールが細身のため空気圧セッティングがシビアだったのに比べ、このパドロネTRは大雑把に圧を決めてもそれなりに走れてしまう懐の深さがある。そのことで非常に扱いやすいタイヤになっている。
期間中、雨の日も数回使うことができ、ウェット路面のグリップの良さも確認できた。パターンの全く無いスリックトレッドだが、急にグリップを失うといったことがない。コンパウンドの喰いつきの良さと、サイドからタイヤ全体にかけての柔軟性の高さからくる相乗効果で良いグリップ性能が出ているのだろう。
実測値256gはチューブレスレディタイヤとしてとくに軽い部類のタイヤではないが、走りの軽さが光る。だが危うさを感じないことで、レースからツーリング的ライドまでオールラウンドな使い方に向く印象を受けた。
使用期間3ヶ月と走行600kmを越えたが、トレッドのヒビ割れや痛み、コンパウンド表面の乾きなどが無いため、耐久性もそれなりに高そうだ。パンクも運に左右される面もあるが、まだ無い。
マキシス PADRONE(パドロネ) TR
サイズ:700c×25C
仕様:170TPI、CarbonFiberビード
重量:260g
最大空気圧:125psi
付属品:タイヤレバー2本
価格:8,900(税抜)
取扱い:インターテック
ショップ店長たちによるインプレッション
ここではパドロネTRをサイクルショップの店長たち4人が使ってのインプレッションを、アンケート回答方式によって記そう。なおこのアンケートの依頼・収集はマキシスの取扱代理店であるインターテックが行った。
錦織大祐(FORTUNEBIKE)
転がり抵抗:TRタイヤとしての転がり感の良さ以上に路面状況を感じやすく、振動の収束も素早い。
コーナリング性能:25Cの太さ故、倒しこみ角度の感触は好みが分かれるがコンパウンドの食いつきに不安感はなく良質なコーナリング性能だと感じた。
ブレーキ性能:しなやかなのにハードブレーキング時の下支えとなるケーシングのたわみが少なく、芯のある感触に好感を持てた。ケーシングの繊維方向なども工夫があるのだろうか?ただし後述する空気圧設定の反映度合いがハッキリしているため、低圧時の変形やその場合のブレーキング感触には好みが分かれるように思う。
丈夫さ:試用期間が長いわけではなく検証期間が短いが、タイヤサイドの耐久性やチューブレスの最も気になる点であるビード周辺は耐久性が高そう。
グリップ:全く不安感が無く、倒しこみや切り返し時の路面の掴み感が把握しやすい。ケーシングの信頼感と合わせて、ホビーライダーに安心感がある味付け。
加速性:あえて辛口にしているが”一瞬のタメ感”を感じるのであって、もたつくわけではないと思う。低圧よりだとタメが強く感じたが、逆に言えば、路面コンディションに関係なく接地面を掴んでいる感触の裏返し。MTBタイヤ的な反応というか、ワンテンポ後にしっかりかかって、そのあと伸びる感じ。トータルで加速が悪いわけではない。
総合評価:非常に良い作りで安心感も高い。重量面でもネガティブさを感じないが、マキシスが本気出したら、さらに軽く出来るような気もするし、レース専用にさらに突き詰めたらより攻撃的な味付けのものも作れそうな気がするという勝手な理由で9点。
おすすめポイント:本来はシーラント併用で最初から作業するべきところをシーラントを使用せず、ビードにきっちりハメてエア圧を加えてみました。装着は極めて容易でレバー不要だった。簡単にビードも上がり、7.2気圧を加えて一晩放置してみたがほぼエア抜けなしだった。マイクロホールくらいは開いているものが多いチューブレスレディの中で、タイヤ内面が非常に高いレベルで成形されているのだと感じた。コンパウンドのグリップ感、ベースケーシングの信頼感、着脱やエアの保持性を含めた運用性の高さのバランスがとても良質なタイヤ。
1. シーラントを投入してなじませた後は低圧7.2気圧から試乗開始。振動の収束感がありながらも前への転がりにもたつきを感じないので好印象。ただし切り返す動きだとややヨレを感じる。これはタイヤの剛性がむしろしっかりしていることに起因すると感じたので悪い感触ではない。もっと圧を加えたほうが良さが出そうだったので次は8気圧に変更。
2. 8気圧にしてみると自分の体重ではやや高すぎる空気圧だが、跳ねは圧倒的に少なく、グリップにも乏しさを感じない。逆にテストホイールがアルテグラだったのでホイールのねじれ剛性の低さのほうが気になったくらい。振動吸収性だけでなく、転がり感を感じやすい。ただ、設定推奨圧が7.2~8.6なのでやや高め寄りなのだと再認識。
3. 何度かエア圧設定を繰り返し、7.6気圧あたりで転がり/振動吸収/振動の収束(おさまり)/タイヤ全体の変形感などがバランスが良く感じた。そう感じるとチューブレスの利点を全て発揮した上で、パドロネTRがさらにもう一段しなやかさを持ち合わせているように感じる。加速に対しては、一瞬のタメのあとでスパっと伸び始める感触。振動吸収だけに味付けが偏らない使いやすさが好感触。
0.3気圧くらいの変化で変形量を含めてかなりタイヤの表情が変わるように感じた。タイヤは何でもエア圧で変わるものだが、シビアに感触を変える代わりに、どのシチュエーションでもグリップ感の損失は感じにくい。自分の使い方が見つけやすいタイヤだ。高剛性化しているホイール、フレームセットとの相性は非常にいいと思う。
生駒元保(RIDEWORKS)
転がり抵抗:漕ぎ出しもすごく軽い。
コーナリング性能:へばりついてる感があり安心できます。
グリップ:下りのコーナーでも攻めることができる。
加速性:タイヤが路面にへばりつく感じが少しあるため、加速はワンテンポ遅れる感がある。
総合評価:グリップする感じ、体で感じる振動はすごく上質。エアー漏れも少なく非常に良い。ホイールとの相性もあると思うが、ビードが少し上がりにくいものもあった。
おすすめポイント:とてもやさしい乗り心地でロングライドにオススメ。シルキーな乗り心地はヤミツキになる。
小西祐介 (なるしまフレンド神宮店)
転がり抵抗:チューブレスタイヤの中でも非常に高いレベルにあると感じた。今回のテスト前に使用していたIRCのFORMULA RBCC(旧モデル)より走行感は軽く感じる。
コーナリング性能:装着直後のタイヤではコーナーを攻めるのは不安があり、タイヤの性能を把握しにくいが、なるしま社員旅行で宮崎の山の中を走った今回のタイヤはグリップに常に余裕を感じることができた。
丈夫さ:現在トータルで600kmほど走行しているがパンクはしていないし、する気配もない。エアーの保持も良いようだ。トレッド部に切り傷も無いことから、なかなか丈夫なようだと判断できる。
加速性:加速はクリンチャーの良い物や、カーボンリムに装着された良品チューブラーに一歩譲った感じだろうか。加速後の巡航は転がり抵抗の少なさもありスムーズ。走行時の加速やスプリントでは剛性がありとても良く進む。(加速性能の評価はゼロ発進時)
総合評価:バランスの良いタイヤという印象。特にグリップ性能は濡れた路面でも滑る感じがなく良く感じる。チューブレスレディということでシーラントを使うことが前提であり価格も高いことから、レースやイベント参加のユーザーに勧めたい。2週間程度のライドでは耐久性までは判断しかねるが、トレッド面にも傷がないことからも耐久性はあると判断できる。3ヶ月ほど経ってシーラントが経年劣化し半分固まってきた頃にどう感じるかや、サイドのヒビ割れの入ってくるタイミングも見ていきたい。タイヤ寿命を迎えるにあたり、ファーストインプレッションとどの様に評価が変化するかも今後の課題として見ていきたい。
遠藤健太(サイクルワークスフィンズ)
転がり抵抗:重さを感じるが中の上ぐらい。
コーナリング性能:ニュートラルに曲がることができる。
ブレーキ性能:しっかり停まる。
丈夫さ:耐久性に優れている4000〜5000kmは可能か。
グリップ:IRCには劣るものの、まずまずの評価。雨天時にやや滑る。
加速性:空気圧が高く設定できるので、加速は良い。
総合評価:バランスは非常に良いと思う。
おすすめポイント:空気圧を高めに設定できるため、速く走ることができる。またクッション性が比較的高い点。ロングライドのような重いギアで低ケイデンスよりは軽いギアでクルクル回すようなレース向き。個人的には高評価だが、最近はカーボンクリンチャーなどクリンチャータイヤの増加に拍車がかかるような流れになっており、選ばれにくいかもしれない。
text&edit:Makoto.AYANO
photo:Makoto.AYANO,Gakuto.Fujiwara
Amazon.co.jp