イギリス全土を舞台にしたツアー・オブ・ブリテン(UCI2.HC)が9月4日から8日間の日程で開催される。UCIワールドチームが11チーム出場し、多くのスプリンターが揃うイギリス最大のステージレースの見どころをチェックしておこう。



観客が詰めかけたコースを走るメイン集団観客が詰めかけたコースを走るメイン集団 photo:Kei Tsuji


1級山岳フィニッシュと個人タイムトライアルで総合争いは決着

ツアー・オブ・ブリテン2016コースマップツアー・オブ・ブリテン2016コースマップ image:Tour of Britainツアー・オブ・ブリテンは1945年に第1回大会が開催されたイギリス最古ならびに最大のステージレース。1999年を最後に一旦休止したものの2004年に復活。長年5ステージで争われていたが、2008年から8ステージに拡大して現在に至る。UCIのカテゴリーはHC(超級)だ。

開幕地はイギリス北部スコットランド地方のグラスゴー。そこから1週間かけてグレートブリテン島を南下し、イングランド地方とウェールズ地方を駆け抜ける。レースの終着地はツールのパリよろしく首都のロンドン。

国土の最高地点が標高1,343m(スコットランドのベン・ネビス山)というイギリスにあって、標高の高い難関山岳は登場しないが、その一方でアップダウンを繰り返す丘陵コースが連日のように続く。平坦ステージにカウントされているステージでも獲得標高差が3,000m前後に達するステージの連続で、ピュアスプリンターたちに登坂力を要求する。

ツアー・オブ・ブリテン2016第4ステージツアー・オブ・ブリテン2016第4ステージ image:Tour of Britain1チーム6名という人数の少なさから、スプリンターチームのコントロールを抜け出して大逃げが決まる可能性も高いと言える。同様に、総合争いも混沌としたものになるだろう。

ツアー・オブ・ブリテン2016第6ステージツアー・オブ・ブリテン2016第6ステージ image:Tour of Britainグラスゴーをスタートする初日の第1ステージはスプリンター向き。フィニッシュの27km手前に1級山岳ストラグル(4.8km/平均8.2%)が登場する第2ステージや、後半に2つの1級山岳が設定された第3ステージで早速総合争いが動く。大会最長218kmコースで行われる第4ステージは難易度の低いカテゴリー山岳しか設定されていないものの、その獲得標高差は4,200mオーバー。まさに登りと下りしかないようなアップダウンコースであり、スプリンターが勝負に残れるかどうかは未知数だ。

その曲線から「リーゼント」の語源となったリージェントストリートへと入っていく選手たちその曲線から「リーゼント」の語源となったリージェントストリートへと入っていく選手たち photo:Kei Tsuji大会最大の山場を迎えるのが第6ステージ。2011年と2013年、2014年に続く登場となる1級山岳ダートムーア(5.9km/平均5.9%)の山頂フィニッシュが登場する。グランツールの山岳と比べると難易度は幾分低いが、ここで総合争いにおける重要なタイム差が生まれるのは間違いない。

翌日の第7ステージは午前中にブリストルの周回コースを舞台にした個人タイムトライアルが行われ、午後に同じ周回コースでロードレースが開催。距離は短いが、個人タイムトライアルで実質的な総合優勝者が決まる。最終日はロンドンの中心部を規制して行われるクリテリウム的な平坦レース。ピカデリーサーカスやトラファルガースクエア、ホワイトホールを経てリージェントストリートで8日間の戦いが締めくくられる。



ツアー・オブ・ブリテン2016ステージリスト(距離/獲得標高差)
9月4日(日)第1ステージ グラスゴー〜キャッスルダグラス 161.6km/1,854m
9月5日(月)第2ステージ カーライル〜ケンダル 188.2km/3,715m
9月6日(火)第3ステージ コングルトン〜ナッツフォード 179.4km/2,146m
9月7日(水)第4ステージ デンビー〜ビルスウェルス 218km/4,225m
9月8日(木)第5ステージ アバーデア〜バース 194.5km/3,292m
9月9日(金)第6ステージ シドマウス〜ダートムーア 149.9km/3,139m
9月10日(土)第7aステージ ブリストル周回コース 15km/230m(個人TT)
9月10日(土)第7bステージ ブリストル周回コース 90km/1,380m(ロード)
9月11日(日)第8ステージ ロンドン周回コース 100km/756m




11のUCIワールドチームが出場 トップスプリンター集結

マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ)マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ) photo:Kei Tsuji年を追うごとに出場チームのラインナップが豪華になっているツアー・オブ・ブリテン。2016年大会は21チーム中UCIワールドチームが11チーム(ディメンションデータ、チームスカイ、エティックス・クイックステップ、モビスター、BMCレーシング、キャノンデール・ドラパック、ロット・ソウダル、オリカ・バイクエクスチェンジ、ジャイアント・アルペシン、ロットNLユンボ、トレック・セガフレード)揃う。

エリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、チームスカイ)エリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、チームスカイ) photo:Kei Tsuji中東カタールで行われる2016年のロード世界選手権はスプリンター向き。そのため例年よりも多くのスプリンターがコンディションをシーズン後半まで長続きさせている印象がある。その影響で、このブリテンにはブエルタ・ア・エスパーニャよりもずっと豪華なスプリンターが揃う。

ステージに向かうアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル)ステージに向かうアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル) photo:Kei Tsuji前年度覇者エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー)は欠場。代わってゼッケンNo.1をつけるのはマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ)だ。ツールでステージ4勝を飾ったカヴはレンショーやアイゼルといった心強いリードアウトを得ての出場。母国最大のステージレースでカヴはこれまでステージ通算10勝をマークしている。

雨のチームプレゼンテーションに登場したトム・ドゥムラン(オランダ、ジャイアント・アルペシン)雨のチームプレゼンテーションに登場したトム・ドゥムラン(オランダ、ジャイアント・アルペシン) photo:Kei Tsujiリオ五輪オムニアムでカヴを下して金メダルを獲得したエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、チームスカイ)は、自身もスプリントを狙えるスウィフトやファンポッペルとともにスタートラインに並ぶ。スプリントに向けたスピードバトルではチームスカイが主導権を握ることになるだろう。

ブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームウィギンズ)ブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームウィギンズ) photo:Kei Tsujiデブシェールやシーベルグを従えての出場となるアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル)もロード世界選手権に向けて調子を上げているはず。ジャコモ・ニッツォロ(イタリア、トレック・セガフレード)やマキシミリアーノ・リケーゼ(アルゼンチン、エティックス・クイックステップ)といった経験豊かなスプリンターの他、日本でもおなじみのスティール・ヴォンホフ(イギリス、ワンプロサイクリング)やワウテル・ウィッパート(オランダ、キャノンデール・ドラパック)もスプリントに絡んでくるだろう。

ファンサービスに時間を割くテイラー・フィニー(アメリカ、BMCレーシング)ファンサービスに時間を割くテイラー・フィニー(アメリカ、BMCレーシング) photo:Kei Tsuji来季チームスカイ入りが決まっているオーウェン・ドゥール(イギリス、チームウィギンズ)やカレイブ・ユアン(オーストラリア、オリカ・バイクエクスチェンジ)、ディラン・フルーネヴェーヘン(オランダ、ロットNLユンボ)ら若手の活躍にも期待したい。イギリス選手権ロードレースでカヴェンディッシュを破ったティンコフ所属のアダム・ブライス(イギリス)はイギリスナショナルチームから出場する。

山岳ステージの難易度が低いため、TTスペシャリストにもチャンスがあると見られている総合争い。第7ステージで優勝を争うと見られるトム・ドゥムラン(オランダ、ジャイアント・アルペシン)やアレックス・ダウセット(イギリス、モビスター)、ローハン・デニス(オーストラリア、BMCレーシング)らは総合優勝候補の一角だ。

もちろん個人タイムトライアルではブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームウィギンズ)やトニ・マルティン(ドイツ、エティックス・クイックステップ)からも目が離せない。なお、今大会にはリオ五輪のメダリストが8名出場する(ウィギンズ、ドゥール、ヴィヴィアーニ、カヴェンディッシュ、ドゥムラン、ボブリッジ、エドモンソン、ヘップバーン)。

一方で山岳ステージで攻撃を仕掛けてくると見られるのがダニエル・マーティン(アイルランド、エティックス・クイックステップ)やワウト・ポエルス(オランダ、チームスカイ)、トニー・ギャロパン(フランス、ロット・ソウダル)ら。2014年大会でステージ優勝を飾った総合4位でレースを終えたエドアルド・ザルディーニ(イタリア、バルディアーニCSF)やアメツ・チュルカ(スペイン、オリカ・バイクエクスチェンジ)といったクライマーたちも総合争いに残るかもしれない。

text&photo:Kei Tsuji in Glasgow, Scotland