2016/07/17(日) - 02:31
キッテルの後ろから加速し、すぐさま先頭に立ったマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ)がトップスピードを維持。「マン島の超特急」がステージ4勝目を飾るとともにステージ通算勝利数を30の大台に乗せた。
中央山塊とアルプス山脈を分かつローヌ川に沿ってプロトンは北上する。200km超えステージに登場するカテゴリー山岳は4級山岳が3つ。ローヌ渓谷東側の丘を繋いでいくため絶えず細かいアップダウンが登場するが、集団を分裂させてしまうような大きな登りは存在しない。
ニースで発生したテロ事件の犠牲者に1分間の黙祷が捧げられた後、レースは11時45分にスタートが切られる。コンスタントに吹く向かい風によって平均スピードが落ちることが想定されたため、主催者はスタート時間を15分だけ前倒しした。
正式なスタート後もプロトンは追悼モードで進行する。アタックもかからないまま20.5kmの4級山岳を通過。山頂を先頭通過したトーマス・デヘント(ベルギー、ロット・ソウダル)が山岳賞のリードを1ポイント広げている。
平均30.4km/hで走り続けたプロトンに動きが見られたのはスタートから1時間が経ってから。マルティン・エルミガー(スイス、IAMサイクリング)、アレックス・ハウズ(アメリカ、キャノンデール・ドラパック)、チェザーレ・ベネデッティ(イタリア、ボーラ・アルゴン18)、ジェレミー・ロワ(フランス、FDJ)の4名が逃げ始めると、メイン集団はすんなりとこの動きを見送った。
4名の逃げが形成されてからも向かい風によって平均スピードは上がらず、スタート時間が15分早まったにも関わらずレースは最も遅い想定スケジュールよりも30分遅れで進行。最大4分45秒まで広がったタイム差をチームスカイがコントロールし、やがて牽引の役目をエティックス・クイックステップとロット・ソウダル、ディメンションデータに引き継いだ。
この日は数日にわたって胃腸炎に苦しめられていたマティアス・フランク(スイス、IAMサイクリング)と、落車したマッティ・ブレシェル(デンマーク、キャノンデール・ドラパック)がリタイアを喫している。181名にまで減ったメイン集団はレース後半に入るとスプリンターチームに率いられてペースアップ。同様に逃げグループもスピードを一段上げた。
フランス第2の都市リヨンの街をかすめ、曲がりくねった田舎道を進むうちにメイン集団は逃げグループを射程圏内に捉える。やがて逃げからはハウズが脱落し、しばらくしてベネデッティも脱落。メイン集団が20秒後方に迫りながらも、ロワとエルミガーという2人の逃げのスペシャリストが先頭で最後まで抵抗を見せる。
フィニッシュまで10kmを切るとカチューシャやBMCレーシング、コフィディス、ディメンションデータが集団を固めてハイスピード牽引。逃げ続けたロワとエルミガーは互いの健闘を称え合う握手ののちに残り3km地点で吸収された。
野鳥公園の入り口に位置するフィニッシュ地点はツール初登場(ドーフィネには登場済み)。広い幹線道路で熾烈なポジション争いが繰り広げられる。フラムルージュ(残り1kmアーチ)を過ぎるとロット・ソウダルとカチューシャの赤いトレインが競り合ったが、その間からエティックス・クイックステップの青いトレインが前に出る。
トップスピードで突進する発射台ファビオ・サバティーニ(イタリア)にリードアウトされたマルセル・キッテル(ドイツ、エティックス・クイックステップ)が、残り200mサインを前に腰を上げてスプリント開始。一呼吸置いてカヴェンディッシュがその後ろから加速した。
勾配1%の登りストレートで先行したキッテルにカヴェンディッシュが並ぶ。残り200mで66.3km/hのトップスピードをマークしたカヴェンディッシュがキッテルを抜き去り、追いすがるアレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ)に並ばせない。スプリント中に誰よりも速い69.3km/hのトップスピードをたたき出したペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ)も届かず、カヴェンディッシュが4本指を立ててフィニッシュした。
キッテルがカヴェンディッシュの進路妨害を訴えたが、映像を確認したコミッセールの判断はカヴェンディッシュの勝利。キッテルは「トレインは完璧で、トップスピードに乗った状態で残り220mからスプリントを開始した。ポジションは良かったものの、カヴェンディッシュに追い抜かれ、フェンス側に押しやられた。ブレーキを握らなければ落車していた」とコメントしている。
今大会ここまでスプリント5戦4勝という高い勝率を誇るカヴェンディッシュ。「勝利の秘訣は忍耐強さ。トラックレースに復帰したけど、身体的な能力は大きく変わっていない。今日も忍耐強さが勝利につながった。今日はマルセル・キッテルをマークしたものの、残り2kmの時点で彼にはリードアウト要員が4人しか残っていなかった。先頭でスプリントに持ち込んだキッテルが徐々にスピードを落とすのを見計らって加速した」と、ベテランならではの読みが的中した。
カヴェンディッシュはツールのステージ通算勝利数を30勝に。30勝の大台を達成したのはエディ・メルクス(通算34勝)に続く史上2人目の快挙。これがキャリア通算141勝目(現役選手の中で最多勝)だ。「リオ五輪トラックレースに照準を合わせているので、体調を崩したり疲労困憊になればリタイアすることもあるかもしれない。でもよほどのことがない限りパリまで走りきるつもり。調子は良いし、チームの雰囲気も最高だ」と今大会のスプリンター王は語っている。
ツール・ド・フランス2016第14ステージ結果
1位 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ) 5h43’49”
2位 アレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ)
3位 ペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ)
4位 ジョン・デゲンコルブ(ドイツ、ジャイアント・アルペシン)
5位 マルセル・キッテル(ドイツ、エティックス・クイックステップ)
6位 アンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル)
7位 ブライアン・コカール(フランス、ディレクトエネルジー)
8位 ダヴィデ・チモライ(イタリア、ランプレ・メリダ)
9位 クリストフ・ラポルト(フランス、コフィディス)
10位 サミュエル・ドゥムラン(フランス、AG2Rラモンディアール)
81位 新城幸也(日本、ランプレ・メリダ)
マイヨジョーヌ(個人総合成績)
1位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ) 63h46’40”
2位 バウク・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード) +1’47”
3位 アダム・イェーツ(イギリス、オリカ・バイクエクスチェンジ) +2’45”
4位 ナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター) +2’59”
5位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) +3’17”
6位 ティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシング) +3’19”
7位 ロメン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール) +4’04”
8位 リッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシング) +4’27”
9位 ダニエル・マーティン(アイルランド、エティックス・クイックステップ) +5’03”
10位 ファビオ・アル(イタリア、アスタナ) +5’16”
マイヨヴェール(ポイント賞)
1位 ペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ) 340pts
2位 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ) 278pts
3位 マルセル・キッテル(ドイツ、エティックス・クイックステップ) 228pts
マイヨアポワ(山岳賞)
1位 トーマス・デヘント(ベルギー、ロット・ソウダル) 90pts
2位 ラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ) 77pts
3位 ダニエル・ナバーロ(スペイン、コフィディス) 68pts
マイヨブラン(ヤングライダー賞)
1位 アダム・イェーツ(イギリス、オリカ・バイクエクスチェンジ) 63h49’25”
2位 ルイス・マインティーズ(南アフリカ、ランプレ・メリダ) +3’03”
3位 ワレン・バーギル(フランス、ジャイアント・アルペシン) +5’38”
チーム総合成績
1位 BMCレーシング 191h18’28”
2位 モビスター +2’30”
3位 チームスカイ +8’10”
ステージ敢闘賞
ジェレミー・ロワ(フランス、FDJ)
リタイア
マティアス・フランク(スイス、IAMサイクリング)
マッティ・ブレシェル(デンマーク、キャノンデール・ドラパック)
text&photo:Kei Tsuji in Villars-les-Dombes Parc des Oiseaux, France
中央山塊とアルプス山脈を分かつローヌ川に沿ってプロトンは北上する。200km超えステージに登場するカテゴリー山岳は4級山岳が3つ。ローヌ渓谷東側の丘を繋いでいくため絶えず細かいアップダウンが登場するが、集団を分裂させてしまうような大きな登りは存在しない。
ニースで発生したテロ事件の犠牲者に1分間の黙祷が捧げられた後、レースは11時45分にスタートが切られる。コンスタントに吹く向かい風によって平均スピードが落ちることが想定されたため、主催者はスタート時間を15分だけ前倒しした。
正式なスタート後もプロトンは追悼モードで進行する。アタックもかからないまま20.5kmの4級山岳を通過。山頂を先頭通過したトーマス・デヘント(ベルギー、ロット・ソウダル)が山岳賞のリードを1ポイント広げている。
平均30.4km/hで走り続けたプロトンに動きが見られたのはスタートから1時間が経ってから。マルティン・エルミガー(スイス、IAMサイクリング)、アレックス・ハウズ(アメリカ、キャノンデール・ドラパック)、チェザーレ・ベネデッティ(イタリア、ボーラ・アルゴン18)、ジェレミー・ロワ(フランス、FDJ)の4名が逃げ始めると、メイン集団はすんなりとこの動きを見送った。
4名の逃げが形成されてからも向かい風によって平均スピードは上がらず、スタート時間が15分早まったにも関わらずレースは最も遅い想定スケジュールよりも30分遅れで進行。最大4分45秒まで広がったタイム差をチームスカイがコントロールし、やがて牽引の役目をエティックス・クイックステップとロット・ソウダル、ディメンションデータに引き継いだ。
この日は数日にわたって胃腸炎に苦しめられていたマティアス・フランク(スイス、IAMサイクリング)と、落車したマッティ・ブレシェル(デンマーク、キャノンデール・ドラパック)がリタイアを喫している。181名にまで減ったメイン集団はレース後半に入るとスプリンターチームに率いられてペースアップ。同様に逃げグループもスピードを一段上げた。
フランス第2の都市リヨンの街をかすめ、曲がりくねった田舎道を進むうちにメイン集団は逃げグループを射程圏内に捉える。やがて逃げからはハウズが脱落し、しばらくしてベネデッティも脱落。メイン集団が20秒後方に迫りながらも、ロワとエルミガーという2人の逃げのスペシャリストが先頭で最後まで抵抗を見せる。
フィニッシュまで10kmを切るとカチューシャやBMCレーシング、コフィディス、ディメンションデータが集団を固めてハイスピード牽引。逃げ続けたロワとエルミガーは互いの健闘を称え合う握手ののちに残り3km地点で吸収された。
野鳥公園の入り口に位置するフィニッシュ地点はツール初登場(ドーフィネには登場済み)。広い幹線道路で熾烈なポジション争いが繰り広げられる。フラムルージュ(残り1kmアーチ)を過ぎるとロット・ソウダルとカチューシャの赤いトレインが競り合ったが、その間からエティックス・クイックステップの青いトレインが前に出る。
トップスピードで突進する発射台ファビオ・サバティーニ(イタリア)にリードアウトされたマルセル・キッテル(ドイツ、エティックス・クイックステップ)が、残り200mサインを前に腰を上げてスプリント開始。一呼吸置いてカヴェンディッシュがその後ろから加速した。
勾配1%の登りストレートで先行したキッテルにカヴェンディッシュが並ぶ。残り200mで66.3km/hのトップスピードをマークしたカヴェンディッシュがキッテルを抜き去り、追いすがるアレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ)に並ばせない。スプリント中に誰よりも速い69.3km/hのトップスピードをたたき出したペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ)も届かず、カヴェンディッシュが4本指を立ててフィニッシュした。
キッテルがカヴェンディッシュの進路妨害を訴えたが、映像を確認したコミッセールの判断はカヴェンディッシュの勝利。キッテルは「トレインは完璧で、トップスピードに乗った状態で残り220mからスプリントを開始した。ポジションは良かったものの、カヴェンディッシュに追い抜かれ、フェンス側に押しやられた。ブレーキを握らなければ落車していた」とコメントしている。
今大会ここまでスプリント5戦4勝という高い勝率を誇るカヴェンディッシュ。「勝利の秘訣は忍耐強さ。トラックレースに復帰したけど、身体的な能力は大きく変わっていない。今日も忍耐強さが勝利につながった。今日はマルセル・キッテルをマークしたものの、残り2kmの時点で彼にはリードアウト要員が4人しか残っていなかった。先頭でスプリントに持ち込んだキッテルが徐々にスピードを落とすのを見計らって加速した」と、ベテランならではの読みが的中した。
カヴェンディッシュはツールのステージ通算勝利数を30勝に。30勝の大台を達成したのはエディ・メルクス(通算34勝)に続く史上2人目の快挙。これがキャリア通算141勝目(現役選手の中で最多勝)だ。「リオ五輪トラックレースに照準を合わせているので、体調を崩したり疲労困憊になればリタイアすることもあるかもしれない。でもよほどのことがない限りパリまで走りきるつもり。調子は良いし、チームの雰囲気も最高だ」と今大会のスプリンター王は語っている。
ツール・ド・フランス2016第14ステージ結果
1位 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ) 5h43’49”
2位 アレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ)
3位 ペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ)
4位 ジョン・デゲンコルブ(ドイツ、ジャイアント・アルペシン)
5位 マルセル・キッテル(ドイツ、エティックス・クイックステップ)
6位 アンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル)
7位 ブライアン・コカール(フランス、ディレクトエネルジー)
8位 ダヴィデ・チモライ(イタリア、ランプレ・メリダ)
9位 クリストフ・ラポルト(フランス、コフィディス)
10位 サミュエル・ドゥムラン(フランス、AG2Rラモンディアール)
81位 新城幸也(日本、ランプレ・メリダ)
マイヨジョーヌ(個人総合成績)
1位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ) 63h46’40”
2位 バウク・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード) +1’47”
3位 アダム・イェーツ(イギリス、オリカ・バイクエクスチェンジ) +2’45”
4位 ナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター) +2’59”
5位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) +3’17”
6位 ティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシング) +3’19”
7位 ロメン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール) +4’04”
8位 リッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシング) +4’27”
9位 ダニエル・マーティン(アイルランド、エティックス・クイックステップ) +5’03”
10位 ファビオ・アル(イタリア、アスタナ) +5’16”
マイヨヴェール(ポイント賞)
1位 ペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ) 340pts
2位 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ) 278pts
3位 マルセル・キッテル(ドイツ、エティックス・クイックステップ) 228pts
マイヨアポワ(山岳賞)
1位 トーマス・デヘント(ベルギー、ロット・ソウダル) 90pts
2位 ラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ) 77pts
3位 ダニエル・ナバーロ(スペイン、コフィディス) 68pts
マイヨブラン(ヤングライダー賞)
1位 アダム・イェーツ(イギリス、オリカ・バイクエクスチェンジ) 63h49’25”
2位 ルイス・マインティーズ(南アフリカ、ランプレ・メリダ) +3’03”
3位 ワレン・バーギル(フランス、ジャイアント・アルペシン) +5’38”
チーム総合成績
1位 BMCレーシング 191h18’28”
2位 モビスター +2’30”
3位 チームスカイ +8’10”
ステージ敢闘賞
ジェレミー・ロワ(フランス、FDJ)
リタイア
マティアス・フランク(スイス、IAMサイクリング)
マッティ・ブレシェル(デンマーク、キャノンデール・ドラパック)
text&photo:Kei Tsuji in Villars-les-Dombes Parc des Oiseaux, France
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