2016/06/26(日) - 23:58
全日本ロード最終レースの男子エリートは力のある選手を揃えたブリヂストンアンカーが終盤の展開を支配。初山翔と西薗良太がワン・ツー勝利を飾り、じつに12年ぶりにチームにチャンピオンジャージをもたらした。
6月26日(日)、雨と風の荒天が続いた伊豆大島での全日本選手権ロードも最終日。単独開催された男子エリートは朝から穏やかな天候に恵まれた。スタートは朝8時。2月のアジア選手権ロードと同じコース、元町をスタート・ゴールとする11.9kmを13周する154.7kmの闘いだ。
朝から雨の心配のない明るい曇り空。ここ数日の大会を悩ませた強風は吹かず、暑さも厳しさを感じないマイルドな気候のなかレースは展開した。
距離は短いながら厳しい上りがひとつだけという、変化に乏しい単純なコースだ。しかしだからこそレースは難しくなるという声が多数を占める。レース前、カギを握るベテランの土井雪広、増田成幸のふたりに話を聞いた。
土井雪広(マトリックス・パワータグ):「単純だが広島(森林公園)よりも全然ハードで自然に脚が削れていくコースです。スプリンターが残れるかどうかが微妙なプロフィールなのでスプリントに持ち込みたいマトリックスにとっては、チームのカードをどう切っていくか、残すかが問われる難しいレースになる。終盤に選手が減ってからどう動くか。久々にハードな全日本になると思う。おそらく小集団での勝負になるでしょう」。
増田成幸(宇都宮ブリッツェン):「上りが厳しいレースなので人数は絞りたいですね。集団スプリントにはならないはずなので、人数を絞ってから最後に攻撃を仕掛けたい。焦ると昨年のように自分の脚を使ってしまうので、焦らないように、流れが来たらうまく乗って勝てるように動きたい。動きかたは決めています。逃げは必ずできるので、重要な動きを見極めて対処したい。自分たちだけでレースをコントロールするのではなく、他のチームも巻き込めるように。このレースに向けて全力で調整してきたので仕上がりはとてもいいです。気合を入れすぎると空回りしてしまうので、楽しんでいこうと思います」。
スタートしてから逃げを決めようという動きが生じ、レースは序盤から活性化した。スピードの上がった集団は分断し、脚のない選手にとっては厳しい展開になる。何人もがアタックしては捕まるを繰り返したのち、4周目に決まった逃げは中根英登(愛三工業レーシング)と鈴木譲(宇都宮ブリッツェン)の2名。2人きりとはいえ有力2チームによる逃げを許容した集団はようやく落ち着きを取り戻した。逃げは約2分の差となり、2人は淡々と走り続ける。風もなく、集団にとってもペースをコントロールしやすい。
序盤、5周の時点で優勝候補のひとりである内間康平(ブリヂストンアンカー)が落車してリタイアするというハプニング。後方から上がってきた選手に追突されるかたちでバランスを崩した内間はアスファルトに叩きつけられ、救急車で病院に搬送された。肘を打撲し、擦過傷を負ったが幸い骨折等の深刻な怪我ではなかった。すでに決まっているリオ五輪代表の座には影響しないだろう。
チームカーの随行が認められないこのレース。コースの上り区間の路上に居て、無線で内間のリタイアを伝えられた水谷監督は次のように話す。
「今日は調子も良く、流れに乗っている内間で勝負しようと思っていました。彼なら上りで抜けだしてゴールまで独走することができるので、それがチームの第一の作戦でした。このあとは作戦を変更します。西薗も独走できる選手です。後半厳しい展開にもっていき、西薗で勝負する。それがダメなら初山のスプリント、あるいは鈴木龍でも勝負できる。おそらく最後は3人ぐらいの逃げになるでしょう。強い選手なら最後の坂で飛び出せばゴールまで逃げ切れるコースです。独走が決まるレースになると思う」。
残り5周。続いた2人の逃げから中根英登が脱落し、鈴木譲の独走状態となる。メイン集団は60名ほどが残る。
後方に控えるブリッツェンは、エースの増田を護りながら走り、先頭を引く必要がない。ペースを作るのは主にブリヂストンアンカーだ。井上和郎と椿大志が先頭に出て集団を引く。
残り4周あたりから集団のペースが上がり、上りのたびにふるい落としのペースアップと勝負がかかる。麓から佐野淳哉が機関車役となってペースを上げ、頂上付近で土井雪広や西薗良太がさらにスピードを上げる厳しい展開に。頂上付近で7人ほどに絞られる集団だが、下り区間と平坦路を利用して遅れた選手たちが再び合流する。その繰り返しだ。残り2周で集団は約40名に絞られる。
ラスト1周。登り頂上で絞られたのは7人。小石祐馬(NIPPOヴィーニファンティーニ)、西薗良太、初山翔(ブリヂストンアンカー)、土井雪広(マトリックス・パワータグ)、木村圭佑(シマノレーシング)、増田成幸(宇都宮ブリッツェン)。
下りを利用して遅れた選手たちが合流し、先頭集団は11人に。下りきってラスト7kmの空港脇で攻撃の火蓋を切ったのは木村圭佑(シマノレーシング)。空港沿いの平坦路でアタックし、間髪入れずに初山翔が反応、2人が飛び出す形となった。
少し遅れて追走に入ったのは石橋学(NIPPOヴィーニファンティーニ)。その背後に単独で抜け出し追いついた西薗良太(チームブリヂストン・アンカー)がぴたりとつける。前に初山が逃げているため引く必要の無い西薗は、前の2人との距離が縮まったタイミングで石橋を置き去りにして一気にブリッヂをかけて合流。初山、西薗、木村の3人の逃げグループが形成された。アンカー2対シマノ1。
単独で前を追う宙ぶらりん状態に陥った石橋を挟み、後方のメイン集団から追走するのは増田成幸、伊藤雅和(愛三工業レーシング)、吉岡直哉(那須ブラーゼン)、土井雪広(マトリックス・パワータグ)の4人。しかし前との差を縮めることはできず、やがてメイン集団に吸収される。
逃げ切りを決めた3人によるスプリント。まず西薗がアタックを仕掛け、木村が追う。後方に控えた初山が木村を一気に交わすと西薗に並ぶ。後はアンカー2人によるスプリント勝負だ。鮮やかな伸びを見せた初山をガッツポーズで祝福する西薗。ふたりが両手を挙げるワン・ツーフィニッシュは、初山が最初にラインを駆け抜けた。
初山にとって初の日本王者のタイトル。ブリヂストンアンカーとしては西薗の個人TTと併せ2冠だが、ロードのタイトルとしては2004年の全日本選手権における田代恭崇の勝利からじつに12年ぶりの勝利となった。
優勝した初山翔のコメント
「(全日本選手権の優勝について) 今まで清水都貴さんのような偉大な、いつ全日本チャンピオンになってもおかしくないような選手の元で走ってきて、ナショナル選手権のプレッシャーを都貴さんが受けて走っているのを感じていた。そういうレースだというのを自分もわかっていたので、今日のスタート前もすごく緊張していた。
優勝という最高の結果を手にした今もその実感が湧いていなくて。でもチームメイトやスタッフが号泣して喜んでくれたので『あ、勝ったんだ』と言う感じ。
(チームとしての作戦、どう勝利へ結びついたか) 最初は内間選手の独走優勝が第一目標だったのだが、序盤に彼が落車してしまったので、そうしたら残った選手で戦おうと。ただ幸いなことに僕らはチーム力に厚みがあって、勝てる選手がたくさんいた。焦ることなく、スプリントに強い鈴木龍選手と、独走力に強い西薗選手と、小集団のスプリントなら僕も、といった3人を前に残すことができた。井上選手には集団の牽引をしてもらったりと、1人も惜しむことなく、チームの全員を使ってこのワンツーという結果を得ることが出来た。
(展開は?) 残り3周までは井上選手と椿選手に集団を牽引してもらってペースで行って。残り3周回からは西薗選手を中心に一気にペースを上げて、周回の度に上りで5、6人の先頭集団に絞られて、また下りで追いつかれて、という繰り返し。チームとしてはマークを外してはいけない選手は絶対に外さないようにしていた。
(最終周回について) ラストを上りきったところでまた5、6人になって、下りきったところで木村選手がアタックしたので、僕がそれをチェックして2人でローテーションしていたら西薗選手が追いついてきてくれた。あとは海岸線を3人でローテして、最後はスプリントです。
最後の局面でも西薗さんとは特に話はしていなくて、なんとなくこの3人のスプリントになったら僕が一番強いと思っていた。先頭が西薗さん、2番手に木村選手、3番手に自分という並びで500mまで入って、150mくらいから木村選手がかけた。最後は西薗選手とガチのスプリントになったが、譲ることなく全力で行きました。勝利の確信は残り50mくらい。
(3人になった時点でアンカーで勝てると考えたか?) これでポカしたら恥ずかしいというのはあった。僕も残り1周の段階で足を少し攣っていて不安材料があった。でも普通にスプリントしたら負けることはないという自信もあった。
(ラスト7kmで木村選手のアタックに反応したが?) ゴールまでは長かったですね。そこで無理して踏まず、脚もフレッシュなわけではないので、ペースでローテしていった。大きかったのは西薗選手が1人で追いついてきてくれたこと。3人でローテーションすることで脚のリカバリーの時間が増えて、回復してスプリントすることが出来た。西薗さんは他に誰も連れて来ずに1人で追いついてくれたというのが本当にファインプレーだった。
(ライバルと考えていたのは?) NIPPOの選手は普段一緒に走らないので恐怖を感じていた。他にマトリックスの土井選手、佐野選手、ブリッツェンの増田選手、スプリントなら畑中選手…と、名前を挙げたらキリがないけれど、僕らが後手を踏まないように、と。アンカーは他チームから見られていたので、僕らが乗っていない逃げが行ったら「はいアンカーさん引いてください」となってしまうので、それがないように、ということは徹底しました。
(アンカーにとって12年ぶりの優勝について) 12年前のことはさすがにわからないのですが、都貴さんがいつ勝ってもおかしくないのに勝てなかったというのは、やはり実力だけでなくて、ナショナル選手権には『特別な何か』があると感じていた。そういう重みのある選手権に勝ったというのはすごいことだと思う。ただ、そのすごさをまだ実感出来ていない。チャンピオンジャージを着ていると目立つから、今後は『日本のチャンピオンって弱いな』と思われないように走りたい。
(今後の目標は?) 直近の目標に到達してしまったので、どうしよう?という感じですが、まだUCIレースがあるし、僕らが目標としているツール・ド・北海道やジャパンカップもあり、欧州遠征も予定している。今季前半のように苦しいレースを強いられながらも着実に進んできたことで結果がついてきたと思うので、今後もそれを続けていきたい。
(レース後半の厳しい展開で残れた。自分の成長については?) TOJなどの厳しいステージでは日本人の中で常に上位でゴール出来ていたので、ナショナル選手権は自分がレースを動かさないといけないと考えていた。かつて2013年の全日本選手権の厳しいレースで、都貴さんのアシストをしながらも6位に入れたので、そのあたりから自分はそういう立場の選手だという自覚を持った。
(自分が勝つことを意識したのは?) 都貴さんが引退したタイミング。いろんな事を教えてくれて、『もう任せて大丈夫だ』と笑顔で引退していったので、それが印象的で個人としてもプレッシャーを感じていた。偉大な人です。
(西薗選手と仲がいいと聞いたが?) フランスに行く時など、遠征の時にはいつも相部屋なのでその関係で。
(西薗のTTの勝ちは刺激になったか?) 西薗選手が嬉し泣きしている写真を見て、僕も嬉し泣きしたいな、と思ったし、勢いがついたというのはある。この勝利は地元の人など、僕が弱い時から応援してきてくれた人に報告したい。」
3位の木村圭佑(シマノレーシング)のコメント
チームから勝者が出ればいいと思って走っていた。僕らもまとまってはいたけど、それ以上にアンカーがうまくまとまっていたのが敗因。最後の上りでバラけて、7名になって、僕のアタックで初山さんと二人になって。
アンカーの二人と一緒に3人になってからは、僕もまずは逃げ切りたかったので協力して先頭を引きました。最後のスプリントのための脚は溜めることができなかった。
3位は思いっきり攻めて走った結果なので満足しています。表彰台に登れたのは僕にとって進歩。次は自分が全日本チャンピオンになるように頑張りたい。自分らしいレースができた。
今日は大人数の逃げができたらそれにしっかり乗れるように走ろうと思っていました。2人の逃げが捕まったラスト3周からは自分から攻撃しようと思っていました。西薗選手が攻撃をはじめて、それに反応することができた。そしてラスト2周は自分が攻撃して人数を減らそうと考えていました。ラスト1周は全選手のもがきあいに。空港脇で後ろの集団も来ていたので、そのタイミングで僕がアタックしたんです。
このコースは得意とはいえないけど、チームでしっかりレースをしたいという気持ちでレースを走りました。
土井雪広(マトリックス・パワータグ)のコメント
もし登り切ってゴールだったら勝てたんだけど、やっぱり難しかった。アンカーはうまくまとまっていました。クライマー系の選手しか残らなかった。悔しいけどこれ以上は無理だった。佐野さんはいい仕事してくれたが、最後は力勝負だった。
メイン集団を終始コントロールした井上和郎(ブリヂストンアンカー)
内間がリタイアしてからは『初山に託すしか無い。僕と椿でなんとかするしかないな』と思っていました。逃げとの差を1分まで詰めて、初山にとって厳しい展開にならないように1分差にとどめていたら西薗がいきなりアタックを始めたので僕は面食らってしまったんです。先頭でどうしようか迷っていた時だったのでで(笑)。
向かい風でペースがあがらなかったときにも集団のコントロールと割りきって、僕と椿が集団をコントロール。西薗と初山は勝負を挑むという役割分担に徹したのが良かったです。
全日本選手権ロードレース 男子エリート TOP10リザルト
1位 初山翔(チームブリヂストン・アンカー) 4h14'57
2位 西薗良太(チームブリヂストン・アンカー)
3位 木村圭佑(シマノレーシング) +00'02
4位 石橋学(NIPPOヴィーニファンティーニ) +00'42
5位 増田成幸(宇都宮ブリッツェン) +00'43
6位 鈴木龍(チームブリヂストン・アンカー)
7位 野中竜馬(キナンサイクリングチーム) +00'44
8位 平井栄一(チーム右京)
9位 土井雪広(マトリックスパワータグ)
10位 山下貴宏(シエルヴォ奈良MIYATA-MERIDA)
text:Makoto.AYANO,Yuichiro.HOSODA
photo:Makoto.AYANO,Hideaki.TAKAGI
6月26日(日)、雨と風の荒天が続いた伊豆大島での全日本選手権ロードも最終日。単独開催された男子エリートは朝から穏やかな天候に恵まれた。スタートは朝8時。2月のアジア選手権ロードと同じコース、元町をスタート・ゴールとする11.9kmを13周する154.7kmの闘いだ。
朝から雨の心配のない明るい曇り空。ここ数日の大会を悩ませた強風は吹かず、暑さも厳しさを感じないマイルドな気候のなかレースは展開した。
距離は短いながら厳しい上りがひとつだけという、変化に乏しい単純なコースだ。しかしだからこそレースは難しくなるという声が多数を占める。レース前、カギを握るベテランの土井雪広、増田成幸のふたりに話を聞いた。
土井雪広(マトリックス・パワータグ):「単純だが広島(森林公園)よりも全然ハードで自然に脚が削れていくコースです。スプリンターが残れるかどうかが微妙なプロフィールなのでスプリントに持ち込みたいマトリックスにとっては、チームのカードをどう切っていくか、残すかが問われる難しいレースになる。終盤に選手が減ってからどう動くか。久々にハードな全日本になると思う。おそらく小集団での勝負になるでしょう」。
増田成幸(宇都宮ブリッツェン):「上りが厳しいレースなので人数は絞りたいですね。集団スプリントにはならないはずなので、人数を絞ってから最後に攻撃を仕掛けたい。焦ると昨年のように自分の脚を使ってしまうので、焦らないように、流れが来たらうまく乗って勝てるように動きたい。動きかたは決めています。逃げは必ずできるので、重要な動きを見極めて対処したい。自分たちだけでレースをコントロールするのではなく、他のチームも巻き込めるように。このレースに向けて全力で調整してきたので仕上がりはとてもいいです。気合を入れすぎると空回りしてしまうので、楽しんでいこうと思います」。
スタートしてから逃げを決めようという動きが生じ、レースは序盤から活性化した。スピードの上がった集団は分断し、脚のない選手にとっては厳しい展開になる。何人もがアタックしては捕まるを繰り返したのち、4周目に決まった逃げは中根英登(愛三工業レーシング)と鈴木譲(宇都宮ブリッツェン)の2名。2人きりとはいえ有力2チームによる逃げを許容した集団はようやく落ち着きを取り戻した。逃げは約2分の差となり、2人は淡々と走り続ける。風もなく、集団にとってもペースをコントロールしやすい。
序盤、5周の時点で優勝候補のひとりである内間康平(ブリヂストンアンカー)が落車してリタイアするというハプニング。後方から上がってきた選手に追突されるかたちでバランスを崩した内間はアスファルトに叩きつけられ、救急車で病院に搬送された。肘を打撲し、擦過傷を負ったが幸い骨折等の深刻な怪我ではなかった。すでに決まっているリオ五輪代表の座には影響しないだろう。
チームカーの随行が認められないこのレース。コースの上り区間の路上に居て、無線で内間のリタイアを伝えられた水谷監督は次のように話す。
「今日は調子も良く、流れに乗っている内間で勝負しようと思っていました。彼なら上りで抜けだしてゴールまで独走することができるので、それがチームの第一の作戦でした。このあとは作戦を変更します。西薗も独走できる選手です。後半厳しい展開にもっていき、西薗で勝負する。それがダメなら初山のスプリント、あるいは鈴木龍でも勝負できる。おそらく最後は3人ぐらいの逃げになるでしょう。強い選手なら最後の坂で飛び出せばゴールまで逃げ切れるコースです。独走が決まるレースになると思う」。
残り5周。続いた2人の逃げから中根英登が脱落し、鈴木譲の独走状態となる。メイン集団は60名ほどが残る。
後方に控えるブリッツェンは、エースの増田を護りながら走り、先頭を引く必要がない。ペースを作るのは主にブリヂストンアンカーだ。井上和郎と椿大志が先頭に出て集団を引く。
残り4周あたりから集団のペースが上がり、上りのたびにふるい落としのペースアップと勝負がかかる。麓から佐野淳哉が機関車役となってペースを上げ、頂上付近で土井雪広や西薗良太がさらにスピードを上げる厳しい展開に。頂上付近で7人ほどに絞られる集団だが、下り区間と平坦路を利用して遅れた選手たちが再び合流する。その繰り返しだ。残り2周で集団は約40名に絞られる。
ラスト1周。登り頂上で絞られたのは7人。小石祐馬(NIPPOヴィーニファンティーニ)、西薗良太、初山翔(ブリヂストンアンカー)、土井雪広(マトリックス・パワータグ)、木村圭佑(シマノレーシング)、増田成幸(宇都宮ブリッツェン)。
下りを利用して遅れた選手たちが合流し、先頭集団は11人に。下りきってラスト7kmの空港脇で攻撃の火蓋を切ったのは木村圭佑(シマノレーシング)。空港沿いの平坦路でアタックし、間髪入れずに初山翔が反応、2人が飛び出す形となった。
少し遅れて追走に入ったのは石橋学(NIPPOヴィーニファンティーニ)。その背後に単独で抜け出し追いついた西薗良太(チームブリヂストン・アンカー)がぴたりとつける。前に初山が逃げているため引く必要の無い西薗は、前の2人との距離が縮まったタイミングで石橋を置き去りにして一気にブリッヂをかけて合流。初山、西薗、木村の3人の逃げグループが形成された。アンカー2対シマノ1。
単独で前を追う宙ぶらりん状態に陥った石橋を挟み、後方のメイン集団から追走するのは増田成幸、伊藤雅和(愛三工業レーシング)、吉岡直哉(那須ブラーゼン)、土井雪広(マトリックス・パワータグ)の4人。しかし前との差を縮めることはできず、やがてメイン集団に吸収される。
逃げ切りを決めた3人によるスプリント。まず西薗がアタックを仕掛け、木村が追う。後方に控えた初山が木村を一気に交わすと西薗に並ぶ。後はアンカー2人によるスプリント勝負だ。鮮やかな伸びを見せた初山をガッツポーズで祝福する西薗。ふたりが両手を挙げるワン・ツーフィニッシュは、初山が最初にラインを駆け抜けた。
初山にとって初の日本王者のタイトル。ブリヂストンアンカーとしては西薗の個人TTと併せ2冠だが、ロードのタイトルとしては2004年の全日本選手権における田代恭崇の勝利からじつに12年ぶりの勝利となった。
優勝した初山翔のコメント
「(全日本選手権の優勝について) 今まで清水都貴さんのような偉大な、いつ全日本チャンピオンになってもおかしくないような選手の元で走ってきて、ナショナル選手権のプレッシャーを都貴さんが受けて走っているのを感じていた。そういうレースだというのを自分もわかっていたので、今日のスタート前もすごく緊張していた。
優勝という最高の結果を手にした今もその実感が湧いていなくて。でもチームメイトやスタッフが号泣して喜んでくれたので『あ、勝ったんだ』と言う感じ。
(チームとしての作戦、どう勝利へ結びついたか) 最初は内間選手の独走優勝が第一目標だったのだが、序盤に彼が落車してしまったので、そうしたら残った選手で戦おうと。ただ幸いなことに僕らはチーム力に厚みがあって、勝てる選手がたくさんいた。焦ることなく、スプリントに強い鈴木龍選手と、独走力に強い西薗選手と、小集団のスプリントなら僕も、といった3人を前に残すことができた。井上選手には集団の牽引をしてもらったりと、1人も惜しむことなく、チームの全員を使ってこのワンツーという結果を得ることが出来た。
(展開は?) 残り3周までは井上選手と椿選手に集団を牽引してもらってペースで行って。残り3周回からは西薗選手を中心に一気にペースを上げて、周回の度に上りで5、6人の先頭集団に絞られて、また下りで追いつかれて、という繰り返し。チームとしてはマークを外してはいけない選手は絶対に外さないようにしていた。
(最終周回について) ラストを上りきったところでまた5、6人になって、下りきったところで木村選手がアタックしたので、僕がそれをチェックして2人でローテーションしていたら西薗選手が追いついてきてくれた。あとは海岸線を3人でローテして、最後はスプリントです。
最後の局面でも西薗さんとは特に話はしていなくて、なんとなくこの3人のスプリントになったら僕が一番強いと思っていた。先頭が西薗さん、2番手に木村選手、3番手に自分という並びで500mまで入って、150mくらいから木村選手がかけた。最後は西薗選手とガチのスプリントになったが、譲ることなく全力で行きました。勝利の確信は残り50mくらい。
(3人になった時点でアンカーで勝てると考えたか?) これでポカしたら恥ずかしいというのはあった。僕も残り1周の段階で足を少し攣っていて不安材料があった。でも普通にスプリントしたら負けることはないという自信もあった。
(ラスト7kmで木村選手のアタックに反応したが?) ゴールまでは長かったですね。そこで無理して踏まず、脚もフレッシュなわけではないので、ペースでローテしていった。大きかったのは西薗選手が1人で追いついてきてくれたこと。3人でローテーションすることで脚のリカバリーの時間が増えて、回復してスプリントすることが出来た。西薗さんは他に誰も連れて来ずに1人で追いついてくれたというのが本当にファインプレーだった。
(ライバルと考えていたのは?) NIPPOの選手は普段一緒に走らないので恐怖を感じていた。他にマトリックスの土井選手、佐野選手、ブリッツェンの増田選手、スプリントなら畑中選手…と、名前を挙げたらキリがないけれど、僕らが後手を踏まないように、と。アンカーは他チームから見られていたので、僕らが乗っていない逃げが行ったら「はいアンカーさん引いてください」となってしまうので、それがないように、ということは徹底しました。
(アンカーにとって12年ぶりの優勝について) 12年前のことはさすがにわからないのですが、都貴さんがいつ勝ってもおかしくないのに勝てなかったというのは、やはり実力だけでなくて、ナショナル選手権には『特別な何か』があると感じていた。そういう重みのある選手権に勝ったというのはすごいことだと思う。ただ、そのすごさをまだ実感出来ていない。チャンピオンジャージを着ていると目立つから、今後は『日本のチャンピオンって弱いな』と思われないように走りたい。
(今後の目標は?) 直近の目標に到達してしまったので、どうしよう?という感じですが、まだUCIレースがあるし、僕らが目標としているツール・ド・北海道やジャパンカップもあり、欧州遠征も予定している。今季前半のように苦しいレースを強いられながらも着実に進んできたことで結果がついてきたと思うので、今後もそれを続けていきたい。
(レース後半の厳しい展開で残れた。自分の成長については?) TOJなどの厳しいステージでは日本人の中で常に上位でゴール出来ていたので、ナショナル選手権は自分がレースを動かさないといけないと考えていた。かつて2013年の全日本選手権の厳しいレースで、都貴さんのアシストをしながらも6位に入れたので、そのあたりから自分はそういう立場の選手だという自覚を持った。
(自分が勝つことを意識したのは?) 都貴さんが引退したタイミング。いろんな事を教えてくれて、『もう任せて大丈夫だ』と笑顔で引退していったので、それが印象的で個人としてもプレッシャーを感じていた。偉大な人です。
(西薗選手と仲がいいと聞いたが?) フランスに行く時など、遠征の時にはいつも相部屋なのでその関係で。
(西薗のTTの勝ちは刺激になったか?) 西薗選手が嬉し泣きしている写真を見て、僕も嬉し泣きしたいな、と思ったし、勢いがついたというのはある。この勝利は地元の人など、僕が弱い時から応援してきてくれた人に報告したい。」
3位の木村圭佑(シマノレーシング)のコメント
チームから勝者が出ればいいと思って走っていた。僕らもまとまってはいたけど、それ以上にアンカーがうまくまとまっていたのが敗因。最後の上りでバラけて、7名になって、僕のアタックで初山さんと二人になって。
アンカーの二人と一緒に3人になってからは、僕もまずは逃げ切りたかったので協力して先頭を引きました。最後のスプリントのための脚は溜めることができなかった。
3位は思いっきり攻めて走った結果なので満足しています。表彰台に登れたのは僕にとって進歩。次は自分が全日本チャンピオンになるように頑張りたい。自分らしいレースができた。
今日は大人数の逃げができたらそれにしっかり乗れるように走ろうと思っていました。2人の逃げが捕まったラスト3周からは自分から攻撃しようと思っていました。西薗選手が攻撃をはじめて、それに反応することができた。そしてラスト2周は自分が攻撃して人数を減らそうと考えていました。ラスト1周は全選手のもがきあいに。空港脇で後ろの集団も来ていたので、そのタイミングで僕がアタックしたんです。
このコースは得意とはいえないけど、チームでしっかりレースをしたいという気持ちでレースを走りました。
土井雪広(マトリックス・パワータグ)のコメント
もし登り切ってゴールだったら勝てたんだけど、やっぱり難しかった。アンカーはうまくまとまっていました。クライマー系の選手しか残らなかった。悔しいけどこれ以上は無理だった。佐野さんはいい仕事してくれたが、最後は力勝負だった。
メイン集団を終始コントロールした井上和郎(ブリヂストンアンカー)
内間がリタイアしてからは『初山に託すしか無い。僕と椿でなんとかするしかないな』と思っていました。逃げとの差を1分まで詰めて、初山にとって厳しい展開にならないように1分差にとどめていたら西薗がいきなりアタックを始めたので僕は面食らってしまったんです。先頭でどうしようか迷っていた時だったのでで(笑)。
向かい風でペースがあがらなかったときにも集団のコントロールと割りきって、僕と椿が集団をコントロール。西薗と初山は勝負を挑むという役割分担に徹したのが良かったです。
全日本選手権ロードレース 男子エリート TOP10リザルト
1位 初山翔(チームブリヂストン・アンカー) 4h14'57
2位 西薗良太(チームブリヂストン・アンカー)
3位 木村圭佑(シマノレーシング) +00'02
4位 石橋学(NIPPOヴィーニファンティーニ) +00'42
5位 増田成幸(宇都宮ブリッツェン) +00'43
6位 鈴木龍(チームブリヂストン・アンカー)
7位 野中竜馬(キナンサイクリングチーム) +00'44
8位 平井栄一(チーム右京)
9位 土井雪広(マトリックスパワータグ)
10位 山下貴宏(シエルヴォ奈良MIYATA-MERIDA)
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