2016/06/09(木) - 08:09
後方から迫り来るスプリンターたちを確認し、両手を挙げたファビオ・アル(イタリア、アスタナ)。ツール・ド・フランスへの初参戦を表明しているイタリアの25歳が劇的な独走逃げ切り勝利を達成した。
2016年1月1日にオーヴェルニュ地域圏とローヌ=アルプ地域圏の統合によって誕生したオーヴェルニュ=ローヌ=アルプ地域圏の山岳地帯を走るクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ第3ステージ。終盤まで比較的穏やかなアップダウンが続くものの、残り21km地点に2級山岳セシェラ(2.9km/平均8.2%)が登場する。急勾配区間を含むこの登りとフィニッシュに至るハイスピードダウンヒルが勝負を分けた。
オランダチャンピオンのニキ・テルプストラ(オランダ、エティックス・クイックステップ)とトーマス・デヘント(ベルギー、ロット・ソウダル)、ディミトリ・クレイス(ベルギー、ワンティ・グループグベルト)の3名がこの日の逃げ。追い風に乗って46km/hオーバーで最初の1時間を走り抜けたエスケープトリオは最大で6分のリードを稼ぎ出すことに成功する。
スプリンターが2級山岳セシェラを越えることができると踏んだジャイアント・アルペシンとカチューシャ、コフィディスが集団を牽引。タイム差が2分にまで縮まるとシリル・ゴティエ(フランス、AG2Rラモンディアール)とペリグ・ケムヌール(フランス、ディレクトエネルジー)がカウンターアタックを仕掛け、約11kmにわたる追走の末に先頭3名に追いついた。
しかし平坦区間でリードを失った逃げグループは2級山岳セシェラを前に吸収される。総合系チームとスプリンターチームが熾烈なポジションを繰り広げながら2級山岳セシェラの登坂がスタート。169名の集団が約半分にまで絞り込まれるこの登りでトニ・マルティン(ドイツ、エティックス・クイックステップ)が単独で飛び出した。
独走に持ち込んだマルティンはそのまま2級山岳セシェラを先頭通過する。後方ではカウンターアタックがかかり続け、先に飛び出したツガブ・グルメイ(エチオピア、ランプレ・メリダ)とピエール・ロラン(フランス、キャノンデール)にアルやアダム・イェーツ(イギリス、オリカ・グリーンエッジ)、ミケル・ランダ(スペイン、チームスカイ)が合流。メイン集団を抜け出した8名の追走グループは頂上通過後にマルティンを捉えた。
しかし人数の多さから先頭9名のローテーションは回らず、後方からスプリンターを残したメイン集団が挽回。すると残り12km地点でアルが諦めずにアタックし、単独で約90名の集団に勝負を挑んだ。
初日の山岳タイムトライアルでコンタドールから1分08秒遅れ、さらに第2ステージで19秒のタイムを失って総合32位に沈んでいたアルが独走。曲がりくねったワインディングと、ペダリングが意味をなさないほどのハイスピードなダウンヒルが独走者に味方した。
下り区間でむしろリードを広げたアルが15秒ほど先行してトゥルノン=シュル=ローヌのフィニッシュに向かう。振り返るとそこには常にスプリンターチーム率いるメイン集団の姿が。懸命に踏んでは振り返る所作を繰り返したアルが最終ストレートでようやく勝利を確信する。トップスピードで突っ込むアレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ)らを2秒差で振り切って、アルが独走のままフィニッシュに飛び込んだ。
今シーズン初勝利を飾ったアスタナ第2のグランツールレーサーは「コースプロフィールの見た目よりもずっとハードな1日だった。独走に持ち込んでからは全力で踏み続けることだけを考えた。逃げ切れるとは最後の最後まで思っていなかったよ」と僅差の逃げ切りを振り返る。
2015年のブエルタ・ア・エスパーニャで総合優勝を飾り、今年ツール・ド・フランスに初出場するアルは「シーズン最大の目標であるツールに最高の状態で挑めるように調整を続けている。ツールの調整レースであるドーフィネで結果を残すことができて満足だ。初出場のツールにはしっかりと地に足をつけて挑みたい。アスタナはヴィンチェンツォ・ニーバリと僕のダブルエース体制で挑む。そのことに関して心配する声もあるけど、彼が他のチームのライバルになるよりもずっと良いよ」とコメントしている。
マイヨジョーヌを着るアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ)は残り4km地点でパンクに見舞われたものの、ロマン・クロイツィゲル(チェコ)からバイクを受け取って再スタート。タイムを失うことなくライバルたちと同集団でフィニッシュしている。「悪いタイミングでパンクに見舞われた。リアタイヤがフレームに接触して、そのまま走り続けることが困難となった。幸いロマン・クロイツィゲルがすぐ後ろに走っていたので、彼のバイクを借りて再スタート。サイズが大きくてペダリングしにくかったものの、残り4kmだったのでそのまま走り、チームメイトの力を借りて集団に復帰した。パニックにはならなかったし、迅速な判断でタイムロスを防ぐことができた」。
また、ツールでライバルとなるアルについてコンタドールは「今日の彼の走りはインプレッシブで、ツールの優勝候補であることを見せつけた。今日のようなステージで逃げ切るのは容易ではない。自転車界は彼のような選手を必要としている」と評価している。
別府史之(トレック・セガフレード)は8分37秒遅れの集団でフィニッシュ。レース後に「今日のステージは最後の登り(2級山岳セシェラ)の前で総合上位のヘシャダルがパンクしてしまい、彼を待って集団に引き上げる仕事をして終了」とツイートしている。タイムを失うことなくフィニッシュしたライダー・ヘシェダル(カナダ)は総合11位につけている。
選手コメントはレース公式サイトより。
クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2016第3ステージ結果
1位 ファビオ・アル(イタリア、アスタナ) 4h19’54”
2位 アレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ) +02”
3位 ニッコーロ・ボニファツィオ(イタリア、トレック・セガフレード)
4位 ジュリアン・アラフィリップ(フランス、エティックス・クイックステップ)
5位 エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、ディメンションデータ)
6位 サム・ベネット(アイルランド、ボーラ・アルゴン18)
7位 ダリル・インピー(南アフリカ、オリカ・グリーンエッジ)
8位 ナセル・ブアニ(フランス、コフィディス)
9位 エンリーコ・ガスパロット(イタリア、ワンティ・グループグベルト)
10位 アルテュール・ヴィショ(フランス、FDJ)
132位 別府史之(日本、トレック・セガフレード) +8’37”
個人総合成績
1位 アルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ) 13h13’10”
2位 リッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシング) +06”
3位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ) +13”
4位 ダニエル・マーティン(アイルランド、エティックス・クイックステップ) +21”
5位 ジュリアン・アラフィリップ(フランス、エティックス・クイックステップ) +24”
6位 ヘスス・ヘラーダ(スペイン、モビスター) +27”
7位 アダム・イェーツ(イギリス、オリカ・グリーンエッジ) +31”
8位 ディエゴ・ローザ(イタリア、アスタナ) +37”
9位 ダニエル・ナバーロ(スペイン、コフィディス) +43”
10位 バウク・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード) +48”
ポイント賞
1位 ナセル・ブアニ(フランス、コフィディス)
山岳賞
1位 アルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ)
ヤングライダー賞
1位 ジュリアン・アラフィリップ(フランス、エティックス・クイックステップ)
チーム総合成績
1位 チームスカイ
text:Kei Tsuji
photo:Tim de Waele
2016年1月1日にオーヴェルニュ地域圏とローヌ=アルプ地域圏の統合によって誕生したオーヴェルニュ=ローヌ=アルプ地域圏の山岳地帯を走るクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ第3ステージ。終盤まで比較的穏やかなアップダウンが続くものの、残り21km地点に2級山岳セシェラ(2.9km/平均8.2%)が登場する。急勾配区間を含むこの登りとフィニッシュに至るハイスピードダウンヒルが勝負を分けた。
オランダチャンピオンのニキ・テルプストラ(オランダ、エティックス・クイックステップ)とトーマス・デヘント(ベルギー、ロット・ソウダル)、ディミトリ・クレイス(ベルギー、ワンティ・グループグベルト)の3名がこの日の逃げ。追い風に乗って46km/hオーバーで最初の1時間を走り抜けたエスケープトリオは最大で6分のリードを稼ぎ出すことに成功する。
スプリンターが2級山岳セシェラを越えることができると踏んだジャイアント・アルペシンとカチューシャ、コフィディスが集団を牽引。タイム差が2分にまで縮まるとシリル・ゴティエ(フランス、AG2Rラモンディアール)とペリグ・ケムヌール(フランス、ディレクトエネルジー)がカウンターアタックを仕掛け、約11kmにわたる追走の末に先頭3名に追いついた。
しかし平坦区間でリードを失った逃げグループは2級山岳セシェラを前に吸収される。総合系チームとスプリンターチームが熾烈なポジションを繰り広げながら2級山岳セシェラの登坂がスタート。169名の集団が約半分にまで絞り込まれるこの登りでトニ・マルティン(ドイツ、エティックス・クイックステップ)が単独で飛び出した。
独走に持ち込んだマルティンはそのまま2級山岳セシェラを先頭通過する。後方ではカウンターアタックがかかり続け、先に飛び出したツガブ・グルメイ(エチオピア、ランプレ・メリダ)とピエール・ロラン(フランス、キャノンデール)にアルやアダム・イェーツ(イギリス、オリカ・グリーンエッジ)、ミケル・ランダ(スペイン、チームスカイ)が合流。メイン集団を抜け出した8名の追走グループは頂上通過後にマルティンを捉えた。
しかし人数の多さから先頭9名のローテーションは回らず、後方からスプリンターを残したメイン集団が挽回。すると残り12km地点でアルが諦めずにアタックし、単独で約90名の集団に勝負を挑んだ。
初日の山岳タイムトライアルでコンタドールから1分08秒遅れ、さらに第2ステージで19秒のタイムを失って総合32位に沈んでいたアルが独走。曲がりくねったワインディングと、ペダリングが意味をなさないほどのハイスピードなダウンヒルが独走者に味方した。
下り区間でむしろリードを広げたアルが15秒ほど先行してトゥルノン=シュル=ローヌのフィニッシュに向かう。振り返るとそこには常にスプリンターチーム率いるメイン集団の姿が。懸命に踏んでは振り返る所作を繰り返したアルが最終ストレートでようやく勝利を確信する。トップスピードで突っ込むアレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ)らを2秒差で振り切って、アルが独走のままフィニッシュに飛び込んだ。
今シーズン初勝利を飾ったアスタナ第2のグランツールレーサーは「コースプロフィールの見た目よりもずっとハードな1日だった。独走に持ち込んでからは全力で踏み続けることだけを考えた。逃げ切れるとは最後の最後まで思っていなかったよ」と僅差の逃げ切りを振り返る。
2015年のブエルタ・ア・エスパーニャで総合優勝を飾り、今年ツール・ド・フランスに初出場するアルは「シーズン最大の目標であるツールに最高の状態で挑めるように調整を続けている。ツールの調整レースであるドーフィネで結果を残すことができて満足だ。初出場のツールにはしっかりと地に足をつけて挑みたい。アスタナはヴィンチェンツォ・ニーバリと僕のダブルエース体制で挑む。そのことに関して心配する声もあるけど、彼が他のチームのライバルになるよりもずっと良いよ」とコメントしている。
マイヨジョーヌを着るアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ)は残り4km地点でパンクに見舞われたものの、ロマン・クロイツィゲル(チェコ)からバイクを受け取って再スタート。タイムを失うことなくライバルたちと同集団でフィニッシュしている。「悪いタイミングでパンクに見舞われた。リアタイヤがフレームに接触して、そのまま走り続けることが困難となった。幸いロマン・クロイツィゲルがすぐ後ろに走っていたので、彼のバイクを借りて再スタート。サイズが大きくてペダリングしにくかったものの、残り4kmだったのでそのまま走り、チームメイトの力を借りて集団に復帰した。パニックにはならなかったし、迅速な判断でタイムロスを防ぐことができた」。
また、ツールでライバルとなるアルについてコンタドールは「今日の彼の走りはインプレッシブで、ツールの優勝候補であることを見せつけた。今日のようなステージで逃げ切るのは容易ではない。自転車界は彼のような選手を必要としている」と評価している。
別府史之(トレック・セガフレード)は8分37秒遅れの集団でフィニッシュ。レース後に「今日のステージは最後の登り(2級山岳セシェラ)の前で総合上位のヘシャダルがパンクしてしまい、彼を待って集団に引き上げる仕事をして終了」とツイートしている。タイムを失うことなくフィニッシュしたライダー・ヘシェダル(カナダ)は総合11位につけている。
選手コメントはレース公式サイトより。
クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2016第3ステージ結果
1位 ファビオ・アル(イタリア、アスタナ) 4h19’54”
2位 アレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ) +02”
3位 ニッコーロ・ボニファツィオ(イタリア、トレック・セガフレード)
4位 ジュリアン・アラフィリップ(フランス、エティックス・クイックステップ)
5位 エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、ディメンションデータ)
6位 サム・ベネット(アイルランド、ボーラ・アルゴン18)
7位 ダリル・インピー(南アフリカ、オリカ・グリーンエッジ)
8位 ナセル・ブアニ(フランス、コフィディス)
9位 エンリーコ・ガスパロット(イタリア、ワンティ・グループグベルト)
10位 アルテュール・ヴィショ(フランス、FDJ)
132位 別府史之(日本、トレック・セガフレード) +8’37”
個人総合成績
1位 アルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ) 13h13’10”
2位 リッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシング) +06”
3位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ) +13”
4位 ダニエル・マーティン(アイルランド、エティックス・クイックステップ) +21”
5位 ジュリアン・アラフィリップ(フランス、エティックス・クイックステップ) +24”
6位 ヘスス・ヘラーダ(スペイン、モビスター) +27”
7位 アダム・イェーツ(イギリス、オリカ・グリーンエッジ) +31”
8位 ディエゴ・ローザ(イタリア、アスタナ) +37”
9位 ダニエル・ナバーロ(スペイン、コフィディス) +43”
10位 バウク・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード) +48”
ポイント賞
1位 ナセル・ブアニ(フランス、コフィディス)
山岳賞
1位 アルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ)
ヤングライダー賞
1位 ジュリアン・アラフィリップ(フランス、エティックス・クイックステップ)
チーム総合成績
1位 チームスカイ
text:Kei Tsuji
photo:Tim de Waele
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