2016/05/28(土) - 15:55
「狼」の入国を禁止したフランスで「鮫」がアタックした。イタリアの期待を背負うニーバリの復活によってマリアローザ争いは最後まで行方が分からない混戦に。酸素濃度70%という標高2744mのチーマコッピを越えたジロ第19ステージの現地レポート。
真っ白なアニェッロ峠を進むクルイスウィク、チャベス、ニーバリ photo:Kei Tsuji
W IL GIRO! photo:Kei Tsuji
イタリアのポリツィアからフランスのジャンダルマリーにバトンタッチ photo:Kei Tsuji
「チーマコッピ」のアニェッロ峠はヨーロッパ有数の標高を誇る峠だ。イタリア語ではコッレ・デッラニェッロ、フランス語ではコル・アニェル。舗装された道としては他にもっと高い地点が存在するが、峠として機能している道としてはイズラン峠とステルヴィオ峠に次いで3番目。迂回する高速道路が作られている現代では他の峠と同様に「交通の要」にはなっておらず、道は細くて路面は比較的荒れている。
ヨーロッパの峠ランキング
1位 2770m イズラン峠(フランス)
2位 2758m ステルヴィオ峠(イタリア)
3位 2744m アニェッロ峠(フランス/イタリア)
4位 2715m ボネット峠(フランス)※第20ステージで通過
5位 2678m レステフォン峠(フランス)
6位 2621m ガリビエ峠(フランス)
7位 2621m ガヴィア峠(イタリア)
8位 2509m ロンボ峠(オーストリア/イタリア)
9位 2504m ホーホトール峠(オーストリア)
番外 3300m シエラネバダ・ベレタ(スペイン)
番外 2830m エッツタール氷河道路(オーストリア)
番外 2802m シーム・ド・ラ・ボネット(フランス)ボネット峠の先にある舗装路
ジロには2007年で初登場し、当時ブリアンソンにフィニッシュする第12ステージでヨアン・ルブランジェ(フランス)が先頭で頂上を通過している。ツール・ド・フランスには2008年と2011年に登場。それぞれマキシム・イグリンスキー(カザフスタン)とエゴイ・マルティネス(スペイン)が先頭通過した。
標高2744mというと、乗鞍エコーラインの終点(標高2716m)よりも高い。酸素濃度は平地の約70%ほどしかなく、気温も10度を下回る。公式の登坂区間は21.3kmだが、実際には頂上の50km以上手前から登っている。しかも頂上に向かうにつれて勾配が増していくのが特徴で、頂上まで残り5kmを切ってから体感的に15%近い勾配が続く。急勾配と酸素の薄さによってアマチュアサイクリストの半数はバイクを押して登っていた。
頂上付近が深い霧に覆われたため視界が30mまで落ちた。仮にスッキリ晴れていれば登りの中腹から頂上の位置を確認できたはずだが、進めども進めども延々と霧が晴れないので終わりが見えない。トップ選手の通過時には、上空をヘリコプターが旋回した影響か、少しだけ霧が晴れた。しかしヘリコプターの音が去るとまた真っ白な世界に戻る。
グルペットの選手たちは青白い顔をしながらもタイムオーバーと戦い、頂上近くで待ち構えていたチームスタッフからジャケットを受け取る、もしくは観客から受け取ったガゼッタ紙をお腹に入れて下っていった。
深い霧に覆われたアニェッロ峠を進む photo:Kei Tsuji
観客からガゼッタ紙を受け取って内容をチェック(ではなくお腹に入れる) photo:Kei Tsuji
さりげなくピースするアダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・ソウダル) photo:Kei Tsuji
大会マスコットであるルーポ・ウルフィーはその名の通り狼のキャラクターである。ルーポがイタリア語で、ウルフィーが英語なので直訳すると狼・狼という二重の意味になるのはこの際置いておく。2015年にジルベッコからバトンタッチしたキャラクターで、大会のオフィシャル販売車では1体15ユーロで販売中。チーム成績の表彰では人数分が選手に渡される。
そんなルーポ・ウォルフィーはフランスへの入国禁止を食らった。これは冗談ではなく真面目な話。野生の狼によって深刻な被害を受けている羊の畜産家が「狼をモチーフにしたマスコットの使用は我々への純粋な挑発」と声をあげたことにより、ルーポ・ウォルフィーのフランス入国は見送られた。
1930年にフランス国内の狼は絶滅したものの、1990年代に入ってイタリアから「不法入国」した数頭が繁殖し、今では300頭まで数を増やしているという。狼の被害に遭う羊の数は年間3000頭あまり。そんなこんなで、ルーポ・ウォルフィーの着ぐるみはフランスで表に出ていないし、マスコットは販売されていない。
大会マスコットのルーポ・ウルフィー photo:Kei Tsuji
ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)の復活にイタリアは歓喜した。これまで不調の様々な原因を屈辱的に書かれ、リタイアの可能性も騒がれた「メッシーナの鮫」がマリアローザ争いに戻ってきた。得意とする標高の高いアルプスで復活を遂げた。
フィニッシュ後に涙を見せたニーバリ。身体的にも精神的にも追い込まれていたに違いない。レース後の記者会見では今大会最も柔らかい表情を見せ、声や言葉もどこか丸みを帯びていた。
続いて、いつもニコニコしているエステバン・チャベス(コロンビア、オリカ・グリーンエッジ)がマリアローザを着て記者会見場にやってきた。2015年ブエルタ・ア・エスパーニャでのマイヨロホ(5日間)に続くグランツールでのリーダージャージ着用。オリカ・グリーンエッジがグランツールの最終週にリーダージャージを獲得するのはこれが初めて。
スペイン語混じりのイタリア語でジャーナリストたちの質問に答えるチャベス。ニーバリのダウンヒルについては、「適切なイタリア語じゃないかもしれないけど」と前置きして「マット(クレイジー)」だったと笑った。
チャベスとニーバリの総合タイム差は44秒。この日の1級山岳リスルで両者の間には53秒のタイム差がついた。つまり第20ステージでニーバリがチャベスを同じだけ引き放せば総合逆転が起こる。苦手な標高の高いステージでポジションを落としたアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)は総合3位から総合4位にダウンした。
アニェッロ峠の頂上通過後に補給を取ろうとしてハンドル操作を誤り、雪壁に衝突したステフェン・クルイスウィク(オランダ、ロットNLユンボ)はこの日だけで4分54秒遅れた。総合3位に踏みとどまったものの、ブリアンソンの病院での検査の結果、肋骨にヒビが見つかった。歩くのもままならない状態にもかかわらずフィニッシュまで戦い抜いた。
仮に第20ステージをスタートしても好調ニーバリと互角に戦うのは難しいだろう。下りでの一瞬の判断ミスで、マリアローザが手から離れていった。ニーバリの「マット」なダウンヒルがクルイスウィクの落車を誘発したとも言える。登りでも下りでも、最も強いのはニーバリだった。
個人総合成績
1位 エステバン・チャベス(コロンビア、オリカ・グリーンエッジ) 78h14’20”
2位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ) +44”
3位 ステフェン・クルイスウィク(オランダ、ロットNLユンボ) +1’05”
4位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) +1’48”
先頭から20分遅れでアニェッロ峠に差し掛かる山本元喜(NIPPOヴィーニファンティーニ) photo:Kei Tsuji
フランスのオート=アルプ県にジロは入る photo:Kei Tsuji
フィニッシュ後、顔を覆うステフェン・クルイスウィク(オランダ、ロットNLユンボ) photo:Kei Tsuji
この日はキャノンデール、ディメンションデータ、FDJ、ジャイアント・アルペシン、ロットNLユンボ、ウィリエール・サウスイースト、ガスプロム・ルスヴェロ、NIPPOヴィーニファンティーニがフィニッシュ地点リスルに宿泊。その他のチームは1級山岳下山後さらに1時間ほど走った遠くのホテルに散らばった。
酷なことに、フィニッシュラインから上記チームの宿泊ホテルまでは1km近くをさらに登らなければならない。グルペットでアルプス山岳初日を終えた山本元喜(NIPPOヴィーニファンティーニ)はロットNLユンボの補給用チームバンの窓につかまらせてもらい、エスカレーターのようにホテルに戻っていく。
前日の逃げの影響が心配されたが、グルペットの前方でアニェッロ峠をクリアしており、「登りも厳しかったものの、逃げが決まるまでの序盤のハイスピードな状態が一番きつかった」と笑うフィニッシュ後の表情には張りがある。日を追うごとに山本元喜の顔が精悍になっている気がするのは自分だけではないはずだ。
text&photo:Kei Tsuji in Risoul, France
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「チーマコッピ」のアニェッロ峠はヨーロッパ有数の標高を誇る峠だ。イタリア語ではコッレ・デッラニェッロ、フランス語ではコル・アニェル。舗装された道としては他にもっと高い地点が存在するが、峠として機能している道としてはイズラン峠とステルヴィオ峠に次いで3番目。迂回する高速道路が作られている現代では他の峠と同様に「交通の要」にはなっておらず、道は細くて路面は比較的荒れている。
ヨーロッパの峠ランキング
1位 2770m イズラン峠(フランス)
2位 2758m ステルヴィオ峠(イタリア)
3位 2744m アニェッロ峠(フランス/イタリア)
4位 2715m ボネット峠(フランス)※第20ステージで通過
5位 2678m レステフォン峠(フランス)
6位 2621m ガリビエ峠(フランス)
7位 2621m ガヴィア峠(イタリア)
8位 2509m ロンボ峠(オーストリア/イタリア)
9位 2504m ホーホトール峠(オーストリア)
番外 3300m シエラネバダ・ベレタ(スペイン)
番外 2830m エッツタール氷河道路(オーストリア)
番外 2802m シーム・ド・ラ・ボネット(フランス)ボネット峠の先にある舗装路
ジロには2007年で初登場し、当時ブリアンソンにフィニッシュする第12ステージでヨアン・ルブランジェ(フランス)が先頭で頂上を通過している。ツール・ド・フランスには2008年と2011年に登場。それぞれマキシム・イグリンスキー(カザフスタン)とエゴイ・マルティネス(スペイン)が先頭通過した。
標高2744mというと、乗鞍エコーラインの終点(標高2716m)よりも高い。酸素濃度は平地の約70%ほどしかなく、気温も10度を下回る。公式の登坂区間は21.3kmだが、実際には頂上の50km以上手前から登っている。しかも頂上に向かうにつれて勾配が増していくのが特徴で、頂上まで残り5kmを切ってから体感的に15%近い勾配が続く。急勾配と酸素の薄さによってアマチュアサイクリストの半数はバイクを押して登っていた。
頂上付近が深い霧に覆われたため視界が30mまで落ちた。仮にスッキリ晴れていれば登りの中腹から頂上の位置を確認できたはずだが、進めども進めども延々と霧が晴れないので終わりが見えない。トップ選手の通過時には、上空をヘリコプターが旋回した影響か、少しだけ霧が晴れた。しかしヘリコプターの音が去るとまた真っ白な世界に戻る。
グルペットの選手たちは青白い顔をしながらもタイムオーバーと戦い、頂上近くで待ち構えていたチームスタッフからジャケットを受け取る、もしくは観客から受け取ったガゼッタ紙をお腹に入れて下っていった。
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大会マスコットであるルーポ・ウルフィーはその名の通り狼のキャラクターである。ルーポがイタリア語で、ウルフィーが英語なので直訳すると狼・狼という二重の意味になるのはこの際置いておく。2015年にジルベッコからバトンタッチしたキャラクターで、大会のオフィシャル販売車では1体15ユーロで販売中。チーム成績の表彰では人数分が選手に渡される。
そんなルーポ・ウォルフィーはフランスへの入国禁止を食らった。これは冗談ではなく真面目な話。野生の狼によって深刻な被害を受けている羊の畜産家が「狼をモチーフにしたマスコットの使用は我々への純粋な挑発」と声をあげたことにより、ルーポ・ウォルフィーのフランス入国は見送られた。
1930年にフランス国内の狼は絶滅したものの、1990年代に入ってイタリアから「不法入国」した数頭が繁殖し、今では300頭まで数を増やしているという。狼の被害に遭う羊の数は年間3000頭あまり。そんなこんなで、ルーポ・ウォルフィーの着ぐるみはフランスで表に出ていないし、マスコットは販売されていない。
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ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)の復活にイタリアは歓喜した。これまで不調の様々な原因を屈辱的に書かれ、リタイアの可能性も騒がれた「メッシーナの鮫」がマリアローザ争いに戻ってきた。得意とする標高の高いアルプスで復活を遂げた。
フィニッシュ後に涙を見せたニーバリ。身体的にも精神的にも追い込まれていたに違いない。レース後の記者会見では今大会最も柔らかい表情を見せ、声や言葉もどこか丸みを帯びていた。
続いて、いつもニコニコしているエステバン・チャベス(コロンビア、オリカ・グリーンエッジ)がマリアローザを着て記者会見場にやってきた。2015年ブエルタ・ア・エスパーニャでのマイヨロホ(5日間)に続くグランツールでのリーダージャージ着用。オリカ・グリーンエッジがグランツールの最終週にリーダージャージを獲得するのはこれが初めて。
スペイン語混じりのイタリア語でジャーナリストたちの質問に答えるチャベス。ニーバリのダウンヒルについては、「適切なイタリア語じゃないかもしれないけど」と前置きして「マット(クレイジー)」だったと笑った。
チャベスとニーバリの総合タイム差は44秒。この日の1級山岳リスルで両者の間には53秒のタイム差がついた。つまり第20ステージでニーバリがチャベスを同じだけ引き放せば総合逆転が起こる。苦手な標高の高いステージでポジションを落としたアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)は総合3位から総合4位にダウンした。
アニェッロ峠の頂上通過後に補給を取ろうとしてハンドル操作を誤り、雪壁に衝突したステフェン・クルイスウィク(オランダ、ロットNLユンボ)はこの日だけで4分54秒遅れた。総合3位に踏みとどまったものの、ブリアンソンの病院での検査の結果、肋骨にヒビが見つかった。歩くのもままならない状態にもかかわらずフィニッシュまで戦い抜いた。
仮に第20ステージをスタートしても好調ニーバリと互角に戦うのは難しいだろう。下りでの一瞬の判断ミスで、マリアローザが手から離れていった。ニーバリの「マット」なダウンヒルがクルイスウィクの落車を誘発したとも言える。登りでも下りでも、最も強いのはニーバリだった。
個人総合成績
1位 エステバン・チャベス(コロンビア、オリカ・グリーンエッジ) 78h14’20”
2位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ) +44”
3位 ステフェン・クルイスウィク(オランダ、ロットNLユンボ) +1’05”
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酷なことに、フィニッシュラインから上記チームの宿泊ホテルまでは1km近くをさらに登らなければならない。グルペットでアルプス山岳初日を終えた山本元喜(NIPPOヴィーニファンティーニ)はロットNLユンボの補給用チームバンの窓につかまらせてもらい、エスカレーターのようにホテルに戻っていく。
前日の逃げの影響が心配されたが、グルペットの前方でアニェッロ峠をクリアしており、「登りも厳しかったものの、逃げが決まるまでの序盤のハイスピードな状態が一番きつかった」と笑うフィニッシュ後の表情には張りがある。日を追うごとに山本元喜の顔が精悍になっている気がするのは自分だけではないはずだ。
text&photo:Kei Tsuji in Risoul, France
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