2016/02/01(月) - 17:51
波乱の展開が続いたシクロクロス世界選手権エリート男子。優勝候補ファンデルポールをアクシデントが襲う。終盤ファンデルハールとファンアールトのマッチレースとなり、21歳のファンアールトが新しい世界王者の座についた。
CX世界選2日目の大トリをつとめるエリート男子。小雨模様のゾルダー・サーキットには、コース周囲を埋め尽くす大観衆が詰めかけた。レインボージャージを争うレースはその期待通りスペクタクルなものになった。
ベルギーのゾルダー・サーキットに設定されたのは、かつてF1の走った舗装路と、周囲の丘と森林の地形を活かして設定された起伏に富むコース。午前のU23のレースで粘った林間の泥はやや締ったもののウェットで、激坂の上り下りとキャンバー走行、担ぎを強いられる区間のセレクションにより順当に強者が選別されていった。
ゾルダーを得意とし、担ぎ上げ区間でひときわ身軽なラルス・ファンデルハールがリードし、優勝候補筆頭のマテュー・ファンデルポールとのオランダ2強にマテューの兄デーヴィッドが加わる3人。そしてベルギーはワールドカップ総合勝者のワウト・ファンアールト、ローレンス・スウィーク、ケヴィン・パウエルス、トム・メーウセン、そしてこれが最後の世界選出場となるレジェンドのスヴェン・ネイスの5人が。オランダ3とベルギー5の8人によるリーディングパックを形成した。当初の予想通り、CX大国ベルギーとオランダによるバトルだ。
大きなミスをしたのがマテュー・ファンデルポールだ。ダブルキャンバーでスリップして失速、足を地面に着こうとした先には後ろにいたファンアールトの前輪があった。シューズがスポークの間に嵌り込んでしまい、外そうとする間に数秒の時間が流れた。2大優勝候補を襲ったアクシデント。
その隙に加速していたファンデルハールは前方を走るが、興奮した会場のベルギーファンからは大きなブーイングとビールが浴びせられた。いたるところでアルコールをかぶることになったファンデルハールはレース後、その時の心境を「もちろん愉快じゃないが、観客たちは僕を恐れていることが分かった」と笑った。
ファンデルポールとファンアールトは再び前を行くグループに合流しようとするが、集中力を欠くファンデルポールにミスが続く。一方のファンアールトは激坂上りで力強さを見せ、差を縮めて再び優勝争いに復帰した。
17秒の差をつけて独走でラスト2周に入ったファンデルハール。しかしファンアールトが追いつき、フィニッシュまでの息を呑む2人のマッチレースが開始された。
最終周回に入ってもお互い一歩も譲り合わない2人、ファンデルハールは卓越したバイクコントロールで、並走が危険な下りドロップオフでも無理なラインで被せこみ、先行する。
ギリギリの線で攻め続ける息を呑む展開が続いたが、決定的な差を生んだのは林間へと担ぎあげる激坂セクションだった。肩を並べてバイクに乗っていけるかを競り合うふたり。ペダリングが重いファンデルハールに、足を着いたファンアールト。バイクを担ぎ、小刻みなランで激坂を駆け上がるファンアールトが、最後のエネルギーを絞りだすような力走を見せた。
このとき、ファンデルハールは間違ってフロントをアウターギアに入れていたという。ミスを犯したファンデルハールを引き離すことに成功したファンアールト。
スプリントで勝ち目が無いことを知っていたからか、攻め続けたファンアールトが差をつけてホームストレートに降り立つと、会場のベルギーファンからは地が割れんばかりの声援が響いた。後方のオレンジジャージとの差を確認して自身を祝福しながらフィニッシュへと向かうファンアールト。ファンデルハールはうなだれてフィニッシュ。
今シーズンは年明けからファンデルポールに勝てないレースが続いていたファンアールト。この日のために行ったスペインでの合宿では短い急坂を攻略する練習を続け、この日に備えたことが功を奏したと話す。新たな21歳の若いチャンピオンが、その母国の地で誕生した。
U23のアルカンシェルを獲得したのは2年前のこと。昨年の世界選はU23をスキップしエリートに出場。1周めにチェーンを脱落させ、レースに復帰するも同じ21歳のファンデルポールの独走を許し、2位に終わった。今季はワールドカップの総合リーダーも獲得しているが、世界選手権エリートでの勝利は昨年のレースの不運と失意を忘れさせてくれる。
2人のフィニッシュから35秒後、3位までポジションを上げていたファンデルポールはスピードを緩め、パウエルスとネイスの先行を許した。ゾルダーに勝つために来た同じく21歳は、「3位争いをする自分に耐えられなかった」と言う。この日はスタートから調子が良くないことを感じていたという。
念願のアルカンシェルを着て感極まるファンアールトは言う。「ファンデルハールが簡単に勝てる相手じゃないことはわかっていた。ヨーロッパ選手権では負けているんだ。スペインでは短い急坂を攻略するためのハードなトレーニングを行ってきたのが良かった。
予想していなかった彼の下りでの攻撃には驚かされた。でも上りでまだチャンスがあると思っていた。激坂で乗っていこうとして足を着いてしまった時、『負けた』と思った。でも、まだ脚に力が残っていることが分かった。ここまで諦めるわけにいかない。最後まで諦めないと自分に言い聞かせて駆け上がった」。
失意のファンデルハールは言う。「最大のミスは、最後の上りでアウターにチェーンがかかっていたこと。重いな、と思って確認したら、なんと大きなチェーンリングに入っていたんだ。そこで力を使ってしまった。彼に勝てたかどうかは分からないけど、良いレースができたことに誇りに思うよ。でも、馬鹿げたミスだった。たぶん操作が十分でなかったんだろう。決定的なミスだ」。
小坂光54位 竹之内悠55位でともにー2周回・DNF扱い
日本の小坂光と竹之内悠はー2周回で小坂54位、竹之内55位で、DNF扱いとなった。小坂は良いスタートを切り、序盤は30番台で走った。竹之内は続いたケガの影響により精彩を欠いたが、コンスタントなペースでレースを続けた。降ろされることになった最終周では小坂が見える位置まで上げてきていた。それぞれのレース後のインタビューコメントを記す。
小坂 光「また完走できなかったが、ステップアップは実感できる」
「タイヤ選択が良かったので、スタートしてからすぐのコーナーで大外を回って順位を上げることができました。その勢いでパック(集団)で走れました。3周目ぐらいから一気に厳しくなり、小さなミスが出るようになってちょっとづつ遅れて行きました。
後半にかけてたれてしまったのがもったいなかったです。あと10分、あの勢いをキープできれば、間違いなく完走はできたと思います。ワールドカップでの失敗を今回にしっかり繋げられたのは良かった。完走できなかったとはいえ、前回の世界選に比べ、一段ステップを登ることはできました。
ミスしてもリカバリーできるパワー、スタミナを身につけなければ。今回のコースは踏む区間が多いので、より必要になりますね。満足はしていませんが、今のベストは尽くせたと思います」。
竹之内悠 「耐えるだけのレース。ケガが続き、その影響が出てしまった」
「今日は何もいいところがないレースでした。序盤からパックでも走れなかったので、スタートしてすぐに『耐えるレースになるな』ということが判りました。でも最後まで諦めず、コンスタントに走り続けました。
ホーヘルハイデ大会からのこの一週間、いい感じに組み立ててきたつもりだったんですが、怪我の影響もあって調子も上げきれていなかったです。前回のW杯のここゾルダー大会で転倒したときに負ったケガの影響が残っていて、今日の試走のときにも手の靭帯が痛みました。こちらで脚も痛めたりと、その回復をしながらの活動だったので、ベストを取り戻せていなかったですね。
3週間前のフランスでのW杯レースに出たにときに比べれば、これでも回復に向かっているんです。世界選手権を最高の調子で走れなかったことは残念です。世界に挑み続けていながら結果が全然出ないことに情けなくなりますが、こうして日本チームが来た時に協力してやっていけるのは嬉しい。これからも日本人の先頭を切ってやっていきたいと思います。まだ2月までシーズンが続くので、ここからまた調子を戻します。この後、シクロクロス東京のために日本に一時戻ります」。
男子エリート
1位 ワウト・ファンアールト(ベルギー) 1:05:52
2位 ラルス・ファンデルハール(オランダ) 0:00:05
3位 ケヴィン・パウエルス(ベルギー) 0:00:35
4位 スヴェン・ネイス(ベルギー) 0:00:39
5位 マテュー・ファンデルポール(オランダ)0:00:47
6位 デーヴィッド・ファンデルポール(オランダ)0:01:03
7位 ローレンス・スウィーク(ベルギー) 0:01:11
8位 トム・メーウセン(ベルギー)0:01:23
9位 ラドミール・シムネク(チェコ)0:01:37
10位 マルセル・マイセン(ドイツ) 0:01:43
54位 小坂光 -2 Laps
55位 竹之内悠 -2 Laps
photo&text : Makoto.AYANO in Huesden-Zolder, BELGIUM
CX世界選2日目の大トリをつとめるエリート男子。小雨模様のゾルダー・サーキットには、コース周囲を埋め尽くす大観衆が詰めかけた。レインボージャージを争うレースはその期待通りスペクタクルなものになった。
ベルギーのゾルダー・サーキットに設定されたのは、かつてF1の走った舗装路と、周囲の丘と森林の地形を活かして設定された起伏に富むコース。午前のU23のレースで粘った林間の泥はやや締ったもののウェットで、激坂の上り下りとキャンバー走行、担ぎを強いられる区間のセレクションにより順当に強者が選別されていった。
ゾルダーを得意とし、担ぎ上げ区間でひときわ身軽なラルス・ファンデルハールがリードし、優勝候補筆頭のマテュー・ファンデルポールとのオランダ2強にマテューの兄デーヴィッドが加わる3人。そしてベルギーはワールドカップ総合勝者のワウト・ファンアールト、ローレンス・スウィーク、ケヴィン・パウエルス、トム・メーウセン、そしてこれが最後の世界選出場となるレジェンドのスヴェン・ネイスの5人が。オランダ3とベルギー5の8人によるリーディングパックを形成した。当初の予想通り、CX大国ベルギーとオランダによるバトルだ。
大きなミスをしたのがマテュー・ファンデルポールだ。ダブルキャンバーでスリップして失速、足を地面に着こうとした先には後ろにいたファンアールトの前輪があった。シューズがスポークの間に嵌り込んでしまい、外そうとする間に数秒の時間が流れた。2大優勝候補を襲ったアクシデント。
その隙に加速していたファンデルハールは前方を走るが、興奮した会場のベルギーファンからは大きなブーイングとビールが浴びせられた。いたるところでアルコールをかぶることになったファンデルハールはレース後、その時の心境を「もちろん愉快じゃないが、観客たちは僕を恐れていることが分かった」と笑った。
ファンデルポールとファンアールトは再び前を行くグループに合流しようとするが、集中力を欠くファンデルポールにミスが続く。一方のファンアールトは激坂上りで力強さを見せ、差を縮めて再び優勝争いに復帰した。
17秒の差をつけて独走でラスト2周に入ったファンデルハール。しかしファンアールトが追いつき、フィニッシュまでの息を呑む2人のマッチレースが開始された。
最終周回に入ってもお互い一歩も譲り合わない2人、ファンデルハールは卓越したバイクコントロールで、並走が危険な下りドロップオフでも無理なラインで被せこみ、先行する。
ギリギリの線で攻め続ける息を呑む展開が続いたが、決定的な差を生んだのは林間へと担ぎあげる激坂セクションだった。肩を並べてバイクに乗っていけるかを競り合うふたり。ペダリングが重いファンデルハールに、足を着いたファンアールト。バイクを担ぎ、小刻みなランで激坂を駆け上がるファンアールトが、最後のエネルギーを絞りだすような力走を見せた。
このとき、ファンデルハールは間違ってフロントをアウターギアに入れていたという。ミスを犯したファンデルハールを引き離すことに成功したファンアールト。
スプリントで勝ち目が無いことを知っていたからか、攻め続けたファンアールトが差をつけてホームストレートに降り立つと、会場のベルギーファンからは地が割れんばかりの声援が響いた。後方のオレンジジャージとの差を確認して自身を祝福しながらフィニッシュへと向かうファンアールト。ファンデルハールはうなだれてフィニッシュ。
今シーズンは年明けからファンデルポールに勝てないレースが続いていたファンアールト。この日のために行ったスペインでの合宿では短い急坂を攻略する練習を続け、この日に備えたことが功を奏したと話す。新たな21歳の若いチャンピオンが、その母国の地で誕生した。
U23のアルカンシェルを獲得したのは2年前のこと。昨年の世界選はU23をスキップしエリートに出場。1周めにチェーンを脱落させ、レースに復帰するも同じ21歳のファンデルポールの独走を許し、2位に終わった。今季はワールドカップの総合リーダーも獲得しているが、世界選手権エリートでの勝利は昨年のレースの不運と失意を忘れさせてくれる。
2人のフィニッシュから35秒後、3位までポジションを上げていたファンデルポールはスピードを緩め、パウエルスとネイスの先行を許した。ゾルダーに勝つために来た同じく21歳は、「3位争いをする自分に耐えられなかった」と言う。この日はスタートから調子が良くないことを感じていたという。
念願のアルカンシェルを着て感極まるファンアールトは言う。「ファンデルハールが簡単に勝てる相手じゃないことはわかっていた。ヨーロッパ選手権では負けているんだ。スペインでは短い急坂を攻略するためのハードなトレーニングを行ってきたのが良かった。
予想していなかった彼の下りでの攻撃には驚かされた。でも上りでまだチャンスがあると思っていた。激坂で乗っていこうとして足を着いてしまった時、『負けた』と思った。でも、まだ脚に力が残っていることが分かった。ここまで諦めるわけにいかない。最後まで諦めないと自分に言い聞かせて駆け上がった」。
失意のファンデルハールは言う。「最大のミスは、最後の上りでアウターにチェーンがかかっていたこと。重いな、と思って確認したら、なんと大きなチェーンリングに入っていたんだ。そこで力を使ってしまった。彼に勝てたかどうかは分からないけど、良いレースができたことに誇りに思うよ。でも、馬鹿げたミスだった。たぶん操作が十分でなかったんだろう。決定的なミスだ」。
小坂光54位 竹之内悠55位でともにー2周回・DNF扱い
日本の小坂光と竹之内悠はー2周回で小坂54位、竹之内55位で、DNF扱いとなった。小坂は良いスタートを切り、序盤は30番台で走った。竹之内は続いたケガの影響により精彩を欠いたが、コンスタントなペースでレースを続けた。降ろされることになった最終周では小坂が見える位置まで上げてきていた。それぞれのレース後のインタビューコメントを記す。
小坂 光「また完走できなかったが、ステップアップは実感できる」
「タイヤ選択が良かったので、スタートしてからすぐのコーナーで大外を回って順位を上げることができました。その勢いでパック(集団)で走れました。3周目ぐらいから一気に厳しくなり、小さなミスが出るようになってちょっとづつ遅れて行きました。
後半にかけてたれてしまったのがもったいなかったです。あと10分、あの勢いをキープできれば、間違いなく完走はできたと思います。ワールドカップでの失敗を今回にしっかり繋げられたのは良かった。完走できなかったとはいえ、前回の世界選に比べ、一段ステップを登ることはできました。
ミスしてもリカバリーできるパワー、スタミナを身につけなければ。今回のコースは踏む区間が多いので、より必要になりますね。満足はしていませんが、今のベストは尽くせたと思います」。
竹之内悠 「耐えるだけのレース。ケガが続き、その影響が出てしまった」
「今日は何もいいところがないレースでした。序盤からパックでも走れなかったので、スタートしてすぐに『耐えるレースになるな』ということが判りました。でも最後まで諦めず、コンスタントに走り続けました。
ホーヘルハイデ大会からのこの一週間、いい感じに組み立ててきたつもりだったんですが、怪我の影響もあって調子も上げきれていなかったです。前回のW杯のここゾルダー大会で転倒したときに負ったケガの影響が残っていて、今日の試走のときにも手の靭帯が痛みました。こちらで脚も痛めたりと、その回復をしながらの活動だったので、ベストを取り戻せていなかったですね。
3週間前のフランスでのW杯レースに出たにときに比べれば、これでも回復に向かっているんです。世界選手権を最高の調子で走れなかったことは残念です。世界に挑み続けていながら結果が全然出ないことに情けなくなりますが、こうして日本チームが来た時に協力してやっていけるのは嬉しい。これからも日本人の先頭を切ってやっていきたいと思います。まだ2月までシーズンが続くので、ここからまた調子を戻します。この後、シクロクロス東京のために日本に一時戻ります」。
男子エリート
1位 ワウト・ファンアールト(ベルギー) 1:05:52
2位 ラルス・ファンデルハール(オランダ) 0:00:05
3位 ケヴィン・パウエルス(ベルギー) 0:00:35
4位 スヴェン・ネイス(ベルギー) 0:00:39
5位 マテュー・ファンデルポール(オランダ)0:00:47
6位 デーヴィッド・ファンデルポール(オランダ)0:01:03
7位 ローレンス・スウィーク(ベルギー) 0:01:11
8位 トム・メーウセン(ベルギー)0:01:23
9位 ラドミール・シムネク(チェコ)0:01:37
10位 マルセル・マイセン(ドイツ) 0:01:43
54位 小坂光 -2 Laps
55位 竹之内悠 -2 Laps
photo&text : Makoto.AYANO in Huesden-Zolder, BELGIUM
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