北京、ロンドン、そしてリオデジャネイロ。2度の出場経験をもって3度めのオリンピックを目指しシーズンインする山本幸平に今シーズンの意気込みを訊いた。

1月、山本幸平(トレックファクトリーレーシング)に話を聞いたのは東京・銀座。「珍しくスーツ姿です。着慣れませんね」と笑う幸平。この日は都内でファンクラブ決起集会も開催され、多くのサポーターが集まった。会を前にしたタイミングで話を伺った。



山本幸平(トレックファクトリーレーシング)山本幸平(トレックファクトリーレーシング) photo:Makoto.AYANO

2015年シーズンは全日本のタイトル奪還やアジア選7連覇を達成しましたが、この結果には満足している?

ワールドカップや世界選手権が自分の居るべき場所です。世界でトップ10に入ることを自分の一番の目標としています。そこに辿りつけば、本当の意味で世界で戦えているという事になる。結果から言うと、全然その目標を達成することは出来なかったです。それは、周りと比べて自分がどれくらい走れているという感覚としてもなかったですし、実際のレースでの成績としても残すことは出来なかったですね。

昨年の年初にお話を伺った時は、ワールドカップでのヒト桁入りを具体的な目標としていましたからね。それが叶えられなかったとしても、前には進まなくてはならないですね。

今季の抱負を語る山本幸平(トレックファクトリーレーシング)今季の抱負を語る山本幸平(トレックファクトリーレーシング) photo:Makoto.AYANO昨シーズンはスペシャライズドからトレックへとチームが変わりました。どちらが良いということでなく、環境の変化をいい方向に持っていければ良いと思っているんです。今、フランスに渡って海外で走り始めた時のような新鮮な気持ちやハングリー精神が乏しくなっているのを自分でも感じているんです。世界中を転戦することに慣れっこになってしまった。一日一日を大切に出来ていなかった。

そういう意味で、最低条件である全日本のタイトルを奪還して、アジア選手権でも勝てたというのはもちろん嬉しいことではあるんです。でも、そこで満足しているワケにはいかない。もっともっと、アジア人でも世界で通用するんだということを見せるために活躍していきたい。

感覚的にも研ぎ澄まされていないというのは、自分自身としても面白くない。走っていても楽しい! と感じることが薄れてしまった部分がある。それを取り戻すために、このオフではいろいろと環境や取り組みを変えてみたんです。

対マンネリズムがキーワードでしょうか? それは長くやってきたからこその悩みかもしれません。10歳からMTBに乗り始めて、20年が経ったから?

後援会の決起集会を祝うTREKロゴ入りのケーキが用意された後援会の決起集会を祝うTREKロゴ入りのケーキが用意された photo:Makoto.AYANO長く海外で戦っているこの環境自体が悪い訳じゃないんです。その経験があってこそ、今世界中をかけずり回って戦っていても、コンディションを作ることができるし、確実に大きなメリットになっている。でも、現状で満足しているようでは世界のトップ10に割り込むことはできないと強く感じているということですね。

別の見方をすれば、足掛け20年選手としてやってきて、今年で31歳。アスリートとしては最も脂の乗った良い時期だと思います。

リオオリンピックもあるし、本当に自分の目標において非常に重要な意味を持つシーズンだと感じています。また、久々に良いオフを過ごすことができたと感じています。例年恒例のタイ合宿にもいかず、日本で過ごすことになったけれど、色々な人に自分の足りない部分を指導してもらって、また新しい進化を見せることができそうです。

オフは松本で過ごしたそうですね。どんな滞在だったのでしょう?

山本幸平が獲得を重ねるアジアチャンピオンと日本チャンピオンのジャージ山本幸平が獲得を重ねるアジアチャンピオンと日本チャンピオンのジャージ photo:Makoto.AYANOそうですね、乗り込むようなことはせずに、身体の使い方をみっちりと練習してきました。あとシクロクロス参戦ですね。スーパークロス野辺山から5戦を闘って、身体にも刺激を入れることができました。正直言うと、もう少し成績を残したかったですけど(笑)、とにかくこれまでとは違う過ごし方ができたと思います。

去年シーズンで手応えのあったレースは?

良い感触があったのは、スイスのレンツェルハイドで開かれたワールドカップの第3戦ですね。25位でフィニッシュしたのですが、自分自身としても昔の研ぎ澄まされた感覚が顔を出してくれたように思いました。まだ爆発は出来ていないんですけどね(笑)。

来週から本格的なシーズンインですが、リオまでの今年のレース参戦予定は?

まずはスペインのアリカンテで行われるペアで走る4日間のステージレースでシーズンインです。リオの選考レースという意味でも重要なレースだし、チームメイトのセルジオ・モンテコンが地元のヒーローなので、僕らはチームとして勝ちに行く予定です。その後はトルコへと移動し、約2ヵ月間にわたってキプロス島やトルコ国内でのレースを3連戦します。

集まったファンと談笑する。リオへ向けての激励の言葉をもらった集まったファンと談笑する。リオへ向けての激励の言葉をもらった photo:Makoto.AYANOその後に帰国して、オーストラリアのケアンズのWC開幕戦に出場してから、タイのアジア選手権ですね。アジア選はUCIポイントやリオの選考にはあんまり関係ないですけど、やはり8連覇したいと思っています。八幡浜の五輪選考会には、出ないといけない状況であればもちろん出ます。参加せずとも出場できそうであれば、そのままヨーロッパでWCを戦ってから、全日本選手権に参加します。そして、5週間後にリオオリンピックに参加というスケジュールですね。

トルコまでの2か月は相当重要だと考えているので、しっかりと準備を整えてきました。シーズンイン自体、例年に比べるとかなり早いですから、オフもあまり休まず、強度をあげてきました。このままの勢いでリオまで駆け抜けたいですね。本格的に緩めるのはオリンピックが終わってからになりそうです。

3回目のオリンピックへ向けて意気込みを聞かせてください。

やはりオリンピックという舞台で活躍出来れば、日本におけるMTBというスポーツは、より市民権を得ることができると思います。なので、そのきっかけになるだけの成績を残したいですね。やはり自転車競技がメジャーになって欲しいという気持ちは強いので、そのために僕が役に立てれば最高です。

過去の2度のオリンピックでの経験を振り返ると?

1度目の北京オリンピックは出れただけでラッキーだと思っていました。オリンピックという場を経験することで、今後の競技人生が変わってくるという想いで選考会に臨みましたし、出場できただけで嬉しかったですね。

2度目のロンドン・オリンピックでは本気で成績を狙いに行きました。でも、逆にトレーニングの強度を上げ過ぎてしまって、疲労が溜まってしまい、上手く走ることができませんでした。気持ちが強く出過ぎてしまった。でも、1度目の経験は活かせたと思っています。例えば、日本に戻らずスイスから直接出場したことなども、日本にいては効果的なトレーニングが出来ないということに気付いた結果です。

2度の経験をもって3度めのオリンピックに挑める選手というのは、他を探してもなかなか居ないと思います。冷静に、舞い上がることなく戦えそうですね。

はい。経験が武器になると思っています。

※リオ五輪MTB-XCOに代表選手として出場するには

2016年リオデジャネイロ・オリンピックMTB-XCO競技に、まだ山本自身の出場が決まっているわけではない。山本が出場するためには、今後以下の条件を満たす必要がある。
各国ナショナルランキング上位3名の選手のUCIポイント合計による国別ランキングで上位23位に入れば日本に出場枠が与えられる。その場合、日本人の「ポイント獲得1位の選手を代表として選出する」とJCF(日本自転車競技連盟)は発表している。その場合もちろん山本が選出されることは間違いない。そうなれば山本が自動的に選出され、5月23日に発表されることになる。
現在の日本の国別ランキングは21位と、圏内ながらも微妙な位置にいることは否めない。もし今後上位23位以下となった場合、昨年のアジア選手権での山本の優勝によって獲得された1枠について、日本での選考レースを経て、代表選手が選ばれることになる。

山本幸平選手ファンクラブ 決起集会として集まったサポーターたちと山本幸平選手ファンクラブ 決起集会として集まったサポーターたちと photo:Makoto.AYANO
今日はファンクラブの決起集会でした。自身を応援してくれるファンが集まるこういった場は初めてですが、どうでしたか?

あまり日本にいる時間が取れなくて、次に帰ってくるのは4月になります。ファンクラブがあってもこれまで形としてなにかを出来ていたことが無かったんですね。それは僕も感じていたし、応援してくれる雷太さんも感じていました。なので一回やってみようと。そうすれば、僕にとっても、ファンのみなさんにとってもプラスに感じることが出来るかもしれないということになり、この場に繋がりました。実際、僕の気持ちやこれからのやりたいことをみなさんの前で改めてお伝えできたのは、とても良かったと思っています。


山本幸平選手ファンクラブ
プロマウンテンバイク選手としての活動を応援し、会員相互の親睦を図ることを目的として「山本幸平選手ファンクラブ」が発足した。現在は個人、法人の会員を募集中だ。連絡先はマネジメント業務を務める株式会社アスリートバンク。
http://www.athlete-bank.com/

photo&text:Makoto.AYANO