2009/09/24(木) - 17:54
タイムトライアル終了後、1日おいて9月26日からロード世界選手権ロードレースが始まる。カテゴリーはタイムトライアルと同じエリート男子、エリート女子、U23の3つ。エリート男子には新城、別府、西谷の3名、U23には小森、平塚、伊丹の3名が出場する。
イタリア国境に近いメンドリシオに敷かれた難コース
レースの舞台となるメンドリシオは、スイス南部ティツィーノ州に位置する。イタリア国境が近いだけに、公用語はイタリア語。レースの公式サイトもデフォルトがイタリア語だ。
レースが行なわれる周回コースは1周13.8km。例年以上に上りの厳しい難関コースが用意された。
スタート後すぐに始まるのは、カステル・サンピエトロ(標高439m)に至る「アックア・フレスカ」の上り。登坂距離は1600mで、最大勾配は12%。特に上り後半部(頂上780m手前)は平均勾配が10%に達する。
このコース最大の難所をクリアすると、テクニカルな下りと平坦区間を経て、次の「ナヴァッツァーノ」の上りに挑む。こちらは登坂距離1750mで最大勾配10%。アックア・フレスカと比べると難易度は低いが、このナヴァッツァーノ頂上からゴールまで2600mしかない。決定的な勝負ポイントになる可能性が高い。
この2つの上りを合計すると、1周の高低差は245m。エリート男子はここを19周するため、獲得標高差は4655mに達する。これは昨年ヴァレーゼ大会の3555mを優に越える数字だ。連続する2つの上りが、大集団の人数を徐々に減らして行く。過酷なサバイバルレースの様相を呈すだろう。
タイムトライアルとは異なり、コースは3つのカテゴリー共通。エリート男子は19周・262km、U23は13周・179km(獲得標高差3185m)、エリート女子は9周・124km(獲得標高差2205m)で争われる。
エリート男子ロードレース 262.2km(13.8km x 19Laps)
獲得標高差4655mという数字が意味するもの、それはメンドリシオの世界選がスプリンター向きではなく、クライマー向きだということ。近年アルカンシェルを競り合っていたスプリンターたちは優勝候補に挙がらない。
アルカンシェル争奪戦における最強チーム、それはブルーのナショナルジャージに身を包み、過去に19名の世界チャンピオンを輩出してきたアッズーリ(イタリア代表の呼称)だろう。毎年“超”強力な布陣を敷いて世界選に挑むイタリアは、2006年から大会3連覇中。もちろん今年は史上初の4連覇を狙ってくる。
昨年までチームエースを務め、2007年に大会2連覇を達成したパオロ・ベッティーニは現役引退。フランコ・バッレリーニ監督が率いる屈強なイタリアのエースを新たに託されたのは、ダミアーノ・クネゴとアレッサンドロ・バッランだ。
昨年はバッランが終盤に抜け出し優勝。クネゴが追走グループの先頭でゴールし、ワンツー勝利を飾った。今年は上りの厳しさからクネゴがエースを担い、展開によってはバッランが勝利を狙う。これを支えるアシストには、バッソやポッツァートらタレント揃い。まさにドリームチームと言っていいだろう。
2004年のジロ・デ・イタリアを22歳の若さで制した「ピッコロ・プリンチペ(小さな王子)」も今や28歳。直前のブエルタ・ア・エスパーニャでは山岳ステージで2勝を飾っており、絶好調なのは明らか。そろそろプリンスからキングに昇格してもいい頃だ。
近年イタリアの最大のライバルとして立ちはだかっているのが、今年ツールとブエルタを制しているスペイン勢だ。エースを務めるのは、ブエルタでグランツール初制覇を成し遂げたばかりのアレハンドロ・バルベルデ。過去に2位を2回、3位を1回経験しているバルベルデは、マイヨオロに続いてアルカンシェル獲得に燃える。
(filter error or malformed img_assist tag)チームにはブエルタ2位のサムエル・サンチェスや、過去に3回世界チャンピオンに輝いたオスカル・フレイレらが控えている。5年ぶりに王座を奪回したいところだ。
このイタリア=スペインの二強に割って入るのがベルギーやルクセンブルク、オーストラリアなどの強豪国。何しろ国の威信を懸けたシーズン最大のワンデーレースだけに、出場選手の豪華さは他レースの比では無い。
優勝回数史上最多の25回を誇るベルギーは、上りでの爆発力に富んだフィリップ・ジルベールをエースに立てる。ニック・ナイエンスやマキシム・モンフォールがジルベールの後ろ盾となるだろう。
小国ながら、ツール総合2位のアンディ・シュレク擁するルクセンブルクも侮れない。しかし兄のフランクは膝の故障により欠場。規定では9名スタート可能だが、出場予定メンバーはキム・キルシェンら4名に留まっている。
アップダウンコースにめっぽう強く、そして勝負どころでのスプリントでは負け知らずのサイモン・ジェランス(オーストラリア)は、ブエルタでグランツール全勝を達成して波に乗る。ブエルタ総合3位のカデル・エヴァンスらと手を組み、南半球勢初のタイトル獲得を目指す。
他にも昨年母国に11年ぶりのメダルをもたらしたマッティ・ブレシェル(デンマーク)や、2007年大会2位のアレクサンドル・コロブネフ(ロシア)、シルヴァン・シャヴァネル(フランス)らが勝負に絡んでくるだろう。
地元スイス期待のファビアン・カンチェラーラは、タイムトライアルとロードレースのダブルタイトル獲得を目指す。上りへの対応力不足が懸念されているが、昨年の北京五輪ではタイムトライアル金メダルに加え、上りの厳しいロードレースでも銅メダルを獲得している。
日本から参戦するのは、ツール・ド・フランスを完走した新城幸也(Bboxブイグテレコム)と別府史之(スキル・シマノ)、そして現日本チャンピオンの西谷泰治(愛三工業レーシングチーム)だ。世界を舞台に闘う3名が、日の丸を背に難コースに挑む。
エリート女子ロードレース 124.2km(13.8km x 9Laps)
エリート女子のアルカンシェル最有力候補に挙げたいのは、エリートレース初出場の2006年にアルカンシェルを獲得したマリアンヌ・フォス(オランダ)だ。19歳の若さでアルカンシェルを獲得したフォスは、それ以降2年連続2位。毎年欠かすことなく表彰台に上っている。
シクロクロスとトラック競技ポイントレースでも世界チャンピオンに輝いているフォスは、今年破竹の勢いでフレーシュ・ワロンヌなど立て続けに制覇。UCIワールドカップとUCIランキングでトップに君臨している。
北京五輪ロードレース金メダリストで、昨年のアルカンシェル獲得者ニコール・クック(イギリス)ももちろん優勝候補の一角。昨年大会4位で、ここ数年で急成長中のエマ・ヨハンソン(スウェーデン)らがフォスに勝負を挑む。選手層の厚さで分があるのは、2004年大会の覇者ジュディス・アルントやイナ・テウテンバーグ擁するドイツだろう。
タイムトライアルで優勝したクリスティン・アームストロング(アメリカ)は、このロードレースが現役最後のレース。タイムトライアル2位のノエミ・カンテーレ(イタリア)は好調さを維持してメダル連取を狙う。なお、日本からエリート女子カテゴリーへのエントリーは無い。
U23ロードレース 179.4km(13.8km x 13Laps)
エリート男子の出場選手上限が9名なのに対して、U23レースの上限は5名。つまり、一国がレースを完全に支配するような展開には持ち込まれにくく、より個人の脚力が問われるレース展開になる。なお、23歳以下であっても、プロツアーチーム所属選手は出場出来ない。
アルカンシェルの最有力候補は、来季ガーミン入りするピーター・ステティーナと、チームコロンビア・HTC入りするタジェイ・ヴァンガーデレン擁するアメリカ。U23ロードレース初制覇を目指すアメリカは、意外なことにまだ表彰台にも上ったことがない。
ドイツは先日のツアー・オブ・ブリテンで総合3位に入ったマルティン・ライマーがエースを担う。ライマーは6月に行なわれたドイツ選手権でベテラン選手を破って優勝を飾っている。若手の登竜門ツール・ド・ラヴニールで総合優勝を飾ったロメン・シカール擁するフランスも、強豪アメリカの対抗馬だ。シカールはフランス人ながら、来季エウスカルテルに移籍することが決まっている。
タイムトライアルで優勝したジャック・ボブリッジ擁するオーストラリアも、強力なメンバーを揃えて初タイトル獲得を目指す。TOJ(ツアー・オブ・ジャパン)でステージ3勝を飾ったリー・ハワードや、トラヴィス・マイヤーら、トラック競技での経験豊富な選手が揃う。
日本からは、U世界選手権代表選考レースの全日本選手権ロードレース(エリート)で上位に入った3名、小森亮平(TREK-LIVESTRONG U-23 TEAM)、平塚吉光(パールイズミ・スミタ・ラバネロ)、伊丹健治(チームブリヂストン・アンカー)が出場する。日本期待の若武者たちが世界に挑む。
ロード世界選手権2009日程
9月23日(水) U23タイムトライアル 33.2km
9月23日(水)エリート女子タイムトライアル 26.8km
9月24日(木)エリート男子タイムトライアル 49.8km
9月26日(土)U23ロードレース 179.4km(13.8km x 13Laps)
9月26日(土)エリート女子ロードレース 124.2km(13.8km x 9Laps)
9月27日(日)エリート男子ロードレース 262.2km(13.8km x 19Laps)
text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos, Makoto Ayano, Hideaki Takagi, Kei Tsuji
イタリア国境に近いメンドリシオに敷かれた難コース
レースの舞台となるメンドリシオは、スイス南部ティツィーノ州に位置する。イタリア国境が近いだけに、公用語はイタリア語。レースの公式サイトもデフォルトがイタリア語だ。
レースが行なわれる周回コースは1周13.8km。例年以上に上りの厳しい難関コースが用意された。
スタート後すぐに始まるのは、カステル・サンピエトロ(標高439m)に至る「アックア・フレスカ」の上り。登坂距離は1600mで、最大勾配は12%。特に上り後半部(頂上780m手前)は平均勾配が10%に達する。
このコース最大の難所をクリアすると、テクニカルな下りと平坦区間を経て、次の「ナヴァッツァーノ」の上りに挑む。こちらは登坂距離1750mで最大勾配10%。アックア・フレスカと比べると難易度は低いが、このナヴァッツァーノ頂上からゴールまで2600mしかない。決定的な勝負ポイントになる可能性が高い。
この2つの上りを合計すると、1周の高低差は245m。エリート男子はここを19周するため、獲得標高差は4655mに達する。これは昨年ヴァレーゼ大会の3555mを優に越える数字だ。連続する2つの上りが、大集団の人数を徐々に減らして行く。過酷なサバイバルレースの様相を呈すだろう。
タイムトライアルとは異なり、コースは3つのカテゴリー共通。エリート男子は19周・262km、U23は13周・179km(獲得標高差3185m)、エリート女子は9周・124km(獲得標高差2205m)で争われる。
エリート男子ロードレース 262.2km(13.8km x 19Laps)
獲得標高差4655mという数字が意味するもの、それはメンドリシオの世界選がスプリンター向きではなく、クライマー向きだということ。近年アルカンシェルを競り合っていたスプリンターたちは優勝候補に挙がらない。
アルカンシェル争奪戦における最強チーム、それはブルーのナショナルジャージに身を包み、過去に19名の世界チャンピオンを輩出してきたアッズーリ(イタリア代表の呼称)だろう。毎年“超”強力な布陣を敷いて世界選に挑むイタリアは、2006年から大会3連覇中。もちろん今年は史上初の4連覇を狙ってくる。
昨年までチームエースを務め、2007年に大会2連覇を達成したパオロ・ベッティーニは現役引退。フランコ・バッレリーニ監督が率いる屈強なイタリアのエースを新たに託されたのは、ダミアーノ・クネゴとアレッサンドロ・バッランだ。
昨年はバッランが終盤に抜け出し優勝。クネゴが追走グループの先頭でゴールし、ワンツー勝利を飾った。今年は上りの厳しさからクネゴがエースを担い、展開によってはバッランが勝利を狙う。これを支えるアシストには、バッソやポッツァートらタレント揃い。まさにドリームチームと言っていいだろう。
2004年のジロ・デ・イタリアを22歳の若さで制した「ピッコロ・プリンチペ(小さな王子)」も今や28歳。直前のブエルタ・ア・エスパーニャでは山岳ステージで2勝を飾っており、絶好調なのは明らか。そろそろプリンスからキングに昇格してもいい頃だ。
近年イタリアの最大のライバルとして立ちはだかっているのが、今年ツールとブエルタを制しているスペイン勢だ。エースを務めるのは、ブエルタでグランツール初制覇を成し遂げたばかりのアレハンドロ・バルベルデ。過去に2位を2回、3位を1回経験しているバルベルデは、マイヨオロに続いてアルカンシェル獲得に燃える。
(filter error or malformed img_assist tag)チームにはブエルタ2位のサムエル・サンチェスや、過去に3回世界チャンピオンに輝いたオスカル・フレイレらが控えている。5年ぶりに王座を奪回したいところだ。
このイタリア=スペインの二強に割って入るのがベルギーやルクセンブルク、オーストラリアなどの強豪国。何しろ国の威信を懸けたシーズン最大のワンデーレースだけに、出場選手の豪華さは他レースの比では無い。
優勝回数史上最多の25回を誇るベルギーは、上りでの爆発力に富んだフィリップ・ジルベールをエースに立てる。ニック・ナイエンスやマキシム・モンフォールがジルベールの後ろ盾となるだろう。
小国ながら、ツール総合2位のアンディ・シュレク擁するルクセンブルクも侮れない。しかし兄のフランクは膝の故障により欠場。規定では9名スタート可能だが、出場予定メンバーはキム・キルシェンら4名に留まっている。
アップダウンコースにめっぽう強く、そして勝負どころでのスプリントでは負け知らずのサイモン・ジェランス(オーストラリア)は、ブエルタでグランツール全勝を達成して波に乗る。ブエルタ総合3位のカデル・エヴァンスらと手を組み、南半球勢初のタイトル獲得を目指す。
他にも昨年母国に11年ぶりのメダルをもたらしたマッティ・ブレシェル(デンマーク)や、2007年大会2位のアレクサンドル・コロブネフ(ロシア)、シルヴァン・シャヴァネル(フランス)らが勝負に絡んでくるだろう。
地元スイス期待のファビアン・カンチェラーラは、タイムトライアルとロードレースのダブルタイトル獲得を目指す。上りへの対応力不足が懸念されているが、昨年の北京五輪ではタイムトライアル金メダルに加え、上りの厳しいロードレースでも銅メダルを獲得している。
日本から参戦するのは、ツール・ド・フランスを完走した新城幸也(Bboxブイグテレコム)と別府史之(スキル・シマノ)、そして現日本チャンピオンの西谷泰治(愛三工業レーシングチーム)だ。世界を舞台に闘う3名が、日の丸を背に難コースに挑む。
エリート女子ロードレース 124.2km(13.8km x 9Laps)
エリート女子のアルカンシェル最有力候補に挙げたいのは、エリートレース初出場の2006年にアルカンシェルを獲得したマリアンヌ・フォス(オランダ)だ。19歳の若さでアルカンシェルを獲得したフォスは、それ以降2年連続2位。毎年欠かすことなく表彰台に上っている。
シクロクロスとトラック競技ポイントレースでも世界チャンピオンに輝いているフォスは、今年破竹の勢いでフレーシュ・ワロンヌなど立て続けに制覇。UCIワールドカップとUCIランキングでトップに君臨している。
北京五輪ロードレース金メダリストで、昨年のアルカンシェル獲得者ニコール・クック(イギリス)ももちろん優勝候補の一角。昨年大会4位で、ここ数年で急成長中のエマ・ヨハンソン(スウェーデン)らがフォスに勝負を挑む。選手層の厚さで分があるのは、2004年大会の覇者ジュディス・アルントやイナ・テウテンバーグ擁するドイツだろう。
タイムトライアルで優勝したクリスティン・アームストロング(アメリカ)は、このロードレースが現役最後のレース。タイムトライアル2位のノエミ・カンテーレ(イタリア)は好調さを維持してメダル連取を狙う。なお、日本からエリート女子カテゴリーへのエントリーは無い。
U23ロードレース 179.4km(13.8km x 13Laps)
エリート男子の出場選手上限が9名なのに対して、U23レースの上限は5名。つまり、一国がレースを完全に支配するような展開には持ち込まれにくく、より個人の脚力が問われるレース展開になる。なお、23歳以下であっても、プロツアーチーム所属選手は出場出来ない。
アルカンシェルの最有力候補は、来季ガーミン入りするピーター・ステティーナと、チームコロンビア・HTC入りするタジェイ・ヴァンガーデレン擁するアメリカ。U23ロードレース初制覇を目指すアメリカは、意外なことにまだ表彰台にも上ったことがない。
ドイツは先日のツアー・オブ・ブリテンで総合3位に入ったマルティン・ライマーがエースを担う。ライマーは6月に行なわれたドイツ選手権でベテラン選手を破って優勝を飾っている。若手の登竜門ツール・ド・ラヴニールで総合優勝を飾ったロメン・シカール擁するフランスも、強豪アメリカの対抗馬だ。シカールはフランス人ながら、来季エウスカルテルに移籍することが決まっている。
タイムトライアルで優勝したジャック・ボブリッジ擁するオーストラリアも、強力なメンバーを揃えて初タイトル獲得を目指す。TOJ(ツアー・オブ・ジャパン)でステージ3勝を飾ったリー・ハワードや、トラヴィス・マイヤーら、トラック競技での経験豊富な選手が揃う。
日本からは、U世界選手権代表選考レースの全日本選手権ロードレース(エリート)で上位に入った3名、小森亮平(TREK-LIVESTRONG U-23 TEAM)、平塚吉光(パールイズミ・スミタ・ラバネロ)、伊丹健治(チームブリヂストン・アンカー)が出場する。日本期待の若武者たちが世界に挑む。
ロード世界選手権2009日程
9月23日(水) U23タイムトライアル 33.2km
9月23日(水)エリート女子タイムトライアル 26.8km
9月24日(木)エリート男子タイムトライアル 49.8km
9月26日(土)U23ロードレース 179.4km(13.8km x 13Laps)
9月26日(土)エリート女子ロードレース 124.2km(13.8km x 9Laps)
9月27日(日)エリート男子ロードレース 262.2km(13.8km x 19Laps)
text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos, Makoto Ayano, Hideaki Takagi, Kei Tsuji