2015/07/16(木) - 17:16
昨年のツールの快勝ぶりを連想させるマイカの山岳での飛翔。護りに徹したチームスカイとフルーム。動かなかったコンタドール。今日も続く酷暑が、ピレネーの難関山岳ステージをより一層厳しいものにした。
ツールに必ず取り入れられるピレネーの、ツールが必ず立ち寄る麓の街ポー。街の中心地、カジノの前がお馴染みのスタート地点だ。4賞ジャージが和やかに並ぶその脇で、コンタドールはどこかさばさばした表情でスタートを待つ。勝負をかけて動くとき、レース前は決まって寡黙になるコンタドールだが、ときおりサガンと話しながら笑顔も見せる。つまり今日は反撃に出ない?。
ポーから繰り出したプロトンが向かうのは緑の山々、ピレネーの心臓部だ。ピレネー山岳の登坂の傾向として、アルプスより短く急峻というプロフィールが特徴だが、今日の2つの難所はいずれも長くて厳しい。1級山岳アスパン峠(12km/6.5%)、そしてジャックゴデ賞が設定されたツール登場80回の超級山岳トゥールマレー峠(17.1km/7.3%)が待つ。しかし、上りゴールを含め3つある3級、ひとつある4級もあなどれない。
トゥールマレーへの迂回路に入る前、レース最初に待つ3級峠のコート・ド・ロンカップで見たメイン集団はすでに活性化していた。上りでペーター・サガンが先頭を引き、集団を分断化。レースを厳しくしていた。その先のポイント賞を取るためにグライペルをふるい落とす動きだ。中切れし、バラバラに分断されたプロトン。レースは序盤からレッドゾーンだ。ここで苦しみ遅れたルイ・コスタ(ランプレ・メリダ)は、その後リタイアに。
この最初の2時間についてフルームはレース後にこう話す「外から見ていると平穏に見えたかもしれないが、最初の2時間のハイスピードな展開に加え、気温が高いとあって、ほぼ全員が激しく消耗したのは間違いない。確かに最後の2時間はこれといった展開がなかったが、それは最初の2時間のせい。それだけに序盤がTV中継されないなんて、本当に残念。皆エキサイトしていたし、限界まで追い込んでいた。そんな中でプロトンを飛び出した果敢な逃げ集団には、拍手を送りたいと思う…」。
超級山岳トゥールマレー峠の攻防
ツールに登場すること80回を数える超級山岳トゥールマレー峠。頂上は標高2115mにすぎないが、最大勾配が17%、距離17kmと長く厳しい。頂上5km手前で、ラ・モンジを通過する。ラ・モンジは2004年ツールでアームストロングとバッソがランデブーを披露した地だ。当時バッソは母の癌の発症をアームストロングに告白。アームストロングは2人逃げに応じ、勝利をプレゼントした。しかしバッソは自身のがん、しかもランスと同じ精巣がんの発症が判り、ツールを去った。
つづら折れに詰めかけた多くの観客たち。ダイナミックな景観で、どこか宇宙を連想させるようなトゥールマレー峠の頂上付近。ピレネーを象徴するような峠だが、観客は近年に比して少なめ。エウスカルテルの解散でバスク人の応援熱が少々覚めたのが一因らしい。地元愛を感じるオレンジの応援団が減っても、難関山岳の峠の熱狂ぶりはツールならでは。
逃げグループで60km、さらにそこから一人で50km。「楽勝」という言葉を連想させる、マイカの昨年同様の難関山岳での逃げ切りステージ優勝。マイカは登れる上に下りが得意。30kmのダウンヒルも味方した。昨年のマイヨアポア獲得者として、当然今年も連覇を狙うのだろうか? マイカはあくまでコンタドールのために走るという意志を崩さない。
「多くの人から、今年のツールも山岳賞を狙うのか?と聞かれてきたけど、それは簡単なことじゃない。なんといってもコンタドールをサポートするというのが僕の最も大きな役割だからね。今日の勝利はバッソとベンナーティが離脱してしまったチームの士気を高めてくれるだろう。
僕はアルベルトのためにここに居る。彼は本当にクレバーで偉大な選手で、いつも果敢に闘ってきた。僕らは総合勢の誰かがバッドデイに陥る時を待つ必要があるだろうけど、本当に彼が今年にダブルツールを達成できるように願っているんだ」とマイカは話す。
「セラ・カニクル!」酷暑がもたらすプロトンへの打撃
フランス人たちも「異常気象だ」と言う今年の暑さ。6月は雨が降らず、7月は蒸し暑い。いつもの年より明らかに厳しいと言う。普通の暑さなら「chaud(ショー)」を使うが、この「酷暑」には「C'est la canicule!(セラ・カニクル!)」と言うのだそうだ。
フルームは言う「とにかく暑かった。皆が汗を滴り落としていた。失った水分を補給するだけ飲むことさえ難しかった」。今日は反撃せず大人しくしたコンタドールも、この酷暑に苦しんだようだ。「現実的な問題は、なんといっても暑いこと。身体が熱を持ってしまって、うまく動かないんだ」。
そしてフランス勢の惨敗ぶりは今日も続いた。前日も嘔吐したロメン・バルデ(AF2Rラモンディアール)は熱中症に苦しみ、トゥールマレーの早い段階で遅れ始めた。チームメイトで昨年総合2位ジャンクリストフ・ペローも遅れた。ティボー・ピノは序盤のアタックに参加しながらも遅れた。「どうしてこんなにひどい調子なのか分からない。とにかく脚が動かないんだ」。
そしてレースも厳しかった一日。コース以上にレース展開は前半から追い込みすぎた感はある。昨日のステージで強烈な攻撃を展開したフルーム、ポートらチームスカイ勢は、今日のステージでは守りに徹した。マイヨジョーヌを擁しながらも力はセーブ。
序盤から攻撃したティンコフ・サクソより消耗度が少ないだろう。マイカは元気だが、ティンコフ・サクソは離脱したバッソに加えて平坦の機関車役のダニエーレ・ベンナーティも失った。つまりチームは7人きりとなった。アシストの減少はコンタドールにとってさらなる痛手だ。
フルームは言う「とてもハードな超級山岳プラトー・ド・ベイユにゴールする明日のステージは非常に重要だ。多くのライダーが、今日のハードなレース展開の影響を被ることになるはずだ」。
体力を消耗したことで再びクラックする選手が続出するのか?あるいはその状況だからこそコンタドールらが反撃を仕掛けてくるのか。プラトー・ド・ベイユ山頂ゴールはピレネーのハイライトになるだろうと言われている。
text:Makoto.AYANO in FRANCE
photo:Makoto.AYANO,Kei Tsuji,Tim de Waele,CorVos
ツールに必ず取り入れられるピレネーの、ツールが必ず立ち寄る麓の街ポー。街の中心地、カジノの前がお馴染みのスタート地点だ。4賞ジャージが和やかに並ぶその脇で、コンタドールはどこかさばさばした表情でスタートを待つ。勝負をかけて動くとき、レース前は決まって寡黙になるコンタドールだが、ときおりサガンと話しながら笑顔も見せる。つまり今日は反撃に出ない?。
ポーから繰り出したプロトンが向かうのは緑の山々、ピレネーの心臓部だ。ピレネー山岳の登坂の傾向として、アルプスより短く急峻というプロフィールが特徴だが、今日の2つの難所はいずれも長くて厳しい。1級山岳アスパン峠(12km/6.5%)、そしてジャックゴデ賞が設定されたツール登場80回の超級山岳トゥールマレー峠(17.1km/7.3%)が待つ。しかし、上りゴールを含め3つある3級、ひとつある4級もあなどれない。
トゥールマレーへの迂回路に入る前、レース最初に待つ3級峠のコート・ド・ロンカップで見たメイン集団はすでに活性化していた。上りでペーター・サガンが先頭を引き、集団を分断化。レースを厳しくしていた。その先のポイント賞を取るためにグライペルをふるい落とす動きだ。中切れし、バラバラに分断されたプロトン。レースは序盤からレッドゾーンだ。ここで苦しみ遅れたルイ・コスタ(ランプレ・メリダ)は、その後リタイアに。
この最初の2時間についてフルームはレース後にこう話す「外から見ていると平穏に見えたかもしれないが、最初の2時間のハイスピードな展開に加え、気温が高いとあって、ほぼ全員が激しく消耗したのは間違いない。確かに最後の2時間はこれといった展開がなかったが、それは最初の2時間のせい。それだけに序盤がTV中継されないなんて、本当に残念。皆エキサイトしていたし、限界まで追い込んでいた。そんな中でプロトンを飛び出した果敢な逃げ集団には、拍手を送りたいと思う…」。
超級山岳トゥールマレー峠の攻防
ツールに登場すること80回を数える超級山岳トゥールマレー峠。頂上は標高2115mにすぎないが、最大勾配が17%、距離17kmと長く厳しい。頂上5km手前で、ラ・モンジを通過する。ラ・モンジは2004年ツールでアームストロングとバッソがランデブーを披露した地だ。当時バッソは母の癌の発症をアームストロングに告白。アームストロングは2人逃げに応じ、勝利をプレゼントした。しかしバッソは自身のがん、しかもランスと同じ精巣がんの発症が判り、ツールを去った。
つづら折れに詰めかけた多くの観客たち。ダイナミックな景観で、どこか宇宙を連想させるようなトゥールマレー峠の頂上付近。ピレネーを象徴するような峠だが、観客は近年に比して少なめ。エウスカルテルの解散でバスク人の応援熱が少々覚めたのが一因らしい。地元愛を感じるオレンジの応援団が減っても、難関山岳の峠の熱狂ぶりはツールならでは。
逃げグループで60km、さらにそこから一人で50km。「楽勝」という言葉を連想させる、マイカの昨年同様の難関山岳での逃げ切りステージ優勝。マイカは登れる上に下りが得意。30kmのダウンヒルも味方した。昨年のマイヨアポア獲得者として、当然今年も連覇を狙うのだろうか? マイカはあくまでコンタドールのために走るという意志を崩さない。
「多くの人から、今年のツールも山岳賞を狙うのか?と聞かれてきたけど、それは簡単なことじゃない。なんといってもコンタドールをサポートするというのが僕の最も大きな役割だからね。今日の勝利はバッソとベンナーティが離脱してしまったチームの士気を高めてくれるだろう。
僕はアルベルトのためにここに居る。彼は本当にクレバーで偉大な選手で、いつも果敢に闘ってきた。僕らは総合勢の誰かがバッドデイに陥る時を待つ必要があるだろうけど、本当に彼が今年にダブルツールを達成できるように願っているんだ」とマイカは話す。
「セラ・カニクル!」酷暑がもたらすプロトンへの打撃
フランス人たちも「異常気象だ」と言う今年の暑さ。6月は雨が降らず、7月は蒸し暑い。いつもの年より明らかに厳しいと言う。普通の暑さなら「chaud(ショー)」を使うが、この「酷暑」には「C'est la canicule!(セラ・カニクル!)」と言うのだそうだ。
フルームは言う「とにかく暑かった。皆が汗を滴り落としていた。失った水分を補給するだけ飲むことさえ難しかった」。今日は反撃せず大人しくしたコンタドールも、この酷暑に苦しんだようだ。「現実的な問題は、なんといっても暑いこと。身体が熱を持ってしまって、うまく動かないんだ」。
そしてフランス勢の惨敗ぶりは今日も続いた。前日も嘔吐したロメン・バルデ(AF2Rラモンディアール)は熱中症に苦しみ、トゥールマレーの早い段階で遅れ始めた。チームメイトで昨年総合2位ジャンクリストフ・ペローも遅れた。ティボー・ピノは序盤のアタックに参加しながらも遅れた。「どうしてこんなにひどい調子なのか分からない。とにかく脚が動かないんだ」。
そしてレースも厳しかった一日。コース以上にレース展開は前半から追い込みすぎた感はある。昨日のステージで強烈な攻撃を展開したフルーム、ポートらチームスカイ勢は、今日のステージでは守りに徹した。マイヨジョーヌを擁しながらも力はセーブ。
序盤から攻撃したティンコフ・サクソより消耗度が少ないだろう。マイカは元気だが、ティンコフ・サクソは離脱したバッソに加えて平坦の機関車役のダニエーレ・ベンナーティも失った。つまりチームは7人きりとなった。アシストの減少はコンタドールにとってさらなる痛手だ。
フルームは言う「とてもハードな超級山岳プラトー・ド・ベイユにゴールする明日のステージは非常に重要だ。多くのライダーが、今日のハードなレース展開の影響を被ることになるはずだ」。
体力を消耗したことで再びクラックする選手が続出するのか?あるいはその状況だからこそコンタドールらが反撃を仕掛けてくるのか。プラトー・ド・ベイユ山頂ゴールはピレネーのハイライトになるだろうと言われている。
text:Makoto.AYANO in FRANCE
photo:Makoto.AYANO,Kei Tsuji,Tim de Waele,CorVos
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