2015/07/12(日) - 18:08
ユイに続く今ツール2つめの壁フィニッシュは、誰が名づけたか「ブルターニュのラルプデュエズ」ミュール・ド・ブルターニュ。新顔ヴィエルモの勝利とフランス人の奮闘に沿道が沸いた。
土曜日。フランスは今日からバカンスが始まるから、人々は山や海を、そしてツールを目指す。沿道は行く先どこも人が鈴なり。天気も爽やかに晴れ、最高。不快な暑さはない。ベルナール・イノーやルイゾン・ボベゆかりの地を走り抜ける、ブルターニュの2日目。今日もプロトンには熱い視線が注がれる。スタート地点レンヌの人だかりもすごい。
なかでもMTNキュベカへの応援がすごい。大勢が詰めかけたエリトリアからの応援団が、テクレハイマノとクドゥスを激励する。なにかおまじないの花びら?をふりかけ、抱きあい、歌い、踊り、「アフリカの希望の星に祝福を!」「ハピネス!」。さながらトランス状態のようだ。
今日も地元チームであるブルターニュ・セシェがスタート直後から動いた。ピエールリュック・ペリションが行くとシルヴァン・シャヴァネル(IAMサイクリング)、ロメン・シカール(ユーロップカー)の2人のフランス人が同調。ポーランド人のバルトス・フザルスキー(ボーラ・アルゴン18)を加えた逃げは「トロワ・フランセーズ」(3人のフランス人)を含むことで沿道の観客は大喜びだ。沿道にはフランス国旗とブルターニュの旗が翻る。
逃げが決まった後の集団はトーマス・デヘント(ロット・ソウダル)が引く。距離を重ねてもデヘントは先頭固定だ。グライペルのために働く必要はある? いや、今日のロットはフランス人パンチャーのトニー・ギャロパンのために。落車で怪我を負っているデヘントは、髭と包帯を見せつつ、逃げとのタイム差が大きく開くことを許さず淡々と牽引を続けた。
中間スプリントのポイント争いはグライペルが獲得。今日のフィニッシュではお呼びでないから、ここはポイントを逃さない。力を出し切らなかったサガンは少し遅れて4番目に通過したが、その勢いで逃げに出た。ミカル・クヴィアトコウスキー(ポーランド、エティックス・クイックステップ)、ピエリック・フェドリゴ(フランス、ブルターニュ・セシュ)、ピエール・ロラン(フランス、ユーロップカー)というメンツが揃ったが、しかしこれはさすがに逃してくれない。
キャノンデール・ガーミンはダニエル・マーティンの勝利に意気込み、ライダー・ヘシェダルの力さえここで使い果たした。BMCはサムエル・サンチェスのために集団をけん引する。
第102回大会が用意した2つの壁フィニッシュ。1つは第3ステージのミュール・ド・ユイ。そしてもう1つがこのミュール・ド・ブルターニュだ。「ブルターニュのラルプデュエズ」と異名をとる急坂はツールに度々取り入れられてきた。
全長2km、最大勾配15%、平均勾配6.9%。両側が森の中を真っ直ぐに伸びる道はひとつめのピークが麓から見え、勾配は徐々にキツくなっていく。そこから2段階目の緩くなる登りをこなし、平坦路でフィニッシュ。ちなみに2011年はコンタドールが登りで先行、スプリントでカデル・エヴァンスが差し、写真判定でエヴァンスが勝った。その時とは麓の侵入路と、ゴールの位置が違っている。平坦区間が少し長くなった。
逃げを吸収した集団はチームスカイが主導権を握ってミュール・ド・ブルターニュに突入。勾配が厳しくなる区間でサイモン・ゲシュケ(ドイツ、ジャイアント・アルペシン)、アダム・イェーツ(イギリス、オリカ・グリーンエッジ)、アレクシ・ヴィエルモ(フランス、AG2Rラモンディアール)が飛び出したものの、マイヨジョーヌのクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)の引く集団に残り1kmで封じ込められる。
ロドリゲスとフルームの陰に隠れたが、ユイの壁でも3位になっていたヴィエルモが勾配が緩くなる手前でもう一度鋭くアタックして抜け出し、フィニッシュまで逃げ切った。集団は25人と多く、インに当たる右のバリケードに寄って伸びていた。その内側に居た選手は蓋をされたパック状態。必勝体制で居たはずのダニエル・マーティン(アイルランド、キャノンデール・ガーミン)は飛び出せずに待たざるを得なかった。
大会8日目のフランス人による初のステージ優勝。昨年は同チームのブレル・カドリが第8ステージのジェラールメ・ラマドレーヌの登りフィニッシュで勝利した。今年もまたフランス人初の勝利は、チョコレート&ミントカラーのジャージのAG2Rラモンディアールがもたらした。
「ユイで3位になれたのは素晴らしかった。だから今日はなにか特別なことをしたかったんだ」と語るヴィエルモ。フランス東部のジュラ地方出身で、もとマウンテンバイクのクロスカントリー選手だったバックグラウンドを持つ。ロードレースに転向したのは2012年で、現在27歳。カルロス・ベタンクールやドメニコ・ポッツォヴィーヴォのアシストをつとめながら昨年はジロ総合11位という成績を残している。
ヴィエルモは自身をクライマーでなく「パンチャー」と称する。「僕の力は山岳ではどうだか分からない。今日はフルームに着いて行けたけど、僕はパンチャーなんだ。僕は自分のチャンスを活かした。こんな坂が自分には合っているんだ。僕はこういう種類の坂で活躍できる。選手たちは皆が何かのスペシャリストなんだ。このツールでは山岳でリーダーたちのアシストをするよ」。
先頭にたちハイペースを刻んだフルームだが、勝利に向かう素振りは見せず。ただ集団の先頭を支配したようだった。コンタドールは集団のなかで苦しそうに見えた。脚の仕上がり具合はやはりフルームが「上」に見える。
キンタナとあわせファンタスティック4のうち3人は大きなグループ内でフィニッシュしたが、短い登りでパンチ力があるはずのニーバリが遅れた。しかも格下の選手たちが残れる集団からのあっけない脱落。フルームはニーバリの遅れを「驚いた」と話す。ついた差は10秒。前回覇者に突然訪れた「バッド・デイ」。上っているときも特に問題なかった。しかし最後の加速のとき、予想外の不調に陥ったというのだ。
すべてはうまく進んでいると思っていたアスタナチームも、ニーバリから不調だという話は聞いていなかったと、驚きを隠せない。
叶わなかったサガンの3賞ジャージ独占
ステージ優勝と、マイヨジョーヌ、ヴェール、ブランの3色のジャージを獲得する可能性があったペーター・サガン。フィニッシュでオーストラリアのTV局のカメラに向けてしゃべるロビー・マキュアンに会ったのでステージ予想を聞くと、「ビッグな期待を込めて、サガンが勝つ。そして3色ジャージを持っていく。それ以上面白いことがあるかい!?」とコメントしてくれた。
果たしてフルーム集団に残ったサガンは、スプリントするもアレハンドロ・バルベルデに先着されて4着フィニッシュ。ボーナスタイム対象外となり、マイヨ・ジョーヌに近づくことはできなかった。明日のチームTTでは可能性が残されているもののチャンスが少なくなり、この後を考えるとマイヨ・ジョーヌは今日が最後のチャンスだった。しかしサガン5位、グライペル着外が線だったマイヨヴェールはグライペルから奪うことに成功した。サガンはこれを守るつもりだという。
ゴール後に「サガンを手伝いたかったが、今日の状況では無理だった」と話したコンタドールだが、ティンコフ・サクソの戦略が日に日に明らかになっていく。
今日も終日先頭付近でコンタドールを護衛したティンコフ・サクソ。だが今日のサガンはそこに入らず、自由行動が許された。最後の壁に備えるために。どうやら集団が難しい事態にないなら、そしてチャンスがあるならサガンの単独・自由行動はOK。しかしたったひとりで、ヘルパーは無し。ステージ優勝、マイヨ・ヴェール、それらを狙うのはOKだが、しかしチームとしては誰も手伝わない。ファースト・プライオリティーはあくまでコンタドールのマイヨジョーヌだ。
ポディウムに登るとき、股を広げて踊るようなコミカルな仕草を見せたサガン。リラックスしきった表情だ。昨日は花束をポディウム脇の奥さんへ投げた。今日はフェンスによじ登って我が息子に声援を送るパパ・サガンのもとへと投げた。パパ・サガンも無邪気に喜んでいた。
text:Makoto.AYANO
photo:Makoto.AYANO,Kei Tsuji,Tim de Waele,CorVos,
土曜日。フランスは今日からバカンスが始まるから、人々は山や海を、そしてツールを目指す。沿道は行く先どこも人が鈴なり。天気も爽やかに晴れ、最高。不快な暑さはない。ベルナール・イノーやルイゾン・ボベゆかりの地を走り抜ける、ブルターニュの2日目。今日もプロトンには熱い視線が注がれる。スタート地点レンヌの人だかりもすごい。
なかでもMTNキュベカへの応援がすごい。大勢が詰めかけたエリトリアからの応援団が、テクレハイマノとクドゥスを激励する。なにかおまじないの花びら?をふりかけ、抱きあい、歌い、踊り、「アフリカの希望の星に祝福を!」「ハピネス!」。さながらトランス状態のようだ。
今日も地元チームであるブルターニュ・セシェがスタート直後から動いた。ピエールリュック・ペリションが行くとシルヴァン・シャヴァネル(IAMサイクリング)、ロメン・シカール(ユーロップカー)の2人のフランス人が同調。ポーランド人のバルトス・フザルスキー(ボーラ・アルゴン18)を加えた逃げは「トロワ・フランセーズ」(3人のフランス人)を含むことで沿道の観客は大喜びだ。沿道にはフランス国旗とブルターニュの旗が翻る。
逃げが決まった後の集団はトーマス・デヘント(ロット・ソウダル)が引く。距離を重ねてもデヘントは先頭固定だ。グライペルのために働く必要はある? いや、今日のロットはフランス人パンチャーのトニー・ギャロパンのために。落車で怪我を負っているデヘントは、髭と包帯を見せつつ、逃げとのタイム差が大きく開くことを許さず淡々と牽引を続けた。
中間スプリントのポイント争いはグライペルが獲得。今日のフィニッシュではお呼びでないから、ここはポイントを逃さない。力を出し切らなかったサガンは少し遅れて4番目に通過したが、その勢いで逃げに出た。ミカル・クヴィアトコウスキー(ポーランド、エティックス・クイックステップ)、ピエリック・フェドリゴ(フランス、ブルターニュ・セシュ)、ピエール・ロラン(フランス、ユーロップカー)というメンツが揃ったが、しかしこれはさすがに逃してくれない。
キャノンデール・ガーミンはダニエル・マーティンの勝利に意気込み、ライダー・ヘシェダルの力さえここで使い果たした。BMCはサムエル・サンチェスのために集団をけん引する。
第102回大会が用意した2つの壁フィニッシュ。1つは第3ステージのミュール・ド・ユイ。そしてもう1つがこのミュール・ド・ブルターニュだ。「ブルターニュのラルプデュエズ」と異名をとる急坂はツールに度々取り入れられてきた。
全長2km、最大勾配15%、平均勾配6.9%。両側が森の中を真っ直ぐに伸びる道はひとつめのピークが麓から見え、勾配は徐々にキツくなっていく。そこから2段階目の緩くなる登りをこなし、平坦路でフィニッシュ。ちなみに2011年はコンタドールが登りで先行、スプリントでカデル・エヴァンスが差し、写真判定でエヴァンスが勝った。その時とは麓の侵入路と、ゴールの位置が違っている。平坦区間が少し長くなった。
逃げを吸収した集団はチームスカイが主導権を握ってミュール・ド・ブルターニュに突入。勾配が厳しくなる区間でサイモン・ゲシュケ(ドイツ、ジャイアント・アルペシン)、アダム・イェーツ(イギリス、オリカ・グリーンエッジ)、アレクシ・ヴィエルモ(フランス、AG2Rラモンディアール)が飛び出したものの、マイヨジョーヌのクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)の引く集団に残り1kmで封じ込められる。
ロドリゲスとフルームの陰に隠れたが、ユイの壁でも3位になっていたヴィエルモが勾配が緩くなる手前でもう一度鋭くアタックして抜け出し、フィニッシュまで逃げ切った。集団は25人と多く、インに当たる右のバリケードに寄って伸びていた。その内側に居た選手は蓋をされたパック状態。必勝体制で居たはずのダニエル・マーティン(アイルランド、キャノンデール・ガーミン)は飛び出せずに待たざるを得なかった。
大会8日目のフランス人による初のステージ優勝。昨年は同チームのブレル・カドリが第8ステージのジェラールメ・ラマドレーヌの登りフィニッシュで勝利した。今年もまたフランス人初の勝利は、チョコレート&ミントカラーのジャージのAG2Rラモンディアールがもたらした。
「ユイで3位になれたのは素晴らしかった。だから今日はなにか特別なことをしたかったんだ」と語るヴィエルモ。フランス東部のジュラ地方出身で、もとマウンテンバイクのクロスカントリー選手だったバックグラウンドを持つ。ロードレースに転向したのは2012年で、現在27歳。カルロス・ベタンクールやドメニコ・ポッツォヴィーヴォのアシストをつとめながら昨年はジロ総合11位という成績を残している。
ヴィエルモは自身をクライマーでなく「パンチャー」と称する。「僕の力は山岳ではどうだか分からない。今日はフルームに着いて行けたけど、僕はパンチャーなんだ。僕は自分のチャンスを活かした。こんな坂が自分には合っているんだ。僕はこういう種類の坂で活躍できる。選手たちは皆が何かのスペシャリストなんだ。このツールでは山岳でリーダーたちのアシストをするよ」。
先頭にたちハイペースを刻んだフルームだが、勝利に向かう素振りは見せず。ただ集団の先頭を支配したようだった。コンタドールは集団のなかで苦しそうに見えた。脚の仕上がり具合はやはりフルームが「上」に見える。
キンタナとあわせファンタスティック4のうち3人は大きなグループ内でフィニッシュしたが、短い登りでパンチ力があるはずのニーバリが遅れた。しかも格下の選手たちが残れる集団からのあっけない脱落。フルームはニーバリの遅れを「驚いた」と話す。ついた差は10秒。前回覇者に突然訪れた「バッド・デイ」。上っているときも特に問題なかった。しかし最後の加速のとき、予想外の不調に陥ったというのだ。
すべてはうまく進んでいると思っていたアスタナチームも、ニーバリから不調だという話は聞いていなかったと、驚きを隠せない。
叶わなかったサガンの3賞ジャージ独占
ステージ優勝と、マイヨジョーヌ、ヴェール、ブランの3色のジャージを獲得する可能性があったペーター・サガン。フィニッシュでオーストラリアのTV局のカメラに向けてしゃべるロビー・マキュアンに会ったのでステージ予想を聞くと、「ビッグな期待を込めて、サガンが勝つ。そして3色ジャージを持っていく。それ以上面白いことがあるかい!?」とコメントしてくれた。
果たしてフルーム集団に残ったサガンは、スプリントするもアレハンドロ・バルベルデに先着されて4着フィニッシュ。ボーナスタイム対象外となり、マイヨ・ジョーヌに近づくことはできなかった。明日のチームTTでは可能性が残されているもののチャンスが少なくなり、この後を考えるとマイヨ・ジョーヌは今日が最後のチャンスだった。しかしサガン5位、グライペル着外が線だったマイヨヴェールはグライペルから奪うことに成功した。サガンはこれを守るつもりだという。
ゴール後に「サガンを手伝いたかったが、今日の状況では無理だった」と話したコンタドールだが、ティンコフ・サクソの戦略が日に日に明らかになっていく。
今日も終日先頭付近でコンタドールを護衛したティンコフ・サクソ。だが今日のサガンはそこに入らず、自由行動が許された。最後の壁に備えるために。どうやら集団が難しい事態にないなら、そしてチャンスがあるならサガンの単独・自由行動はOK。しかしたったひとりで、ヘルパーは無し。ステージ優勝、マイヨ・ヴェール、それらを狙うのはOKだが、しかしチームとしては誰も手伝わない。ファースト・プライオリティーはあくまでコンタドールのマイヨジョーヌだ。
ポディウムに登るとき、股を広げて踊るようなコミカルな仕草を見せたサガン。リラックスしきった表情だ。昨日は花束をポディウム脇の奥さんへ投げた。今日はフェンスによじ登って我が息子に声援を送るパパ・サガンのもとへと投げた。パパ・サガンも無邪気に喜んでいた。
text:Makoto.AYANO
photo:Makoto.AYANO,Kei Tsuji,Tim de Waele,CorVos,
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