2015/05/20(水) - 15:21
「スポーツマンシップ溢れるフェアプレー」が一転「2分のペナルティー」に変わるとは。総合3位リッチー・ポート(オーストラリア、チームスカイ)がタイムを失った第10ステージを振り返ります。
沖合に漁船が浮かぶアドリア海に沿って北上する第10ステージは大半がフラット。コースマップを見る限りずっとオーシャンロードが続くように見えるが、海岸から数百メートルほど内陸の幹線道路を走るためオーシャンビューは望めない。ジロでは定番のエリアだが、初めてこの辺りを通過するフォトグラファーは想像していた絵が撮れずに苛立つのが常だ。
厳しい2ステージを終え、休息日でリフレッシュした別府史之(トレックファクトリーレーシング)はチームバス駐車場で今大会初めて宮島正典(ティンコフ・サクソ)と挨拶することに成功。世界のトップレースでそれぞれの仕事をこなすプロフェッショナルが和やかに情報を交換する。2人とも肌はこんがり焼けている。
まだ体調が万全ではないと思われたが、別府曰くもう完調。ここまでのスプリントステージでは残り2〜3kmでチームメイトを引き上げる役を担っていたが、この日は130kmにわたってメイン集団を引き続けた。
リードアウト役ではなく牽引役を担った理由は、他に前を引けるメンバーが他にいなかったからだそう。「終盤も500Wで引いていた」とこっそり教えてくれる。ジロも中盤に差し掛かって戦力がダウンしつつある中、チーム最年長の別府は元気に走っている。
「スポーツマンシップに溢れるフェアプレー」として賞賛されたサイモン・クラーク(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)の機転が、「ルール違反:2分のペナルティー」に繋がった。
残り8kmを切ってからパンクしたリッチー・ポート(オーストラリア、チームスカイ)に前輪を提供したのはクラークで、ポートの背中を押して再スタートさせ、さらにチームスカイのメンバーだけでなくマイケル・マシューズ(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)が集団復帰に力を尽くした。
結果的にポートは集団に復帰できずに47秒のタイムを失ったが、チームの枠を超えたオーストラリア人選手の結束は「スポーツマンシップ」の象徴とされ、ジロ・デ・イタリアの公式Twitterアカウントも「これぞサイクリング。世界最高のスポーツだ」と写真付きで賞賛の投稿を行い、同じオーストラリア出身のクラークがポートをアシストする画像が一気に拡散した。
レース後すぐにポートも「チームメイトたちとサイモン・クラーク、マイケル・マシューズには感謝している。オージーメイトシップ(オーストラリア人の友情)だ。パンクした自分にクラーキー(クラーク)が前輪を差し出してくれた」と投稿。中継には映っていなかったポートの前輪交換がこうして明るみになった。
UCIルール「定款および規則」をめくると、12.1.040「懲戒および手続き」の「問題行為」の中に「他チームの競技者に規則外の援助を与える」とある。ステージレースにおいて他チームからの機材提供を受けた場合は2分のペナルティー。なお、2回目の違反で5分のペナルティー、3回目10分、そして4回目は失格。ワンデーレースでは1回で失格となる。
ちなみに、UCIルール2.3.12には「すべての競技者は、相互に飲食料、工具、部品等の提供、交換等の協力をすることができる。タイヤ、自転車の提供、交換、負傷しあるいは集団から遅れた競技者を待つことは、同じチームの競技者間においてのみ許される。他の競技者を押すことは、あらゆる場合に禁止し、違反の場合は失格とする」とある。厳密に言うとマシューズの牽引もルールに反する行為ということになる。
UCIコミッセール(審判員)は約1時間のミーティングを開き、ポートとクラークに規則通り2分のペナルティーと200スイスフランの罰金を科すことを決定した。
プレスセンターの外でジャーナリストに囲まれた大会ディレクターのマウロ・ヴェーニ氏は「ディレクターとしての立場から言わせてもらうと、ジロの主役を担う選手が重荷を負ってしまったことを残念に思う。しかしルールはルールであり、スポーツならびにジロの信頼性を尊重するためにも、ルールは守られなければならない」と説明した。
「信頼関係で結ばれた選手たちによるミスだったのだろう。確かにフェアプレーだったが、もしルールを知っている選手がいれば起こり得なかった。これがUCIコミッセールの最終決定であり、異論を唱えたところで1分30秒にディスカウントされるようなものではない」。
実際にコミッセールが見たのではなく、インターネットに拡散した写真をもとにした判断であることに異論を唱えたジャーナリストもいたが、結果は何も変わらない。
なお、これはジロ・デ・イタリア主催者による決定ではなく、UCIコミッセールによる判断であることを忘れてはならない。ジロに帯同するUCIコミッセール4人の国籍はバラバラで、イタリア人だけで構成されているわけではない。仮にファビオ・アル(イタリア、アスタナ)が同じタイミングでパンクして、他チームのイタリア人選手がサポートしていたとしても同じペナルティーが与えられていたと考えられる。
UCIコミッセールにはある程度の裁量が認められているが、ルールはルール。今回チーフコミッセールを務めるドイツのインゴ・レース氏はルールに厳格なことが知られている。2013年ツール・ド・フランス第4ステージのチームタイムトライアルで、落車の影響によってタイムリミットに7秒間に合わずフィニッシュしたテッド・キング(キャノンデール)に失格処分を与えているのも同氏だ。
イタリア人ジャーナリストが約7割を占めるプレスセンターも、自分はチームスカイ寄りの人間なので印象に偏りはあるものの、ポートに同情する雰囲気に包まれていた。Twitterのタイムラインにも現役選手や元プロ選手の同情ツイートが溢れる。
UCIコミッセールからペナルティーを告げられたチームスカイのデイブ・ブレイルスフォードGMとダリオ・チオーニ監督は、ジャーナリストの問いかけには「ノーコメント」を貫き、足早にジャガーでその場を去った。
その後ブレイルスフォードGMは「この競技を象徴するような、スポーツマン同士の熱い助け合いがこんな大きなペナルティになるなんて、非常に残念だ」との声明を出した。2分のペナルティーを受け入れ、そして残る2週間で挽回する意気込みを見せる。ここまで存在感を見せていなかったチームスカイが攻撃に転じることは想像に容易い。
text&photo:Kei Tsuji in Forli, Italy
沖合に漁船が浮かぶアドリア海に沿って北上する第10ステージは大半がフラット。コースマップを見る限りずっとオーシャンロードが続くように見えるが、海岸から数百メートルほど内陸の幹線道路を走るためオーシャンビューは望めない。ジロでは定番のエリアだが、初めてこの辺りを通過するフォトグラファーは想像していた絵が撮れずに苛立つのが常だ。
厳しい2ステージを終え、休息日でリフレッシュした別府史之(トレックファクトリーレーシング)はチームバス駐車場で今大会初めて宮島正典(ティンコフ・サクソ)と挨拶することに成功。世界のトップレースでそれぞれの仕事をこなすプロフェッショナルが和やかに情報を交換する。2人とも肌はこんがり焼けている。
まだ体調が万全ではないと思われたが、別府曰くもう完調。ここまでのスプリントステージでは残り2〜3kmでチームメイトを引き上げる役を担っていたが、この日は130kmにわたってメイン集団を引き続けた。
リードアウト役ではなく牽引役を担った理由は、他に前を引けるメンバーが他にいなかったからだそう。「終盤も500Wで引いていた」とこっそり教えてくれる。ジロも中盤に差し掛かって戦力がダウンしつつある中、チーム最年長の別府は元気に走っている。
「スポーツマンシップに溢れるフェアプレー」として賞賛されたサイモン・クラーク(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)の機転が、「ルール違反:2分のペナルティー」に繋がった。
残り8kmを切ってからパンクしたリッチー・ポート(オーストラリア、チームスカイ)に前輪を提供したのはクラークで、ポートの背中を押して再スタートさせ、さらにチームスカイのメンバーだけでなくマイケル・マシューズ(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)が集団復帰に力を尽くした。
結果的にポートは集団に復帰できずに47秒のタイムを失ったが、チームの枠を超えたオーストラリア人選手の結束は「スポーツマンシップ」の象徴とされ、ジロ・デ・イタリアの公式Twitterアカウントも「これぞサイクリング。世界最高のスポーツだ」と写真付きで賞賛の投稿を行い、同じオーストラリア出身のクラークがポートをアシストする画像が一気に拡散した。
レース後すぐにポートも「チームメイトたちとサイモン・クラーク、マイケル・マシューズには感謝している。オージーメイトシップ(オーストラリア人の友情)だ。パンクした自分にクラーキー(クラーク)が前輪を差し出してくれた」と投稿。中継には映っていなかったポートの前輪交換がこうして明るみになった。
UCIルール「定款および規則」をめくると、12.1.040「懲戒および手続き」の「問題行為」の中に「他チームの競技者に規則外の援助を与える」とある。ステージレースにおいて他チームからの機材提供を受けた場合は2分のペナルティー。なお、2回目の違反で5分のペナルティー、3回目10分、そして4回目は失格。ワンデーレースでは1回で失格となる。
ちなみに、UCIルール2.3.12には「すべての競技者は、相互に飲食料、工具、部品等の提供、交換等の協力をすることができる。タイヤ、自転車の提供、交換、負傷しあるいは集団から遅れた競技者を待つことは、同じチームの競技者間においてのみ許される。他の競技者を押すことは、あらゆる場合に禁止し、違反の場合は失格とする」とある。厳密に言うとマシューズの牽引もルールに反する行為ということになる。
UCIコミッセール(審判員)は約1時間のミーティングを開き、ポートとクラークに規則通り2分のペナルティーと200スイスフランの罰金を科すことを決定した。
プレスセンターの外でジャーナリストに囲まれた大会ディレクターのマウロ・ヴェーニ氏は「ディレクターとしての立場から言わせてもらうと、ジロの主役を担う選手が重荷を負ってしまったことを残念に思う。しかしルールはルールであり、スポーツならびにジロの信頼性を尊重するためにも、ルールは守られなければならない」と説明した。
「信頼関係で結ばれた選手たちによるミスだったのだろう。確かにフェアプレーだったが、もしルールを知っている選手がいれば起こり得なかった。これがUCIコミッセールの最終決定であり、異論を唱えたところで1分30秒にディスカウントされるようなものではない」。
実際にコミッセールが見たのではなく、インターネットに拡散した写真をもとにした判断であることに異論を唱えたジャーナリストもいたが、結果は何も変わらない。
なお、これはジロ・デ・イタリア主催者による決定ではなく、UCIコミッセールによる判断であることを忘れてはならない。ジロに帯同するUCIコミッセール4人の国籍はバラバラで、イタリア人だけで構成されているわけではない。仮にファビオ・アル(イタリア、アスタナ)が同じタイミングでパンクして、他チームのイタリア人選手がサポートしていたとしても同じペナルティーが与えられていたと考えられる。
UCIコミッセールにはある程度の裁量が認められているが、ルールはルール。今回チーフコミッセールを務めるドイツのインゴ・レース氏はルールに厳格なことが知られている。2013年ツール・ド・フランス第4ステージのチームタイムトライアルで、落車の影響によってタイムリミットに7秒間に合わずフィニッシュしたテッド・キング(キャノンデール)に失格処分を与えているのも同氏だ。
イタリア人ジャーナリストが約7割を占めるプレスセンターも、自分はチームスカイ寄りの人間なので印象に偏りはあるものの、ポートに同情する雰囲気に包まれていた。Twitterのタイムラインにも現役選手や元プロ選手の同情ツイートが溢れる。
UCIコミッセールからペナルティーを告げられたチームスカイのデイブ・ブレイルスフォードGMとダリオ・チオーニ監督は、ジャーナリストの問いかけには「ノーコメント」を貫き、足早にジャガーでその場を去った。
その後ブレイルスフォードGMは「この競技を象徴するような、スポーツマン同士の熱い助け合いがこんな大きなペナルティになるなんて、非常に残念だ」との声明を出した。2分のペナルティーを受け入れ、そして残る2週間で挽回する意気込みを見せる。ここまで存在感を見せていなかったチームスカイが攻撃に転じることは想像に容易い。
text&photo:Kei Tsuji in Forli, Italy
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