2015/02/07(土) - 09:05
コンポーネントのみならず、シューズにおいても長い歴史とノウハウを持つシマノ。そのシマノのロードレース用ハイエンドシューズがフルモデルチェンジを果たした。これまでのシマノシューズから、大きな進化を果たした最新モデル「SH-R321」をインプレッション。
シマノといえば、まず思いつくのがデュラエースをはじめとしたコンポーネントだろう。卓越した技術力と多くのトッププロの勝利を支えてきた実績は、まさしく世界トップと呼ぶにふさわしい。そして、その陰に隠れがちであるが、プロ選手をはじめとした多くのサイクリストの支持を受けてきたのがビンディングシューズだ。
今回インプレッションするのは、その中でもトップモデルに君臨するSH-R321。今年のツール・ド・フランスでスプリント勝利を量産したマルセル・キッテル(ドイツ、ジャイアントシマノ)の足元を支えていたことでも注目されてきた一足だ。
今作のもっとも大きな特徴は「サラウンドラップ」と呼ばれるアッパー。SH-R321のアッパーは、前作のSH-R320、そしてこれまでのシマノシューズのように多くのパネルを使ったアッパーとは全く異なる設計思想を持つ。内足部と外足部、2枚の薄手の合成皮革によって構成されたアッパーが、足を包み込むようにフィットするのだ。
クロージャー部分も独創的な設計がなされている。ベルクロ2本とラチェット一つという構成はオーソドックスなものだが、バックルの付き方が通常のシューズとは逆になっているのだ。また、ラチェット板のポジションを前後2箇所で調整することができ、微妙な締め付け感の調整が可能となっている。
アウトソールにはシマノが誇るソール形状「ダイナラスト」を採用した超軽量の中空UDカーボンソールを採用している。ソールの底面形状を最適化することでペダリング効率を低下させる「ブレーキングロス」を減少するとともに、ソールのたわみを抑制し、ダイレクト感のあるペダリングフィールを追求している。
シマノのフラッグシップモデルらしく、カスタムフィットにも対応している。従来はインソール、ヒールカップ、外足部の3ヵ所が成形可能であったが、今作ではさらにアーチ部と足の甲にもサーモプラスチックが追加され、成形可能部位が5ヵ所に増え大きく進化した。さて、それではインプレッションに移ろう。
ーインプレッション
「これまでとは全く異なるフィット感を持つレーシングシューズ」安岡直輝(cyclowired.jp)
昨夏、プロレースシーンで見慣れないデザインのシューズをジャイアント・シマノの選手が履いていることに気付いた。これまでのシマノシューズの系譜からは大きく逸脱する、いや、これまでのどのシューズブランドにも存在しなかった未来的なデザインに目を奪われてしまった。堂々と配置された「SHIMANO」ロゴがなんとも潔くかっこいいではないか。
そのシューズはSH-R321という名で、下位モデルのSH-R171とともにユーロバイクで正式に発表された。ネーミングについては、選手の履いていたシューズに大きくプリントされていたので予想されていた通り。ただ、SH-R330というモデル名をつけられていても違和感がないほど、大きく手を入れられていることは少し見るだけでもわかった。
ぜひ一度履いてみたいと思い今回のインプレッションに結びついたわけだが、このシューズ、サイズ感が少し独特だ。これまでのシューズでは40サイズのシューズを愛用していたのだが、SH-R321では39.5サイズでちょうど良いフィット感が得られる。
また、これまでのシマノシューズといえば、ワイドモデルは幅広、ノーマルモデルはかなり幅狭のイメージだったが、それも少し違う。今回履いたのはノーマルモデルであるが、横幅に関しては若干のゆとりを感じるほど。サイズが近しい他の編集部員や知人に履かせても、横幅に関してきつく感じることはないという。
一方で、甲の高さはかなり低めに作られているようだ。前足部がかなり低めのようで、ベルクロのかかりしろは少し浅くなってしまう。かといって、押さえつけられているような感触がないのは、サラウンドラップアッパーの効果によるものなのだろう。
そのサラウンドラップアッパーだが、奇抜な見た目とは裏腹に極めて高いフィット感でもって足を包んでくれる。外足側のアッパーが内側まで回り込み、タンと一体化されているデザインになっていることが、快適性に大きく貢献しているのだろう。まさに足がラッピングされているような感覚。タンがなくなっているためズレることもないし、履きやすくなっているのも好印象。
もう一つの特徴であるバックルは、締める側のレバーと解放する側のレバーが一般的なバックルとは逆のため、操作を間違えそうになるのでは?と感じたが、実際に使用している限りにおいて間違えたのは最初の1度だけ。むしろ、締めるときに押し込む方向に、開放するときに引き上げる方向にバックルを動かすので直感的にわかりやすいといえる。
アジャストできるラチェット板の位置については、個人的には後ろの穴に設置したほうがフィット感がよかったが、これは足の甲の高さによって変わってくると思われる。ラチェットを締めこんだ時に、アッパーにシワが寄りにくい位置に設定すれば良いだろう。
また、カスタムフィット対応のインソールは、シューズ付属のインソールとは思えないほどしっかりとしたつくり。特にアーチ部がしっかりとサポートされるようになっており、土踏まずが沈みこまないように受け止めてくれる。付属のパーツを交換することでアーチサポートが調整可能となっているのも、フィッティングへのこだわりが感じ取れる。
と、ここまでフィット感について語ってきたが、これはカスタムフィットで成形する前の感想である。正直、成形する必要があるのか?と内心疑問に思うほど優れたフィット感をもつSH-R321だが、それはそれとしてカスタムフィットも試してみた。
結果からいえば、上には上がいたのか、というところ。私は右足の方が幅が狭く、成形前は右足に少しゆとりを感じた。成形後は左右のフィット感が揃い、違和感は完全に解消された。足と靴が一体化したかのような感覚はまるでオーダーシューズのような、いやもしかしたらそれ以上の悦楽を足にもたらしてくれる。もう2-3足、予備で買っておくかと思うほどのフィット感はなかなかない。
さて、それでは実走である。走行時でも、足全体をしっかりとホールドしてくれる感覚はもちろん健在。普通のシューズであれば、少し緩めにラチェットを締めておいて、勝負所で強めに締めるという使い方をする人も多いだろうが、このシューズに限っていえば、ずっとキツめに締めていても全く不快感がないので、走行中にバックルをいじる機会がぐっと減るだろう。
かかと部も、ヒールサポートや滑り止め素材が配されていることでかかとが浮くような感覚は一切感じさせない。かかとをホールドするために足首の後ろ側がキュッと絞られたデザインのシューズだと、合わない人は擦れて痛みを感じることもあるが、SH-R321はその心配も少ない。
シマノ自慢のダイナラストを採用したアウトソールは、入力に対して一切のたわみを感じさせることなく、ペダリングパワーをクランクへ直接繋いでくれるかのような反応で答えてくれる。シマノが謳うブレーキングロスの低減については、確かに腿の上げ下げがしやすくなったような感覚はあった。
そしてもう一つ、これは少しシューズから逸れてしまうのだが、同時にサンプルをお借りしたデュラエースグレードのペダルPD-9000について。恥ずかしながら初めてのシマノペダルだったのだが、正直驚いた。高い剛性感と、広い踏み面による安定感はレースで絶対的に有利になると感じるほど。コーナーでの操作性や立ち上がりでの加速しやすさということを考えると、シマノペダルユーザーはロードレースで大きなアドバンテージを持っているといえるだろう。
さて、すこし話が脱線したが、SH-R321は新たなアッパーデザインによって、これまでのシューズとは全く異なるフィット感を持つレーシングシューズだといえる。レースをする人はもちろん、ロングライド派にもこの足に優しいフィット感は強い味方となるに違いない。重ねてになるが、サイズ感が大き目なので、購入を検討する方はいつもより1~0.5サイズ下のモデルから試し履きをしてみたほうが良いだろう。
シマノ SH-R321
アッパー素材:アベイル100&3Dメッシュ素材
ソール:カーボンファイバーコンポジットソール
ソール形状:ノーマル、ワイド
ラスト:SHIMANO DYNALAST
サイズ:36〜38、39〜43(ハーフサイズあり)、44〜48(36、37、47、48は受注生産)
カラー:ホワイト、ブラック
重 量:489g(40サイズ)
価 格:35,000円(税抜)
text:Naoki.Yasuoka
photo:Makoto.AYANO
シマノといえば、まず思いつくのがデュラエースをはじめとしたコンポーネントだろう。卓越した技術力と多くのトッププロの勝利を支えてきた実績は、まさしく世界トップと呼ぶにふさわしい。そして、その陰に隠れがちであるが、プロ選手をはじめとした多くのサイクリストの支持を受けてきたのがビンディングシューズだ。
今回インプレッションするのは、その中でもトップモデルに君臨するSH-R321。今年のツール・ド・フランスでスプリント勝利を量産したマルセル・キッテル(ドイツ、ジャイアントシマノ)の足元を支えていたことでも注目されてきた一足だ。
今作のもっとも大きな特徴は「サラウンドラップ」と呼ばれるアッパー。SH-R321のアッパーは、前作のSH-R320、そしてこれまでのシマノシューズのように多くのパネルを使ったアッパーとは全く異なる設計思想を持つ。内足部と外足部、2枚の薄手の合成皮革によって構成されたアッパーが、足を包み込むようにフィットするのだ。
クロージャー部分も独創的な設計がなされている。ベルクロ2本とラチェット一つという構成はオーソドックスなものだが、バックルの付き方が通常のシューズとは逆になっているのだ。また、ラチェット板のポジションを前後2箇所で調整することができ、微妙な締め付け感の調整が可能となっている。
アウトソールにはシマノが誇るソール形状「ダイナラスト」を採用した超軽量の中空UDカーボンソールを採用している。ソールの底面形状を最適化することでペダリング効率を低下させる「ブレーキングロス」を減少するとともに、ソールのたわみを抑制し、ダイレクト感のあるペダリングフィールを追求している。
シマノのフラッグシップモデルらしく、カスタムフィットにも対応している。従来はインソール、ヒールカップ、外足部の3ヵ所が成形可能であったが、今作ではさらにアーチ部と足の甲にもサーモプラスチックが追加され、成形可能部位が5ヵ所に増え大きく進化した。さて、それではインプレッションに移ろう。
ーインプレッション
「これまでとは全く異なるフィット感を持つレーシングシューズ」安岡直輝(cyclowired.jp)
昨夏、プロレースシーンで見慣れないデザインのシューズをジャイアント・シマノの選手が履いていることに気付いた。これまでのシマノシューズの系譜からは大きく逸脱する、いや、これまでのどのシューズブランドにも存在しなかった未来的なデザインに目を奪われてしまった。堂々と配置された「SHIMANO」ロゴがなんとも潔くかっこいいではないか。
そのシューズはSH-R321という名で、下位モデルのSH-R171とともにユーロバイクで正式に発表された。ネーミングについては、選手の履いていたシューズに大きくプリントされていたので予想されていた通り。ただ、SH-R330というモデル名をつけられていても違和感がないほど、大きく手を入れられていることは少し見るだけでもわかった。
ぜひ一度履いてみたいと思い今回のインプレッションに結びついたわけだが、このシューズ、サイズ感が少し独特だ。これまでのシューズでは40サイズのシューズを愛用していたのだが、SH-R321では39.5サイズでちょうど良いフィット感が得られる。
また、これまでのシマノシューズといえば、ワイドモデルは幅広、ノーマルモデルはかなり幅狭のイメージだったが、それも少し違う。今回履いたのはノーマルモデルであるが、横幅に関しては若干のゆとりを感じるほど。サイズが近しい他の編集部員や知人に履かせても、横幅に関してきつく感じることはないという。
一方で、甲の高さはかなり低めに作られているようだ。前足部がかなり低めのようで、ベルクロのかかりしろは少し浅くなってしまう。かといって、押さえつけられているような感触がないのは、サラウンドラップアッパーの効果によるものなのだろう。
そのサラウンドラップアッパーだが、奇抜な見た目とは裏腹に極めて高いフィット感でもって足を包んでくれる。外足側のアッパーが内側まで回り込み、タンと一体化されているデザインになっていることが、快適性に大きく貢献しているのだろう。まさに足がラッピングされているような感覚。タンがなくなっているためズレることもないし、履きやすくなっているのも好印象。
もう一つの特徴であるバックルは、締める側のレバーと解放する側のレバーが一般的なバックルとは逆のため、操作を間違えそうになるのでは?と感じたが、実際に使用している限りにおいて間違えたのは最初の1度だけ。むしろ、締めるときに押し込む方向に、開放するときに引き上げる方向にバックルを動かすので直感的にわかりやすいといえる。
アジャストできるラチェット板の位置については、個人的には後ろの穴に設置したほうがフィット感がよかったが、これは足の甲の高さによって変わってくると思われる。ラチェットを締めこんだ時に、アッパーにシワが寄りにくい位置に設定すれば良いだろう。
また、カスタムフィット対応のインソールは、シューズ付属のインソールとは思えないほどしっかりとしたつくり。特にアーチ部がしっかりとサポートされるようになっており、土踏まずが沈みこまないように受け止めてくれる。付属のパーツを交換することでアーチサポートが調整可能となっているのも、フィッティングへのこだわりが感じ取れる。
と、ここまでフィット感について語ってきたが、これはカスタムフィットで成形する前の感想である。正直、成形する必要があるのか?と内心疑問に思うほど優れたフィット感をもつSH-R321だが、それはそれとしてカスタムフィットも試してみた。
結果からいえば、上には上がいたのか、というところ。私は右足の方が幅が狭く、成形前は右足に少しゆとりを感じた。成形後は左右のフィット感が揃い、違和感は完全に解消された。足と靴が一体化したかのような感覚はまるでオーダーシューズのような、いやもしかしたらそれ以上の悦楽を足にもたらしてくれる。もう2-3足、予備で買っておくかと思うほどのフィット感はなかなかない。
さて、それでは実走である。走行時でも、足全体をしっかりとホールドしてくれる感覚はもちろん健在。普通のシューズであれば、少し緩めにラチェットを締めておいて、勝負所で強めに締めるという使い方をする人も多いだろうが、このシューズに限っていえば、ずっとキツめに締めていても全く不快感がないので、走行中にバックルをいじる機会がぐっと減るだろう。
かかと部も、ヒールサポートや滑り止め素材が配されていることでかかとが浮くような感覚は一切感じさせない。かかとをホールドするために足首の後ろ側がキュッと絞られたデザインのシューズだと、合わない人は擦れて痛みを感じることもあるが、SH-R321はその心配も少ない。
シマノ自慢のダイナラストを採用したアウトソールは、入力に対して一切のたわみを感じさせることなく、ペダリングパワーをクランクへ直接繋いでくれるかのような反応で答えてくれる。シマノが謳うブレーキングロスの低減については、確かに腿の上げ下げがしやすくなったような感覚はあった。
そしてもう一つ、これは少しシューズから逸れてしまうのだが、同時にサンプルをお借りしたデュラエースグレードのペダルPD-9000について。恥ずかしながら初めてのシマノペダルだったのだが、正直驚いた。高い剛性感と、広い踏み面による安定感はレースで絶対的に有利になると感じるほど。コーナーでの操作性や立ち上がりでの加速しやすさということを考えると、シマノペダルユーザーはロードレースで大きなアドバンテージを持っているといえるだろう。
さて、すこし話が脱線したが、SH-R321は新たなアッパーデザインによって、これまでのシューズとは全く異なるフィット感を持つレーシングシューズだといえる。レースをする人はもちろん、ロングライド派にもこの足に優しいフィット感は強い味方となるに違いない。重ねてになるが、サイズ感が大き目なので、購入を検討する方はいつもより1~0.5サイズ下のモデルから試し履きをしてみたほうが良いだろう。
シマノ SH-R321
アッパー素材:アベイル100&3Dメッシュ素材
ソール:カーボンファイバーコンポジットソール
ソール形状:ノーマル、ワイド
ラスト:SHIMANO DYNALAST
サイズ:36〜38、39〜43(ハーフサイズあり)、44〜48(36、37、47、48は受注生産)
カラー:ホワイト、ブラック
重 量:489g(40サイズ)
価 格:35,000円(税抜)
text:Naoki.Yasuoka
photo:Makoto.AYANO
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