2015年、新たなバイクブランドが日本に上陸した。DARE(ディアー)と名乗るそのブランドは、新興ながらも確かな技術力を売りにしている。世界の有名ブランドのOEM生産で培ったノウハウを生かした山岳用軽量バイク、MR1の実力を紐解いていこう。



DARE MR1DARE MR1 (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
DAREは2011年に立ち上がったばかりの新興ブランド。だが、そのルーツにあるのは、10年以上にわたって数多くのブランドのカーボンバイクのOEM生産を請け負ってきたメーカーであり、カーボンフレーム専業のOEMメーカーとして、常に最新のテクノロジーに触れてきた。

OEM生産を支えてきた高い生産技術によって、安定して高い品質を持ったカーボン製品を製作できることがDAREの強みである。そして、デザインの分野においても優れた技術をもっており、欧米の大手バイクメーカーのカーボンフレームの生産のみならず、設計にも携わってきた経験もあるのだ。

これまでの過程においてカーボンバイクに関しての知識や経験、そしてノウハウを蓄積してきたDARE。もちろん、カーボン素材を供給するマテリアルメーカーや、バイクを構成するパーツブランドとも密接な関係を持ち、最新の素材や部品の規格についての知見を広く持っているブランドでもある。

一見華奢に見えるフロントフォークだが、剛性感は十二分だ一見華奢に見えるフロントフォークだが、剛性感は十二分だ 段付き形状のヘッドチューブ。ベアリング径は上1-1/8 - 下1-1/4段付き形状のヘッドチューブ。ベアリング径は上1-1/8 - 下1-1/4 シートチューブはBBシェルに向かうにつれてワイド形状にシートチューブはBBシェルに向かうにつれてワイド形状に


DAREがバイクに込める信念は、高級なブランドの製品よりも高品質で、コストを抑えたハイレベルな製品をユーザーに提供していきたいという、わかりやすいもの。そのため特にR&Dに力を注いでおり、プロ選手からの声や販売店の声を拾い上げ製品開発にフィードバックしているという。

もちろん、それらの要望をフィードバックするためには高い分析力や開発力が必要となるわけであるが、長年OEMメーカーとして大小さまざまなメーカーの要望をかなえてきたDAREにとっては慣れたものなのだろう。

トップチューブはシートチューブに近づくにつれて微妙にフォルムを変えるトップチューブはシートチューブに近づくにつれて微妙にフォルムを変える フレームにインテグレートしたフロントフォークフレームにインテグレートしたフロントフォーク

シートポスト下側のチューブ交点はかなり複雑なフォルムを見せるシートポスト下側のチューブ交点はかなり複雑なフォルムを見せる BBのシェル幅いっぱいに広げられたボトムブラケット周辺の様子BBのシェル幅いっぱいに広げられたボトムブラケット周辺の様子


さて、そんなDAREの処女作となるのが、今回インプレッションするMR1だ。Mountain Race1の略称ということからも窺えるように、軽量で登りが得意なクライミングバイクとして、開発されたモデルだ。フレーム素材には、東レとDAREの共同開発によって誕生した「MS-HMC」を採用している。

「MS-HMC」とは、M30SおよびM40Sハイモジュラスカーボンという2種類の高弾性炭素繊維を独自の方法でブレンドしたカーボンファイバー樹脂含浸システム。同じ東レのカーボンでも、ミドル〜高級なカーボンフレームに使用されることで良くその名前を耳にする「T700」や「T1000」といったモデルよりも引張弾性率の高い素材を使用することで、軽量ながらも高いねじれ剛性を獲得している。

具体的な数値を示せば、重量850gの510サイズでは、剛性は105Nm/°以上をマーク。もちろん、優れたマテリアルのみではこの数字は達成できず、OEMメーカーとして培ってきたカーボンファイバー成型技術を最大限に駆使し、フレーム各チューブの直径を最大化することで最大の強度と最小の重量を併せ持った設計を可能とした。

リアエンドのフォルムも特徴的だ。屈曲を設けて衝撃吸収を狙う意図が見て取れるリアエンドのフォルムも特徴的だ。屈曲を設けて衝撃吸収を狙う意図が見て取れる 力強いフォルムのチェーンステー力強いフォルムのチェーンステー


中空高圧成型とコアスムーズ成型技術を利用し、チューブの厚みを最小に抑え、ボトムブラケットやヘッドチューブといった、多くのチューブが集合する複雑な区域の内壁をスムーズにすることで、フレームの品質と剛性を向上させている。86.5mm幅プレスフィットのBB規格と合わせて、ねじれ剛性と踏力の伝達効率において、考えうる限り最大の重量剛性比を達成しているのだ。

フレームデザインとしては近年のGC系ロードバイク然とした佇まいだ。セミスローピングのフレームは踏力を受け止めるパワーゾーン、快適性を担保するコンフォートゾーンというように、各々の役割を明確にされた設計がされていることが見て取れる。

パワーゾーンはボリュームのあるダウンチューブや、左右非対称に設計されペダリングパワーの伝達に最適化されたBB部によって構成され、高い伝達効率をもたらしてくれる。一方でコンフォートゾーンの中核を成すのは非常に細く成形されたリアステーだ。

シートポストは一般的な27.2mm径シートポストは一般的な27.2mm径 シートチューブ後方はホイールに沿ってえぐられているシートチューブ後方はホイールに沿ってえぐられている コンパクトなリアバック。マッシブなチェーンステーに対してシートステーはかなり細身の造りだコンパクトなリアバック。マッシブなチェーンステーに対してシートステーはかなり細身の造りだ


さらにエアロダイナミクスも考慮されており、近年のエアロバイクのトレンドである、フォーククラウンがダウンチューブに内蔵されたデザインを採用。すっきりとしたルックスと空気抵抗の最少化を実現している。ワイヤー類は全て内蔵化されており、空気抵抗を減少させるとともに、メンテナンスライフも長くしている。もちろんDi2にも対応しており、ここ数年のロードバイクのトレンドを全て詰め込んだようなスペックのバイクとして完成しているのだ。

さて、そんな最新スペックの塊のMR-1。果たして、この新興メーカーの意欲作を2人のテストライダーはどう判断するのか。今回のテストバイクにアッセンブルされているのは、9000系デュラエースにWH-9000 C35TUホイール。タイヤはヴィットリア CORSA EVO CXだ。それでは早速インプレッションに移ろう。



—インプレッション

「しっかりとした走りが味わえるクライマー系オールラウンダー」藤野智一(なるしまフレンド)

「しっかりとした走りが味わえるクライマー系オールラウンダー」藤野智一(なるしまフレンド)「しっかりとした走りが味わえるクライマー系オールラウンダー」藤野智一(なるしまフレンド) 軽量オールラウンドフレームですから、やはり登り性能は光る部分です。普通の超軽量バイクでは登りだけに偏ることが多いのですが、このMR1はハンドリングもナチュラルですし、下りだって不安無く攻めることができます。それでいてゴール勝負に残ればスプリントだって伸びてくれるという、全部の性能が多く盛り込まれた自転車だと感じました。

軽さ由来の気持ちよい加速感が特徴で、細身なフロントフォークも実は芯が強く、縦横どちらにも十分に信頼性が高い。これはダウンヒルでの安心感にも繋がっていましたし、ボリュームのあるヘッドチューブが組み合わさることでブレーキング時もデュラエースの制動力に負けることがありませんでした。

コーナリング時のハンドリングはニュートラルで、比較的切れ味は鋭いと言ったところでしょうか。振動吸収性は若干硬めで、低速〜中速域では問題ありませんが、高速域ではフレーム側の振動収束が若干追いつかず暴れるイメージがありました。ただこれは低速〜中速時と比較しての話ですから、特に問題になる範囲ではないでしょう。

ダンシングの振りはシャープですが、シッティングの際には意外とニュートラルなハンドリングがあります。これはヘッドアングルとフォークの硬さ、そしてトレール値のバランスによって決まってくる部分なのですが、そのバランスがちょうど良く決まっているのでしょう。ヒルクライムでふらふらになってしまった時にも慌てなくて済みます(笑)。

ただし緩い登りを軽めのギアでダンシングした場合、スカスカと力が抜けてしまう感じがありました。しかしある程度重ためのギアを選び、ギュッと力を掛ければ後ろから押し出されるようなフィーリングがありますね。これは平坦路でスプリントを掛けた際にも体感できるポイントでした。また激坂では軽めのギアを使うとよく進みましたし、特に上りでは不得意な場面が見つかりません。

一般的に軽量フレームは重心が高く、不安感に繋がることがありますが、MR1にはそれがありません。試乗車にはデュラエースC35ホイールがアッセンブルされていましたが、この組み合わせならどんなレースにもオールラウンドに対応できるはず。対して柔らかめのホイールではフレームの反発力に負けてしまって前に進まないかもしれません。

かなり安価ではありますが、実業団最高峰クラスのカテゴリーでもしっかりと使える性能を兼ね備えていることに驚きました。軽さや特性を活かしてヒルクライムで結果を出したい方、ロードレースにしっかりと参加される方にオススメできるフレームです。


「登り性能が突出している。この価格でこの性能を出せるとは驚き」山本雅道(BICYCLE FACTORY YAMAMOTO)

「登り性能が突出している。この価格でこの性能を出せるとは驚き」山本雅道(BICYCLE FACTORY YAMAMOTO)「登り性能が突出している。この価格でこの性能を出せるとは驚き」山本雅道(BICYCLE FACTORY YAMAMOTO) 素直に「良いですね」という言葉が出てくるバイクです。乗って軽さがありますし、進むし、登りも気持ち良く進む。スプリンター向きでこそありませんが、新興ブランドでかつ25万円という価格を踏まえれば、とても優秀な造りになっていると思います。

全体的なフィーリングは他社の40万円クラスのバイクとほぼ同じレベルにまで近づいていると思います。全くクセが無く扱いやすいうえ、パリッとした軽く乾いた乗り味は、とても25万円のバイクだとは感じません。

自転車には様々な要素が求められますが、その中でもやはり登りの性能は突出しています。スプリント的な踏み方をした場合は若干リア周りの柔らかさが目立ちますが、シッティングでは高めのケイデンスで回しても、重たいギアを掛けても気持ち良くスッとバイクが前に出てくれました。ダンシングでは軽いギアを回していく乗り方が良さそうです。

デメリットを挙げるとすれば、先に述べたようにリアの柔らかさによってアタックが絶えず掛かるような場合やスプリント、平地の高速巡航が少し苦手かもしれない、ということでしょうか。ハイパワーで踏みつけるような乗り方をする方でしたら他のバイクを選んだ方が良いでしょう。

レーシングバイクですから比較的路面からの突き上げを拾いますが、でもそれは軽さとのトレードオフ。ただ嫌になるほどではありませんから、タイヤやホイールの工夫で収まる範囲内だと感じます。テストはカーボンホイールで行いましたが、例えば軽量で剛性のあるアルミホイールだとより反応性が高まるでしょう。アルミのデュラエースやキシリウムは性格上マッチするでしょうね。

そうした各種性能から察するに、一番は長い距離のヒルクライムに向いていると感じます。基本的にどんなシチュエーションでも問題無くこなしますが、サーキットレースでは修善寺のようなアップダウンの厳しいコースに向いてるでしょう。

とかく25万円でこの性能が出せていることには驚くばかりです。あまり予算を掛けずに軽いバイクが欲しい方、例えば学生レーサーには向いているでしょう。まだまだ知名度の低いブランドですが、かなりの実力があると感じています。既存のブランドは少し嫌がるかもしれませんね(笑)。ワイヤリングにしても比較的シンプルですし、何にしても扱いやすいでしょうね。

DARE MR1DARE MR1 (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
DARE MR1
フレーム:700c MS-HM full carbon monocoque frame
フォーク:MS-HM full carbon monocoque fork
ヘッドセット:DRA 1-1/8 - 1-1/4インチ full cattridge bearings head set
シートクランプ:DRA 31.8mm full CNC super light seat clamp
サイズ:450、480、510、540mm
カラー:PHANTOM、KNIGHT WHITE、オーダーカラー(RED、GREEN、ORANGE、PINK、YELLOW、BLUE)
価格:249,000円(税抜)、300,000円(税抜、オーダーカラー)



インプレライダーのプロフィール

藤野智一(なるしまフレンド)藤野智一(なるしまフレンド) 藤野智一(なるしまフレンド)

92年のバルセロナオリンピックロードレースでの21位を皮切りに、94・97年にツール・ド・おきなわ優勝、98、99年は2年連続で全日本ロードチャンピオンとなるなど輝かしい戦歴を持つ。02年に引退してからはチームブリヂストン・アンカーで若手育成に取り組み、11年までは同チームの監督を務めた。2012年より出身チームのなるしまフレンドに勤務し、現在は神宮店の店長を務める。

なるしまフレンド神宮店
CWレコメンドショップ

山本雅道(BICYCLE FACTORY YAMAMOTO)山本雅道(BICYCLE FACTORY YAMAMOTO) 山本雅道(BICYCLE FACTORY YAMAMOTO)

1978年神奈川県藤沢市生まれ。中学生2年生の頃藤沢市の自転車店ワタナベレーシングに入会し本格的に自転車競技を始める。高校卒業後は4年間のヨーロッパ選手生活を経て2000年からは国内トップチームで活躍した。U23全日本選手権2連覇をはじめ、優勝経歴多数。選手時代から地元でキッズ向け自転車スクールを開催するなど活動を行い、2013年6月に出身ショップを引き継ぐかたちで「BICYCLE FACTORY YAMAMOTO」をオープンさせた。

BICYCLE FACTORY YAMAMOTO


ウェア協力:sportful(日直商会)

text:Naoki,YASUOKA
photo:Makoto.AYANO、So.Isobe