大雨によって完全にウェットな状態になったベルジュラックの街に差し掛かったところで、メイン集団の中に落車が発生。優勝候補の一人サガンらが巻き込まれる中、残り13kmでアタックしたラムナス・ナヴァルダスカス(リトアニア、ガーミン・シャープ)がフィニッシュまで独走した。



雨のヒマワリ畑がツールを見守る雨のヒマワリ畑がツールを見守る photo:Tim de Waele


ツール・ド・フランス2014第19ステージツール・ド・フランス2014第19ステージ image:A.S.O.ピレネー山脈に別れを告げて、プロトンはパリへの北上を開始する。その道中に大きな山や丘は存在しない。208.5kmの道のりはほとんど真っ平らであり、目立つ起伏と言えば残り13km地点で登場する4級山岳モンバジャック(1.3km/7.6%)だけだ。

逃げグループを率いるマルティン・エルミガー(スイス、IAMサイクリング)逃げグループを率いるマルティン・エルミガー(スイス、IAMサイクリング) photo:Tim de Waele山岳ステージをグルペットで乗り越えてきたスプリンターたちにとって、決して落とすわけにはいかない貴重なチャンス。しかしモチベーションが高いのはまだステージ優勝を掴んでいない逃げのスペシャリストたちも同様だ。この日もシリル・ゴティエ(フランス、ユーロップカー)のファーストアタックでレースが動き始めた。

象が沿道でツールを見守る象が沿道でツールを見守る photo:Tim de Waeleゴティエにはマルティン・エルミガー(スイス、IAMサイクリング)、トムイェルテ・スラグテル(オランダ、ガーミン・シャープ)、レイン・ターラマエ(エストニア、コフィディス)、アルノー・ジェラール(フランス、ブルターニュ・セシェ)の4名が追いついて先頭は5名に。

曇り空のモブルゲ・ペイ・ドゥ・ヴァルダドゥールを経った時点では曇り空だったが、レースが進むうちに雨雲が選手たちの頭上に広がるようになる。5時間近いレースのうちそのほとんどが雨降りに。アシストたちはレインジャケットやジレを取るためにチームカーに下がった。

先頭5名とメイン集団のタイム差は2〜4分を行ったり来たり。ステージ優勝狙いのキャノンデールやジャイアント・シマノ、ロット・ベリソル、カチューシャが集団のペースをコントロールする。

同時に先頭4名も慎重にペースをコントロール。互いの間合いを計りながら、降り続く雨に眼を細めて走り続けた。



大雨のフランス西部を走るプロトン大雨のフランス西部を走るプロトン photo:Tim de Waele
ラヴァルダックの村を通過するシリル・ゴティエ(フランス、ユーロップカー)率いる逃げグループラヴァルダックの村を通過するシリル・ゴティエ(フランス、ユーロップカー)率いる逃げグループ photo:Makoto Ayano船の上から声援を送る船の上から声援を送る photo:Tim de Waele



逃げグループから飛び出したトムイェルテ・スラグテル(オランダ、ガーミン・シャープ)逃げグループから飛び出したトムイェルテ・スラグテル(オランダ、ガーミン・シャープ) photo:Tim de Waeleタイム差が1分に近づく頃、先頭グループでは早くも次なる動きが生まれる。ガーミン・シャープのチームカーを運転するロバート・ハンター監督の指示を受けて、残り32km地点でスラグテルがアタック。一発で4名を振り切ったスラグテルが独走を開始する。

独走するラムナス・ナヴァルダスカス(リトアニア、ガーミン・シャープ)独走するラムナス・ナヴァルダスカス(リトアニア、ガーミン・シャープ) photo:Tim de Waele一方のメイン集団では残り20km地点でヤン・バケランツ(ベルギー、オメガファーマ・クイックステップ)がアタックするなど落ち着かない。完全にウェットなコースで中切れを起こしながらも、この日唯一の4級山岳モンバジャックで先頭スラグテルを視界に捉えた。

残り3kmを切ってから発生した大落車残り3kmを切ってから発生した大落車 photo:Tim de Waele葡萄畑の丘を駆け上がる登りでマルセル・キッテル(ドイツ、ジャイアント・シマノ)をはじめとするピュアスプリンターは脱落。すると頂上手前でナヴァルダスカスがメイン集団から勢い良くアタック。すぐさまナヴァルダスカスは頂上通過後に先頭に追いついたものの、チームメイトのスラグテルはそのハイペースに対応出来ずに千切れた。

残り3kmを切って落車したペーター・サガン(スロバキア、キャノンデール)ら残り3kmを切って落車したペーター・サガン(スロバキア、キャノンデール)ら photo:Tim de Waeleこうしてナヴァルダスカスの単独エスケープが始まった。4級山岳の頂上からフィニッシュラインまでは13km。4級山岳でスプリンターチームが人数を失ったため、メイン集団のペースが上がり切らない。

逃げ切りでステージ初優勝を掴んだラムナス・ナヴァルダスカス(リトアニア、ガーミン・シャープ)逃げ切りでステージ初優勝を掴んだラムナス・ナヴァルダスカス(リトアニア、ガーミン・シャープ) photo:Tim de Waele第15ステージで惜しくも逃げ切りを逃したジャック・バウアー(ニュージーランド、ガーミン・シャープ)が集団先頭でローテーションを阻害する好プレー。ナヴァルダスカスは20秒リードで独走を続けた。

残り6km地点でティンコフ・サクソとオメガファーマ・クイックステップがトレインを組んで追撃したものの、濡れた路面も影響してペースが上がり切らない。すると残り3kmを切ったところで優勝候補のペーター・サガン(スロバキア、キャノンデール)らを含む大落車が発生する。地面に叩き付けられたロメン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール)をはじめとして多くの選手が足止めを食らったが、3km以内の救済措置によってタイム差はついていない。

集団先頭で難を逃れたスプリンターたちが最終ストレートでスプリントを開始したものの、その7秒前でナヴァルダスカスが歓喜のガッツポーズ。リトアニア出身の現TTナショナルチャンピオンが独走勝利を果たした。

敢闘賞を獲得したスラグテルと表彰台裏で抱き合ったナヴァルダスカス。2013年ジロ・デ・イタリアでの独走勝利を飾っており、これがツールでのステージ初優勝。チームとして掴んだ初勝利を喜んだ。「今日がラストチャンスだったのでチームで何かを成し遂げたかった。誰かを逃げに送り込んで、最後の4級山岳でアタックする作戦だったんだ。トム(スラグテル)の逃げはインプレッシブだったし、ジャック(バウアー)とセバスティアン(ラングヴェルト)は後方で集団をパトロールしてくれた。自分に出来ることは、TTスペシャリストのように独走することだった」。

終盤に落車が発生したものの、マイヨジョーヌ、マイヨヴェール、マイヨアポワ、マイヨブラン争いに影響は無し。安全にリカバリーに励んだヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)が揺るぎない総合リードを保ったまま翌日の個人タイムトライアルに挑む。総合2位以下3名が15秒差にひしめく混戦状態は継続中だ。

選手コメントはレース公式サイトより。



2位争いのスプリントでジョン・デゲンコルブ(ドイツ、ジャイアント・シマノ)が先着2位争いのスプリントでジョン・デゲンコルブ(ドイツ、ジャイアント・シマノ)が先着 photo:Makoto Ayanoステージ優勝を飾ったラムナス・ナヴァルダスカス(リトアニア、ガーミン・シャープ)ステージ優勝を飾ったラムナス・ナヴァルダスカス(リトアニア、ガーミン・シャープ) photo:Makoto Ayano



ツール・ド・フランス2014第18ステージ結果
1位 ラムナス・ナヴァルダスカス(リトアニア、ガーミン・シャープ)
2位 ジョン・デゲンコルブ(ドイツ、ジャイアント・シマノ)
3位 アレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ)
4位 マーク・レンショー(オーストラリア、オメガファーマ・クイックステップ)
5位 ダニエーレ・ベンナーティ(イタリア、ティンコフ・サクソ)
6位 アレッサンドロ・ペタッキ(イタリア、オメガファーマ・クイックステップ)
7位 サミュエル・ドゥムラン(フランス、AG2Rラモンディアール)
8位 ジュリアン・シモン(フランス、コフィディス)
9位 セプ・ファンマルク(ベルギー、ベルキン)
10位 ユルゲン・ルーランズ(ベルギー、ロット・ベリソル)
4h43'41"
+07"









マイヨジョーヌ(個人総合成績)
1位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)
2位 ティボー・ピノ(フランス、FDJ.fr)
3位 ジャンクリストフ・ペロー(フランス、AG2Rラモンディアール)
4位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)
5位 ロメン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール)
6位 ティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシング)
7位 バウク・モレマ(オランダ、ベルキン)
8位 ローレンス・テンダム(オランダ、ベルキン)
9位 レオポルド・ケーニッヒ(チェコ、ネットアップ・エンドゥーラ)
10位 アイマル・スベルディア(スペイン、トレックファクトリーレーシング)
85h29'33"
+7'10"
+7'23"
+7'25"
+9'27"
+11'34"
+13'56"
+14'15"
+14'37"
+16'25"


マイヨヴェール(ポイント賞)
1位 ペーター・サガン(スロバキア、キャノンデール)
2位 ブライアン・コカール(フランス、ユーロップカー)
3位 アレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ)
417pts
253pts
247pts


マイヨアポワ(山岳賞)
1位 ラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ・サクソ)
2位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)
3位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)
181pts
168pts
112pts


マイヨブラン(ヤングライダー賞)
1位 ティボー・ピノ(フランス、FDJ.fr)
2位 ロメン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール)
3位 ラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ・サクソ)
85h36'43"
+2'17"
+1h09'35"


チーム総合成績
1位 AG2Rラモンディアール
2位 ベルキン
3位 モビスター
256h52'21"
+28'33"
+1h05'47"


ステージ敢闘賞
トムイェルテ・スラグテル(オランダ、ガーミン・シャープ)

text:Kei Tsuji
photo:Tim de Waele, Makoto Ayano

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