2014/07/19(土) - 18:25
いよいよアルプス山岳ステージが始まった。シャムルースとリゾールの2つの山頂フィニッシュが待つ2日間の設定。たった2日のアルプスだが、難しさが凝縮している。
スタート地点になったのはサンテティエンヌのサッカースタジアム「スタッド・ジェフロワ=ギシャール」。フットボールクラブ「ASサンテティエンヌ」のホームスタジアムで、“ル・ショードロン(大釜)”と呼ばれている。その地下道路がチームバスエリアになった。
珍しくメディアのインタビュー依頼に対応したアレハンドロ・バルベルデ(モビスター)。チームバスの入り口のシートに腰掛け、長く時間を割いて質問に応えてくれた。昨年はタイミングの悪いパンクなどでタイムを失い優勝戦線から脱落したが、今年はパヴェでの落車以外大きな不運には見舞われていない。バルベルデは間違いなくこれからのツールのキーとなる。
バルベルデは言う。「今日のステージは自分向きで好みのコース。面白い戦いになると思う。トップ争いをするのは3、4人だろう。僕は今の段階でポディウムに半分登りかけている。でも、僕はもっと高いところを目指す。
ポディウムに向けて争うことになるのは5、6人だろう。僕もその一人だが、ただ今の位置にいることやパリで3位の座になることに甘んじたりはしない。脚の調子はいい。チームも強い。これからは闘いを仕掛けていく。僕がニーバリにとってナンバーワンのライバルかどうかは分からないけど、いい選手はたくさんいる。ポートもその一人だ。
モチベーションは強くある。ここまでの不運はパヴェステージでの1度のクラッシュだけで済んでいるから、悪くない。ここまでのステージも決して楽ではなかったが、今の僕は上を狙える状況にある。厳しいステージが続いた。冷たい雨や、今は暑さ。いつもより平均速度も速いから、エネルギーを多くロスしている」。
暑さに苦しんだ昨日に続き、今日も一段と快晴。予報ではサンテチエンヌは34度、グルノーブルに到達する頃には36度を越える酷暑の真夏日。この暑さとの闘いもレースの大きな要素となったようだ。
スタートしてすぐ、サンテティエンヌ郊外から登り始めるラ・クロワド・モンビュー峠でアタック合戦が始まると、レディオツールが新城幸也の名前をしきりに呼ぶ。ユキヤはいったんは決まりかけた逃げに乗ったようだが、13kmの上りの途中までで再びシャッフル。頂上付近では別の逃げが形成されていた。この日はよく動いたユキヤ。
沿道の観客にはASサンテティエンヌの旗とジャージを着てツールを応援する人が目立つ。そのフットボールクラブも”Les Vert” =緑がチームカラーで、ユーロップカーに似ている。
上りの最後尾、プロトンから遥か離れてアルテュール・ヴィショ(FDj.fr)がチームカーを率いてひとり覇気無く走る。「ヴィショは病気だ」という情報が回ってきた。ステージ序盤を乗り切ればなんとかなると思ってスタートしたが、スタートからのペースが速すぎた。
マルセル・キッテルも落車して最初の峠でほぼ最後尾まで位置を下げてひとりになるが、ジャイアント・シマノのアシストたちが下がって追走に協力。残りのステージ勝利のチャンスを前にタイムアウト失格は受け入れられない。この日、ダニエル・ナバーロ(スペイン、コフィディス)とハニエル・アセベド(コロンビア、ガーミン・シャープ)もリタイアした。
第1週の寒さから一転、酷暑のステージが続く
快晴のなか、向日葵畑の迎える道を東に進み、プロトンはグルノーブルからシャムルースへ。この上りは2001年に山岳個人タイムトライアルで使われたことがある。当時優勝したのはランス・アームストロング(しかし記録は剥奪)。登坂距離は18.2kmと長く、しかし勾配は平均7.3%とコンスタント。急勾配の箇所がなく、一定のリズムをつかみやすい上りだ。そういう意味でも山岳個人TT向き。展望が開けないので標高ほどに高いとは感じられない峠だ。
プロトンがシャムルースの麓に取り付くまでに、観客が暑さに倒れて救急車が数回出動。路面清掃車も散水しながら走り、少しでも涼しくなるように働く。そんななかをサクソ・ティンコフのオーナーのオレグ・ティンコフ氏がチームジャージを着て峠にチャレンジしていた。上りに苦しむことを楽しんでいる様子だが、コンタドールのリタイアで緊張なくツールを楽しむことに切り替えたようだ。
マイヨジョーヌをほぼ確実なものにしたニーバリ
残り10km、ティボー・ピノ(FDJ.fr)のアタックにバルベルデとともに着いて行き、しばらく余裕の表情を見せて一緒に走っていたヴィンチェンツォ・ニーバリ(アスタナ)。そこから軽いアタックで二人を置き去りにし、前を行くラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ・サクソ)とレオポルド・ケーニッヒ(チェコ、ネットアップ・エンドゥーラ)に合流。さらにラスト3kmでアタックを掛けるでもなくこの二人を振り切ると、王者の走りでシャムルース山頂を制した。
マイヨジョーヌを着て両手を高々と挙げ、威風堂々とフィニッシュを切るニーバリ。今ツールではじめて登場した難関山岳での上りフィニッシュにおいて、今居る選手のなかでは山岳での力がずば抜けていることを証明した。パリまであと1週間、総合2位バルベルデとのタイム差は3分37秒に開いた。落車・トラブル以外にこの後のステージに不安要素はなく、2014年ツールはニーバリでほぼ決まったと言っていいだろう。
「ライバルたちに差を付けられてハッピーだ。マイヨ・ジョーヌでの勝利は勝利をより素晴らしい物にしてくれるね。差がついたことで、これからのツールはより落ち着いて走ることができる」とニーバリ。落ち着きを意味する「トランクイッロ」という言葉が何度も口から出た。
バルベルデとの闘いに不満を漏らすピノ
ステージを狙いに行き、それが叶わなかったマイカとケーニッヒのすぐ後ろで煮え切らないバトルを繰り広げていたのがバルベルデとピノだ。二人はニーバリから50秒遅れでゴールに向かうが、最終コーナーで前に居たピノは、ゴール前の直線でスパートしたバルベルデに出し抜かれ、バルベルデに対しては3秒を失った。
後続とのタイム差を開くレースを展開していたつもりのピノに対し、バルベルデは自身の総合順位を脅かすであろうピノに差をつけるレースもしていたようだ。
ステージ3位という結果を残しながらも、ピノはバルベルデの走りに不満気だ。「バルベルデの走りはよく分からないよ。彼はずっと僕の後ろについていて、僕が前に出るように言うと”もういっぱいだ”と言ってそれを拒んだ。でもすぐアタックした。ゴール前はずっと後ろに居たのに突然アタックした。彼は僕に対して差をつけようとしていたんだ。それが彼の戦術。ゲームをしていたんだ。もっと後続にタイム差を付けられたかもしれないのに」。
AG2Rラモンディアールのヴァンサン・ラヴニュー監督はバルベルデのことを、注意しなければいけないダークホースとして「歳取った狐」と呼んだ。バルベルデはまんまとピノを利用し、総合2位をいい状況で手にした。しかしバルベルデはまた尊敬されない要因も作ったと言えそうだ。ピンチに陥った時、協力してくれるチームやライダーはまた減ったのだろう。
ピノとバルデ 90年生まれのフランス人若手2人の活躍
ピノは総合4位に。そしてステージ7位でフィニッシュしたロメン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール)が総合3位に。新人賞マイヨブランの獲得と表彰台の一角にフランス人が入りそうな見通しに、フランスが沸いている。フランスメディアの興味ももはやツール優勝が確実なニーバリのことはニュースではなく、ふたりのフランス人への期待が第1のプライオリティになった感がある。
「バルデとのこれからの山岳での”フランス人の対決”をどう思うか?」と訊かれたピノは応える。「対決とは優勝争いかステージ争いをしている2人に言えることで、僕らがやっているのは順位争い」。
FDJ.frのマルク・マディオ監督はピノの走りに満足気だ。「ティボーの最後の登りの走りは素晴らしかった。早めのアタックで調子の良さをライバルたちに見せつけた。確かにアタックのタイミングが早すぎたかもしれないが、誰かが動かなければレースは動かない。バルベルデは姑息な走りで、死んだと見せかけてアタック。でもそれもレースの一部だ」。
ティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシング)とうまく協力し合い、7位でフィニッシュしたマイヨブランのロメン・バルデ(AG2Rラモンディアール)。脱落したリッチー・ポート(チームスカイ)に代わり3分37秒遅れで総合3位に。
「暑くて、自分向きでないとしても最後のシャムルースの坂には自信があった。リッチーは優秀なライダーだけど、今日は本当に暑くて、誰でもそんな悪い日に陥ることがあるんだ」。 ー スタート地点のサンテティエンヌ近くの出身で、グルノーブルの大学に学んだバルデは、この地方特有の暑さも、シャムルースの坂のことも知り尽くしていた。その勾配のなだらかな長い坂が自分の脚に向いていないこともよく知っていた。
バルデは言う。「僕はもっと違うタイプの上りを好むんだ。今日は登り始めからスピードが速かった。この7%程度の平均勾配ではライバルたちを振り落とすのは難しい。僕がアタックしたのは誰も協力しようとしなかったから。前を行くニーバリ、バルベルデ、ピノらに付けられた差を取り返そうとヴァンガーデレンと協力して走ったんだ。ニーバリのような選手を今日負かすのは難しい。でも、日曜に登るリズール峠やイゾアール峠のことはよく知っている。イゾアールでどれだけの動きがあるか分からないけど、何か動きがあるほど僕にはいい。リズールは差をつけにくい峠だから。そしてより難しい上りのピレネーに入ることを楽しみにしている」。
脱落したリッチー・ポート スカイのプランBは失敗
シャムルースの上り序盤でクラック。ニーバリに対して8分48秒差の大脱落を喫したリッチー・ポート(チームスカイ)。ゲラント・トーマスとミケル・ニエベにサポートされながら覇気無くフィニッシュ。総合2位から総合16位へ。スカイのプランBは、もはやシャンゼリゼのポディウムも実現不可能に。ポートはこの日消化器系の不調に陥っていたという情報があるが、ブレイルスフォード監督はポートの脱落は意外な結果だったと話した。
「今朝、リッチーは健康でやる気をみせていた。彼もこのステージを楽しみにしていたようだった。最後のシャムルースの上りの長さも彼には合っていた。だからこんなことになるとは思っても見なかった。暑くなることは休息日に確認済みで、それについては注意を促していた。それは誰にとっても同じこと。リッチーがとくに暑さに苦しんだとは思っていない。でも、寒かった日から急に暑くなったことで彼は不調に陥ったのかもしれない。いい日ではなかったが、我々は前を向いていく」。
ポートはスカイのウェブサイトにコメントを発表。「とてもがっかりしている。でも、明日何ができるか見ていて欲しい。ここまで、僕に対してしてくれたチームの素晴らしい働きに感謝している。僕に起こることはだれにでも起こること。前に進み続けるしか無い」。
暑さとともに調子を上げるユキヤ アタックを繰り返す
スタート直後の何度にも渡るアタック。それが実らなかったものの、1級山岳パラキ峠では集団の前に出てペースを作り、登れる脚を見せた新城幸也(ユーロップカー)。パラキ峠での走りはアタックのためでなく、ピエール・ロランを最終のシャムルース峠へ先頭集団内で送り届けることが目的だったようだ。
ユキヤは19分35秒遅れの44位でゴールし、総合も73位と上げた。ゴールへの最後の上りでは撮影しているこちらの姿を見つけると、いたずらっぽく笑ってボトルをドロップしていく。(ちなみに私はこのツールで3本目のユキヤボトルをゲット)。
ユキヤは言う。「連日、チームメイトが果敢に攻めて働いていたから今日は自分の出番、本当に逃げに入りたかったけど、何度もチャレンジして、うまく決まらなかった。ツールで逃げることは難しくなっている。その分、山岳に入り良い形でピエールを助けられたので、結果オーライ。暑さにばてている選手もいるが、自分は上りの調子も悪くないので、明日もまた頑張りたい。」
photo&text:Makoto.AYANO in FRANCE
photo:CorVos,TimDeWale,A.S.O,
※新城幸也のコメントはユキヤ通信より
スタート地点になったのはサンテティエンヌのサッカースタジアム「スタッド・ジェフロワ=ギシャール」。フットボールクラブ「ASサンテティエンヌ」のホームスタジアムで、“ル・ショードロン(大釜)”と呼ばれている。その地下道路がチームバスエリアになった。
珍しくメディアのインタビュー依頼に対応したアレハンドロ・バルベルデ(モビスター)。チームバスの入り口のシートに腰掛け、長く時間を割いて質問に応えてくれた。昨年はタイミングの悪いパンクなどでタイムを失い優勝戦線から脱落したが、今年はパヴェでの落車以外大きな不運には見舞われていない。バルベルデは間違いなくこれからのツールのキーとなる。
バルベルデは言う。「今日のステージは自分向きで好みのコース。面白い戦いになると思う。トップ争いをするのは3、4人だろう。僕は今の段階でポディウムに半分登りかけている。でも、僕はもっと高いところを目指す。
ポディウムに向けて争うことになるのは5、6人だろう。僕もその一人だが、ただ今の位置にいることやパリで3位の座になることに甘んじたりはしない。脚の調子はいい。チームも強い。これからは闘いを仕掛けていく。僕がニーバリにとってナンバーワンのライバルかどうかは分からないけど、いい選手はたくさんいる。ポートもその一人だ。
モチベーションは強くある。ここまでの不運はパヴェステージでの1度のクラッシュだけで済んでいるから、悪くない。ここまでのステージも決して楽ではなかったが、今の僕は上を狙える状況にある。厳しいステージが続いた。冷たい雨や、今は暑さ。いつもより平均速度も速いから、エネルギーを多くロスしている」。
暑さに苦しんだ昨日に続き、今日も一段と快晴。予報ではサンテチエンヌは34度、グルノーブルに到達する頃には36度を越える酷暑の真夏日。この暑さとの闘いもレースの大きな要素となったようだ。
スタートしてすぐ、サンテティエンヌ郊外から登り始めるラ・クロワド・モンビュー峠でアタック合戦が始まると、レディオツールが新城幸也の名前をしきりに呼ぶ。ユキヤはいったんは決まりかけた逃げに乗ったようだが、13kmの上りの途中までで再びシャッフル。頂上付近では別の逃げが形成されていた。この日はよく動いたユキヤ。
沿道の観客にはASサンテティエンヌの旗とジャージを着てツールを応援する人が目立つ。そのフットボールクラブも”Les Vert” =緑がチームカラーで、ユーロップカーに似ている。
上りの最後尾、プロトンから遥か離れてアルテュール・ヴィショ(FDj.fr)がチームカーを率いてひとり覇気無く走る。「ヴィショは病気だ」という情報が回ってきた。ステージ序盤を乗り切ればなんとかなると思ってスタートしたが、スタートからのペースが速すぎた。
マルセル・キッテルも落車して最初の峠でほぼ最後尾まで位置を下げてひとりになるが、ジャイアント・シマノのアシストたちが下がって追走に協力。残りのステージ勝利のチャンスを前にタイムアウト失格は受け入れられない。この日、ダニエル・ナバーロ(スペイン、コフィディス)とハニエル・アセベド(コロンビア、ガーミン・シャープ)もリタイアした。
第1週の寒さから一転、酷暑のステージが続く
快晴のなか、向日葵畑の迎える道を東に進み、プロトンはグルノーブルからシャムルースへ。この上りは2001年に山岳個人タイムトライアルで使われたことがある。当時優勝したのはランス・アームストロング(しかし記録は剥奪)。登坂距離は18.2kmと長く、しかし勾配は平均7.3%とコンスタント。急勾配の箇所がなく、一定のリズムをつかみやすい上りだ。そういう意味でも山岳個人TT向き。展望が開けないので標高ほどに高いとは感じられない峠だ。
プロトンがシャムルースの麓に取り付くまでに、観客が暑さに倒れて救急車が数回出動。路面清掃車も散水しながら走り、少しでも涼しくなるように働く。そんななかをサクソ・ティンコフのオーナーのオレグ・ティンコフ氏がチームジャージを着て峠にチャレンジしていた。上りに苦しむことを楽しんでいる様子だが、コンタドールのリタイアで緊張なくツールを楽しむことに切り替えたようだ。
マイヨジョーヌをほぼ確実なものにしたニーバリ
残り10km、ティボー・ピノ(FDJ.fr)のアタックにバルベルデとともに着いて行き、しばらく余裕の表情を見せて一緒に走っていたヴィンチェンツォ・ニーバリ(アスタナ)。そこから軽いアタックで二人を置き去りにし、前を行くラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ・サクソ)とレオポルド・ケーニッヒ(チェコ、ネットアップ・エンドゥーラ)に合流。さらにラスト3kmでアタックを掛けるでもなくこの二人を振り切ると、王者の走りでシャムルース山頂を制した。
マイヨジョーヌを着て両手を高々と挙げ、威風堂々とフィニッシュを切るニーバリ。今ツールではじめて登場した難関山岳での上りフィニッシュにおいて、今居る選手のなかでは山岳での力がずば抜けていることを証明した。パリまであと1週間、総合2位バルベルデとのタイム差は3分37秒に開いた。落車・トラブル以外にこの後のステージに不安要素はなく、2014年ツールはニーバリでほぼ決まったと言っていいだろう。
「ライバルたちに差を付けられてハッピーだ。マイヨ・ジョーヌでの勝利は勝利をより素晴らしい物にしてくれるね。差がついたことで、これからのツールはより落ち着いて走ることができる」とニーバリ。落ち着きを意味する「トランクイッロ」という言葉が何度も口から出た。
バルベルデとの闘いに不満を漏らすピノ
ステージを狙いに行き、それが叶わなかったマイカとケーニッヒのすぐ後ろで煮え切らないバトルを繰り広げていたのがバルベルデとピノだ。二人はニーバリから50秒遅れでゴールに向かうが、最終コーナーで前に居たピノは、ゴール前の直線でスパートしたバルベルデに出し抜かれ、バルベルデに対しては3秒を失った。
後続とのタイム差を開くレースを展開していたつもりのピノに対し、バルベルデは自身の総合順位を脅かすであろうピノに差をつけるレースもしていたようだ。
ステージ3位という結果を残しながらも、ピノはバルベルデの走りに不満気だ。「バルベルデの走りはよく分からないよ。彼はずっと僕の後ろについていて、僕が前に出るように言うと”もういっぱいだ”と言ってそれを拒んだ。でもすぐアタックした。ゴール前はずっと後ろに居たのに突然アタックした。彼は僕に対して差をつけようとしていたんだ。それが彼の戦術。ゲームをしていたんだ。もっと後続にタイム差を付けられたかもしれないのに」。
AG2Rラモンディアールのヴァンサン・ラヴニュー監督はバルベルデのことを、注意しなければいけないダークホースとして「歳取った狐」と呼んだ。バルベルデはまんまとピノを利用し、総合2位をいい状況で手にした。しかしバルベルデはまた尊敬されない要因も作ったと言えそうだ。ピンチに陥った時、協力してくれるチームやライダーはまた減ったのだろう。
ピノとバルデ 90年生まれのフランス人若手2人の活躍
ピノは総合4位に。そしてステージ7位でフィニッシュしたロメン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール)が総合3位に。新人賞マイヨブランの獲得と表彰台の一角にフランス人が入りそうな見通しに、フランスが沸いている。フランスメディアの興味ももはやツール優勝が確実なニーバリのことはニュースではなく、ふたりのフランス人への期待が第1のプライオリティになった感がある。
「バルデとのこれからの山岳での”フランス人の対決”をどう思うか?」と訊かれたピノは応える。「対決とは優勝争いかステージ争いをしている2人に言えることで、僕らがやっているのは順位争い」。
FDJ.frのマルク・マディオ監督はピノの走りに満足気だ。「ティボーの最後の登りの走りは素晴らしかった。早めのアタックで調子の良さをライバルたちに見せつけた。確かにアタックのタイミングが早すぎたかもしれないが、誰かが動かなければレースは動かない。バルベルデは姑息な走りで、死んだと見せかけてアタック。でもそれもレースの一部だ」。
ティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシング)とうまく協力し合い、7位でフィニッシュしたマイヨブランのロメン・バルデ(AG2Rラモンディアール)。脱落したリッチー・ポート(チームスカイ)に代わり3分37秒遅れで総合3位に。
「暑くて、自分向きでないとしても最後のシャムルースの坂には自信があった。リッチーは優秀なライダーだけど、今日は本当に暑くて、誰でもそんな悪い日に陥ることがあるんだ」。 ー スタート地点のサンテティエンヌ近くの出身で、グルノーブルの大学に学んだバルデは、この地方特有の暑さも、シャムルースの坂のことも知り尽くしていた。その勾配のなだらかな長い坂が自分の脚に向いていないこともよく知っていた。
バルデは言う。「僕はもっと違うタイプの上りを好むんだ。今日は登り始めからスピードが速かった。この7%程度の平均勾配ではライバルたちを振り落とすのは難しい。僕がアタックしたのは誰も協力しようとしなかったから。前を行くニーバリ、バルベルデ、ピノらに付けられた差を取り返そうとヴァンガーデレンと協力して走ったんだ。ニーバリのような選手を今日負かすのは難しい。でも、日曜に登るリズール峠やイゾアール峠のことはよく知っている。イゾアールでどれだけの動きがあるか分からないけど、何か動きがあるほど僕にはいい。リズールは差をつけにくい峠だから。そしてより難しい上りのピレネーに入ることを楽しみにしている」。
脱落したリッチー・ポート スカイのプランBは失敗
シャムルースの上り序盤でクラック。ニーバリに対して8分48秒差の大脱落を喫したリッチー・ポート(チームスカイ)。ゲラント・トーマスとミケル・ニエベにサポートされながら覇気無くフィニッシュ。総合2位から総合16位へ。スカイのプランBは、もはやシャンゼリゼのポディウムも実現不可能に。ポートはこの日消化器系の不調に陥っていたという情報があるが、ブレイルスフォード監督はポートの脱落は意外な結果だったと話した。
「今朝、リッチーは健康でやる気をみせていた。彼もこのステージを楽しみにしていたようだった。最後のシャムルースの上りの長さも彼には合っていた。だからこんなことになるとは思っても見なかった。暑くなることは休息日に確認済みで、それについては注意を促していた。それは誰にとっても同じこと。リッチーがとくに暑さに苦しんだとは思っていない。でも、寒かった日から急に暑くなったことで彼は不調に陥ったのかもしれない。いい日ではなかったが、我々は前を向いていく」。
ポートはスカイのウェブサイトにコメントを発表。「とてもがっかりしている。でも、明日何ができるか見ていて欲しい。ここまで、僕に対してしてくれたチームの素晴らしい働きに感謝している。僕に起こることはだれにでも起こること。前に進み続けるしか無い」。
暑さとともに調子を上げるユキヤ アタックを繰り返す
スタート直後の何度にも渡るアタック。それが実らなかったものの、1級山岳パラキ峠では集団の前に出てペースを作り、登れる脚を見せた新城幸也(ユーロップカー)。パラキ峠での走りはアタックのためでなく、ピエール・ロランを最終のシャムルース峠へ先頭集団内で送り届けることが目的だったようだ。
ユキヤは19分35秒遅れの44位でゴールし、総合も73位と上げた。ゴールへの最後の上りでは撮影しているこちらの姿を見つけると、いたずらっぽく笑ってボトルをドロップしていく。(ちなみに私はこのツールで3本目のユキヤボトルをゲット)。
ユキヤは言う。「連日、チームメイトが果敢に攻めて働いていたから今日は自分の出番、本当に逃げに入りたかったけど、何度もチャレンジして、うまく決まらなかった。ツールで逃げることは難しくなっている。その分、山岳に入り良い形でピエールを助けられたので、結果オーライ。暑さにばてている選手もいるが、自分は上りの調子も悪くないので、明日もまた頑張りたい。」
photo&text:Makoto.AYANO in FRANCE
photo:CorVos,TimDeWale,A.S.O,
※新城幸也のコメントはユキヤ通信より
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