2014/07/03(木) - 09:19
アメリカ合衆国はカリフォルニアに本拠を置く総合自転車ブランドであるスペシャライズド。バイクフレームメーカーという枠組みにとらわれず、独自の人間工学に基づいたサドルやシューズといったパーツ、アパレルなども開発する同社のラインナップに加わったのが今回インプレッションする、レーシングタイヤ「S-WORKS TURBO」だ。
オメガファーマ・クイックステップの選手が使い、レースで好成績を残し高い評価を得ているロードレース用コンペティションタイヤS-WORKS TURBO。スペシャライズドが目指したのは、卓越したトラクションとグリップ、高い快適性、そして低い転がり抵抗という、相反する走行性能を融合させる究極のレーシングタイヤ。
スペシャライズド S-WORKS TURBO
S-WORKS TURBOの優秀性を示すのがプロツアーレースでの使用実績だ。ホイールに装着した際の総重量で軽量になるチューブラータイヤが主流のプロロードレース。その中でも、世界選手権王者、タイムトライアルのスペシャリストとして知られるトニ・マルティン(オメガファーマ・クイックステップ)は、決戦の際にはいつもこのS-WORKS TURBOを使用して結果を残してきた。
転がり抵抗の削減が開発時の大きな目標とされたS-WORKS TURBO。他ブランドの同格のレーシングクリンチャータイヤと比べると、約30%以上の転がり抵抗の削減を実現した。プロがタイムトライアルで絶対の信頼を置く卓越したグリップと、低い転がり抵抗の両立というレーシングタイヤの理想を実現したタイヤだ。
控えめながらも力強いロゴ
細かい凸が連続するトレッドパターン その性能を実現したのがスペシャライズドが独自に開発した“GRIPTON(グリプトン)”と呼ばれるコンパウンドだ。自動車やオートバイのタイヤ開発のスペシャリストの協力とオメガファーマ・クイックステップの選手たちによる度重なるテストの結果、GRIPTONは生み出された。
路面からくる不快な振動をカットするしなやかさを持ち、グリップがよく、転がり抵抗も低く抑えることができるオリジナルのコンパウンドとして完成したGRIPTONの性能を最大限に生かすために、製造行程も見直され、コンパウンドの配合過程のみ原材料メーカーが行うことで、理想的な性能を実現している。
レース用タイヤであるS-WORKS TURBOだが、トレッド下には耐パンクベルト「Black Belt」が配置されている。サイドウォールの下まで配置される対パンク層のおかげで、サイドカットにも強いタイヤとなっているが、ケーシングの柔軟性は失っておらず、しなやかな乗り心地を実現する。
タイヤ幅は一般的なタイヤより少し太めの24cと26cの2種類がラインナップされる。今回インプレッションを行ったのは、24cモデル。太めのタイヤであるが、重量は205gと軽量に収まっている。カラーはブラックのみの設定だ。
ーインプレッション
今回のインプレッションで使用したのは24cのタイプ。カタログ重量205gに対し、実測重量は215gと約5%の誤差。競合するようなレーシングタイヤとも遜色のない重量ながら、少し太めのボリュームを持っていることが特長の一つだろう。
まず、インプレのためにホイールに装着しようとしたらはめ込みのしやすさに驚かされた。リムとの相性にもよるため、一概には言えないがパンク修理時にも速やかに作業を終えられるのは魅力的なポイントだ。手に取った瞬間に伝わってくるほどの、ケーシングとトレッドの薄さが印象的なタイヤだ。
まさに「決戦用」と呼ぶにふさわしいプロダクト
走りだして最初にわかるのはこのしなやかさからくる乗り心地の良さだ。今回のテストでは、さまざまな空気圧を試してテストしたが、同程度の幅を持つ他社のタイヤよりも同じ空気圧であればS-WORKS TURBOはより快適な乗り味が得られる。快適性を同等にするならば、1気圧ほど高めに設定することができるほどの快適性を持っている。
ただ、快適性については閾値があり、ある空気圧を超えると急に跳ねるようになってしまう。1/4気圧でも多めに入れてしまうと、途端に跳ねるようになってしまうので、ポンプのひと押しでがらっと印象が変わってしまうかもしれない。そのぎりぎりの空気圧を見つけることができれば、高い快適性と、低い転がり抵抗、そして抜群のグリップを味わえるので、時間をかけてでも見つけるべきだろう。
幅を計測すると、実測で23.5mmだった
スペシャライズドがこのタイヤのために開発した新コンパウンド「GRIPTON」が高性能を支える 転がり抵抗についても、非常に低く抑えられている。快適性のポテンシャルが高いため、ドンピシャの空気圧を見つけることができれば、圧倒的な転がり感と高い快適性を両立することができる。ただ、そのドンピシャの範囲から1/2気圧ほど下げても、モッサリとした感覚はまるで無く、同レベルのレーシングタイヤ並の転がりを持っている。
さて、快適性、転がり抵抗と来たが、S-WORKS TURBOの最も特徴的な部分は高いグリップ力。あいにくとドライ路面とセミウエット路面のみでのテストなので、完全なウェット性能については言及できないが、ドライなオンロードでは最高のグリップ力を発揮する。これまでの自転車用タイヤとは一線を画するグリップ感だ。
タイヤが限界を超えて滑り出す際の挙動も、グリップが高いタイヤにありがちな、すべり出したらもう立て直せないような致命的な挙動は示さない。1度の滑り幅が大きいものの、1度目はコントロール可能な範囲内に収めてくれる。このグリップ力はケーシングのしなやかさよりも、コンパウンドの優秀性によってもたらされていると感じる。
それは、空気圧が高くても低くとも、グリップ力は大きく変化しないことにあらわれている。テスト中に高めの空気圧でコーナーをテストすると、タタタタッと小さく連続して跳ねるような挙動を示した。これはモトバイクの世界ではチャタリングと呼ばれ、おもにタイヤのグリップがフレームやフォークに勝っているときに出る挙動で、タイヤのグリップの高さを逆説的に証明しているといえる。
一度このタイヤのグリップを味わってしまうと、他のロードタイヤのコンパウンドが仕事をしていなかったのではないか?というような疑問を感じてしまうほど。タイヤのカスがサーキットに散らばっているモータースポーツを思い浮かべてもらうとわかりやすいかもしれないが、本来コンパウンドとは融けることでグリップを生み出すものだ。
「これまでの自転車用タイヤとは一線を画するグリップ感」 S-WORKS TURBOに使われているGRIPTONはそういった「コンパウンド」的なグリップ感を与えてくれる。これまでのロードタイヤのコンパウンドがただのゴムに感じられてしまうほど、圧倒的な性能を持つGRIPTONだがその性能と引き換えに耐久性が犠牲にされているように見受けられる。
テストでは200kmほど走行したが、既にセンタートレッドの凸部分が平らになりつつあるような状態だ。この減りの速さとトレッドの薄さを鑑みるに、1500km~2000kmが寿命、タイヤとして最もおいしいところは500km以内といったところではないだろうか。ただ、この減りの早さこそがGRIPTONを高性能たらしめている所以であると感じる。
ケタ外れのグリップ、軽快な走行抵抗、体力を温存できる快適性と、レースにおいて勝利するために必要な性能が余すところなく、最高の水準で盛り込まれているS-WORKS TURBO。この高いグリップはテクニカルコーナーの多いクリテリウムで、転がりの軽さはヒルクライムやTTで、快適性の高さはロングライドで、総合的にはそれらのシチュエーションを網羅する長距離のロードレースでアドバンテージとなるだろう。
この高性能と引き換えに失ったのはロングライフという一点のみ。レースに必要な性能を追求し、他の要素を切り捨ててしまったこのタイヤこそ、まさに「決戦用」と呼ぶにふさわしいプロダクトだろう。
スペシャライズド S-WORKS TURBO
カラー:ブラック
サイズ:24C、 26C
重量:205g(24C)、220g(26C)
価 格:6,804円(税込)
text:Kenji.Degawa
photo:Makoto.AYANAO
オメガファーマ・クイックステップの選手が使い、レースで好成績を残し高い評価を得ているロードレース用コンペティションタイヤS-WORKS TURBO。スペシャライズドが目指したのは、卓越したトラクションとグリップ、高い快適性、そして低い転がり抵抗という、相反する走行性能を融合させる究極のレーシングタイヤ。
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転がり抵抗の削減が開発時の大きな目標とされたS-WORKS TURBO。他ブランドの同格のレーシングクリンチャータイヤと比べると、約30%以上の転がり抵抗の削減を実現した。プロがタイムトライアルで絶対の信頼を置く卓越したグリップと、低い転がり抵抗の両立というレーシングタイヤの理想を実現したタイヤだ。
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路面からくる不快な振動をカットするしなやかさを持ち、グリップがよく、転がり抵抗も低く抑えることができるオリジナルのコンパウンドとして完成したGRIPTONの性能を最大限に生かすために、製造行程も見直され、コンパウンドの配合過程のみ原材料メーカーが行うことで、理想的な性能を実現している。
レース用タイヤであるS-WORKS TURBOだが、トレッド下には耐パンクベルト「Black Belt」が配置されている。サイドウォールの下まで配置される対パンク層のおかげで、サイドカットにも強いタイヤとなっているが、ケーシングの柔軟性は失っておらず、しなやかな乗り心地を実現する。
タイヤ幅は一般的なタイヤより少し太めの24cと26cの2種類がラインナップされる。今回インプレッションを行ったのは、24cモデル。太めのタイヤであるが、重量は205gと軽量に収まっている。カラーはブラックのみの設定だ。
ーインプレッション
今回のインプレッションで使用したのは24cのタイプ。カタログ重量205gに対し、実測重量は215gと約5%の誤差。競合するようなレーシングタイヤとも遜色のない重量ながら、少し太めのボリュームを持っていることが特長の一つだろう。
まず、インプレのためにホイールに装着しようとしたらはめ込みのしやすさに驚かされた。リムとの相性にもよるため、一概には言えないがパンク修理時にも速やかに作業を終えられるのは魅力的なポイントだ。手に取った瞬間に伝わってくるほどの、ケーシングとトレッドの薄さが印象的なタイヤだ。
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走りだして最初にわかるのはこのしなやかさからくる乗り心地の良さだ。今回のテストでは、さまざまな空気圧を試してテストしたが、同程度の幅を持つ他社のタイヤよりも同じ空気圧であればS-WORKS TURBOはより快適な乗り味が得られる。快適性を同等にするならば、1気圧ほど高めに設定することができるほどの快適性を持っている。
ただ、快適性については閾値があり、ある空気圧を超えると急に跳ねるようになってしまう。1/4気圧でも多めに入れてしまうと、途端に跳ねるようになってしまうので、ポンプのひと押しでがらっと印象が変わってしまうかもしれない。そのぎりぎりの空気圧を見つけることができれば、高い快適性と、低い転がり抵抗、そして抜群のグリップを味わえるので、時間をかけてでも見つけるべきだろう。
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さて、快適性、転がり抵抗と来たが、S-WORKS TURBOの最も特徴的な部分は高いグリップ力。あいにくとドライ路面とセミウエット路面のみでのテストなので、完全なウェット性能については言及できないが、ドライなオンロードでは最高のグリップ力を発揮する。これまでの自転車用タイヤとは一線を画するグリップ感だ。
タイヤが限界を超えて滑り出す際の挙動も、グリップが高いタイヤにありがちな、すべり出したらもう立て直せないような致命的な挙動は示さない。1度の滑り幅が大きいものの、1度目はコントロール可能な範囲内に収めてくれる。このグリップ力はケーシングのしなやかさよりも、コンパウンドの優秀性によってもたらされていると感じる。
それは、空気圧が高くても低くとも、グリップ力は大きく変化しないことにあらわれている。テスト中に高めの空気圧でコーナーをテストすると、タタタタッと小さく連続して跳ねるような挙動を示した。これはモトバイクの世界ではチャタリングと呼ばれ、おもにタイヤのグリップがフレームやフォークに勝っているときに出る挙動で、タイヤのグリップの高さを逆説的に証明しているといえる。
一度このタイヤのグリップを味わってしまうと、他のロードタイヤのコンパウンドが仕事をしていなかったのではないか?というような疑問を感じてしまうほど。タイヤのカスがサーキットに散らばっているモータースポーツを思い浮かべてもらうとわかりやすいかもしれないが、本来コンパウンドとは融けることでグリップを生み出すものだ。
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テストでは200kmほど走行したが、既にセンタートレッドの凸部分が平らになりつつあるような状態だ。この減りの速さとトレッドの薄さを鑑みるに、1500km~2000kmが寿命、タイヤとして最もおいしいところは500km以内といったところではないだろうか。ただ、この減りの早さこそがGRIPTONを高性能たらしめている所以であると感じる。
ケタ外れのグリップ、軽快な走行抵抗、体力を温存できる快適性と、レースにおいて勝利するために必要な性能が余すところなく、最高の水準で盛り込まれているS-WORKS TURBO。この高いグリップはテクニカルコーナーの多いクリテリウムで、転がりの軽さはヒルクライムやTTで、快適性の高さはロングライドで、総合的にはそれらのシチュエーションを網羅する長距離のロードレースでアドバンテージとなるだろう。
この高性能と引き換えに失ったのはロングライフという一点のみ。レースに必要な性能を追求し、他の要素を切り捨ててしまったこのタイヤこそ、まさに「決戦用」と呼ぶにふさわしいプロダクトだろう。
スペシャライズド S-WORKS TURBO
カラー:ブラック
サイズ:24C、 26C
重量:205g(24C)、220g(26C)
価 格:6,804円(税込)
text:Kenji.Degawa
photo:Makoto.AYANAO
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