2012年3月12日から18日までの7日間、イタリアで第49回ティレーノ〜アドリアティコ(UCIワールドツアー)が開催される。グランツールにも勝る豪華な布陣が集まる「二つの海のレース」に、今年は新城幸也(ユーロップカー)が出場。グランツールを見据える全日本チャンピオンの走りに注目したい。



密度の濃い1週間のレースはさながら「ミニ・ジロ」

イタリア中部を西から東へイタリア中部を西から東へ photo:Tim de Waele

第1ステージ コース高低図第1ステージ コース高低図 image:RCS Sport1966年に初開催され、ジロ・デ・イタリアと同じRCS Sportが主催するティレーノ〜アドリアティコ。レース名の通り、ティレニア海沿岸をスタートし、半島を横断してアドリア海沿岸に至る。2つの海を結ぶその行程から、イタリアでは「コルサ・デイ・ドゥエ・マーリ(二つの海のレース)」と呼ばれる。

第4ステージ コース高低図第4ステージ コース高低図 image:RCS Sport同時期に開催されるパリ〜ニースと同様、クラシックレースやグランツールに向けて調整を続ける有力スプリンターやオールラウンダーたちが大勢出場。コースレイアウトに合わせて、各チームがメンバーをパリ〜ニースとティレーノ〜アドリアティコに振り分ける。

第5ステージ コース高低図第5ステージ コース高低図 image:RCS Sport近年は個人タイムトライアルや山岳ステージが積極的に取り入れられ、オールラウンダーによる本格的な総合争いが見どころとなっている。1週間の闘いの始まりを告げるのは、ティレニア海に近いドノラティコを舞台にした18.5kmのチームタイムトライアルだ。

第5ステージ ムーロ・ディ・グアルディアグレーレ第5ステージ ムーロ・ディ・グアルディアグレーレ image:RCS Sport最速タイムで平坦コースを駆け抜けたチームの、先頭でフィニッシュラインを切った選手が、海を表現した青いリーダージャージを着て翌日のスタートラインに立つ。ピサの近くにフィニッシュする第2ステージは数少ないスプリンター向きの平坦ステージだ。

ダニエーレ・ベンナーティ(イタリア)の生まれ故郷アレッツォにフィニッシュする第3ステージは一見平坦だが、残り1kmの平均勾配は5%。石畳が敷かれた最大11%の登りをクリアしてフィニッシュラインにたどり着く。ピュアスプリンターではなく、登りで鋭いアタックを決めるようなパンチャー系の選手に有利なレイアウトだ。

チッタレアーレにあるスキー場セルヴァロトンダにフィニッシュする第4ステージは今大会のクイーンステージ。距離も244kmと長く、標高のあるGPM(カテゴリー山岳)が後半にかけて3つ連続する。標高1535mにあるスキー場に向かって、距離14km/平均勾配5.3%の登りを駆け上がる。トップオールラウンダーたちの競演に注目したい。

"ティレーノらしさ"が詰まっているのが第5ステージ。注目はゴール29km手前のランチャーノ峠ではなく、残り1.4kmから始まる長さ610mの「ムーロ・ディ・グアルディアグレーレ」だ。平均勾配22.2%・最大勾配30%という正真正銘の「壁」を越え、さらに12%の短い登りを経てようやくフィニッシュ。この「壁」が勝負の行方を分からないものにする。

平坦な第6ステージをこなし、もはや定番化している第7ステージのサンベネデットデルトロント9.1km個人タイムトライアルで1週間の闘いは幕を閉じる。チームTT、石畳フィニッシュ、標高1535mのスキー場フィニッシュ、最大30%の壁、そして最終個人TTが、総合争いにおけるポイントだ。



ティレーノ〜アドリアティコ2014コース全体図ティレーノ〜アドリアティコ2014コース全体図 image:RCS Sport
ティレーノ〜アドリアティコ2014ステージリスト
3月12日(水)第1ステージ ドノラティコ〜サンヴィンチェンツォ 18.5km(チームTT)
3月13日(木)第2ステージ サンヴィンチェンツォ〜カシーナ 166km
3月14日(金)第3ステージ カシーナ〜アレッツォ 210km
3月15日(土)第4ステージ インディカトーレ〜チッタレアーレ 244km
3月16日(日)第5ステージ アマトリーチェ〜グアルディアグレーレ 192km
3月17日(月)第6ステージ ブッキアーニコ〜ポルトサンテルピディオ 187km
3月18日(火)第7ステージ サンベネデットデルトロント 9.1km(個人TT)



トップオールラウンダーの集結で激戦必至の総合争い

優勝トロフィーの槍を囲むエヴァンス、クヴィアトコウスキー、ポート、キンタナ、コンタドール、ウラン優勝トロフィーの槍を囲むエヴァンス、クヴィアトコウスキー、ポート、キンタナ、コンタドール、ウラン photo:RCS Sport

第49回大会に出場するのは、18あるUCIプロチームに、ワイルドカード枠で出場するバルディアーニ・CSF、MTNキュベカ、IAMサイクリング、ネットアップ・エンデューラを加えた22チーム。参照→スタートリスト(.pdf)

リッチー・ポート(オーストラリア、チームスカイ)リッチー・ポート(オーストラリア、チームスカイ) photo:Kei Tsujiディフェンディングチャンピオンのヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)は現在パリ〜ニース参戦中。だからと言って魅力が半減したとは言えない。むしろパリ〜ニースよりもずっと濃いメンバーがイタリアレース制覇を目論んでいる。

ミカル・クヴィアトコウスキー(ポーランド、オメガファーマ・クイックステップ)ミカル・クヴィアトコウスキー(ポーランド、オメガファーマ・クイックステップ) photo:Cor.Vos昨年のパリ〜ニース覇者リッチー・ポート(オーストラリア、チームスカイ)は、フルームに代わって急遽ティレーノ〜アドリアティコでエースを担うことに。ジロ・デ・イタリアを見据えるポートは、ブラドレー・ウィギンズ(イギリス)という心強い伴侶を得て、初日のチームTTから有利にレースを進めるはずだ。

アルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ・サクソ)アルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ・サクソ) photo:Tim de Waeleこの数年でメキメキと力を付け、ストラーデビアンケを制したばかりのミカル・クヴィアトコウスキー(ポーランド、オメガファーマ・クイックステップ)はまさに時の人。リゴベルト・ウラン(コロンビア)を従えての出場で、山岳ステージで主導権を握ることも考えられる。

マルセル・キッテル(ドイツ、ジャイアント・シマノ)マルセル・キッテル(ドイツ、ジャイアント・シマノ) photo:Tim de Waeleアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ・サクソ)やダニエル・モレーノ(スペイン、カチューシャ)ら、登坂力に秀でたスパニッシュライダーの他、昨年ツール・ド・フランス総合2位のナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)やジュリアン・アレドンド(コロンビア、トレックファクトリーレーシング)といったコロンビア勢からも目が離せない。

全日本チャンピオンの新城幸也(ユーロップカー)全日本チャンピオンの新城幸也(ユーロップカー) photo:Kei Tsuji地元イタリア勢としてはミケーレ・スカルポーニ(イタリア、アスタナ)やイヴァン・バッソ(イタリア、キャノンデール)、ドメニコ・ポッツォヴィーヴォ(イタリア、AG2Rラモンディアール)、ディエゴ・ウリッシ(イタリア、ランプレ・メリダ)らが有力。

他にも、昨年のブエルタ・ア・エスパーニャ覇者クリストファー・ホーナー(アメリカ、ランプレ・メリダ)、ポートと同じくジロ狙いのカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシング)、リエージュ覇者ダニエル・マーティン(アイルランド、ガーミン・シャープ)ら、名前を上げるとキリがないほどのトップ選手が集う。

豪華なのはスプリンターも同じ。マルセル・キッテル(ドイツ、ジャイアント・シマノ)、アンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ベリソル)、マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、オメガファーマ・クイックステップ)という世界の三強がイタリアで激突する。

ここにペーター・サガン(スロバキア、キャノンデール)やゲラルド・チオレック(ドイツ、MTNキュベカ)、アルノー・デマール(フランス、FDJ.fr)、サーシャ・モードロ(イタリア、ランプレ・メリダ)がどう絡んでくるかに注目したい。

また、最終日の個人タイムトライアルでは、トニ・マルティン(ドイツ、オメガファーマ・クイックステップ)、ブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)、ファビアン・カンチェラーラ(スイス、トレックファクトリーレーシング)の三大TTスペシャリストの勝負の行方にも注目だ。

全日本チャンピオン新城幸也(ユーロップカー)は、このティレーノ〜アドリアティコでヨーロッパでのレース活動を再開する。タイ合宿を終えたばかりの新城の仕上がりは如何に。2つのグランツール出場も見据えた新城の本格的なシーズンが始まる。

text:Kei Tsuji

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