「大歓声に包まれたウィランガヒルで勝つなんて最高の気持ち。チームの偉業だと言える」。12万5000人という数の観客が詰めかけたコースで、リッチー・ポート(オーストラリア、チームスカイ)が勝った。ツアー・ダウンアンダー名物のウィランガヒルは、再びドラマチックな総合争いを演出する。



今日も美しいポディウムガールたち今日も美しいポディウムガールたち photo:Kei Tsuji
一人一人しっかりサインするカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)一人一人しっかりサインするカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) photo:Kei Tsujiスタートを待つリッチー・ポート(オーストラリア、チームスカイ)スタートを待つリッチー・ポート(オーストラリア、チームスカイ) photo:Kei Tsuji



美しいアルディンガビーチを横目に進むプロトン美しいアルディンガビーチを横目に進むプロトン photo:Kei Tsuji平均勾配7%の登りが3kmにわたって続くウィランガヒルは、ツアー・ダウンアンダー最大の山場。南オーストラリアのサイクリスト全員が詰めかけたと言われるほどの名物峠で、総合バトルはクライマックスを迎える。

ベルンハルト・アイゼル(オーストリア、チームスカイ)がメイン集団を牽引するベルンハルト・アイゼル(オーストリア、チームスカイ)がメイン集団を牽引する photo:Kei Tsuji風が吹き抜ける平坦路で集団から飛び出したのは、今大会でひと際大きな声援を集めるイェンス・フォイクト(ドイツ、トレックファクトリーレーシング)と、解散したエウスカルテルから移籍したフアンホセ・ロバト(スペイン、モビスター)、ミハイル・イグナチエフ(ロシア、カチューシャ)、マッテーオ・トレンティン(イタリア、オメガファーマ・クイックステップ)という強力な4名。

イェンス・フォイクト(ドイツ、トレックファクトリーレーシング)が積極的に逃げグループを引くイェンス・フォイクト(ドイツ、トレックファクトリーレーシング)が積極的に逃げグループを引く photo:Kei Tsujiメイン集団の先頭に立ったのは、リーダージャージ擁するBMCレーシングチームではなく、逆転を狙うオリカ・グリーンエッジやチームスカイ。ベルンハルト・アイゼル(オーストリア、チームスカイ)をはじめとする大柄な選手たちが、最大9分まで広がったタイム差を徐々に食いつぶして行く。

前日の第4ステージを終えた時点で、総合首位エヴァンスと総合2位ゲランスのタイム差は7秒。2つのスプリントポイントにはそれぞれ3秒・2秒・1秒のボーナスタイムが設定されているが、4名が逃げていたためメイン集団に"おこぼれ"は回って来ない。

つまり、総合争いの行方はウィランガヒルに委ねられる。同タイムでゴールするという前提で、仮にゲランスがステージ優勝(ボーナスタイム10秒)しても、エヴァンスがステージ3位以内(ボーナスタイム4秒)に入れば総合順位は変わらない。

それまで平坦路を引き続けたアシストたちが千切れる中、メイン集団は大所帯で1回目のウィランガヒルをクリアする。ハイスピードの下りと平坦路で逃げを飲み込んだ集団が、勝負の2回目の登坂に差し掛かった。



1回目のウィランガヒルを駆け上がるイェンス・フォイクト(ドイツ、トレックファクトリーレーシング)ら1回目のウィランガヒルを駆け上がるイェンス・フォイクト(ドイツ、トレックファクトリーレーシング)ら photo:Kei Tsuji選手をファンが追いかける選手をファンが追いかける photo:Kei Tsuji
1回目のウィランガヒルを駆け上がるプロトン1回目のウィランガヒルを駆け上がるプロトン photo:Kei Tsuji



ウィランガヒルで飛び出したリッチー・ポルト(オーストラリア、チームスカイ)ウィランガヒルで飛び出したリッチー・ポルト(オーストラリア、チームスカイ) photo:Cor Vosライバルチームから主導権を奪ったBMCレーシングチームがペースを上げると、メイン集団の人数は瞬く間に減って行く。「1回目の登りは良い位置で登れたけど、最後の登りは脚が残っていなかった」という新城幸也(ユーロップカー)も徐々に後退する。

大歓声を受けて独走するリッチー・ポルト(オーストラリア、チームスカイ)大歓声を受けて独走するリッチー・ポルト(オーストラリア、チームスカイ) photo:Kei Tsujiフィニッシュまで2kmを残して、総合上位勢の中で口火を切ったのは総合10位・33秒遅れのポート。すぐにリーダージャージのエヴァンスが反応したが、第3ステージのコークスクリューでライバルを振り切った軽快感は見られない。やがて先頭ではポートの独走が始まり、エヴァンスには総合2位ゲランスと総合3位ウリッシが合流する。

エヴァンスを引き離すサイモン・ゲランス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)エヴァンスを引き離すサイモン・ゲランス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ) photo:Kei Tsujiポートは10秒のリードを維持したまま両手を広げてフィニッシュ。ジロ・デ・イタリアを狙うタスマニア生まれの28歳が、大会最大の難所で見せ場を作った。

32番手でウィランガヒルを駆け上がる新城幸也(ユーロップカー)32番手でウィランガヒルを駆け上がる新城幸也(ユーロップカー) photo:Kei Tsuji「望んでいた以上の結果がやってきた。横風が吹き付けるストレスフルなステージだったのに、チームメイトが全力でサポートしてくれた。スタナードやアイゼル、ロウといった大柄な選手が前をガードして、勝負どころまで連れて行ってくれたんだ」。ポートは解放感に溢れた表情でチームの働きを讃える。

後方では、残り200mでウリッシがスプリントを開始。これに反応出来たのはゲランスのみ。エヴァンスは後続の選手たちに飲み込まれる。

ポートから10秒遅れでウリッシとゲランスが、14秒遅れでエヴァンスがフィニッシュ。エヴァンスを4秒引き離し、さらにボーナスタイム4秒を獲得したゲランスが総合首位に。ここまで5ステージを終えて、両者のタイム差は僅かに1秒だ。

エヴァンスからリーダージャージを奪い返したゲランスは「最後のウィランガヒルを登りながら、自分が何をすべきなのか考えていた。最後の最後まで力を温存する必要があったんだ。終わってみればリーダージャージ獲得。チームメイトの働きがファンタスティックだったとしか言いようがない」とコメントする。

ゲランスは2012年大会でアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)とタイム差ゼロの総合優勝を経験している。「たかが1秒されど1秒。それに、2年前よりも1秒もリードが大きい。とにかく総合リードを奪い返すことが出来て嬉しいよ」。

翌日の第6ステージはアデレードの市街地周回コースを舞台にしたクリテリウム的な平坦レース。ゴールスプリントはピュアスプリンターたちの独壇場になると思われるが、途中に設定されている2つのスプリントポイントでボーナスタイムを懸けた総合上位陣による闘いが勃発する可能性も。ツアー・ダウンアンダーの総合争いは最終日まで分からない。



独走でフィニッシュするリッチー・ポルト(オーストラリア、チームスカイ)独走でフィニッシュするリッチー・ポルト(オーストラリア、チームスカイ) photo:Cor Vos
ツアー・ダウンアンダー名物のウィランガヒルツアー・ダウンアンダー名物のウィランガヒル photo:Kei Tsuji逃げていたイェンス・フォイクト(ドイツ、トレックファクトリーレーシング)が観客とタッチ逃げていたイェンス・フォイクト(ドイツ、トレックファクトリーレーシング)が観客とタッチ photo:Kei Tsuji
ステージ優勝を飾ったリッチー・ポルト(オーストラリア、チームスカイ)ステージ優勝を飾ったリッチー・ポルト(オーストラリア、チームスカイ) photo:Kei Tsuji喜びに溢れた笑顔を見せるサイモン・ゲランス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)喜びに溢れた笑顔を見せるサイモン・ゲランス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ) photo:Kei Tsuji



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ツアー・ダウンアンダー2014第5ステージ結果
1位 リッチー・ポート(オーストラリア、チームスカイ)           3h42'20"
2位 ディエゴ・ウリッシ(イタリア、ランプレ・メリダ)             +10"
3位 サイモン・ゲランス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)
4位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ベルキンプロサイクリング)        +14"
5位 ダリル・インピー(南アフリカ、オリカ・グリーンエッジ)
6位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)
7位 ネイサン・ハース(オーストラリア、ガーミン・シャープ)          +17"
8位 エゴール・シリン(ロシア、カチューシャ)
9位 アダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・ベリソル)
10位 ゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ)              +21"
32位 新城幸也(日本、ユーロップカー)                   +1'10"

個人総合成績
1位 サイモン・ゲランス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)   18h02'19"
2位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)       +01"
3位 ディエゴ・ウリッシ(イタリア、ランプレ・メリダ)            +05"
4位 リッチー・ポート(オーストラリア、チームスカイ)            +10"
5位 ネイサン・ハース(オーストラリア、ガーミン・シャープ)         +27"
6位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ベルキンプロサイクリング)       +30"
7位 ダリル・インピー(南アフリカ、オリカ・グリーンエッジ)         +34"
8位 アダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・ベリソル)          +37"
9位 ゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ)
10位 エゴール・シリン(ロシア、カチューシャ)
55位 新城幸也(日本、ユーロップカー)                  +16'44"

スプリント賞
1位 サイモン・ゲランス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)      75pts
2位 ディエゴ・ウリッシ(イタリア、ランプレ・メリダ)            56pts
3位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)       45pts

山岳賞
1位 アダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・ベリソル)          28pts
2位 アクセル・ドモン(フランス、アージェードゥーゼル)           28pts
3位 リッチー・ポート(オーストラリア、チームスカイ)            24pts

ヤングライダー賞
1位 ジャック・ヘイグ(オーストラリア、UniSAオーストラリア)      18h04'17"
2位 カルロス・ベローナ(スペイン、オメガファーマ・クイックステップ)    +1'19"
3位 ケニー・エリッソンド(フランス、FRJ.fr)              +19'24"

チーム総合成績
1位 オリカ・グリーンエッジ                       54h10'28"
2位 BMCレーシングチーム                          +28"
3位 ドラパック                              +3'38"

text&photo:Kei Tsuji in Adelaide, Australia

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