2013/12/25(水) - 10:59
3編に渡るロングインタビュー最終回では、戦歴やレースについてではなく、若き女子ロード王者、與那嶺恵理自身にフォーカスした談話を紹介。彼女は普段どんなことを考えて、どんな練習を取り入れてるのだろうか?将来的なビジョンも含め話を聞いた。
—普段はどんな練習方法を取り入れているのですか?
今はオフシーズンだから追い込んだ練習はしていません。シーズン中はパワーメーターを使っていますが、特にFTP計測とかはやってないですね。理由は、そういった計測をしても実際にレースでは使えないからです。レースではいつアタックが掛かるか分からないし、結局は最後に脚を残していた人が勝ちます。だから数値を出すための練習はしないんです。
例えば筑波山はクライミング練習に行く場合、最初は体重の4倍のワット数で入り、徐々に数値を上げていき、最後の5分は5倍の出力で登ります。麓から頂上までは大体25分くらいなので、とても良い練習になりますね。
あとは100km走った後に体重の12〜13倍を掛けるスプリント練習とかもやっています。そうやって皆が疲れてきた頃に脚を残すための練習をしているので、身体が掛かりはじめるのがスタート後3時間ぐらい経ってからなんですよね。だからシクロクロスやMTBではエンジンが掛かりきらないまま疲れて終わっちゃうんです(笑)。
私はいつもフィジカルが上がる練習しかしていません。ポッと出だと思われがちなのですが、期間は短いながらも今まで練習で積み重ねてきたことが自信となっています。だからバイクなり体調なりにトラブルがあったとしても、「ここまではいける」「この先は無理」という具合に判断材料が私の中にはあります。
ー今ロードやMTB、シクロクロスなど色々なジャンルに挑戦していますが、一番やりたい競技は何なのですか?
やっぱり基本はロードで、前述(Vol.2を参照のこと)したように世界選手権でのアルカンシエル獲得が最終目標です。もちろんMTBもシクロクロスも楽しくて大好きですが、2012年のMTB全日本の直前に落車して骨折してみたり、オフロード競技のセンスに乏しいんですよね…(笑)。
ロードレースならいくら過酷でもそこは「道」だけど、MTBはそうもいかないじゃないですか。ロードの世界選できちんと結果を出すことができたら、その後本格的にオフロード系種目をやりたいですね。もちろんシクロクロスのタイトルが獲れれば最高ですが、現状は勝てずともあまり気にしないでしょうね。
私はコーナリングや上手く走ることに対して苦手意識があって、いつも怒られてばっかり(笑)。でもある程度学習能力はあるっぽいので、丁寧に試走すればほどほどには大丈夫なんです。だからどんなレースでも試走はじっくりと行います。特にイタリアの世界選手権の時は疲れるぐらい走り込みましたね。そういう調整方法が合っているんです。
もう一つ苦手と言えば、展開を読む力がまだ足りていないことでしょうか。レース経験が浅いことも理由にあるのですが、そこは武井社長をはじめとして周りの男性方は皆プロレースマニアだから、いろいろと良く知っていてアドバイスをくれるんです。海外レースのビデオは良く観ていて、なんでここでアタックするんだろう? とか、疑問に思ったことは質問しますね。憧れの選手ですか?特にいないかなぁ。レースを見て「うわーキツいだろうなぁ」と思うことばかりです(笑)。
やっぱり「ここでアタックして大丈夫かな」とか「脚もたないんじゃないかな」と考えますね。でも今はそれで上手くいってますから、このスタイルを変えることは無いと思います。社長はいつも色々なトレーニング系の書籍や海外サイトをチェックして、私のことを良く見てくれているから、たまに手を抜いちゃった時とか「やべー」って思いますよ(笑)。
私はバリバリのゆとり世代ど真ん中なので、いつも「ゆとりん」とか言われてからかわれてるんですよ(笑)。え?オシャレですか?好きではありますけど、よくロード選手がしてるような派手なネイルとかは別にいいかなーって思いますね。モノや服に関しても同じで、永く使える良い物が好きです。お買い物する時とかも同じで、実用主義なのかなぁ(笑)。
—実際に話をしてみたら全く敵を作るようなタイプには感じないのですが、Facebookとかでは強気な発言が多いですね? このギャップは何なのでしょうか。
ある意味自分に自信を持たせるために、あえてFacebookとかで強気な発言をしているんです。普通に考えたら「全日本穫ります!」とか、もしダメだった時のことを考えたら書けないですよ(笑)。でもそうすることで自分にプレッシャーをかけていますね。私は自信家じゃないですし、「全然できないですよー」って思っちゃうことが常ですから。
あと、まだ自転車競技歴が短いので、いろいろと不満や不思議に思うことがあることは確かですね。なんで全日本穫れたのに、それで食っていけないんだろう?とか。だってテニスでナショナルチャンピオンになれば、大会の賞金だってものすごいですから。自転車はあんなに乗っている人が多いのに、プロスポーツと繋がっていないように思います。
だからそこで「勝った人だからこそ問題提起できる」のだと思っています。「言う」ことに対してはやっぱり嫌われるんじゃないかなぁとか色々ビビりますが、言わないと変わらないですし。嫌われたとしても自転車には乗れるし、楽しいし、やりたいし。全日本チャンプなら、これから自転車に乗る人が「競技始めてみたいな」と思う環境づくりのお手伝いをしなければいけないと思っています。
—「10年スパンでの選手活動」と話していましたが、この先もずっと国内で活動していくつもりなのでしょうか? すでに国内女子選手の中では突き抜けた速さがありますが、ヨーロッパの舞台で走ることは考えていないのですか?
もちろんありますね。社長は私に「自分よりも良いコーチを見つけたら乗り換えろ。自分も恵理より良い選手を見つけたら乗り換える」と良く言っています。常に自分で考えて、良い選択をしろ、と。だからある意味お互いドライですよ(笑)。
ヨーロッパで走ってみたいとは思いますけど、それもやっぱり「良い選択」ならそうしたいです。向こうのチームに入れることになっても、それがマーケティング的に「ただ日本人が欲しい」だけならパスします。レースに出れるか分からない状態で行ったとしても、そこには意味も無いんです。
だからこそ世界選で10位以内に入ればどのチームでも戦力として迎えてくれるだろうし、そうじゃなければ海を渡ることは無いですね。
アシストでも構いません。とにかく「戦力」として私を見てくれるヨーロッパチームがあればそこに入りたい。だからこそ、世界選で10位以内に入って評価される必要があるんです。来シーズンはより頑張って、より良い結果を出したいですね。
レース以外で彼女と接するのは初めてのことだった。彼女の発言をオンライン上で見ていただけに最初こそ少し構えていたのが正直なところだが、いざ接して印象に残ったのは、笑顔を絶やさない柔和さと、常に周りに対して気を遣う丁寧さ。しかしその中には時々、内に秘める強さを感じる場面があって、やはり目の前にいるのは天性の勝負師であり、プロ選手なのだな、と感じた。
国内では頭一つ抜けたスピードを持つ若き女子ロードチャンピオンは、まだ22歳。これからの競技人生の中、何枚のチャンピオンジャージに袖を通すのだろうか。
text:So.Isobe
—普段はどんな練習方法を取り入れているのですか?
今はオフシーズンだから追い込んだ練習はしていません。シーズン中はパワーメーターを使っていますが、特にFTP計測とかはやってないですね。理由は、そういった計測をしても実際にレースでは使えないからです。レースではいつアタックが掛かるか分からないし、結局は最後に脚を残していた人が勝ちます。だから数値を出すための練習はしないんです。
例えば筑波山はクライミング練習に行く場合、最初は体重の4倍のワット数で入り、徐々に数値を上げていき、最後の5分は5倍の出力で登ります。麓から頂上までは大体25分くらいなので、とても良い練習になりますね。
あとは100km走った後に体重の12〜13倍を掛けるスプリント練習とかもやっています。そうやって皆が疲れてきた頃に脚を残すための練習をしているので、身体が掛かりはじめるのがスタート後3時間ぐらい経ってからなんですよね。だからシクロクロスやMTBではエンジンが掛かりきらないまま疲れて終わっちゃうんです(笑)。
私はいつもフィジカルが上がる練習しかしていません。ポッと出だと思われがちなのですが、期間は短いながらも今まで練習で積み重ねてきたことが自信となっています。だからバイクなり体調なりにトラブルがあったとしても、「ここまではいける」「この先は無理」という具合に判断材料が私の中にはあります。
ー今ロードやMTB、シクロクロスなど色々なジャンルに挑戦していますが、一番やりたい競技は何なのですか?
やっぱり基本はロードで、前述(Vol.2を参照のこと)したように世界選手権でのアルカンシエル獲得が最終目標です。もちろんMTBもシクロクロスも楽しくて大好きですが、2012年のMTB全日本の直前に落車して骨折してみたり、オフロード競技のセンスに乏しいんですよね…(笑)。
ロードレースならいくら過酷でもそこは「道」だけど、MTBはそうもいかないじゃないですか。ロードの世界選できちんと結果を出すことができたら、その後本格的にオフロード系種目をやりたいですね。もちろんシクロクロスのタイトルが獲れれば最高ですが、現状は勝てずともあまり気にしないでしょうね。
私はコーナリングや上手く走ることに対して苦手意識があって、いつも怒られてばっかり(笑)。でもある程度学習能力はあるっぽいので、丁寧に試走すればほどほどには大丈夫なんです。だからどんなレースでも試走はじっくりと行います。特にイタリアの世界選手権の時は疲れるぐらい走り込みましたね。そういう調整方法が合っているんです。
もう一つ苦手と言えば、展開を読む力がまだ足りていないことでしょうか。レース経験が浅いことも理由にあるのですが、そこは武井社長をはじめとして周りの男性方は皆プロレースマニアだから、いろいろと良く知っていてアドバイスをくれるんです。海外レースのビデオは良く観ていて、なんでここでアタックするんだろう? とか、疑問に思ったことは質問しますね。憧れの選手ですか?特にいないかなぁ。レースを見て「うわーキツいだろうなぁ」と思うことばかりです(笑)。
やっぱり「ここでアタックして大丈夫かな」とか「脚もたないんじゃないかな」と考えますね。でも今はそれで上手くいってますから、このスタイルを変えることは無いと思います。社長はいつも色々なトレーニング系の書籍や海外サイトをチェックして、私のことを良く見てくれているから、たまに手を抜いちゃった時とか「やべー」って思いますよ(笑)。
私はバリバリのゆとり世代ど真ん中なので、いつも「ゆとりん」とか言われてからかわれてるんですよ(笑)。え?オシャレですか?好きではありますけど、よくロード選手がしてるような派手なネイルとかは別にいいかなーって思いますね。モノや服に関しても同じで、永く使える良い物が好きです。お買い物する時とかも同じで、実用主義なのかなぁ(笑)。
—実際に話をしてみたら全く敵を作るようなタイプには感じないのですが、Facebookとかでは強気な発言が多いですね? このギャップは何なのでしょうか。
ある意味自分に自信を持たせるために、あえてFacebookとかで強気な発言をしているんです。普通に考えたら「全日本穫ります!」とか、もしダメだった時のことを考えたら書けないですよ(笑)。でもそうすることで自分にプレッシャーをかけていますね。私は自信家じゃないですし、「全然できないですよー」って思っちゃうことが常ですから。
あと、まだ自転車競技歴が短いので、いろいろと不満や不思議に思うことがあることは確かですね。なんで全日本穫れたのに、それで食っていけないんだろう?とか。だってテニスでナショナルチャンピオンになれば、大会の賞金だってものすごいですから。自転車はあんなに乗っている人が多いのに、プロスポーツと繋がっていないように思います。
だからそこで「勝った人だからこそ問題提起できる」のだと思っています。「言う」ことに対してはやっぱり嫌われるんじゃないかなぁとか色々ビビりますが、言わないと変わらないですし。嫌われたとしても自転車には乗れるし、楽しいし、やりたいし。全日本チャンプなら、これから自転車に乗る人が「競技始めてみたいな」と思う環境づくりのお手伝いをしなければいけないと思っています。
—「10年スパンでの選手活動」と話していましたが、この先もずっと国内で活動していくつもりなのでしょうか? すでに国内女子選手の中では突き抜けた速さがありますが、ヨーロッパの舞台で走ることは考えていないのですか?
もちろんありますね。社長は私に「自分よりも良いコーチを見つけたら乗り換えろ。自分も恵理より良い選手を見つけたら乗り換える」と良く言っています。常に自分で考えて、良い選択をしろ、と。だからある意味お互いドライですよ(笑)。
ヨーロッパで走ってみたいとは思いますけど、それもやっぱり「良い選択」ならそうしたいです。向こうのチームに入れることになっても、それがマーケティング的に「ただ日本人が欲しい」だけならパスします。レースに出れるか分からない状態で行ったとしても、そこには意味も無いんです。
だからこそ世界選で10位以内に入ればどのチームでも戦力として迎えてくれるだろうし、そうじゃなければ海を渡ることは無いですね。
アシストでも構いません。とにかく「戦力」として私を見てくれるヨーロッパチームがあればそこに入りたい。だからこそ、世界選で10位以内に入って評価される必要があるんです。来シーズンはより頑張って、より良い結果を出したいですね。
レース以外で彼女と接するのは初めてのことだった。彼女の発言をオンライン上で見ていただけに最初こそ少し構えていたのが正直なところだが、いざ接して印象に残ったのは、笑顔を絶やさない柔和さと、常に周りに対して気を遣う丁寧さ。しかしその中には時々、内に秘める強さを感じる場面があって、やはり目の前にいるのは天性の勝負師であり、プロ選手なのだな、と感じた。
国内では頭一つ抜けたスピードを持つ若き女子ロードチャンピオンは、まだ22歳。これからの競技人生の中、何枚のチャンピオンジャージに袖を通すのだろうか。
text:So.Isobe
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