2013/07/18(木) - 18:17
アンブリュンをスタートする個人タイムトライアルは2級山岳が2つある32km。山岳TTといっていいため、平坦TTとは違う準備が進む。
個人TTとしては短めの部類だが、TTバイクに適しているコースとは言えない32㎞。登りと下りしかないようなコースレイアウトで、標高1200mクラスの本格的な2級山岳が2つ。セール・ポンソン湖畔からコースを見あげれば、せり上がった山の斜面に点在する村々をつなぐ細い道が見える。一度湖まで下り、また急斜面を登る。それがTTコースだ。
ノーマルバイク+軽量ホイール+DHバーが基本
序盤スタートのウォームアップをする選手の横ではメカニックたちが後半スタートの選手たちのバイクを急ピッチで整備し、仕上げていく。フルームのバイクも例外でなく、調整が繰り返される。そして出走前にはUCIの車両規定検査を受ける。
山岳TTということでノーマルバイク+軽量ホイール+DHバーが多くの選手の基本の組み合わせのようだ。検査でOKをもらったフルームのバイクは実測重量7.25kg。DHバーが付いているので軽くはない重量だが、特別な軽量カーボンリムを使用したホイールを用いていた。
しかしTTバイクの準備も進められる。これは2つめの山岳の頂上を越えた後にゴールまでの下りで乗り換えてタイムアップを狙おうという総合争いの選手のためのもの。ツール後半戦のTTとなると、もはやTTスペシャリストの戦いというよりは体力を残した総合上位選手の闘いになる。そして山岳スペシャリストと呼ばれる選手向けのコース。
TT世界チャンピオンのトニ・マルティン(オメガファーマ・クイックステップ)は13時前スタート。スタート地点の脇にローラー台を持ち込んでウォームアップしている。いつもの緊迫感はないが、それでもジャージの威信にかけて手抜きをしない様子が伺える。バイクにはアピールのためか油圧ブレーキが装着されている。昨日から使用していたのは、今日使用するための慣らしだったと思われる。
最終コーナーで落車した新城幸也
保養地として有名なセール・ポンソン湖のエメラルドの美しい湖面は、今日は鈍目の発色。昼過ぎの次点で天気はやや曇り。13時3分には新城幸也(ユーロップカー)がスタート地点に駆けつけた大勢の日本人観戦ファンの声援を受けてコースに飛び出していく。
ユキヤは最終コーナーで路面の小石にタイヤを弾かれて落車してしまう。しかし怪我はなく、7分17秒遅れの153位でゴール。「登りが苦しいぶん、下りくらいは楽に走ろうと思って下ったけれど、小石が浮いているところに前輪を取られてしまった。スペシャルマシンが壊れてしまったのがショック。でも身体は大丈夫」とレース後に話している。
コンタドールの情熱的なダンシング フルームの落ち着いたシッティング
湖から駆け上がるコースは登り区間も細いところが多くあり、ところどころ小石が浮いていた。いつもは道路路上に砂が浮いていることは少ないツール。回転ブラシを前につけた掃除車がコース上のゴミを掃いて回るのだが、どうやらコースの狭さで掃除が行き届かなかったようだ。
暫定トップだったティージェイ・ヴァンガーデレン(BMCレーシングチーム)のタイムをアレハンドロ・バルベルデ(モビスター)が軽々と1分20秒以上も塗り替えると、総合争いの選手たちのバトルが始まる。そして15時過ぎに大粒の雨が降りだし、一時的には土砂降りになった。しかしやがて雨は上がる。路上には砂やゴミが流れた。
興奮に包まれるふたつめの2級山岳レアロン峠がバイク交換場所になる。交換は頂上山岳ポイントのコーナーで行われた。マーシャルが場所を確保し、選手が停まると後方のチームカーのルーフキャリアからTTバイクを降ろして受け渡し、選手は再びダッシュしていく。山頂ポイントからも少し上りがあるが、ここからはTTバイクのメリットが際立った。
ホアキン・ロドリゲス(カチューシャ)は勾配が緩くなる頂上手前2kmの人の少ないエリアでバイク交換。メカトラとの情報もあるが、頂上までも緩い勾配なので結果的には非常に良かったようだ。
ダンシングを続けるコンタドールに対し、フルームはサドルに腰を落ち着けて規則的なペダリングを刻む。情熱的な走りと機械的な走り。2つの計測地点をトップタイムで通過したコンタドールに熱い声援が上がった。
コンタドールはディスクホイールを使ったバイクを駆っていた。バイクはいつも乗るモデルではなく、カヴェンディッシュも駆るスペシャライズドのエアロ化を図ったバイク”VENGE”をベースとしたバイクだった。そしてコンタドールは頂上でバイク交換をせず、そのまま下りに突入した。交換のロスタイムを省くことでタイムを狙ったようだ。
マイヨジョーヌのフルームは落ち着いた走りで2つめの頂上に到達した。落ち着いてバイク交換を行い、TTバイクに乗り換えて下りに突入した。頂上付近の緩い緩斜面の登り、そして長い下り区間で大きなギアを回して加速を続けるフルーム。TTバイクならではのエアロダイナミクスもあっただろう。コンタドールのマージンは下りでひっくり返してしまった。
フルームは言う「第2計測ポイントで15秒の差と聞いて俄然やる気が出た。いいタイムトライアルを見せてやるってね。今日のリザルトは月に昇る気分だ。」
「最後の下りでは雨が降り始めたので、ゆっくりと下ることにした。昨日、落車した反省もある」と語るコンタドール。昨ステージ、マンス峠の下りでリスクを犯して攻めてから24時間後、今日の最後の下りでは自重しすぎたようだ。
コンタドールに落車させられそうになったフルームは昨夜、コンタドールに対してツィッターで「もう少しで君の頭を轢くところだったよ。@albertocontador 、次はもう少し注意してくれ」とメッセージを送っていた。そして今日は下りを攻めたフルームが勝利したのはなんとも皮肉な話だ。
コンタドールはTTバイクに乗り換えるべきだったのか?
「コンタドールもTTバイクに乗り換えるべきだった」との意見が多く出た。下りのメリットはフルームのビッグギアが踏めたというコメントにも明らか。中間ポイントの優位は下りで覆された。フルームは言う「バイク交換は絶対的に役立った。最後の区間でギアが踏めたし、空気抵抗的にもメリットがあった。サクソ・ティンコフのバイクはどんなものか知らないけれど、バイク交換は僕にとって本当に良かった。」
コンタドールの使ったディスクホイールは登りでの重量的デメリットも少なからずあっただろう。スポンサードの関係でイミテーションのZIPPのデカールが貼られているが、コンタドールがアップダウンの多いTTコースで気に入って使用するライトウェイト社製の780gのディスクホイールだ。
ディスクとしては軽さが突出している超軽量製品だが、フルームは500g台の軽量ホイールを使用している。中間計測タイムがコンタドールのほうが良かったとしても、登りでの温存は軽いホイールの方に分があるように思えた。
雨のラルプデュエズ・ダブルへ
レースが終わり、19時になると翌日のスタート地点となるギャップには再び激しい雨が降りだした。明日のラルプデュエズの天気も雨予報だ。
2つのラルプの間の2級山岳サレンヌの下りが非常に危険だとして、フルームやマルティンはコース変更の声を挙げてきた。雨の場合、2度のラルプデュエズのうち2度めをカットして短縮するという噂が出回ったが、今のところASOはその可能性を否定している。
photo&text:Makoto.AYANO
個人TTとしては短めの部類だが、TTバイクに適しているコースとは言えない32㎞。登りと下りしかないようなコースレイアウトで、標高1200mクラスの本格的な2級山岳が2つ。セール・ポンソン湖畔からコースを見あげれば、せり上がった山の斜面に点在する村々をつなぐ細い道が見える。一度湖まで下り、また急斜面を登る。それがTTコースだ。
ノーマルバイク+軽量ホイール+DHバーが基本
序盤スタートのウォームアップをする選手の横ではメカニックたちが後半スタートの選手たちのバイクを急ピッチで整備し、仕上げていく。フルームのバイクも例外でなく、調整が繰り返される。そして出走前にはUCIの車両規定検査を受ける。
山岳TTということでノーマルバイク+軽量ホイール+DHバーが多くの選手の基本の組み合わせのようだ。検査でOKをもらったフルームのバイクは実測重量7.25kg。DHバーが付いているので軽くはない重量だが、特別な軽量カーボンリムを使用したホイールを用いていた。
しかしTTバイクの準備も進められる。これは2つめの山岳の頂上を越えた後にゴールまでの下りで乗り換えてタイムアップを狙おうという総合争いの選手のためのもの。ツール後半戦のTTとなると、もはやTTスペシャリストの戦いというよりは体力を残した総合上位選手の闘いになる。そして山岳スペシャリストと呼ばれる選手向けのコース。
TT世界チャンピオンのトニ・マルティン(オメガファーマ・クイックステップ)は13時前スタート。スタート地点の脇にローラー台を持ち込んでウォームアップしている。いつもの緊迫感はないが、それでもジャージの威信にかけて手抜きをしない様子が伺える。バイクにはアピールのためか油圧ブレーキが装着されている。昨日から使用していたのは、今日使用するための慣らしだったと思われる。
最終コーナーで落車した新城幸也
保養地として有名なセール・ポンソン湖のエメラルドの美しい湖面は、今日は鈍目の発色。昼過ぎの次点で天気はやや曇り。13時3分には新城幸也(ユーロップカー)がスタート地点に駆けつけた大勢の日本人観戦ファンの声援を受けてコースに飛び出していく。
ユキヤは最終コーナーで路面の小石にタイヤを弾かれて落車してしまう。しかし怪我はなく、7分17秒遅れの153位でゴール。「登りが苦しいぶん、下りくらいは楽に走ろうと思って下ったけれど、小石が浮いているところに前輪を取られてしまった。スペシャルマシンが壊れてしまったのがショック。でも身体は大丈夫」とレース後に話している。
コンタドールの情熱的なダンシング フルームの落ち着いたシッティング
湖から駆け上がるコースは登り区間も細いところが多くあり、ところどころ小石が浮いていた。いつもは道路路上に砂が浮いていることは少ないツール。回転ブラシを前につけた掃除車がコース上のゴミを掃いて回るのだが、どうやらコースの狭さで掃除が行き届かなかったようだ。
暫定トップだったティージェイ・ヴァンガーデレン(BMCレーシングチーム)のタイムをアレハンドロ・バルベルデ(モビスター)が軽々と1分20秒以上も塗り替えると、総合争いの選手たちのバトルが始まる。そして15時過ぎに大粒の雨が降りだし、一時的には土砂降りになった。しかしやがて雨は上がる。路上には砂やゴミが流れた。
興奮に包まれるふたつめの2級山岳レアロン峠がバイク交換場所になる。交換は頂上山岳ポイントのコーナーで行われた。マーシャルが場所を確保し、選手が停まると後方のチームカーのルーフキャリアからTTバイクを降ろして受け渡し、選手は再びダッシュしていく。山頂ポイントからも少し上りがあるが、ここからはTTバイクのメリットが際立った。
ホアキン・ロドリゲス(カチューシャ)は勾配が緩くなる頂上手前2kmの人の少ないエリアでバイク交換。メカトラとの情報もあるが、頂上までも緩い勾配なので結果的には非常に良かったようだ。
ダンシングを続けるコンタドールに対し、フルームはサドルに腰を落ち着けて規則的なペダリングを刻む。情熱的な走りと機械的な走り。2つの計測地点をトップタイムで通過したコンタドールに熱い声援が上がった。
コンタドールはディスクホイールを使ったバイクを駆っていた。バイクはいつも乗るモデルではなく、カヴェンディッシュも駆るスペシャライズドのエアロ化を図ったバイク”VENGE”をベースとしたバイクだった。そしてコンタドールは頂上でバイク交換をせず、そのまま下りに突入した。交換のロスタイムを省くことでタイムを狙ったようだ。
マイヨジョーヌのフルームは落ち着いた走りで2つめの頂上に到達した。落ち着いてバイク交換を行い、TTバイクに乗り換えて下りに突入した。頂上付近の緩い緩斜面の登り、そして長い下り区間で大きなギアを回して加速を続けるフルーム。TTバイクならではのエアロダイナミクスもあっただろう。コンタドールのマージンは下りでひっくり返してしまった。
フルームは言う「第2計測ポイントで15秒の差と聞いて俄然やる気が出た。いいタイムトライアルを見せてやるってね。今日のリザルトは月に昇る気分だ。」
「最後の下りでは雨が降り始めたので、ゆっくりと下ることにした。昨日、落車した反省もある」と語るコンタドール。昨ステージ、マンス峠の下りでリスクを犯して攻めてから24時間後、今日の最後の下りでは自重しすぎたようだ。
コンタドールに落車させられそうになったフルームは昨夜、コンタドールに対してツィッターで「もう少しで君の頭を轢くところだったよ。@albertocontador 、次はもう少し注意してくれ」とメッセージを送っていた。そして今日は下りを攻めたフルームが勝利したのはなんとも皮肉な話だ。
コンタドールはTTバイクに乗り換えるべきだったのか?
「コンタドールもTTバイクに乗り換えるべきだった」との意見が多く出た。下りのメリットはフルームのビッグギアが踏めたというコメントにも明らか。中間ポイントの優位は下りで覆された。フルームは言う「バイク交換は絶対的に役立った。最後の区間でギアが踏めたし、空気抵抗的にもメリットがあった。サクソ・ティンコフのバイクはどんなものか知らないけれど、バイク交換は僕にとって本当に良かった。」
コンタドールの使ったディスクホイールは登りでの重量的デメリットも少なからずあっただろう。スポンサードの関係でイミテーションのZIPPのデカールが貼られているが、コンタドールがアップダウンの多いTTコースで気に入って使用するライトウェイト社製の780gのディスクホイールだ。
ディスクとしては軽さが突出している超軽量製品だが、フルームは500g台の軽量ホイールを使用している。中間計測タイムがコンタドールのほうが良かったとしても、登りでの温存は軽いホイールの方に分があるように思えた。
雨のラルプデュエズ・ダブルへ
レースが終わり、19時になると翌日のスタート地点となるギャップには再び激しい雨が降りだした。明日のラルプデュエズの天気も雨予報だ。
2つのラルプの間の2級山岳サレンヌの下りが非常に危険だとして、フルームやマルティンはコース変更の声を挙げてきた。雨の場合、2度のラルプデュエズのうち2度めをカットして短縮するという噂が出回ったが、今のところASOはその可能性を否定している。
photo&text:Makoto.AYANO
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