2013/07/19(金) - 10:06
世界最大級の自転車メーカージャイアントのエンデュランスロードモデルである「DEFY」シリーズ。今回テストを行う「DEFY ADVANCED SL」は、ツール・ド・フランスの様な長距離レースや石畳などの荒れた道に適したバイクを、プロチームがジャイアントにリクエストした末に生み出されたバイクだ。
ジャイアント DEFY ADVANCED SL RABOBANK photo:Makoto.Ayano/cyclowired.jp
台湾に居を構えるジャイアントは世界でも屈指の生産量を誇る自転車メーカーとして自転車界のトップブランドの一つに数えられ、その名を轟かせている。しかし、生産量だけではなく生産技術力や開発能力が高いことも同社の大きな特徴で、ロードバイクへのスローピングスタイルの導入やカーボンファイバー製フレームの普及、独創的なデザインのコミューターバイクなど自転車界に大きな影響を与えてきた。
プロロードレースへの参入は1998年のことで、世界選手権優勝者のローラン・ジャラベールやホセバ・ベロキなどを擁したスペインの名門チームであるオンセチームに供給を開始したことに始まる。以後ドイツのT-Mobileやオランダのラボバンク、現在のベルキンプロサイクリングまで、参入以来絶やさずプロのロードレースシーンにバイクを供給し製品開発にフィードバックしている。
アクセントとしてヘッドパーツやボルトにオレンジを配す
独自規格のOverDrive2を取り入れたヘッドチューブ
シンプルなストレート形状のフロントフォーク
DEFYシリーズはTCRシリーズとジャイアントのロードラインナップの一端をになるモデルで、長めで寝かせたヘッドチューブによってアップライトなポジションを実現可能とし、長めのリアセンターやホイールベースによって長距離・長時間に最適な直進性を重視したハンドリングに仕上げている。そのトップモデルとなるDEFY ADVANCED SLは、世界中の様々なレースで活躍するラボバンク(現ベルキンプロサイクリング)のリクエストによって生み出されたバイクで、2013年のパリ~ルーベでは2位に入るなど、その優位性を証明した。
フレームに使用される素材は、高い品質を誇るT-800グレードカーボン原糸から自社工場で手作業によって製造される、25年以上に渡って蓄積された技術やノウハウが凝縮されたADVANCED SLグレードのカーボンだ。個々のシートを大きくすることによって継ぎ目を減らし軽量化を図った製法「Continuous Fiber Technology」によって従来フレームと比較して100g以上の軽量化と剛性アップを実現。
ブレーキとシフト共にケーブルは内装
ジャイアントのフレームに合わせて設計されたオリジナルのハンドルとステム
角断面形状Mega Driveを採用したボリュームのあるダウンチューブ
BBシェルはBB86規格のPowerCore
また、「Fusion Process」と名付けられた、トップチューブとシートチューブを強固に接合するために再成型後に高温高圧で焼成する独自工法や、「CNT/Carbon Nanotube Technology」と呼ばれる、レジンへのナノポリマー添加によるカーボン積層強化によって耐衝撃性を向上させる強化法などの最新技術が多く採用。
ゴールスプリントやハードなコーナリング、ブレーキングでの安定を目的としてフォーク及びヘッドチューブには主流規格より大径化を行った「OverDrive 2」を採用。ヘッドチューブの上側に1-1/4インチ径、下側に1-1/2インチ径のベアリングを配し、上下異径のテーパー形状とすることにより、ねじれ剛性とステアリング剛性を従来フレームから30%以上向上させた。また、ステムも独自規格となり、ジャイアントからカーボンやアルミ製のステムがリリースされている。
高いカーボン成型技術が垣間見られるケーブルの出入口
スピードとケイデンスセンサーをチェーンステーに埋め込んだRIDE SENSE
BBシェルはフルカーボン製でベアリングを直接フレームに圧入するBB86規格の「PowerCore」を採用。シェルの幅を最大限に広げることが可能となり、プロの高い出力にも対応可能な剛性を実現すると共に、耐久性の向上と軽量化を果たしている。トップチューブとダウンチューブはねじれ剛性を大きく高めることが出来る角断面形状の「Mega Drive」とし、剛性の最適化を図ることによって軽量化を可能とした。
シートチューブはシートポストを一体化し、空力特性や重量などを総合的に設計できるインテグレーテッドシートポスト(ISP)を採用。シートステーはシートチューブとの接合点を下方にずらし、剛性を高めることが可能であるコンパクトなリア三角とした。左側チェーンステーには埋め込み可能なANT+形式のスピード・ケイデンスセンサー「RIDE SENSE」を装備。
空力抵抗や重量の低減に大きく貢献するインテグレーテッドシートポスト
シートステーの集合部は幅広のモノステー形状
ジャイアントのフレームとトータルで設計されたオリジナルホイールP-SLR1
今回のテストバイクはシマノ 9000系デュラエース、ジャイアントのフレームに合わせて総合的に設計されたオリジナルホイールのP-SLR1、同じくフレームに合わせて設計されたフルカーボン製のCONTACT SLRシリーズのハンドルとステムをアッセンブルしたDEFY ADVANCED SL RABOBANK。トップチューブにはラボバンクのロゴ、ボルトなどの小物にはイメージカラーのオレンジを配している。
様々なシチュエーションに即投入可能なパッケージとなっているDEFY ADVANCED SL RABOBANK。テストライダーの両氏はどのように評価するのだろうか。早速、インプレッションに移ろう。
ーインプレッション
「コンフォートバイクとは思えないレーシング性能」澤村健太郎(Nicole EuroCycle 駒沢)
非常にしっかりした自転車でコンフォートバイクとは思えないレーシング性能があると感じました。荒れた道でガンガン飛ばしても非常に安定しますし、さらに掛かりの良さもある程度確保しています。わざとグラベルなどを走ってみた所、ガンと突き上げは来るものの振動の収束が早いと感じました。連続した突き上げでも、手にしびれが残るといったことは無かったですね。他社のコンフォートバイクに多くみられる、ヌルっとしならせて荒れた路面を乗り越えていく感触とは異なる、独自のアプローチを取っているのではないでしょうか。ダイレクトに来てダイレクトに収まると言った感触ですね。
この性格はパイプの途中でカーボンの積層を変えてしなる部分をコントロールしているのではないでしょうか。具体的にどの辺りがしなっているか分かりませんが、硬くなりやすい小さなリア三角にも関わらず、これだけの振動吸収性を確保しているということは、恐らくその辺りに理由があるのでしょう。
「コンフォートバイクとは思えないレーシング性能」澤村健太郎(Nicole EuroCycle 駒沢)
加えて、BB周りとヘッド周り、チェーンステーを硬くしてある点やチェーンステーとシートステーの形状、シートポストとトータルで振動吸収に関する設計が行えるインテグレーテッドシートポスト(ISP)を採用している点にも振動吸収の秘訣があるはずです。他社のコンフォートバイクに比べて、踏んだ時の掛かりが良く、あまりしならない感触はDEFY特有の乗り味ではないでしょうか。ダイレクトに加速してくれるのでスプリントでもいけますし、乱暴なペダリングをしてもフレームが反力を脚に返さずに吸収してくれていると感じました。ペダリングスキルがまだ確立していないアマチュアライダーは長距離・長時間になればなるほど、その恩恵を受けられると思います。
DEFYと言えば快適性重視を謳ったシリーズですが、高い快適性に加え十分なレーシング性能も持ち合わせていると思います。きっちりと踏む時は踏むことができ、体力の消耗を抑えたい時には休めるバイクだと感じました。ツール・ド・フランスの様な長い距離のレースで使用される理由も納得です。上りではシッティングが向いていると感じましたが、ダンシングしても難なく上ってくれます。斜度が5%程度であればフロントをアウターに掛けてトルクフルに踏みながら登っていけましたから、どんな乗り方にもマッチするでしょう。テストコースにある荒れた路面の上りで、レースを想定したスピードでもがいてみても跳ねずに、しっかりとトラクションが掛かる点には驚きました。平地巡航も高いレベルにあると感じました。
「コンフォートバイクとは思えないレーシング性能」澤村健太郎(Nicole EuroCycle 駒沢) ハンドリングはニュートラルで特に何か意識することなく走ることが出来ました。非常に素直に思った通りに曲がってくれます。コンフォートバイクはまったりしがちなバイクが多いですが、クリテリウムにも使えるようなハンドリングでした。
同時に試乗したTCRとの差は小さく、どちらともに基本的な性能を高いレベルで満たした上で少しだけ味付けを変えている印象ですね。DEFYはヘッドチューブが長く、倒し気味でリア三角が小さいなど特殊な形状をしていますが、乗った感じはとてもナチュラルで、誰とっても乗りやすい性能を目指していると感じました。
相対的にヘッドチューブが長く、トップチューブが短いため、角度の大きいステムが必要になる方もいると思いますが、ステムが専用規格であるため、ステムの選択肢が少ないことに留意する必要があるでしょう。レースでの使用を考えている方であれば少し小さいサイズを選ぶことをおススメしますね。また、ISPを使用しているため、ある程度自身のライディングポジションが決まっていることが必要になるでしょう。
ケーブルがすべて内蔵になっている点や、リアブレーキのケーブルがトップチューブの下から通して上から抜けるルーティングご自身で整備される際には気をつけるべきポイントですね。試乗車ではケーブル類にサードパティーのケーブルが取り付けられていましたが、シマノの純正品に換装することで、より引きが軽くなるでしょう。
買って損はないバイクですね。デュラエースとプロスペックのハイエンドフレームの組み合わせであることを考えればお買得と感じました。ジャイアントオリジナルのホイールはDTスイスのパーツを使っており、走りも軽かったですね。完成車の状態で様々なレースを走れるでしょう。日本人であればトッププロでも満足できるバイクです。TCRに比べて硬さを感じにくいためグランフォンドやロングライドを目的とする方にもおすすめですね。
「非常に乗り心地が良いにも関わらず走行性能の高いバイク」江下健太郎(じてんしゃPit)
DEFYは非常に乗り心地が良いにも関わらず走行性能の高いバイクだと思いました。乗り心地の良さと引き換えにギアを掛けた時の反応が1テンポ遅れる印象がありますが、入力がロスされることなく推進力に変換されています。リア三角は小さめながら、しなやかな乗り味に仕上がっています。
中途半端な乗り味のバイクを作らず、TCRとDEFYでしっかりと性能差を与えている点に、ジャイアントの凄みを感じました。新記録を狙ったり自己ベストを更新したいと言った、テンポの速いロングライドに最適なバイクですね。ブルベやグランフォンドにしても、上りが多く獲得標高が2000mを超えてくるようなライドで真価を発揮するのではないでしょうか。
「非常に乗り心地が良いにも関わらず走行性能の高いバイク」江下健太郎(じてんしゃPit) 恐らく、重量級ライダーがギアを掛けたときには少し物足りなさを感じる可能性もあると思いますが、エンデュランス系バイクと言ったコンセプト通りに、荒れた路面をスムーズの乗り越えていくことが出来るバイクですね。多くの日本人にはTCRよりもDEFYがマッチしているのではないでしょうか。
私のように体重が60kgを下回ってくるような軽量級のライダーは振動に対して少し弱い部分がありますが、DEFYの場合には振動の角を取るだけではなく大きな衝撃もしっかりといなしてくれました。バランスの良いシクロクロス用バイクに似た乗り味があって、荒れた路面で無理矢理ペダリングしても、しっかりと腰を安定させてサドルに座ることができました。
ヘッドチューブが長くトップチューブが短い、アップライトなジオメトリーですが特に違和感なく乗ることが出来ました。日本人は欧米人に比べると胴が長い方が多いので、DEFYの様なジオメトリーがむしろ合っているのでは無いでしょうか。ただ、小柄な方でハンドルを低い位置にセットしたい方はサイズ選択を工夫してあげる必要があるでしょうが、極端に変わったポジションではないので、十分に対応可能でしょう。
ステアリングに関してもDEFYのコンセプト通りに比較的直進安定性を重視している様で疲れにくいと感じました。タイトに切り返すコーナーでは少しテンポが遅れるので、ハイスピードのダウンヒルは少し苦手と感じましたが、慣れることが出来れば特に問題ないでしょう。
TCRとは異なり、ペースを上下させるインターバル的な上り方をするライダーよりも、ケイデンスやトルクに関わらず一定ペースで走るライダーに向いていると感じました。ロードレースも難なくこなせるバイクで、60kg以下の軽量なライダーであれば距離に関わらずどんなレースでも使えると思います。重量級のライダーの場合にはタメがある加速特性を生かして、長距離・長時間のレースで真価を発揮することでしょう。
今回試乗したバイクには適度にしなるカーボンハンドルがアッセンブルされていましたが、この部分が乗りやすさに貢献していると感じました。ジャイアントオリジナルのホイールは剛性感も適度で、平坦も上りも共に軽い乗り心地でオールラウンドに使えますし、メンテナンス性が良いクリンチャーである点も良いですね。ワイヤリングはヘッドチューブからフレームの中に入るルーティングを採用していますが、比較的引きが軽く感じました。オレンジのパーツがルックスのアクセントとして効いてる点も個人的には好印象です。
DEFY ADVANCED SLは軽量級から重量級ライダーまで、レースやロングライド、週末のサイクリングに幅広く楽しめるオールラウンドなバイクだと思います。決して安価ではありませんが、価格に見合うだけの性能を持っているバイクだと思います。
ジャイアント DEFY ADVANCED SL RABOBANK photo:Makoto.Ayano/cyclowired.jp
ジャイアント DEFY ADVANCED SL RABOBANK
フレーム:Advanced SL-Grade Composite ISP OLD130mm
フロントフォーク:Advanced SL-Grade Composite、 Full Composite OverDrive 2
コンポーネント:シマノ デュラエース9000系
ホイール:ジャイアント P-SLR1
ハンドル:ジャイアント CONTACT SLR Carbon
ステム:ジャイアント CONTACT SLR OD2 Carbon
サドル:フィジーク ALIANTE GAMMA K:ium
価 格:735,000円(税込)
インプレライダーのプロフィール
澤村健太郎(Nicole EuroCycle 駒沢) 澤村健太郎(Nicole EuroCycle 駒沢)
東京都世田谷区駒沢に2010年12月にオープンした「Nicole EuroCycle 駒沢」のチーフメカニック。実業団ロードレースチーム「Maidservant Subject」ではキャプテンを務め、シクロクロスレースにも積極的に参戦している。同時にトレイル巡りやツーリングなど楽しく自転車に乗ることも追求しており「誰とでも楽しめるサイクリスト」が目標。愛称は「アルパカ」。
Nicole EuroCycle
江下健太郎(じてんしゃPit) 江下健太郎(じてんしゃPit)
ロード、MTB、シクロクロスとジャンルを問わず活躍する現役ライダー。かつては愛三工業レーシングに所属し、2005年の実業団チームランキング1位に貢献。1999年MTB&シクロクロスU23世界選手権日本代表。ロードでは2002年ツール・ド・台湾日本代表を経験し、また、ツール・ド・ブルギナファソで敢闘賞を獲得。埼玉県日高市の「じてんしゃPit」店主としてレースの現場から得たノウハウを提供している。愛称は「えしけん」。
じてんしゃPit
ウエア協力:bici
text:Yuya.Yamamoto
photo:Makoto.AYANO
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プロロードレースへの参入は1998年のことで、世界選手権優勝者のローラン・ジャラベールやホセバ・ベロキなどを擁したスペインの名門チームであるオンセチームに供給を開始したことに始まる。以後ドイツのT-Mobileやオランダのラボバンク、現在のベルキンプロサイクリングまで、参入以来絶やさずプロのロードレースシーンにバイクを供給し製品開発にフィードバックしている。
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DEFYシリーズはTCRシリーズとジャイアントのロードラインナップの一端をになるモデルで、長めで寝かせたヘッドチューブによってアップライトなポジションを実現可能とし、長めのリアセンターやホイールベースによって長距離・長時間に最適な直進性を重視したハンドリングに仕上げている。そのトップモデルとなるDEFY ADVANCED SLは、世界中の様々なレースで活躍するラボバンク(現ベルキンプロサイクリング)のリクエストによって生み出されたバイクで、2013年のパリ~ルーベでは2位に入るなど、その優位性を証明した。
フレームに使用される素材は、高い品質を誇るT-800グレードカーボン原糸から自社工場で手作業によって製造される、25年以上に渡って蓄積された技術やノウハウが凝縮されたADVANCED SLグレードのカーボンだ。個々のシートを大きくすることによって継ぎ目を減らし軽量化を図った製法「Continuous Fiber Technology」によって従来フレームと比較して100g以上の軽量化と剛性アップを実現。
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ゴールスプリントやハードなコーナリング、ブレーキングでの安定を目的としてフォーク及びヘッドチューブには主流規格より大径化を行った「OverDrive 2」を採用。ヘッドチューブの上側に1-1/4インチ径、下側に1-1/2インチ径のベアリングを配し、上下異径のテーパー形状とすることにより、ねじれ剛性とステアリング剛性を従来フレームから30%以上向上させた。また、ステムも独自規格となり、ジャイアントからカーボンやアルミ製のステムがリリースされている。
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BBシェルはフルカーボン製でベアリングを直接フレームに圧入するBB86規格の「PowerCore」を採用。シェルの幅を最大限に広げることが可能となり、プロの高い出力にも対応可能な剛性を実現すると共に、耐久性の向上と軽量化を果たしている。トップチューブとダウンチューブはねじれ剛性を大きく高めることが出来る角断面形状の「Mega Drive」とし、剛性の最適化を図ることによって軽量化を可能とした。
シートチューブはシートポストを一体化し、空力特性や重量などを総合的に設計できるインテグレーテッドシートポスト(ISP)を採用。シートステーはシートチューブとの接合点を下方にずらし、剛性を高めることが可能であるコンパクトなリア三角とした。左側チェーンステーには埋め込み可能なANT+形式のスピード・ケイデンスセンサー「RIDE SENSE」を装備。
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今回のテストバイクはシマノ 9000系デュラエース、ジャイアントのフレームに合わせて総合的に設計されたオリジナルホイールのP-SLR1、同じくフレームに合わせて設計されたフルカーボン製のCONTACT SLRシリーズのハンドルとステムをアッセンブルしたDEFY ADVANCED SL RABOBANK。トップチューブにはラボバンクのロゴ、ボルトなどの小物にはイメージカラーのオレンジを配している。
様々なシチュエーションに即投入可能なパッケージとなっているDEFY ADVANCED SL RABOBANK。テストライダーの両氏はどのように評価するのだろうか。早速、インプレッションに移ろう。
ーインプレッション
「コンフォートバイクとは思えないレーシング性能」澤村健太郎(Nicole EuroCycle 駒沢)
非常にしっかりした自転車でコンフォートバイクとは思えないレーシング性能があると感じました。荒れた道でガンガン飛ばしても非常に安定しますし、さらに掛かりの良さもある程度確保しています。わざとグラベルなどを走ってみた所、ガンと突き上げは来るものの振動の収束が早いと感じました。連続した突き上げでも、手にしびれが残るといったことは無かったですね。他社のコンフォートバイクに多くみられる、ヌルっとしならせて荒れた路面を乗り越えていく感触とは異なる、独自のアプローチを取っているのではないでしょうか。ダイレクトに来てダイレクトに収まると言った感触ですね。
この性格はパイプの途中でカーボンの積層を変えてしなる部分をコントロールしているのではないでしょうか。具体的にどの辺りがしなっているか分かりませんが、硬くなりやすい小さなリア三角にも関わらず、これだけの振動吸収性を確保しているということは、恐らくその辺りに理由があるのでしょう。
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加えて、BB周りとヘッド周り、チェーンステーを硬くしてある点やチェーンステーとシートステーの形状、シートポストとトータルで振動吸収に関する設計が行えるインテグレーテッドシートポスト(ISP)を採用している点にも振動吸収の秘訣があるはずです。他社のコンフォートバイクに比べて、踏んだ時の掛かりが良く、あまりしならない感触はDEFY特有の乗り味ではないでしょうか。ダイレクトに加速してくれるのでスプリントでもいけますし、乱暴なペダリングをしてもフレームが反力を脚に返さずに吸収してくれていると感じました。ペダリングスキルがまだ確立していないアマチュアライダーは長距離・長時間になればなるほど、その恩恵を受けられると思います。
DEFYと言えば快適性重視を謳ったシリーズですが、高い快適性に加え十分なレーシング性能も持ち合わせていると思います。きっちりと踏む時は踏むことができ、体力の消耗を抑えたい時には休めるバイクだと感じました。ツール・ド・フランスの様な長い距離のレースで使用される理由も納得です。上りではシッティングが向いていると感じましたが、ダンシングしても難なく上ってくれます。斜度が5%程度であればフロントをアウターに掛けてトルクフルに踏みながら登っていけましたから、どんな乗り方にもマッチするでしょう。テストコースにある荒れた路面の上りで、レースを想定したスピードでもがいてみても跳ねずに、しっかりとトラクションが掛かる点には驚きました。平地巡航も高いレベルにあると感じました。
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同時に試乗したTCRとの差は小さく、どちらともに基本的な性能を高いレベルで満たした上で少しだけ味付けを変えている印象ですね。DEFYはヘッドチューブが長く、倒し気味でリア三角が小さいなど特殊な形状をしていますが、乗った感じはとてもナチュラルで、誰とっても乗りやすい性能を目指していると感じました。
相対的にヘッドチューブが長く、トップチューブが短いため、角度の大きいステムが必要になる方もいると思いますが、ステムが専用規格であるため、ステムの選択肢が少ないことに留意する必要があるでしょう。レースでの使用を考えている方であれば少し小さいサイズを選ぶことをおススメしますね。また、ISPを使用しているため、ある程度自身のライディングポジションが決まっていることが必要になるでしょう。
ケーブルがすべて内蔵になっている点や、リアブレーキのケーブルがトップチューブの下から通して上から抜けるルーティングご自身で整備される際には気をつけるべきポイントですね。試乗車ではケーブル類にサードパティーのケーブルが取り付けられていましたが、シマノの純正品に換装することで、より引きが軽くなるでしょう。
買って損はないバイクですね。デュラエースとプロスペックのハイエンドフレームの組み合わせであることを考えればお買得と感じました。ジャイアントオリジナルのホイールはDTスイスのパーツを使っており、走りも軽かったですね。完成車の状態で様々なレースを走れるでしょう。日本人であればトッププロでも満足できるバイクです。TCRに比べて硬さを感じにくいためグランフォンドやロングライドを目的とする方にもおすすめですね。
「非常に乗り心地が良いにも関わらず走行性能の高いバイク」江下健太郎(じてんしゃPit)
DEFYは非常に乗り心地が良いにも関わらず走行性能の高いバイクだと思いました。乗り心地の良さと引き換えにギアを掛けた時の反応が1テンポ遅れる印象がありますが、入力がロスされることなく推進力に変換されています。リア三角は小さめながら、しなやかな乗り味に仕上がっています。
中途半端な乗り味のバイクを作らず、TCRとDEFYでしっかりと性能差を与えている点に、ジャイアントの凄みを感じました。新記録を狙ったり自己ベストを更新したいと言った、テンポの速いロングライドに最適なバイクですね。ブルベやグランフォンドにしても、上りが多く獲得標高が2000mを超えてくるようなライドで真価を発揮するのではないでしょうか。
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私のように体重が60kgを下回ってくるような軽量級のライダーは振動に対して少し弱い部分がありますが、DEFYの場合には振動の角を取るだけではなく大きな衝撃もしっかりといなしてくれました。バランスの良いシクロクロス用バイクに似た乗り味があって、荒れた路面で無理矢理ペダリングしても、しっかりと腰を安定させてサドルに座ることができました。
ヘッドチューブが長くトップチューブが短い、アップライトなジオメトリーですが特に違和感なく乗ることが出来ました。日本人は欧米人に比べると胴が長い方が多いので、DEFYの様なジオメトリーがむしろ合っているのでは無いでしょうか。ただ、小柄な方でハンドルを低い位置にセットしたい方はサイズ選択を工夫してあげる必要があるでしょうが、極端に変わったポジションではないので、十分に対応可能でしょう。
ステアリングに関してもDEFYのコンセプト通りに比較的直進安定性を重視している様で疲れにくいと感じました。タイトに切り返すコーナーでは少しテンポが遅れるので、ハイスピードのダウンヒルは少し苦手と感じましたが、慣れることが出来れば特に問題ないでしょう。
TCRとは異なり、ペースを上下させるインターバル的な上り方をするライダーよりも、ケイデンスやトルクに関わらず一定ペースで走るライダーに向いていると感じました。ロードレースも難なくこなせるバイクで、60kg以下の軽量なライダーであれば距離に関わらずどんなレースでも使えると思います。重量級のライダーの場合にはタメがある加速特性を生かして、長距離・長時間のレースで真価を発揮することでしょう。
今回試乗したバイクには適度にしなるカーボンハンドルがアッセンブルされていましたが、この部分が乗りやすさに貢献していると感じました。ジャイアントオリジナルのホイールは剛性感も適度で、平坦も上りも共に軽い乗り心地でオールラウンドに使えますし、メンテナンス性が良いクリンチャーである点も良いですね。ワイヤリングはヘッドチューブからフレームの中に入るルーティングを採用していますが、比較的引きが軽く感じました。オレンジのパーツがルックスのアクセントとして効いてる点も個人的には好印象です。
DEFY ADVANCED SLは軽量級から重量級ライダーまで、レースやロングライド、週末のサイクリングに幅広く楽しめるオールラウンドなバイクだと思います。決して安価ではありませんが、価格に見合うだけの性能を持っているバイクだと思います。
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ジャイアント DEFY ADVANCED SL RABOBANK
フレーム:Advanced SL-Grade Composite ISP OLD130mm
フロントフォーク:Advanced SL-Grade Composite、 Full Composite OverDrive 2
コンポーネント:シマノ デュラエース9000系
ホイール:ジャイアント P-SLR1
ハンドル:ジャイアント CONTACT SLR Carbon
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サドル:フィジーク ALIANTE GAMMA K:ium
価 格:735,000円(税込)
インプレライダーのプロフィール
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東京都世田谷区駒沢に2010年12月にオープンした「Nicole EuroCycle 駒沢」のチーフメカニック。実業団ロードレースチーム「Maidservant Subject」ではキャプテンを務め、シクロクロスレースにも積極的に参戦している。同時にトレイル巡りやツーリングなど楽しく自転車に乗ることも追求しており「誰とでも楽しめるサイクリスト」が目標。愛称は「アルパカ」。
Nicole EuroCycle
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ロード、MTB、シクロクロスとジャンルを問わず活躍する現役ライダー。かつては愛三工業レーシングに所属し、2005年の実業団チームランキング1位に貢献。1999年MTB&シクロクロスU23世界選手権日本代表。ロードでは2002年ツール・ド・台湾日本代表を経験し、また、ツール・ド・ブルギナファソで敢闘賞を獲得。埼玉県日高市の「じてんしゃPit」店主としてレースの現場から得たノウハウを提供している。愛称は「えしけん」。
じてんしゃPit
ウエア協力:bici
text:Yuya.Yamamoto
photo:Makoto.AYANO
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